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御爺ちゃんの生家

 「あの、クラウ陛下。その私の父親らしいブランドル公爵って、爵位剥奪の予定とかあります?」


 「横領や、許可のない領地の増税など罪は一通りやらかしている。勿論、証拠も取ってあるからな。あと貴族でいられるのも、あと数日と言ったところだったな。まったく、かつては魔法の名門と呼ばれたブランドル公爵家も地に墜ちたものだ」



 ふーん。つまりは、多少暴れても御咎めなしってことかな。まあ、王族の前だし手加減はするけどね。



 「では早速、生き別れだった親子の再開とやらを済ませましょうか」


 「分かった。ブランドル公爵をここへ」



 クラウ陛下の指示の後、中年の小太り気味のオッサン――ブランドル公爵が騎士と共に現れた。ブランドル公爵は私を見ると、大げさだと思うほどに嬉しさを爆発させた。



 「おお!! カナデ、我が娘よ。ずっと会いたかった!! 愛娘に会う機会をくださりありがとうございます、新王陛下」



 両手を広げて私を抱きしめようとブランドル公爵が近づいてきたが、オッサンとの抱擁は勘弁願いたいので、私は華麗に躱す。美女になってから出直してきなっ!



 「初めまして、ブランドル公爵。私の名前はカナデと申します。実は、昔から私の親を名乗る偽物が多くて、たくさん嫌なことがあったんです。決して、ブランドル公爵を信じていない訳ではないのですが、証拠をお見せいただいても?」



 丁寧さを心がけ、あくまでもブランドル公爵が上だという姿勢で問いかけると、ブランドル公爵は特に気分を害した様子もなく、饒舌に話し出した。



 「カナデの祖父であるポルネリウス様は、元々はブランドル公爵家の出身なのだ。正妻ではなく、妾の子だったが。そしてポルネリウス様の魔法の才能に目を付けた妾は、ポルネリウス様を利用するためにブランドル公爵家から逃げたのだ。何と、嘆かわしいことだ。実の母親の所業とは思えん」


 「はぁ……それで、証拠は?」



 いや、どう考えても曾御婆ちゃんの判断は英断だよ。そのまま、御爺ちゃんをブランドル公爵家に置いていたら、きっと御爺ちゃんにとって悲しい結末になっていただろうし。


 ブランドル公爵は下卑た笑みを浮かべると、懐から透明な水晶を取り出す。



 「証拠は血縁だ!ポルネリウス様は、100年ほど前に当時の風の王とブランドル公爵家当主の前で、この魔道具を使い、血縁を証明して見せた! 故にブランドル公爵家とポルネリウス様の血縁関係は王の承認を得ている。ポルネリウス様の孫で忘れ形見であるカナデは、ブランドル公爵家の血を濃く受け継ぐ者。このブランドル公爵家当主である私の娘と言ってよい存在だ!」



 頭湧いてんのか?と直接聞いてやりたいが、私はその言葉を呑み込む。父親って言っていたから、実の父親路線で行くと思ったけれど、さすがに無理だと思って、一族の娘だから当主である自分の娘同然って設定にしたんだね。アホらしい。



 「あの……そもそも、私は祖父と血の繋がりはありませんよ」


 「「「え?」」」



 私以外の全員が疑問の声を上げた。そうは言っても、事実なんだよねぇ。


 ブランドル公爵の持つ水晶に私が触れると、青い靄が水晶の中で立ち込める。これはたぶん、血縁関係がないという証明だ。



 「そんな……ありえませんぞ! 魔力量や資質は遺伝される。だからこそ、カナデは名門ブランドル公爵家の血縁者であるはずだ!!」


 「そうは言いましても、事実は変えようがありませんよ。私はブランドル公爵家とは何の関わりもない人間です。そうそう、私を娘にすることによって、祖父の遺産を手に入れようとか考えているのかもしれませんが、無駄なことです。祖父の遺産は既に実家の結界を維持する関係で無くなっています。それと、祖父の魔法技術を盗みたいとのことでしたら、遺言状にすべての知識は私の認めた者にのみ与えよと書いてあるので、ブランドル公爵には教える気はありません。あとこれは、私の後見人である空の国の王弟殿下直筆の証明書です」



