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呪術師と竜騎士の真実

 「黒髪は……私だけが特別だなんて有り得ないので、どこかに居るとは思っていました。だからどうでもいいです。問題は呪術師ですね。そんな職業があるなんて聞いたことがありません」



 私が首を傾げると、オネェ竜は怒気を増した。



 「ちょっと! 勝手に呪いの強化をしておいて、知らないとか惚けてんじゃないわよ。このアタシにこんな無礼なことをしておいて、タダで済むと思ってんの!?」



 オネェ竜は固い鱗に覆われた尾を私へと叩きつけようと、身を捩らせるように半回転しようとする。しかしそれは、行動半ばで終了した。



 「私の愛する人に触らないでもらえますか?」



 サヴァリスの静かな声と共に、常人では見えない一閃が放たれる。それはトカゲの尻尾のように糸も容易くオネェ竜の尾を切り裂き、辺りに鮮血の雨が降り注ぐ。切り離された尾はボトリと地面に落ち、ダラダラと水たまりを作る。……うへぇ、スプラッタ。


 

 「うぎゃぁぁぁあああああ。アタシの大事な美尾がぁぁあああああ」



 美尾って何だよ、美尾って。


 私の脳内ツッコミに答えてくれる人は当然おらず、呆れた目をサヴァリスに向ける。私の視線に気づいたサヴァリスは、返り血を浴びながらも、いつもの爽やかな笑顔のままだった。ちょっとぐらい顔色変えようか、戦闘狂。



 「カナデなら怪我をすることはないと確信はしていたのですが、気持ちが抑えられませんでした。……殺した方が良かったですか?」


 「いや、止めようか。殺しちゃったら、クラウ陛下に申し訳がたたないじゃん。こんなんでも、建国の竜なんだし。それに、戦うにしても相手から先に手出しさせないとダメだよ? 正当防衛っていう言い訳ができないから。面倒事は避けるに限るし」


 「そうですね。気を付けます」


 

 私は悶え苦しむオネェ竜に近づく。辺りが血で汚れてるし……治癒魔法よりも神属性魔法かな。


 神属性魔法を展開し、オネェ竜の尾の時間を巻き戻す。それにより、辺りの返り血は生き物のように這えずりながらオネェ竜の切断部分へ向かう。そして血と切り離された尾がくっ付き、完全に元に戻った。ふっふふ……これで、月の国の将軍が建国の竜を傷つけたという事実が無くなったよ!たぶんね!



 「 証 拠 隠 滅 ★ 」



 私はドヤ顔でサヴァリスにピースをする。するとサヴァリスは感極まった顔をしながら、私のピースした手を両手で包み込む。



 「ああ、やはり貴女は素晴らしいです。カナデ」


 「えっと……これからは気を付けてね?」


 「はい!」


 「アタシの前でイチャつくんじゃないわよ!」



 オネェ竜の叫びに、サヴァリスが再び剣の柄に手を伸ばす。するとオネェ竜は脅えたのか、尾を身体に巻き込み隠した。……こりゃ、完全にトラウマですわ。



 「もう……なんなのよ。竜を容易く切り刻む男に、神属性魔法と呪術を使う女……何者なのよ、アンタたち……」


 「月の国の将軍ですよ」


 「空の国の王太子付き魔法使いですよ」


 「そういうことを聞いてんじゃないわよ!!」



 何故か怒られた。解せぬ。


 オネェ竜が落ち着いたところで、私は再び質問を投げかける。



 「あの、メンデルさん。呪術師ってなんですか?」


 「アンタみたいな女のことよ」


 「いや、私は魔法使いなんですけど……?」


 「はぁ?魔法使い? 何よ、それ。もしかして、魔術師のこと?」


 

 ……何か、会話が噛みあっていないような?


