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魔法少女の就職活動 前編

 10歳、秋――ルナリア魔法学園の4年生として、折り返し地点を過ぎたところだ。卒業まで半年を切っており、同級生たちは各々の進路を決め始めていた。


 上流階級がひしめくルナリアでは、女子生徒は卒業の後すぐに結婚する人が多い。この世界では、22歳以上になると行き遅れって後ろ指差されるし、何より魔力持ちの女子は貴重だからね。逆に男子生徒は家が継げず、自分の身を立てるために通っている者が多く、就職するのがほとんどだ。



 「進路ねえ……」



 秋風に吹かれながら、私は学園の外のベンチに座り、黄昏る。元々、ルナリアに入ったのは、御爺ちゃんの遺言だ。……色々としつこい貴族たちから逃げるためでもあったけどね。


 お菓子で世界征服計画は、自分の出来ることをほぼ完遂して、後は時を待つだけだ。他に特に目標も無かったので、進路と言ってもどうしたらいいのか分からない。結婚するには年齢が足りていないし、何よりも相手がいない。ルナリアに私と同い年の人なんていないしね。一番年齢が近いのは第五王子だし、見た目だけだったらワトソンだ。……うん。どっちも対象外だね!



 「そうなると就職かなぁ……」



 就職活動……なんて心が重くなる言葉なんだ!


 内心げんなりしていると、私の目の前に金髪碧眼のものすんごい美少年が現れた。しかしソイツが俺様な第五王子だと知っているので、私は眉を顰めただけだった。最近は最高学年になったこともあり、下級生に第五王子と同じぐらいの歳周りの生徒が増えた。おかげでガッツのある女子生徒が何を勘違いしたのか、私に絡んでくることが多いのだ。ぶっちゃけ、迷惑している。年頃の女子の被害妄想はマジでやっかい。……いや、私の方が年下なんだけどね!



 「何か用? 第五王子」



 自分でもびっくりするような冷たい声が出てしまった。こりゃ、不敬罪だってまた文句言われると身構えたが、一向に第五王子からその言葉は出ない。どうしたんだろう?



 「あの、な……その……卒業式後の……」



 モジモジとしている第五王子に奇異の視線を向けていると、遠くから紫髪を揺らしながらこちらへ向かってくる人影を見つけた。



 「ロアナ!」



 私はベンチから立ち上がり、大きな声で最愛の親友に声をかける。



 「カナデ! 待たせてしまってごめんなさい」


 「別にいいよ~。今、来たところだし」


 「そう? じゃあ、行きましょうか」


 「うん!」


 「ちょっと待て! 俺の話が終わっていないだろう!?」



 自然な会話の流れで第五王子の前から去ろうとしたら、それを当の本人が許さなかった。ロアナはすぐに親しくない王侯貴族向けの笑顔を張りつけ、第五王子へと腰を折る。



 「ご挨拶が遅れて申し訳ありませんわ、マティアス第五王子殿下」



 いや、さっきまで第五王子の存在無視していたよね!?



 内心でロアナにツッコミを入れるが、私は口に出すなんて愚かな真似はしない。そんなことしたら、ロアナが怒るからね! 一週間、ご飯作ってあげないとか言われそうだし!



 「そ、そうか。俺はカナデに話しがあるか――」


 「それはそうとカナデ」



 第五王子に被さるように、ロアナが私へと話を振った。真面目なロアナが王族の会話を遮るだなんて、どういことなんだろう?



 「なぁに、ロアナ」


 「卒業後の舞踏会のパートナーが決まっていないなら、わたしとペアを組みましょう?」


 「なっ……」



 何故か第五王子が驚愕の表情を浮かべた。……女子同士のパートナーって変なのかな?



 「私たち女子同士だけどいいの? それに、ロアナには相手とか……」


 「わたしに相手はいないわよ。去年、サルバドールとパートナーになったことを言い訳にして、全部断ったわ」


 「え……勿体なくない?」


 「わたしの好みの男は、お金を稼ぐ能力があって、お金に関心を見せず、お金の管理をすべてわたしに一任してくれる人よ!」


 「お金ばっかだね……」


 「何を言っているの、カナデ! 愛を育むには、ある程度のお金が必要なのよ!」



 いや、そういう事じゃないと思う……。今更だけど、ロアナの恋愛力が心配になるよ。折角、可愛い系美少女なのに……。行き遅れになっても知らないんだからね!



 「ふざけるな! 女同士のパートナーなど認められるか!」


 「あら、殿下。ルナリア学園は男女比率が7:3と男性優位。それ故に、毎年、パートナーが出来ずに家族や友人に頼む者も多くいますのよ。別にパートナー=結婚相手という訳ではないのです。女子同士が仲良くペアを組んだって良いではありませんか。周囲は微笑ましいと感じるだけですわ。頭ごなしに否定されるのもどうかと思いますわ。……あまりにしつこいと、嫌われますわよ?」


 「うぐっ……」



 ロアナの正しいんだか正しくないんだかよく分からない言い分に、第五王子がたじろぐ。


 さすがロアナ……王弟の理事長をも脅す女だね。これからもロアナには逆らわないようにしよう。敵う気がしないし!



 「わたしが認めるような男にならないかぎり、妨害――ではなくて、試練を与え続けますわ」


 「今、妨害と言っただろう!?」


 「何のことでしょう?」


 「おっ、覚えてろよ! ロアナ・キャンベル、カナデ!」


 「なんで私まで!?」



 世の理不尽さを感じるよ!