 王太子を通して王弟である理事長に書いて貰った証明書を掲げると、ブランドル公爵は本性を現し、私を罵倒する。



 「平民如きが、公爵家の意向に逆らうと言うのか! 身の程知らずの小娘が! かの魔法使いもこのような下賤な子供に魔法の英知を授けるなど耄碌していたとしか思えん! 所詮は汚らわしい妾の生んだブランドル公爵家の恥部だな。これでは、伝説の魔法使いなどたかが知れている」



 このクソ野郎は今、何を言った……?


 御爺ちゃんを貶める発言に、私の怒りの沸点は越え、魔力が溢れだす。それを感じてブランドル公爵が怯むがもう遅い。お前はしてはならないことをした。


 御爺ちゃんは私にとって大切な人だ。たった2才で大人のように言葉をしゃべり、自我を持つ、黒髪黒目の不気味な子供だった私を、独り立ち出来るまで見捨てずに育ててくれた。本当なら、得体が知れないことを気持ち悪く思われて捨てられても文句は言えなかったと今でも思う。


 魔法の技術も、生きる術も、愛情も、たくさんのことを御爺ちゃんは、無償で私に捧げてくれた。こんなにも懐の深い人を、私は知らない。


 それなのに、このクソ野郎は御爺ちゃんの人格を魔法の才を生き方を馬鹿にした。



 絶対に許せない……!!



 「黙れ、下賤な豚が」



 自分でも驚くほどに殺気の滲んだ低い声だった。とても公爵に話す態度ではない。



 「……妙な事はよせ。貴族に手を出して、ただで済むと思っているのか!」



 焦り、脅えるブランドル公爵を一瞥すると、私は身体強化を施した身体で、ブランドル公爵の足を払う。そして、仰向けになったブランドル公爵のたわわに実った腹を容赦なく足蹴にする。



 「ぶぎゃぁっ」


 「豚のくせに、私の御爺ちゃんを馬鹿にするなんてただで済むと思ってんの? 言っておくけど、大切な人を貶めるヤツに、私は屈したりしないよ。そもそも、貴族なんて称号は人族の中でしか意味をなさない不確かなものでしょう? 私は大切な人のためになら、人族を辞める覚悟も敵に回す覚悟もあるよ」


 「ふぎぃぃい」



 グリグリとブランドル公爵の腹に足を埋める。


 ふと思いついて、私はブランドル公爵の額に人差し指を当てる。豚に直接触るのは嫌だったが、記憶を読み取る魔法を使うためだ。我慢我慢。


 嫌悪感を抱きながらも、私はブランドル公爵の記憶を読み取った。



 「なになに……私を娘にした後は、技術と知識を奪い取るつもりだったんだね。そして私を凌辱して、魔法資質の高い子供を得ようとしたんだね。……なんて、小物な計画! さすがは落ちぶれた名門公爵家だね。あっはは、馬鹿らしい~」


 「きさ、ま……」



 高笑いする私に、身を捩りながら必死に声を絞り出すブランドル公爵。



 「私はね、御爺ちゃんが死んだ時から沢山の人達に狙われてきたの。御爺ちゃんの知識と技術を狙った貴族が隷属の首輪を嵌めようとしたり、遺産目当ての貴族が殺そうとしてきたり……そうそう、私の黒髪黒目が欲しくて猛毒を盛って来た貴族もいたよ。だけどね、不思議なことに私を狙った悪質な貴族は皆、裏で行っていた罪が露呈して、処刑されているんだよ。偶然ってすごいよね」



