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建国の風竜

 ブランドル公爵足蹴事件から三日後。私は建国の竜の住む樹海に来ていた。それはもちろん、竜の花嫁として話し合いに行くためである。



 「竜はどのくらい強いのでしょう? 楽しみですね、カナデ」


 「話し合いに行くんだよ!?」



 私は地団駄踏みながら危険人物――サヴァリスにツッコミを入れる。しかしサヴァリスは、私に微笑むだけ。絶対に戦闘という名の話し合いに行くつもりだよ!


 サヴァリスは愛しそうに、私が以前プレゼントした聖剣の柄を一撫でする。……私は製作者だからね。あの聖剣の能力は一番知っているつもりだよ。冗談抜きに竜がブツ切りに――あかん、戦闘狂にあげるプレゼントやなかった!!



 私が頭を抱えていると、背後から若い男性2人に声をかけられた。



 「カナデ様! 本日護衛の担当する、サヴァリス閣下の部下セレスタンと申します。どうぞ、よろしくお願いします」


 「同じくサヴァリス閣下の部下……グェンダル。よろしく」



  元気いっぱいで褐色髪の短髪であるセレスタンさんは20代後半、仏頂面で紺色の長い髪を一つに纏めているグェンダルさんは10代後半に見える。


 二人とも襟元にバッジがたくさんあるので、たぶん軍の階級はかなり高いんじゃないかな?でも今の私はプライベートで来ているので、階級とかぶっちゃけ知りたくない。名乗ってくれなくて安心したよ。



 「あっ、挨拶もせずに申し訳ありません。魔法使いのカナデです。今日はよろしくお願いします」



 愛想笑いをしつつ、ペコリと頭を下げる。すると二人は一瞬だけきょとんとすると、何故か焦って敬礼をした。



 「そそそそんな、俺たち如きに頭を下げないで下さい!」


 「……カナデ様は閣下の未来の奥方。気を遣わなくていい」


 「はぁぁあああ!? 未来の奥方!? 何嘘吹きこんでんの、サヴァリス!!」



 私はサヴァリスに詰め寄るが、本人はどこ吹く風。ニコニコと笑っているだけだった。殴りたい……でも殴ったら、嬉々として応戦してきそう。



 「あわわわ、そんなに怒らないで下さい。カナデ様」


 「……二人には仲良くして欲しい。これ、月の軍の総意……」


 「総意って何よ?」



 八つ当たり気味にセレスタンさんとグェンダルさんを睨みつけると、青い顔をしながらセレスタンさんが捲し立てる。



 「月の国では今、晩婚化が問題になっておりまして。その……原因がサヴァリス閣下なんです!」


 「何でサヴァリスが原因……?」



 私の疑問に答えたのはグェンダルさんだった。



 「……閣下は、地位も実力もある。そして未婚で美形……女たちが放っておかない」


 「さらに閣下は15年以上前に婚姻の自由を陛下直々の褒賞として貰っておりまして……」


 「ああ、つまりは『私にもチャンスが……!』とか思っちゃうんだ」


 「はい。おかげで、女たちは閣下に惚れる惚れる。軍内も未婚の者が多く……正直に言って、いいなと思っている女の子に振られるのは嫌なんです!俺も贅沢は言わないから、優しい嫁が欲しいんです!!」


 「……閣下の好み、特殊すぎ。条件に合致するの、カナデ様だけ。……だから、カナデ様は月の国の希望」


 「そんな希望背負いたくない。他を当たってよ」


 「「それは無理」」



 どうやらこの二人は切実なお国の問題により、私の味方はしてくれない模様。……護衛の意味あるんか!!



 「ふふっ。そういう訳で、月の国はカナデを歓迎しますよ。安心して嫁に来てください」


 「嫌じゃ、ボケェ!!」



 私は素でサヴァリスに言い返すと、セレスタンさんとグェンダルさんが何故か期待の色を深める。「閣下に恐れず、暴言を吐けるなんて凄すぎです!」と謎の言葉をいただいた。おい、サヴァリス。自国ではどんな態度なんだ……?