 

 「魔術師とは、大昔の今でいう魔法使いの呼称ですね。そして呪術師とは、名の通り呪術を使う者のこと。今現在、その存在は滅びたとされています」


 「そうなの? ルナリアでも学ばなかったよ」


 「約400年以上前のことですからね。それに呪術師と魔術師は、魔族の血筋だと大昔は差別されていて、魔女狩りと称して多くの術者が殺されました。ちなみに魔女は呪術師と魔術師を蔑む言葉です。その後、魔法の概念が確立され、有用であると分かってからは権力者たちがこぞって魔術師の血を取り込もうとしました。呪術師はその性質から危険視され、魔女狩りの時と同様に狩られ続け、滅びました。カナデが知らないのは、この事実が国の上層部にのみ伝えられていることだからでしょう」


 「うわぁ……都合の悪い歴史は隠されたってことだね。上流階級って、やっぱり黒い……」



 でもちょっと待って。私、滅びた呪術を使ったらしいよ?まあ、オネェ竜が言ったことだけど。……面倒なことは考えないようにしよう。私は何も知らな~い。


 

 「少しお聞きしたいのですが、黒の呪術師とは一体誰ですか?」



 尾を切断したことなど忘れたかのように、サヴァリスは丁寧な姿勢でオネェ竜に接する。



 「ひぃっ。く、黒の呪術師は、役目を果たさないアタシをココに縛り付けた人族の男よ! 黒髪に金色の瞳の……今思うと、物凄い美形だったわ。アタシが食べちゃいたいぐらいに……」



 当時を思い出して薄らと頬を朱に染めるオネェ竜。マジで面食いだな。そんな奴にタナカさんは絶対にやれん!


 ……オネェ竜が呪われたのは400年以上前だから、その呪術師さんは生きていないね。



 「役目とは……?」


 「アタシたち魔素竜の役目って言ったら、精霊の作りだした魔素を世界に循環させることに決まっているじゃない。タナカ様を追いかけて役目を放棄したら、魔素の地脈が集まるココに縛り付けられたのよ!」


 

 つまり、タナカさんを狙って遊び歩いていたオネェ竜を、黒の呪術師さんがお仕置きしたってこと?……ナイスお仕事!ぶっふー、ざまぁ。


 私の心の声を察したのか、オネェ竜が睨みつけてきた。



 「ムカつく顔ね……小娘」


 「小娘でも何でもいいですけど、タナカさんだけは渡しませんよ? 私と言う妹の壁を乗り越えられないかぎり、タナカさんには近づけさせません!」


 「なっ……それがアンタがアタシにかけた呪いね!? なんてものをかけてくれたのよ!」


 「いや、呪いとか知りませんし。私、魔法使いですし?……まあ、そんなことよりも聞きたいのはですね。メンデルさんは、竜騎士を知らない。それならば、何故竜の花嫁を捧げなければならないのかということです」


 「あくまで推測ですが……呪術師が縛り付けた竜を見て、都合よく利用したのが竜騎士を名乗る人族だったと思います。そして世渡り上手だった竜騎士は風の国の初代王になった。しかし、利用したことに対して竜が怒るのではと考えた王は、生贄を捧げはじめた。それが竜の花嫁ではと思います」


 「うわぁ、ありそうだね。でもまさか、竜騎士も竜がオネェだとは思わなかったよね」


 「そうでしょうね」



 私とサヴァリスはじっとオネェ竜を見る。



 「そ、その目止めなさいよ! 魔素は十分に循環させたし、これから役目を放棄するつもりはないわ。だからアタシを解放してちょうだい!」


 「いや、私の一存じゃ無理」


 「責任者呼んできなさいよぉぉおおおお」








 という訳で、オネェ竜が煩いので責任者であるクラウ陛下を連れてきました。さらにガブリエラ先輩とワトソンも。竜騎士の真実から、建国の竜がオネェであるところまで、すべてお話しました。あっ、もちろんサヴァリスがオネェ竜を切断したところは話していないよ。だってあれは……なかった事実だし?