 クスクスと笑うと、ブランドル公爵が恐怖の色を深めた。



 「私にはね、紳士で頼りになる兄と、お転婆で優しい姉と、馬鹿でヤンチャな弟がいるの。私の大切な兄弟だよ。私たちはとっても仲が良くてね。兄弟に仇名す愚か者には容赦がないの。だから――」



 私は見下したまま、最後通告をする。



 「きっと、貴方にも良いことが起きるよ。ねぇ、前国王陛下に遅行性の毒を盛った、ブランドル公爵?」


 「「「!?」」」



 記憶を読み取ったときに、ブランドル公爵が病に伏せっていると噂の前風の王に毒を盛っている事実を知った。どうやら、自分の娘を娶らせ、まだ若いクラウ陛下の後ろ盾になるつもりだったらしいが、それはガブリエラ先輩が許さなかった。自分の思い通りにならないことが気に入らなかったブランドル公爵は、ゆくゆくは私を使って、ガブリエラ先輩を殺すつもりだったらしい。本当に小者だわ。



 私は泡を吹き、恐怖で意識失ったブランドル公爵にゲシゲシと蹴りを入れる。中途半端なところで気絶しやがったから、消化不良だよ。




 「カナデ先輩、クラウディス陛下と妃殿下が引いていますよ……」



 ワトソンの静かな声に気づき、ハッとクラウ陛下とガブリエラ先輩を見ると、引きつった顔で私を見ていた。私は思わず、踏みつけにしているブランドル公爵を見下ろす。……オッサンを踏みつけにしている女子って、どう見ても危険人物じゃない?


 さすがにやり過ぎたと思い、ブランドル公爵から離れると、私の両手をサヴァリスが素早い動作で握りしめる。サヴァリスは私の身長に合わせて屈み、熱っぽい瞳を合わせる。色気が駄々漏れだ。



 「ますます惚れました、カナデ!」


 「おっおう。それはきっと勘違いだよ……そうだと言っておくれ……」



 サヴァリスって特殊性癖があるんじゃないかな……?と今更ながら疑惑が浮上。でも、ドMってわけではなさそう。むしろ、サヴァリスってドSだよね?まあ、特殊性癖持ちなら……私のことが好きって言うのも、本当かも?……私の好みは、普通の男性なんだけど。この人に執着されて、普通な旦那をゲットできるのだろうか?


 色々と嫌な想像が駆け巡り、私は必死にサヴァリスから目を逸らす。しかし、両手は握られたままだった。



 「あの、クラウディス陛下。ブランドル公爵を拘束した方がいいのではないでしょうか?」



 ワトソンの冷静な声が、室内に響く。


 呆然としていたクラウ陛下とガブリエラ先輩は、慌てて控えていた騎士たちに指示を出す。そうして、気絶していたブランドル公爵を運んで行った。



 「その……フィッツラルド男爵は、随分と冷静なんですね」


 「カナデ先輩の豹変を見るのは初めてではないですし。何より……泣きながら怒り狂っていた、あの時に比べれば、今日のことは100倍マシですよ」


 「それは……恐ろしいな」



 サヴァリスに偏愛の言葉を囁かれている脇で、神妙な様子でワトソンとガブリエラ先輩とクラウ陛下が話している。


 ……私は、危険人物じゃないからね! 本当だよ!!



 とりあえず、自称お父さんの件は解決した。色々、失ったものはあるけどね……。





今日は2話更新です。

何だか知りませんが、異常に筆が進みました。


今回は、黒魔女モードのカナデです。王族の前だから、控えめ仕様。

カナデは心に狂気を飼っていますね。安定のラスボス臭。

そしてたぶんサヴァリスも……?


次回はいよいよ、竜との対面でございます。

では、次回をお待ちください。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ワトソンはカナデの感情が炸裂している時にも冷静な対処がとれるんですね。 成長が遅いそうだし、年齢差もギリギリおかしくない範疇内だし、もしカナデが恋愛をするのだったら悪くない相手かもしれませ…
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