 「あぁ……もう、ぱっぱと終わらせよう。そして私はワトソンの家に結婚式まで引き籠る」


 「おや。カナデに会えると思って、月の国のお菓子をたくさん持って来たんですが……」


 「お菓子!?」


 「ええ。それと色々お話したくて……セレスタン、グェンダル。抜刀許可を与える」


 「「はっ」」


 「ああ、ただ抜刀するだけで、危険はないのでご安心を」



 何が起こるんだろう?とセレスタンさんとグェンダルさんを見ると、二人はゆっくりとした動作で鞘から武器を取り出す。


 セレスタンさんの武器は剣で、良く見ると刀身に斜めの切りこみが入っている。……あれは伝説の蛇腹剣!!私の脳裏には、ルナリア学園時代に蛇腹剣の木刀を使って怪我をした苦い思い出が蘇る。そして、蛇腹剣を欠陥武器と第五王子に罵られた思い出も……。


 グェンダルさんの武器は、剣――ではなく、刀だった。そう、日本人にお馴染みの刀である。じっと見つめる私に驚いたのか、「……これは魔族領で良く使われる武器」と説明を頂いた。さらに驚いたことにグェンダルさんは二刀流。もう一度言う、憧れの二刀流だった!



 「うっはぁぁあああ!! 蛇腹剣と刀の二刀流!! すっげぇえええ、月の国マジすげぇえええ」


 「月の国は、個々の特徴を生かす戦術を好むのです。色々な武器を持った軍人がいますよ」


 「本当、サヴァリス! もしかして、鎖鎌とか大剣使いとかいる!?」


 「ええ、いますね」


 「ぷっはぁ~。堪らないよぉ」



 私は顔を赤らめながら、セレスタンさんとグェンダルさんの周りをグルグルと走る。ひゃっほう!テンションMAXやでぇ~!


 空の国はどちらかというと、個は重視されず、変わった武器を持った者がいない。それは現在の騎士団総長が第五王子であることから、これからも変わらないだろう。まあ、武器がバラバラだと編隊が組みにくいとか弊害があると思うけどさ、素人としては、変わった武器の方が面白くて盛り上がるよね!



 「そうですね……他の武器についても教えたいですし。カナデ、私と文通しませんか?」


 「えっ、文通!? でも、守秘義務とか色々あるんじゃないの……?」


 

 異世界の変わった武器とか、めっちゃ興味あるよ! だけど、権力者との文通とか色々な柵があるし……何より、『お前は知ってはいけないことを知った……!』とか言われて刺客が送られてくるのは勘弁願いたい。来たら潰すけどね。



 「安心してください。検閲もしますし。それと……良かったら、お菓子と海の幸を一緒に送りますよ。月の国には美味しいものが沢山ありますから」


 「海の幸……お菓子……だと。うん、文通しよう! 時を止める魔道具あげるから、それに入れてね! 私も、錬金術で創ったちょっとしたものをお返しに送るよ」



 海の幸にお菓子だよ? 拒否する理由が何所にある!!



 「ふふ。よろしくお願いしますね。これからも」


 「うんうん。よろしくね!!」



 私はサヴァリスに差し出された手を掴み、ブンブンと激しく上下に振る。



 「カナデ様……御可哀相に……」


 「……閣下、策士」 



 セレスタンさんとグェンダルさんが何かボソボソと言っていたが、聞こえなかった。
















 竜の花嫁を送り出す時は必ず、花嫁行列を行う。本来ならば竜の花嫁は、純白の花嫁衣裳を着るが、今回は話し合い――最悪の場合は戦闘になるので、私は王宮へ着て行った白いローブを羽織っている。前世では結婚式上げる前にウェディングドレスを着ると婚期が遅れるって謎のジンクスがあったからね。ちょっと安心している。


