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真の勇者は遅れてやって来た 後編

 たっぷりと睡眠を取った次の日。

 第五王子は社交へ、ロアナはゲスイ笑顔を浮かべて商談の仕事へ向かった。

 送還魔法を完成させ、手持無沙汰になった私は勇樹の部屋に来ていた。



 <そんな、怒らないでよぉ>



 勇樹の膨れた頬を指で突っつく。



 <俺がどんな目に遭ったと思っているんだ!>


 <ええと、サルバ先輩にまず服をひん剥かれて――>


 <言うな、止めてくれ!!思い出したくもない>


 

 ガタガタと震えだす勇樹。ありゃりゃ~、完全ににトラウマになってるよ。さすがに悪いことしたなぁ。



 <まぁ、送還魔法は完成したし、明日帰れるんだから元気出そうぜ>


 <もう誰も信じない……>


 

 どうしたもんかね。男の子の機嫌を直す方法……やっぱりアレしかないよね。



 <しょうがないなぁ……異世界っぽく勇樹専用の最強武器と防具でも作ろうか?>


 <えっ、俺専用!?マジでか>


 <マジマジ。私が素材も提供するしさ>


 <ひゃっふ~『おれのかんがえたさいきょうぶき』>


 「何だか楽しそうな事をしていますね」



 後ろにいたのはサヴァリス将軍だった。気配も音もしなかったよ。もしやお主、忍者か!いや、将軍なんだけどね。 


 

 <うわぁ、イケすぎ兄ちゃんだ>


 <サヴァリス将軍は王弟だからね、粗相をしないように気を付けなよ>


 <イケメンで王族で将軍とか男の敵すぎんだろ>


 「カナデ、彼は何と言っているのでしょうか?」


 「サヴァリス将軍は男前だと言っています」


 

 嘘はついていないよー、意訳するときっとこんな感じだよー。


 

 「ありがとうございますと彼に伝えてもらってもいいですか?……ああ、伝えてもらわなくても彼は理解しているようですが」


 

 勇樹が言葉を理解しているって気付いてる!?報告義務を疎かにしたとかで私処刑されちゃう?やべぇぇええ、どうしよう。



 「ふふ、そんなに脅えなくても大丈夫ですよ。鎌をかけただけですから……貴方を処罰することはありません」


 「そうですか……」 


 

 ああ、良かった……



 「代わりに私も仲間にいれてもらいます」



 全然よくねーよ!!

 


 <おい、カナデ。この兄ちゃんには逆らわない方がいいんじゃないか?>



 勇樹の言う通りだ。ヘタに嘘ついてもバレそうだし、何より弱みを握られている。



 「どうぞどうぞ、サヴァリス将軍」


 「はい、よろしくお願いします。それでカナデ、私の事はサヴァリスと呼んで下さい。口調もガラン副局長やロアナ外交官と喋る時のようにお願いしますね」


 「えっ、でも私は平民ですし……」


 「 サ ヴ ァ リ ス 」


 「わ、判ったからサヴァリス!!」



 マジ怖い!爽やかな笑顔恐ろしすぎ!!



 「よろしい。そちらの彼――勇樹もお願いしますね」


 <了解っす!!>


 

