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幸せの贈り物

 あれから怒涛の勢いで日々は過ぎ、ガブリエラ先輩とクラウ陛下の結婚式当日になった。


 私は藍色のドレスを着て、学友として結婚式に出席している。周りを見ると、やはり権力者っぽい風貌の人ばかりだ。関わりたくない。隣にいるワトソンに目を向けると、疲れ切った顔をしていた。


 結婚式は、王宮の庭園で行われる。この国には、特に宗教とかは根付いていないので、教会や神殿が存在しないのだ。庭園は美しい花が咲いていて綺麗だ。こんなに綺麗な場所で結婚式を挙げられるのは、素敵だと思う。



 「治癒魔法かけてあげたのに、どうしてそんな顔しているの。ワトソン」


 「……治癒魔法じゃ精神的疲労は回復しません、カナデ先輩」



 ワトソンはヨロヨロと歩きながら「僕は休んできます」と言って、どこかへ行ってしまった。飲み物を持って壁際にいると、懐かしい声がした。



 「「カナちゃん、久しぶりだね!!」」


 「サーリヤ先輩。サーニャ先輩!!」



 ドレスとタキシードを着た双子は、昔と変わらない笑顔を見せた。



 「今日はね、ボクたち楽師として曲を披露するんだ!」


 「リエラ先輩へのプレゼントだよ!」


 「楽しみにしていますね」


 「「うん。それじゃ、また後でね」」



 双子は嵐のように去って行った。


 サーリヤ先輩たちは今では、水の国に籍を置いて劇団の活動をしている。魔法を使った演出と、素晴らしい歌声と楽器の腕で、他国にまでその評判は聞こえてくる。……中身は昔のまんまだけどね。



 「カナデ、お久しぶりですわ!」


 「お久しぶりです」


 「エリザベート先輩、バルミロ先輩!」



 赤いドレスを着たエリザベート先輩は相変らず派手だった。それにドリルみたいなピンクの縦ロールとかもぼこ眉毛もね。……いつみても濃いわぁ。


 バルミロ先輩はそんなエリザベート先輩の後に穏やかに笑顔を携えて控えている。ルナリア学園時代と変わらない風景だ。……変わったのは二人の関係性だろうけど。エリザベート先輩とバルミロ先輩は結婚して、現在では水の国の女王と王配として君臨している。先輩たちマジ権力者。



 「3カ月ぶりぐらいですわね。ユリアから近況は色々聞いていますわ。いつもあの子を気にかけてくれてありがとう、カナデ」


 「いいえ、そんなことないですよ。私の方こそ、御茶会に招いて貰ったり、お世話になっています。水の国のお菓子……とっても美味しいです」


 「オホホホ。変わらないようで安心しましたわ!」


 「カナデ、結婚式の後に旧三日月の会メンバーで御茶会を開くと連絡がありました。今は、落ち着いて話が出来ませんし、後ほどゆっくり話しましょう」


 「ああ、社交とか忙しいですもんね。分かりました、バルミロ先輩。また、後ほど」


 

 人の輪に戻るエリザベート先輩とバルミロ先輩を横目に、物思いに耽る。


 権力者って大変だねぇ。友人の結婚式もお仕事になっちゃうんだからさ。心底、平民で良かったなって思うよ。


 そんなことを思っていると、急にゾクリと背筋に悪寒が奔る。



 「やっと……やっと見つけましたわ。お姉様!」


 「抜け駆けは許さない。お久しぶりです……貴女の犬です」


 「近寄るな、変態共!!」


 「「きゃいん♡」」



 飛びつかれる前に万能結界で弾いたのは、雪の国の第二王女と弓使いだった。



 「魔王討伐から音沙汰なかったじゃん!? 何故、今更出てきた!」


 「わたくし、お姉様のことを忘れたことなどありませんでしたわ。何度も手紙を送ろうとしました。ですが……あの、腹黒狸……」


 「空の国の王が、ご主人様に会えないように裏から手を回していた」



 何だそれ、初耳だよ。でも、国王……珍しくグッジョブ!



 「私としては、永久に関わりたくなかったんだけど……?」


 「そんな! わたくしたちの甘い日々をお忘れになったのですか!」


 「僕の心を調教しておいて……酷いよ、ご主人様。でも、そこがいい……」



 涙目で訴えかける王女と、頬を朱に染める弓使い。私は頭が痛いよ。



 「妄想力、豊か過ぎるだろ……」


 「が、我慢できません。お姉様、抱いてぇぇええええ」


 「ずるい! 僕に愛の鞭を……」


 「知らんわ、ボケェ!」



 私は魔法を展開して、襲い掛かって来たどうしようもない変態共を眠らせる。……逃げるより、無力化するのが一番だね!これで、結婚式の間は起きないはず。


 倒れた二人を見下ろしながら、私は近くに居た使用人さんに声をかける。そして、二人のことを丸投げし、その場から去った。……まったく、酷い目に遭ったぜ。



 そうして歩いていると、見慣れた人たちに出会う。



 「王太子殿下、サヴァリス、宰相補佐様。こんにちは。珍しい組み合わせですね」


 「おや……カナデかい? サヴァリス王弟殿下にはカナデがお世話になったみたいだからね。挨拶をしていたんだよ。そのドレス、良く似合っているね」


 「カナデ、ドレス姿も綺麗ですね」


 「あ、ありがとうございます……」



 何だか、バチバチと火花が散っているように思えるんですけど……?もしかして、王太子とサヴァリスって仲が悪い?


 ちらりと宰相補佐様の方を見ると、私の考えを肯定するかのように、深い溜息を吐いた。



 ……この居た堪れない空気を誰かどうにかして下さい!