 私は神輿のようなものに担がれ、護衛にサヴァリスとセレスタンさんとグェンダルさんがいる。ちなみにワトソンとガブリエラ先輩とクラウ陛下は、後方にいる。危ないから来ちゃダメって言ったんだけど、こちらが無理を言ったのだから危険を共にするのは当然だってクラウ陛下に言われた。さすがガブリエラ先輩に育てられた犬。男前だね。



 「あいやっはは~」


 「そいやっは~」



 謎の声と共に花嫁行列が始まった。



 「ぶっふ……何あの掛け声……」



 屈強でキリッとした騎士様がいきなり変な声を出すんだもん。笑ってはいけないと頭では理解していても、思わず吹き出してしまった。私は悪くないよ。



 「ぶふ……確かに。でもカナデ様。言っている方も恥ずかしいと思うんで、大笑いするのは止めましょう……ぶっふふ」


 「……セレスタン、説得力皆無」



 良かった。変だと思っていたのは私だけじゃなかったんだね。


 荒れ果てた樹海を神輿を担いで進むのは、かなり大変だった。ぶっちゃけよう。途中からは私は浮遊魔法で浮きながら進んでいた。だって、神輿の乗り心地が最悪なんだもん。でも、神輿を担いでいた騎士たちには感謝された。思ったより重労働だったみたい。……べ、別に私の体重がアレだった訳じゃないんだからね!本当だよ!!


 サヴァリスの隣でフヨフヨと浮いていると、皆に聞こえないような小声で話しかけられた。



 「カナデ、ずっとお聞きしたかったんですが……貴女の兄弟について。私の調べでは、貴女に兄弟はいないという結果でしたから。ですが、カナデが神獣と交流がるということは調べがついています」



 あー、やっちゃたかな。今更だけど、ブランドル公爵に言ったことが悔やまれる。でも、サヴァリスだけじゃない。風の国の王族の前でも仲良し兄弟発言しちゃったからね。情報が出回るのも時間の問題か。



 「お察しの通り、兄弟って言っても、人族じゃないよ。皆、別々の種族。でも、私が小さな頃から一緒だった大切な家族だよ。……できれば、秘密にしてね」


 「秘密にしますよ。貴女の前世の話を含めて、二人だけの秘密と言うのは心地よいものですから」


 「何それ。前世は、勇樹も知っているじゃん。……でも、ありがとう。サヴァリス」


 「いいえ。こちらこそ、私と出会ってくれてありがとうございます。カナデ」



 樹海奥深くの暗がりで見せたサヴァリスの表情は、とても幸せそうだった。







 「もうすぐ、樹海の最奥。竜の祠に着きます」


 「そろそろ、竜の咆哮が聞こえるかな?」



 警戒しているとついに、大地と大気を震わせるほどの竜の咆哮が轟いた。



 「また来たのネ、人族共!! やっかいな貢物なんていらないのよ。イケてる男を差し出しなさいよぉぉぉおおおおおおおおお」



 「「……」」



 苦い顔で沈黙するサヴァリスと私。しかし、竜の言葉が分からない人達は、恐怖に期待と様々な反応を見せている。……分からないって幸せだね。



 「……早く帰りたい」


 「同感です」



 竜の祠に着くと、そこには巨大な竜がいた。緑色の鱗をもった竜で、アイルよりも大きい。しかし、首には謎の黒い輪っかが嵌められて、さらに浮いていた。何あれ。



 私とサヴァリスは竜の前に立ち、とりあえず挨拶をした。



 「こんにちは、竜さん。私はカナデ。一応は竜の花嫁ってことになっていますが、貴方に嫁ぐ気はありませんので、安心して下さい」


 「サヴァリスと申します。この度は話し合いに参りました」


 「やん♪ 人族のくせに中々いい男じゃない? そこの小娘はどうでもいいわ」



 竜の声は野太かった。ハッキリ言おう、こいつはオネェ竜である。一体、誰が予想していただろうか……。と言いますか、オネェ竜に未婚の純潔の乙女を生贄に捧げるってさ、どんな嫌味?さすがの私でも、これはアカン政策だわって理解出来るよ。



 「大変失礼ですが、竜殿は女性ですか?」



 そこで男性じゃなくて、女性っていうところがイケメンだと思うよ、サヴァリス!