 私と勇樹はサヴァリス将軍――じゃなくてサヴァリスに本能的に従った。まじコワ将軍。



 「勇樹の喋る言葉が判らないのは不便ですね……」


 「だったらサヴァリスにだけ勇樹の言葉が判るようにする?」


 「そんなことも出来るんですか?」


 「魔法使いだし、これぐらいは普通に出来ます」



 サヴァリスの前に手をかざし、言語習得の魔法をかける。これでサヴァリスは日本語が理解できるようになったはずだ。


 「勇樹、何か喋って」


 <えっ、いきなり言われても困るぞ>


 「本当ですね、理解できます。すごいですね、カナデは。私も魔力はあるのですが、攻撃魔法を放つ事ぐらいしか出来なくて……羨ましいです」


 「大した事じゃないよ。逆に私は武術の類は全然ダメだし」


 <俺も路地裏で喧嘩した事があるぐらいだなー>


 「それじゃあ武器はメリケンサックで決まりだね」


 <ダセぇよ、折角なら剣とかがいい!!>


 「武器ですか?」


 「ええっと、送還魔法が完成したのは勇樹がサルバ先輩に可愛がられていたおかげだから……お詫びに武器を作ろうかと」


 「それは面白そうですね!」



 サヴァリス嬉しそうだな……やっぱり男は何歳になっても武器とかロボとか好きだよね!斯く言う私も大好きだけど。



 「どうせならサヴァリスのも作る?」


 「いいんですか!?」


 <サヴァリス兄ちゃんなら、やっぱり聖剣っぽいのがよくないか?エクスカリバー的な>


 「切れ味抜群のデュランダルとかは? サヴァリスは魔力があるってことは、主に何属性の魔法を使うの?」


 「主に水属性を。特に氷魔法は頻繁に使います」


 <それならエクスカリバーでいいんじゃね>


 「湖にエクスカリバーを投げたんだっけ?確かにサヴァリスにぴったり」


 「……カナデは随分と異世界の知識に詳しいですね」


 

 あちゃー、マズったかな。まあここまで来たらしょうがないね。



 「信じて貰えるか判らないけど、私には前世の記憶があってさ……それで私の前世は勇樹と同じ世界だったんだよねぇ」


 「なるほど。それで異世界語が話せるのですね」



 信じるのかよ!



 「ちなみにこの事を知っているのはサヴァリスと勇樹だけだから」



 誰かに話したら直ぐに判ると脅しておく。相手は王族だけど、異世界の知識とかを狙う人達に目を付けられたら嫌だからね。



 「……了解しました。レディの秘密を話したりしませんよ」


 「いや、レディとか止めてよ。鳥肌が……」


 「すみません。王族の交渉術として女性に優しくする癖が染みついていまして」



 ハニートラップか!こんな美形が優しくしたら世の女性たちはコロッといっちゃいますね。恐ろしいかな、王族秘伝の交渉術!!まぁ、私からしたらゾワゾワするだけなんだけどね。あれ私、女として終わってる!?そんなことない、花も恥じらう乙女のはず。



 「出来る限り抑えてね。それじゃ、武器を作りますか!」



 亜空間から最高純度の水魔石と水晶を取り出す。



 「使いやすいように普段使っている剣を元にしたいんだけど……サヴァリス予備の剣とかある?」


 「これをどうぞ」



 サヴァリスは腰に差していた高そうな剣を取り出した。おいおい、それ予備じゃないじゃん!



 「いいの?」


 「構いませんよ」


 <既に十分カッコいい剣じゃんか。羨ましいぜ、さすが将軍!!>



 はいはい判りましたよ、その剣で創りますよ。


 サヴァリスから剣を受け取り、魔石と水晶を一緒に並べた。それらを中心にして青い魔法陣を展開。まあ、この魔法陣は雰囲気作りのためで意味はない。しいて言えば私のモチベーションが上がるくらい?おお、かなり重要なことじゃないか!


 目を瞑り、それっぽい呪文を唱える。

 すべては私のモチベーションを上げるためさ!



 「氷を司る聖剣となれ、錬金!!」



 魔力を注ぎ込み、イメージした聖剣を構築していく。これかなり集中力いるんだわ。


 すべての構築を終えた私は目を開けて、出来上がった聖剣を見る。見た目はイメージ通りの青と金の装飾がある聖剣になった。ちょーカッコいい。しかし、見た目は良くても剣としての質が良くなければお話にならない。という訳で、サヴァリスにエクスカリバーたんを渡した。



 「はいどうぞ。一応、水魔法の攻撃力の増加、何でも切れるかもしれない切れ味、解毒機能、体力回復効果を付加しといたから。ちなみにサヴァリス以外には使えないように設定してある」


 <チートじゃねーか!!>


 「だってエクスカリバーだよ!!世界を代表する聖剣様にしょっぼい機能なんかつけられないよ。エクスカリバー(笑)とか絶対に作りたくないし」


 「すごいですね……前より手に馴染みます。ありがとうございます、カナデ。こんな素晴らしい剣は他にないでしょう。しかし、申し訳ないです。何かお礼をしなければ」


 「別にお礼とかはいいけど……そうだ、何か金属持っていない?勇樹の武器作りに必要だし……あと、海に行きたい!!」



 月の国は空の国と違って海に面している。つまりは……海産物の宝庫や!!新鮮な魚介類が食べられるぅ。密漁!密漁!!グルメハンターに私はなる!!



