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配下を手に入れよう!

 私とロアナは2年生の教室に来ていた。目的はそう、配下を手に入れるためだ。ロアナは、歳の頃は私と同じぐらいの可愛らしい顔立ちの少年を見つけると、こっそりと指をさした。



 「カナデ、あの子よ」



 ターゲットロックオン!



 「確保ー! 確保だよ、ロアナ!」


 「はいはい」


 「う? うへぇ!? 誰!?」



 私とロアナは少年の腕を捕まえると、転移魔法を展開し、少年を拉致した。転移先はサルバ先輩の研究室。あれ?何だか前にもこんなことがあったような……。まあ、気のせいだよ!



 「えっと先輩たちは……誰、ですか?」



 プルプルと脅えながら縮こまるその姿は、愛らしいウサギのよう。嗜虐心がムクムクと湧いてくる。私はバサッとローブを広げて悪の総司令官風に挨拶をする。



 「私の名を知らぬとな。ふっふふ、よほど平和なぬるま湯に浸かっていたと見える。そんな生活も終わりだ。貴様は私に捕えられたのだから。私の名はカナデ! この世界を征服する女の名前だ。覚えておけ!」


 「カナデってあの!?」


 「いい加減にしなさい。カナデ」


 「あいたっ」



 ロアナから頭にチョップを貰った。痛いん。



 「はぁ……。わたしは3年のロアナ・キャンベルよ。こっちは噂ぐらいは聞いているでしょうけど、同じ3年のカナデよ。よろしくね」


 「噂ぐらいなら……まあ……」


 「え? 噂って何!? 変なことじゃないよね!」


 「それは置いておいて。こんな強引な方法で連れ去ってごめんなさいね。大勢の人が居る前で、カナデの世界征服がどうのこうのって聞かれたくなかったのよ」


 「世界征服ですか?」


 「そう、世界征服だよ!」


 「戦争でも起こすんですか?」


 「そんな意味のないことなんてしないよ! 私の世界征服は、この世界を誰もがお菓子を買える世界にすることだよ。星の数より多いお菓子屋を営業させ、全部の種族がお菓子なしじゃいられない体にするの。そうすれば、お菓子は更なる発展を遂げるし、世界はお菓子で満たされる! 素晴らしきかな、お菓子が中心で廻る世界!ビューティーフォー!!」



 じゅるりと涎を垂らしながら、クルクルと回る。

 お菓子のためならば、私は覇王にも魔王にも、神にだってなってみせるよ!

 ひゃっはー!



 「……噂以上の変人でビックリしました」


 「この程度で驚いているようじゃ、カナデの助手は務まらないわよ」


 「助手、ですか……?」



 助手というのは魔法薬学科と魔法技術科の伝統で、専攻課程に進んだ3・4年の先輩が指名した1・2年の後輩と共に研究開発を一緒に行うというものである。強制ではないので、助手がいない生徒も結構いる。助手は先輩から研究室や資料を受け継ぐことも多いので、力のある先輩や将来性のある後輩は引っ張りだこになる。私は2年生の時にサルバ先輩の助手になった。研究室はもっぱら学園内にある私室のようなものだ。……ちゃんと研究もやっているけど。


 ちなみに魔法師学科と魔法騎士科は、助手ではなく似たような『兄弟(姉妹)』と呼ばれる制度がある。



 「そう助手に勧誘しにきたのだよ。君は土魔法が飛び貫けて優秀だと聞いてね。是非にと思ったんだけど……もしかして、間違えちゃった? この子、私と同じくらいの歳にしか見えないんだけど。確か15歳ってロアナが言っていたような気がするんだけど……?」


 「ぼ、僕は正真正銘15歳ですよぉぉおお。適性は土属性しかないのに、魔力量が異常に多いせいで成長が極端に遅いんです! もう、成人してます。大人なんです!!」


 「ろ、ロアナ……」



 私は驚愕の表情を浮かべ、ロアナに確認を取る。

 するとロアナは、真顔で頷いた。



 「まあ、それなりに有名な話ね。入学試験で魔力を調べる水晶を壊したのはカナデに続き2人目だって話題になっていたわ。……もちろん容姿もね」



 水晶を壊したことは忘れたい過去だよ!