 謎の捨て台詞を吐いて消えた第五王子のことなど知らないとばかりに、ロアナは私に晴れ晴れとした笑顔を見せる。



 「さて、約束通りに夕食を食べに行きましょう? それとカナデとわたしの進路についての話し合いよ」


 「……はい」



 有無言わせず笑顔で威圧して来たロアナに、私は大人しく従った。


 完全に尻に敷かれていると思わなくもない……。















 学内に併設された高級レストランで、ロアナによる私の進路指導が始まった。ちなみにこのレストランの飲食代は、ロアナが理事長から毟り取って来た報酬とやらでタダだ。素晴らしきかなタダ!……理事長の胃と頭髪と懐の心配は少しだけしておいてあげよう。


 さて、ひとえに就職とは言っても、学生はほとんどが貴族。コネがありまくり過ぎて、就職先には事欠かないのだ。だから、教員による進路指導は行われない。て言うか、ルナリアの教員は、魔法騎士科の教員以外、マッドサイエンティスト気味だ。……魔法使いだけどね。


 そんな訳で、平民の私は自力で就職先を探さないといけないのである。



 「カナデは就職する気なのよね? 今やっている魔法技師の仕事ではダメなの?」



 デミグラスソースっぽいタレのかかっているハンバーグを食べながら、私は少しだけ考える。しかし答えは変わらず、水を一口飲み、ロアナへ自分の意思を伝える。



 「魔道具作りは趣味だしね。仕事にしたら、戦闘用魔道具とか作ることになりそうだし……それは嫌だな。それにロアナが就職して居なくなったら、私が直接、客の相手しなきゃならないじゃん。上流階級を相手にするなんて、面倒過ぎ」


 「それなら、わざわざ仕事なんてしなくてもいいんじゃない? 既に国家予算並みの貯蓄があるでしょう?」



 ロアナのぼったくり営業のおかげか、魔道具の販売は順調で私の懐は温かい。でも前世で大金を手に入れて破滅した人とかのテレビ特番を見た私は、堅実な生活を送っている。……たまにお菓子を豪遊したりするけど、それは人生の潤いだから。必要なことだから!



 「いつ何が起こるか分からないし……定期的な収入って大事だと思う。それに……ぶっちゃけ、仕事しないなら何すればいいの? 暇すぎて死ねる」



 この世界にはゲームも漫画も映画もない。娯楽がひじょーに少ないのだ。ニートになるにも打ち込めるものがない。悲しいかな、娯楽の少ない世界……。



 「人生計画は大事よね。でもカナデ、いくつか就職しないかってお話があったんじゃない?」


 「あぁ~。ルナリアの教員にならないかって話や、ウチの領地で働かない?みたいな話はあったかな。平民が上流階級の生徒を教えるなんて無理だし、領地に誘ってくれた人は皆、他国の人だったし……」


 「……ふーん、なるほどね。まあ、どちらもおススメしないわね。特に教員は、オンズロー公爵家の三男が就職予定よ。関わらないのが吉ね」



 ベルナさんねぇ……。高位貴族で策士な油断ならない危険人物だけど、可哀相な失恋をしたヤツってイメージがすっかりついちゃってね。残念感がはんぱない。まあ、自業自得なんだろうけど。



 「関わる気もないし、問題ないかな。それよりもロアナはどうなの? 領地へ戻るの?それとも就職?」



 舞踏会のパートナーの件から察するに、結婚の線はなさそう。


 ロアナをよくぞ聞いてくれたとばかりに、ふふんと鼻を鳴らしながら胸を反らす。その瞬間、巨乳がぽよよんとして非常にイラッとしたが、それはさしたる問題ではない。妬ましくなんてない、絶対にだ!



 「領地は兄が継ぐから、私は出稼ぎに出ることになったの。だから、念願の王宮試験を受けるのよ! そして財務局の文官になって、国家予算と戯れるの。自分の力で資金を稼ごうとすると破産する宿命を背負っているのなら、国家予算をいじればいいじゃない!ゲヘヘ」



 ……この国が財政破たんするような気がして来たよ!



 「あ……うん。ゲスいことは程々にね。でも王宮試験か……魔法使いも募集しているかな?」


 「魔法使い部隊は騎士団の中にあるし、募集しているわね。技術研究なら……宮廷魔術師は高位貴族の閑職になっているから、ルナリアの教員になるのが主流ね。あとは、国務局の環境整備課の文官かしら?」


 「環境整備課の文官って?」


 「早急に推し進めたい事業を魔法を使って効率的に行うの。例えば、貿易関係で急に道路整備が必要になったら、短期間で道だけ魔法で切り開くとかね。その他の作業は、民間の業者に任せるけど。他にも個別に王族個人に魔法使いが付けられたりするけれど、それはある程度の勤務期間や功績がいるから、今のカナデには関係ないわね」



 魔法使い部隊は危険だし、環境整備課の文官になるのがいいね!



 「私、環境整備課の文官になりたい! それなら、ロアナが身近にいるだろうし、私が安心だよ!」


 「保護者続行って訳ね。……でもいいの? 王宮で働くっていうことは、第五王子殿下の家で働くようなものよ?」


 「うっ……。でも王宮は広いし、職場被りとかしないでしょ。平民と王族じゃ、居住スペースも働く場所も違うに決まっているよ!」


 「まあ、そう簡単にいくとは思わないし、させる気もないわ。でもカナデ、重要な事を忘れているわよ」



 呆れたような目をしながら、ロアナは頬杖をつく。



 「重要なことって……?」


 「採用試験があるのよ。それも明日、ね」



 何それ、なんの準備もしていないよ!?


 のぉぉぉおおおおお! 神は、神はいないのかぁぁぁああああああ!!







カナデ、4年生になりました。

今回は説明回。次回は一夜漬け採用試験のお話になります。


では、次回をお待ちください。

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