 「判りました。勇樹の武器を作ったら海に行きましょう……試し切りもしたいですし」



 ボソッと物騒な声が聞こえたけど気にしない。私の頭の中は海産物でいっぱいじゃ~。


 

 「じゃサクッと勇樹のメリケンサックを作りますか」


 <メリケンサック決定なのかよ!>


 「だってぇ、早く海行きたいんだもん。注文があるなら早く言ってよ」


 <注文……村雨みたいな刀がいいぜ>


 「村雨って……たぶんサヴァリスのエクスカリバーと似た性能になるけど?村雨は雨とか霧を操るし。サヴァリスとキャラ被りたいなんて勇樹は本物の勇者ね」


 <別の物にして下さい>


 「炎を使う刀でも作る?」


 <何故に炎?>


 「勇樹っぽいじゃん、直情的で」


 <もういい、それで……>


 「はいはい。サヴァリス、何か金属貰える?」



 サヴァリスは亜空間から白い金属を取り出した。何ぞこれ、見たことがないよ。



 「ムーンプラチナです。月の国でし産出されない特殊な金属です」



 何それ!?すごい貴重じゃん。さすが王族……財力パネェ。



 「ありがとう。それで、勇樹何か要望はある?」


 <刀身は1メートルぐらいで装飾は――>


 「もう、面倒くさいな」



 裕樹の額に手を乗せて思考を読み取る。なんつー中二病な発想なんだ。闇の炎とか魅了効果とか無理だから。


 亜空間から最高純度の火の魔石と水晶、それに火竜の鱗を取り出し、ムーンプラチナと一緒に置く。もう魔法陣とか呪文とか面倒だから、そのままでいく。



 「錬金!!」


 <俺の時だけ適当過ぎじゃね!?>



 煩いな、集中力が途切れたらどうする。私は魔力を注ぎ込み、勇樹の要望通りの刀を構築していく。装飾がすげー面倒くさい!!



 構築を終えて出来上がった刀を見る。金の竜とか戦うのに邪魔そうな装飾がいっぱいだ。



 「はい、出来上がり。魔力を火属性の攻撃魔法に変換する機能、一流の剣術を扱えるようになる機能、解毒機能、体力回復、あと魔力障壁を自動で構築できるようにしたから」


 <魅了効果は!?>


 「死にたいの?」


 <いやー、素晴らしい刀だ!ありがとう、カナデ。そうだな、この刀の名前は魔炎大蛇丸(まえんおろちまる)と名付けよう、そうしよう>


 「良かったですね、勇樹。カナデは何か作らないのですか?」


 「うーん、魔法媒介なら持っているし……ああ、鎧とか?」


 <鎧か……どうせなら陰陽師の服とか着たいな>


 「忍者じゃなくて?」


 <全身黒ずくめとか恥ずかしくて死ねる>


 「確かに。私も巫女服着たいな~、巫女のバイトやりたかったんだよねー。それじゃ、作っちゃうよ」



 亜空間から破魔の衣と妖精の羽を取り出す。そして黄色の魔法陣を展開。



 「錬金!!」



 出来上がったのは青と白の陰陽師の服と赤と白の巫女服。ちなみに防御力は金属の鎧を大きく上回る。別にコスプレ願望があるとかじゃないよ、違うんだからね!