 私は気を紛らわせるように少年を見る。相変わらず涙目でウサギのように震えている。めっちゃ可愛い。どう見ても私と同じくらいの歳にしか見えない。だけど、15歳。ロアナより年上。



 「……合法ショタ予備軍」


 「ごうほうしょた?」


 

 ハテナマークを浮かべている少年に、私は丁寧な説明をすることにする。



 「実年齢は大人であるが、外見は少年にしか見えない男性のことで、一部の淑女と紳士に大人気。見た目や声は幼くても年齢は大人だから、相手が子供だったら大問題になることも法的に許されることになる。つまりは魅惑の世界に誘う合法ショタは性的な存在であり――」


 「もういいです! 僕が全部悪いです、ごめんなさい! だからもう――」


 「一言でいうと、萌え殺戮兵器。一部の人に大人気だから貞操の危機だね」


 「言い切ったよ、この人!」


 

 少年は頭を抱え、床に膝をついた。


 事実は知っておいた方がいいと思うんだよね。いつ貞操の危機が訪れてもおかしくないし。だって少年は、私でも思わずイジメたくなるような顔なんだもの。



 「ぼ、僕が合法ショタとかいう存在だなんて、嘘です! 成長するために毎日欠かさずミルクを飲んでいますし、食事だって肉を好んで食べます。武術の鍛錬だって欠かさない……ほら、僕って男らしい!」


 

 ふむ……現実というものを教えてあげようか。



 「時に少年。年上年下、関係なく女性に撫でられたり、抱きしめられたりしない?」


 「そ、そんなことはありますけど……それは僕が男らしいからで――」


 「一緒に『キャー、可愛い。ずっとこのままでいてぇ』とか言われない?」


 「……」


 「武術の鍛錬は欠かさないと言ったが、鍛錬の相手は毎回違う人ではないかね? それに鍛錬前に相手はボロボロな事が多い」


 「確かに友人たちにお願いすると、いつも違う相手で……怪我をしていることが多いですけど……」



 それ多分、少年を巡って争奪戦が繰り広げられているんだと思うよ。まあ、友人って言うからには男の可能性が高いし……黙っておくよ。友情に亀裂いれたくないし。



 「よく女物の服を進められたりしない?」


 「……」


 「心当たりがあるみたいだね?」


 「そそそそんなことは……」


 「あるみたいだね?」


 「……はい」



 強く念押しすれば、少年はシュンと落ち込みながら肯定した。



 「ふと後ろを振り向くとハアハアと息の荒い人がいることが多くない?」


 「な、何故それを……誰にも相談できなかったのに!」


 「結果から言うと、よくこれまで無事だったのか不思議なほど狙われているね。男女両方に。成人しているらしいし、こりゃ時間の問題だね! どんまい! 寮室の鍵は魔法対策もして、より厳重にすることをお勧めするよ」


 「ふぇ!? そんな無責任な! 聞きたくない現実を教えたんだから、最後まで面倒を見てくださいよ!」


 「え……いやー。助手にしようかと思ったけど、ヘタなことすると少年のファンに闇討ちくらいそうだから……ぶっちゃけ、止めようかと思っている」


 

 人の恨みは買いたくないよね!



 「そんなぁ! 僕はこれから警備の緩い寮室でどう夜を過ごせばいいんですかぁ。それに友人たちとの付き合い方も。本当にどうしてくれるんですぅぅううう」



 少年は本気で泣いていた。しかしその姿も、庇護欲と同時に嗜虐心をくすぐるだけである。こりゃ、本格的にヤバイかな……。


 現実を知った少年が警戒心剥きだしで脅えるとか、ファンには最高な姿だろう。



 「合法ショタを襲う趣味もないし……私の助手になる?」


 「なります! 先輩の助手なら、恐れをなして他の人は逃げるに違いありません」


 「いや、平民の私にそこまで期待されると困るのだけど……」


 「謙遜しないでください! 欲望を持って先輩に近づくと潰されるって専らの噂じゃないですか!」



 バシバシと少年は私の背を叩く。


 