 「やーね! どう見ても、アタシは女じゃない」



 イケメンに気遣われたのが嬉しいのか、オネェ竜はバシンバシンと尾を地面に叩きつける。あの、土煙が盛大に舞ってますよ。私は素早く風魔法で土煙を吹き飛ばす。早く帰りたいよぉ。



 「失礼いたしました。ところで、竜の花嫁の生贄の件なのですが、廃止してもよろしいですか?」


 「かまわないわよ。ていうか、勝手に女を連れてこられて迷惑していたのよね。健康な女なら、適当な場所に逃がせばいいから楽だわ。でもココに連れてこられる女は、病持ちも多くて困っていたのよ。人族も地味な嫌がらせをするわよネ」



 オネェ竜は憂いの表情を浮かべる。生贄になった女の子たちは、罪人とか病気の子が多かったのかな。まあ、誰も自分の娘を捧げたくはないよね。


 それにしても……おかしいよね。オネェ竜は、生贄を嫌がらせだって言ってた。それならば、生贄は何のために捧げられたの?



 「あの……竜さん。質問があるんですけど」


 「何よ、小娘。あと、竜じゃなくてアタシにはメンデルっていう名前があるのよ」


 「失礼しました。メンデルさんは、竜の花嫁をお望みではなかったと言うことですか?」


 「そうよ。人族の女なんていらないわよ」


 「では、竜騎士をご存じで?」


 「竜騎士?何それ。 アタシは呪いでココに縛り付けられているだけよ」


 「呪い……?」



 私とサヴァリスはお互いに顔を見合わせる。あぁ、たぶんこれは他国の人間が聞いちゃいけないお話だよねぇ。厄介事の匂いがプンプンする。


 関わりたくなかったのはサヴァリスも一緒だったのか、話し合いをさっさと終わらせるためにオネェ竜に承諾を得ようと動き出す。



 「メンデル嬢。風の国は今後一切、竜の花嫁を捧げません」


 「いいわよ。アタシはそんなことよりも、呪いを解いて欲しいのよね。これじゃあ、愛しの白金の君に会いに行けないわ。たとえ、恋の試練がアタシたちを試したとしても、必ず乗り越えて見せるわ!」


 

 やけに熱いオネェ竜。恋に生きてんなぁ。



 「あの、メンデルさん。白金の君って誰なんですか?」



 何となく質問したことに、私は後悔することになる。



 「美しい白銀の毛並みに淑やかで逞しい肢体。そして、キリリと美しい切れ長の金色の瞳。神獣の長……タナカ様よ!」


 「はぁぁあああああ!?」



 ちょっと待って、タナカさん!?このオネェ竜の思い人がタナカさん!?止めてよ。こんな得体のしれないオネェ竜にタナカさんを差し出すなんて無理。絶対に無理!!それに、タナカさんの恋人は、私が認めた人じゃないとダメだから。オネェ竜なんてもっての外だから!!私の目が黒い内は絶対に許さないよ!!



 「私の大好きなお兄ちゃんを、お前なんぞにくれてたまるかぁぁああああああ」



 私の叫び声に共鳴するかのように、オネェ竜の首に巻きついていた輪っかが赤黒く発光する。

 

 え? 私、何かしたの? 魔法とか別に発動していないよ!?



 オネェ竜は苦しむ表情を見せながら、私を恐ろしい形相で睨みつける。



 「小娘、他人のかけた呪いを強化するなんて何者よ!! それに良く見たらその黒髪……私に呪いをかけた黒の呪術師と同じじゃない!!」



 私と同じ髪色の黒の呪術師……?








サヴァリスは計画的に行動しています。こいつ、マジです。

オネェ竜登場です。思っていたよりも、濃いキャラになってしまった。


竜の花嫁編は、あと1・2回で終了予定。

次回は、黒髪の呪術師と風の国建国の真実について。


ではでは、次回をお待ちください。

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