 「私にはないんですか?」


 「えっ、サヴァリスは軍服着てるじゃん」


 <仲間外れは良くないぜ。サヴァリス兄ちゃんにも作ってやれよ>


 「サヴァリスは何か作って欲しい服ある?」


 「異世界の服がいいですね」


 <新撰組の服とかがいいんじゃね> 


 「着物はこの世界の人には動きづらいと思うの」


 <ええー、あとは……制服とかか?>


 「学生服……そうよ!学ランにしましょう」


 <おう、趣味丸出しだなカナデ>



 ああー聞こえない。動きやすい異世界の服といったら学生服でしょ?ジャージじゃカッコ付かないし。まあ、サヴァリスみたいな美形に学生服を着せてみたいとか。私がブレザーよりも学ラン派だとかは別に関係ないんだよ。本当だよ?ああ、学ランの色はどうしよう、紺?軍服は白だし、黒が良いよね!ボタンは金ボタン?いや、控えめにプラチナだよね。ああ、夢が広がりんぐ~。


 亜空間からさっきと同じ素材を取り出し、ムーンプラチナの残りと一緒に置く。

 黒の魔法陣を展開させる。私のボルテージは最高潮だ!



 「よしっ錬金錬金錬金~♪」



 魔力を注ぎ込み、学生服を構築していく。



 構築を終え、学ランの出来を見る。うむ、私の夢と理想が詰まった渾身の作品だ!


 

 「はい、サヴァリス!コレ着て海に行こう」


 「判りました。それでは着替えるので……」



 安心して、男の人の着替えを見る痴女じゃないから!某聖女とは違うから!!



 「了解!私は女子更衣室借りてくる~」



 部屋を飛び出し、更衣室を借りた。巫女服に着替え、黒髪を鈴の付いた髪飾りで纏める。鏡を見るとそこには平凡顔の少女が巫女服を着ていた。くそぉ、馬子にも衣装は私みたいな平凡女には適用されないのか!!


 まあいいか、憧れだった巫女服は着れた訳だし。


 勇樹の部屋に戻ると二人の着替えが終わっていた。



 「カナデとっても似合っていますよ?」


 「ありがとう……」



 お世辞をありがとう!そして萌えをありがとう!私の見立てに狂いなし!!サヴァリスは完璧に学ランを着こなしていた。完全無欠の優等生風だけど色気がすんごい。芸術品や、萌えの世界遺産や!!



 <カナデ、顔がゆるゆるだぞ>


 「そんな訳ないじゃない、勇樹!」


 

 今の私は上機嫌だからね!勇樹が私を褒めなくても気にしないよ。私も褒めてないしね!!だって勇樹は私と同じで平凡顔なんだもん。



 「さて、海に行きますか。城の者たちには見つかりたくないので、カナデ転移魔法をお願いできますか?」


 「了解であります!!」



 私は海の方向に転移魔法を展開した。


 今思ったんだけど、海に行くのに巫女と陰陽師と学生っておかしなパーティーじゃない?まあいいか、海産物が私をを待っている!!









 海に着いた――が何かおかしい。別に私たちの恰好がおかしい訳じゃないよ?神聖な衣装だし。海には人っ子一人いない……むしろ生物全般がいない?この世界ではお馴染みの凶悪なハサミを持つ蟹もいないし、魚をハンティングする鳥型の魔物の姿もない。一切生命力を感じない。



 「妙ですね……もしかしたら凶悪な魔物が潜んでいるのかもしれません。一旦城に引き返して……カナデ?」


 

 私はもしやと思い、透視魔法を使う。サーチ・アイッなんつって。海の中にも生物の反応がない。魚もエビも貝も海藻ですらいない。なん……だと……。海産物の代わりに見つけたのは巨大な魔力の渦。隠蔽の魔法が使われているが、私の目は誤魔化されない。あれは魔物。しかも力の強い魔物がたくさんいる。この辺り一帯の生物がいなくなったのは魔物たちが生命力を奪ったからだろう。



 サヴァリスも気配を感じたのか、怪訝な顔をしている。ちなみに勇樹は物珍しそうに異世界の海を見ている。私の心の中には、ふつふつと怒りが湧きあがって来た。許せない――――



 「こんの密猟者共がぁぁああああ!!海産物の弔い合戦じゃぁああああ!!」



 私は叫びと共に雷魔法で魔物たちを攻撃した。海産物がいないからね、感電の心配もないよ!