 「何その噂!? まあ、噂何て尾ひれがついて当然だけど……何故にそんな噂が?」


 「噂というか、事実よね。カナデ」


 「違うよ!?」



 ロアナさん冗談キツイって……冗談だよね? 確かに、入学前は私を狙った悪質な貴族にタナカさんたちと制裁を加えたりしていたけど、今はそんなことしていないし。……影でタナカさんたちが暗躍している、とか?うーん、それはない……はず。



 「あっ、ロアナ。少年の趣味って何だったけ……?」


 「陶芸と野菜作りよ。それがどうかしたの?」


 「何で知っているんですか……」



 陶芸と野菜作りか。私だけじゃ守りきれないし、しょうがない。三日月の会に少年を入れるか。一応は学園最強のクラブだし。現会長の私は平民だけど、他のメンバーは権力者だらけだしね!それに少年なら他のメンバーの承認も得るでしょう、たぶん。



 「少年よ。三日月の会に入りなさい。君の趣味を生かすのだ!」



 野菜を使ったお菓子もいいよね! それに陶芸なら、茶器とかもいけるんじゃないかな?



 「で、でも、三日月の会と言えば優秀者だらけなんじゃ……」


 「安心しなさい。私以外は、変人揃いだ!」


 「あの三日月の会が……全員変人……だと? そんな事実知りたくなかった!」



 いや、なんで私も変人枠に入っているの? ねぇ、なんで?


 少年は「貞操・安全・平穏、どれを犠牲にするべきか……」と繰り返し呟いている。



 「決めました。僕は……先輩の助手になって、三日月の会に入ります!」


 「すごい覚悟ね」


 「はい。キャンベル先輩、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」


 「心得たわ。共に常識人として頑張りましょう! わたしのことは、ロアナでいいわ」


 「はい、ロアナ先輩!」



 どうしてロアナと少年が固く握手をしているの? ねぇ、なんで?


 少年は私の助手兼後輩になったはずなのに、この疎外感。寂しいよう。



 「そう言えば……少年の名前なんていうの? 聞いていなかったよね」



 二人の輪の中に割り込むため、強引に話題を変える。

 少年は覚悟を決めた顔で私に向き直る。



 「僕の名前は、フランツィスクス・フィッツラルドです。これからよろしくお願いします、カナデ先輩」

 

 「よろしくね。フランちくちゅす・フィッちゅラルド君」


 「「……」」


 「よろしくね、ワトソン!」



 助手と言えば、ワトソンだよね! 別に後輩の名前が言いにくくて、これから何回も言い直すの面倒だし適当な仇名つけちゃえとか思っていないよ? 本当だよ?



 「諦めるの早くないですか!? 僕の名前は、フランツィスクス・フィッツラルドですよ!」


 「うんうん。分かっている、分かっているのだよ。ワトソン君」


「分かっていない、絶対に分かっていないよ……このひと……」


 「分かっていないのはワトソンの方だよ。あのね、執事がセバスチャンであるように、助手はワトソンだと創世記から決まっているの! 世界の真理なの!」


 「盛大な嘘ついたよ!」


 「だって言いにくいんだもん」


 「正直に言えばいいてもんじゃないですよ!」


 「まあまあ、ワトソンもカナデもそのぐらいにしなさい」


 「まさかの援護射撃!?」



 床に膝をつきながら「僕はとんでもない選択肢を選んでしまったのではないか……?」と失礼なことを言っているワトソンの腕を取り、私は転移魔法を展開する。



 「じゃあ、ロアナ。ちょっと三日月の会に行ってくるから」


 「はいはい。夕食は何がいい?」


 「ハンバーグ! 目玉焼き乗せてね」


 「なんで新婚夫婦の会話みたいなことしているんですか! というか、今から三日月の会へ行くんですか。変人の巣窟へ!? まだ心の準備が――」



 転移魔法が発動し、私とワトソンはロアナの前から消えた。


 この後ワトソンは無事に三日月の会メンバー全員に承認され、早速サーリヤ先輩たちに玩具にされていた。ちなみに全員に承認された理由は、ワトソンが野菜と陶芸への愛を爆発させたからである。



 助手はどうやら、変人みたいだ。私がしっかりしないとね!






 



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