 そんな私の思いが通じたのか、遠くで竜の咆哮が聞こえた。



 『グォォォオオオオオオオオオオオン』



 それは言葉ではなく、純粋な竜の雄叫び。ついに、オネェ竜の旅立ちの時がやってきたのだ。


 招待客たちは、突然の事態に困惑し、軽いパニック状態になっている。しかしオネェ竜にとっては、そんなことは関係ない。大地と大気を震わせて、400年ぶりに大空へと飛び立つ。


 上空で2回ほど旋回した後、オネェ竜はこちらへと大きな翼を見せつけるかのように飛んできた。 強い風が吹き荒れる中、招待客はただ呆然とその姿を見つめる。



 その時だった。


 突如、強い風の中に桃色の花びらが混じり、舞い上がる。


 辺りを見回せば、いつの間にか庭園を囲む木々が桃色に染まっていた。――そう、サクラが開花したのだ。驚愕と困惑に包まれる庭園では、ただ美しくサクラが舞い散る。



 「なんて、幻想的なんだ……」



 誰かがそう呟いた。それは、庭園にいる招待客たち全ての思いを代弁したものだった。



 ついにオネェ竜が、庭園の真上へと到着し、そして過ぎ去って行った。誰もオネェ竜のことを止められるはずもなく、ただ見送るだけだった。


 そして遅れて、上空からキラキラとした色とりどりの光の粒が降り注ぐ。



 手を出すと光の粒は、狙ったかのようにポトリと手の中に落ちた。その光の粒――キャンディーを口の中に放り込むと、甘く幸せな味が広がる。私は思わず頬を緩めた。



 「新王陛下、新王妃殿下、ご入場です」



 その言葉と共に、現れたのはガブリエラ先輩とクラウ陛下。今だサクラの花びらは舞い、キャンディーも降り注いでいる。そんな中で寄り添い支え合うように立つ二人は美しく、これからの未来を照らす象徴のようだった。



 クラウ陛下が一歩前に出て、招待客を見回し、高らかに未来を宣言する。



 「建国の守護竜は旅立った! それは我らが自分たちの足で歩く強さを得たからだ。我らは守護竜の思いに答えなければならない。辛い時もあるだろう。だが、我らは一人ではない! 守護竜に認められた強さがある。故に誓おう。愛しき我が妻、ガブリエラと国民たちとともに、この風の国に新しい風を呼び起こすと!」


 「竜に祝福されし、王と王妃……」


 「新しい時代の訪れか」


 「新王陛下、新王妃殿下、万歳!」



 庭園の端々で聞こえてくる声は、新しい王と王妃を讃えるものや、恐れるものなど多種多様。ただその中には陥れるような言葉はない。


 この国は、竜の存在がなくともやっていけるだろう。



 「うんうん。良かった、良かったよ……」



 私は感動で出た涙をハンカチで拭う。



 「良くありませんよ……カナデ……」


 「え? うわぁっ、やめ、宰相補佐様ぁ!」



 宰相補佐様が拳を使って、私のこめかみをグリグリと押す。ちょ、マジ痛い。痛いから!



 「カナデ、これは君がやった事だよね……?」


 「ち、違いますよ、王太子殿下。ワタシ、カンケイナイヨ」


 「嘘はダメだよ、カナデ。……ユベール」


 「かしこまりました」



 痛い、イタタタタ!


 宰相補佐様がさっきよりも強い力で、私のこめかみを攻撃する。



 「ご、ごめんなさい、私です! 何故バレたし!!」


 「こんな手の込んだおふざけをするのはカナデぐらいだろう? それに、お菓子も使っているし」


 「ふっふ、見つかってしまいましたね。私たちの初めての共同作業が」


 「おぃぃいいい。誤解を生むような言い方しないでよ、サヴァリス! ワトソンも一緒にいたじゃん!?」



 オネェ竜との邂逅の後、私たちは竜の奇跡を演出するべく動いた。土魔法のスペシャリストであるワトソンに、サクラの木を植えて、育てて、増やしてを繰り返してもらい、私は神属性魔法で開花時間を細かく調整し、結婚式の時に一気に満開になって咲き乱れるようにした。……サヴァリスは逃亡しようとするオネェ竜の監視。仕上げに、オネェ竜にキャンディーを落としてもらった。もちろん、キャンディーを無駄にしないように、地面には落ちないように魔法が施されている。


 どちらかといえば、ワトソンと私の共同作業だよね。



 「帰ったら、報告書ですからね」

 

 「それと、お説教だね。カナデ」


 「……はい」



 未だに宰相補佐様の拘束から抜け出せない私は、苦しみながらもガブリエラ先輩とクラウ陛下の晴れ姿を目に焼き付ける。


 竜の祝福を得たということになっても、これからの二人が歩む道は決して穏やかな道のりではないだろう。下手をすれば、内乱の一歩手前までいくかもしれない。


 それでも……二人は理想への歩みを止めないだろうね。



 だからこそ私は、大切な友人である二人の未来を精一杯祝福しよう。



 「ガブリエラ先輩、クラウ陛下おめでとう! どうか二人に、未来を切り開く幸運を!!」











竜の花嫁編、終了です。

終わりよければ、すべてよし!……途中、公爵足蹴にしたり、竜の尻尾がぶっ飛んだりしたけれども。


空の国王は、カナデを自国から出さないために、雪の国の女王と弓使いを含めたすべての接触を「一平民だから」の一言で断っていました。黒いです。


サヴァリスとエドガーが仲が悪いのは、自分と似た所があるからだと思います。腹黒な部分とか。正論を好む策士な所とか。



次章は、カナデ9~10歳。ルナリア学園3年から卒業までを書きます。ワトソンとの出会いやカナデガチギレ事件など盛りだくさんです。

ちなみにタイトルは『世界征服編』です。物騒!


ではでは、次回をお待ちくださいませ。

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