 「「「ひぎゃぁあああああ」」」



 魔物たちの断末魔が響き渡る。恐らく魔物たちの中でも弱い者たちはご臨終だ。しかしそれは私の魔法を受けても無事な強い魔物たち生きているということ。私は新たな攻撃魔法の構築を始める。


 サヴァリスは一瞬私を見てビックリした顔をすると、海に向かって走り出す。エクスカリバーを構え、氷魔法を放つ。サヴァリスの氷魔法により海に氷結した道が出来た。凄い魔力量。


 海から巨大な影が2つ出てきた――海の魔物、クラーケンだ。クラーケンは触手を使い、サヴァリスを潰そうとするが、サヴァリスは舞を舞うような身のこなしで回避して、触手を切り付ける。



 「へぇ、素晴らしい切れ味に魔力増幅ですね……面白い!」



 サヴァリスは満面の笑みでクラーケンを切り付ける。何アレ怖い。あの目は戦闘狂の目だよ!アイツはバトルマニアだよ!!私はお楽しみ中のサヴァリスを援護するため、数百本の光の矢を放つ。それに気づいたサヴァリスは一旦海岸へと引いた。



 <あばばばばばばば>



 あっ、恨みで勇樹のこと完全に忘れていた。勇樹も魔炎なんとかっていう刀持っているし、戦ってもらうか。


 

 「カナデ、勇樹、無事ですか」


 「それはこっちのセリフ。剣の使い心地はどう?」


 「最高ですね」



 軽口を叩き合っていると、耳を(つんざ)くような歌声が聞こえる。クラーケンの陰に隠れて見えなかったが、セイレーンがいたようだ。セイレーンの歌声によりサヴァリスに切られたクラーケンの触手が修復していく。回復役がいるとは厄介な……。



 「復興にばかり気に取られて魔物狩りをあまりしていませんでした。特に海は後回しだったので、そのツケが回って来たんですね」



 魔物は定期的に倒さないとあっと言う間に増え、人の生活を脅かす。それはこの世界の常識だ。尤もだからこそ周辺国の侵略にまで手が回らず、人間の国同士の戦争が少ないのだけど。



 「先に潰すのはセイレーンでいい?」


 「はい。出来たらクラーケンの動きを止めて貰えると助かります」


 「了解。勇樹はサヴァリスの援護をする、OK?」


 <うへぇええ、俺には無理だ>


 「つべこべ言うな、男なら戦え!その刀は玩具じゃないんだよ。補佐にはこの子を付けるから……いでよクリスタル●ンダム!!」



 現れたのは魔王軍最強の四天王ドラちゃんを倒すのに大活躍だったクリスタル●ンダムだ。しかしあの時とは違い、飛行機能と一流の剣闘士の体術を組み込んでいる。しかも最初からドリルモードだ、火花が散るぜぇ。クリスタル●ンダムの上に二人を乗せてセイレーンに向けて飛ばした。飛行能力もまずまずの出来だ。


 クリスタル●ンダムを叩き落とそうとクラーケンが触手で攻撃を仕掛けてきた。私は懐から魔法媒介である扇子を取り出し、闇魔法の中でも強力な拘束魔法を放つ。


 黒い鎖に繋がれたクラーケンたちは、もがきながらもクリスタル●ンダムを落とそうとするが、私も譲らない。同時に海に雷魔法を放ち、感電させる。



 私の援護の甲斐があってか、クリスタル●ンダムはセイレーンの元にたどり着き、サヴァリスはクリスタル●ンダムから降り立ち、氷魔法で足場を作る。そして直ぐにセイレーンへ切りかかる。しかしセイレーンは予め魔力障壁を展開していたのか、刃は届かない。


 そこにクリスタル●ンダムのドリル攻撃と勇樹の何だかよく判らない炎の攻撃魔法が炸裂する。物理攻撃と魔法攻撃により障壁にヒビが入る。そこにサヴァリスの創りだした氷の槍が突き刺さる。すると呆気なくセイレーンの障壁は砕けた。