 「そ、そうか……分かった」



 クラウ陛下は、引きつった顔をしながら言った。



 「まあ、歴史は勝者が作るものですし。わたしは一切気にしません。クラウはクラウなのですから」


 「リエラ!! 愛してる!!」


 「ふふっふ……」



 抱きしめ合うクラウ陛下とガブリエラ先輩。余所でイチャつけや。



 「どうでもいいけど、アタシはココから出たいの! 小娘、この坊やに聞いてちょうだい!!」


 

 人使い荒いな、オネェ竜は。


 私は渋々、オネェ竜の通訳をすることにした。



 「あの、クラウ陛下。メンデルさんが、ここから出たいそうです」


 「それは構わないが……呪いを解く方法が……」


 「小娘、どうにかしなさいよ」


 「え!?無茶ぶりだし……」



 呪いって言ったら、あの首に巻きついている赤黒いのだよね?


 私は浮遊魔法でオネェ竜の首に近づく。首に巻きついている呪いは、黒の糸と赤の糸が絡み合っているように見えた。最初見た時は黒かったから、赤いのは私が叫んでから現れたのかな。とりあえず私は黒い糸を摘まんだ。めっちゃ絡んでるよ。解くのは無理そう。



 「うーん、消えろとか言ったら消えたり?」



 私がなんとなく言うと、いきなり黒い糸が発光し、次の瞬間には跡形もなく黒い糸が消えていた。残ったのは赤い糸だけだった。



 「よく分からないけど、解けたみたい」


 「解けましたね。さすがはカナデです」


 「カナデ先輩の意味の分からなさは今更なんで、納得です」



 おい、ワトソン。それはどういう事だ……?


 私がワトソンに抗議の視線を送っていると、オネェ竜が騒ぎ出した。



 「ちょっと! 赤い呪いが解けていないじゃない!!」


 「え? 黒いの解けたからいいじゃん」


 「タナカ様に近づけないでしょ!!」


 「近づけさせないよ!!」



 私とオネェ竜が睨みあっていると、仲裁にクラウ陛下が入って来た。



 「まあまあ、そのくらいに。……竜メンデル、今まで風の国を守護して下さりありがとうございます」


 「ふんっ。この国を守護したことなんてないわよ」



 そっぽを向くオネェ竜。私は渋々、オネェ竜の言葉をクラウ陛下に伝える。



 「それでも、貴方にこの国は守られてきた事実は変わらない」


 「わたしからも、お礼を。ありがとうございます。……竜様がいなくなるということは、風の国に竜の守護が無くなったと貴族や他国の者に思われるでしょうね。仕方のないこととはいえ、これから頑張らなくてはなりません」



 ガブリエラ先輩の言葉に、クラウ陛下が頷いた。



 「強い国を造ろう、リエラ」


 「そうね、クラウ」



 寄り添うガブリエラ先輩とクラウ陛下。なんか、ゲロ甘い恋愛の波動を感じるんですけど。


 しっかし竜がいなくなったとなれば、竜を解き放ったガブリエラ先輩とクラウ陛下に批判が行く訳だね。たとえ、オネェ竜が守護なんてしたことが無かったとしても。建国の竜と竜騎士の伝説は否定できないレベルにこの国に、そして他国に根付いている。


 でも、だったらさ――――



 「ねぇ、ガブリエラ先輩とクラウ陛下。それなら、歴史を変えちゃえばいいんだよ」


 「「えっ」」


 「それは、面白そうですね。カナデ。私も手伝いますよ」


 「ありがとう、サヴァリス。もちろん、ワトソンもだよ。むしろ、ワトソンじゃなきゃダメだね」


 「え!? カナデ先輩の企みなんて、碌な事になった思い出がないんですけど!?」


 「いいから、始めるよ。時間がないんだからさ!」



 さて、一肌脱ぎますか!! 






オネェ竜が魔法使いを知らなかったのは、ジェネレーションギャップと強制引きこもりが原因です。

そして魔王編で聖女がカナデに黒魔女と罵っていたのは、昔の魔女狩りを知っていたからです。300年生きてますし。



次回で竜の花嫁編最終話です。お待ちくださいませ。



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