 セイレーンは海水を纏い、反撃のチャンスを窺おうとするが、サヴァリスの強大な魔力によってそれすらセイレーンごと凍らせた。クリスタル●ンダムと勇樹は退避し、サヴァリスが笑顔でエクスカリバーを構え、美しい剣筋で凍ったセイレーンを切り付けた。そしてセイレーンは断末魔の叫び声を上げることもなく砕け散った。そしてサヴァリスの斬撃の余波により数百メートル離れた岸壁が吹き飛んだ。何それ怖い。私と勇樹は苦笑いだ。



 私はクラーケンの拘束を解除し、飛行魔法で一気に海に向かった。その間に神属性の上級魔法を展開する。サヴァリスたちがクラーケンを相手にしている間に10本の白銀の剣を構築する。そして全員が退避したところに剣を打ち込んだ。



 「今夜はイカ焼きだよ!!!!」



 クラーケンの脳天に剣を突き刺す――――すると二体のクラーケンは跡形もなく消滅した。



 うわぁぁああん忘れてた、この剣で刺すと消滅するんだったぁああ。イカが、イカがぁぁあああ。思わず涙が零れた。


 するとクリスタル●ンダムに乗った勇樹がポンッと肩を叩いた。



 <どんまい>


 「どんまいじゃないよ!私の海産物が……」


 「魔物を倒して下さったお礼に城でパーティーにしましょう」


 「ええっ、嫌だよお偉いさんたちと一緒のパーティーとか」


 「身内だけの小さなものにしますから、安心して下さい。カナデ」


 <それって俺もいいのか!?>


 「もちろんです。今回の功労者ですから」


 <よっしゃー!!異世界の高級料理だぜ>


 「だから元気出してください」



 エクスカリバーを鞘に納めたサヴァリスは私を宥めるように頭を撫でた。サヴァリス自体は気遣いの出来る大人だよね……戦闘狂だけど。海産物は残念だったけど、気分を切り替えるか。高級料理楽しみ~♪



 私たちが城に帰って魔物の事を報告すると、凄い驚かれた。そりゃそうだよね、海産物が消えたんだから。あと服装の事も色々言われた。サヴァリスを見た侍女さんたちにはお礼を言われ、服飾を生業としている人にはしつこく聞かれた。型紙とか知らんわ!!



 パーティーは楽しかった。サヴァリスが言った通り、身内だけだったので気兼ねなく楽しめた。海産物は無かったけど、十分に美味しい料理。デザートも最高だったし。ただ終始、第五王子が不機嫌だったのがウザかった。文句があるなら食べるな!


 大人たちは夜通し酒を飲み、私はひたすらデザートを食べ続けた。ちなみに飲み比べではサヴァリスとロアナの圧勝。第五王子は最初に潰されてた。哀れなり。



 そんなこんなで夜は更けて、勇樹が元の世界に帰る日がやって来た。











 魔法局の勇樹が閉じ込められていた一室に私たちは集まった。勇樹の足元には送還用の魔法陣が書かれている。ちなみに勇者召喚の魔法陣だが、あれは破棄されることが決定されたそうな。自分たちの世界のことは自分たちで片づけるべきだよね。私の創りだした送還用の魔法陣も勇樹を送り出した後に破棄されることが決定している。



 「この魔法陣を捨ててしまうなんて魔法への冒涜だ!」


 「諦めなさいよ、サルバドール!」



 駄々をこねるサルバ先輩にロアナが平手を食らわせた。いつもの光景なので放っておく。サヴァリスと第五王子は何やら難しい話をしているようだ。チャンスは今しかないかな。


 私は認識阻害の魔法を周囲にかけて、勇樹に近づいた。



 <勇樹、餞別にあげるよ>



 手渡したのはペンダント型になった魔炎大蛇丸だ。刀としての機能は失われているけれど、異世界の思い出に持っていてくれたら嬉しい。



 <いいのか!?>


 <もちろん。だけど、皆には見つからないようにね>


 <了解>



 裕樹はポケットにペンダントを押し込んだ。



 <それと、コレを届けてくれるかな?>



 渡したのは数枚の手紙。そう、前世の家族や友人に向けてのだ。勇樹と接する内に勇樹が生きていた時代が私が死んだ時代とあまり変わらないと会話から察した。時間軸とか世界の理とかは判らない。銀行強盗に殺された私は、家族や友人にお別れの挨拶なんて出来なかった。この手紙は本来はあり得ない死者からの手紙。いくつもの偶然が重なった奇跡。私はこの奇跡に縋ろうと思う。



 <……判った、絶対に届ける。たぶんそれが俺がここに呼ばれた理由だと思うから……それに友達の頼みは断れないしな!>


 <ありがとう、勇樹>



 何時になく真剣な勇樹に私は微笑んだ。


 そして認識阻害の魔法を解く。



 「それじゃー、勇者様を送還するからね!」


 「歴史的瞬間だぞ!!」


 「落ち着きなさい、サルバドール!」


 「カナデ、失敗するな」


 「マティアス殿、カナデが失敗するはずないですよ」


 「か、カナデの何を知っているというのだ!」



 魔法陣に魔力をこめて、送還魔法を発動させる。


 魔法陣が金色に光り輝き、勇樹の姿が霞んでいく――――そして勇樹は元の世界に戻った。




 

 私は直ぐに魔法陣を消した。後ろでサルバ先輩が騒いでいるが、知ったことではない。


窓際に活けられた桜の枝に近づく。桜の枝は、勇樹と最初に会った時とは違い、開花していた。それを手に取り、私は金輪際喋らないであろう日本語で呟く。



 <さようなら……相原(あいはら)(かなで)



 私の呟きの意味はサヴァリス以外に知られる事は無かった――――











 無事に仕事を終えた私たちは空の国へ帰国することになった。見送りにはサヴァリスとサルバ先輩が来ていた。良かった、王様とか知らない貴族とかいなくて。帰りも転移魔法なので楽ちんだ。



 「皆さんのおかげで大きな混乱も起らず、助かりました。月の国を代表してお礼申し上げます」



 深々と頭を下げるサヴァリス。王族が頭を下げるということは、最上級の感謝の証だ。照れるやないかーい!ロアナと第五王子は面食らっているようだ。



 「こ、こちらこそ月の国と友好的な関係が築けて嬉しく思います」



 素早く立ち直った第五王子がサヴァリスにお礼を言った。


 サヴァリスは私の前に跪くと、私の手を取った。え、何事!?



 「カナデ、貴女には感謝してもしきれません。本当にありがとうございます」


 「お礼を言われる程ではありません、サヴァリス将軍」


 「 カ ナ デ 」


 

 笑顔で威圧してくるサヴァリス。怒っていらっしゃる!?魔物を対峙して城に戻ったら敬語になったから?仕方ないじゃん、大勢の前で王弟にタメ口とか不敬罪で死ねるから!!


 抵抗しようと思ったけど、サヴァリスの笑顔の威圧がマジ怖い。



 「別にお礼はいいよ、サヴァリス。私もお世話になったから……」


 「ふふっ、貴女に貰ったこの剣は大切にします。それと貴女と背中を合わせて戦った快感が忘れられません……カナデ、私と結婚して下さい」



 ……うん?何か不穏な言葉が聞こえたような。血痕、けっこん、ケッコン、結婚!?



 「なっ、どういう事だカナデ!」



 こっちが聞きたいわ、馬鹿王子!!



 「あらあら~」



 ロアナは近所のおばちゃんか!!


 

 「将軍とカナデが結婚すれば、研究し放題……よしカナデ、今すぐ結婚しろ!」



 サルバ先輩は黙っててよ!!



 「え、私は平民だし、王族なら政略結婚とか色々あるよね?私みたいな平凡な女と結婚なんて出来ないよ、無理無理」


 「15年前の戦争で得た武勲で私はマティアス殿と同じ婚姻の自由を掴み取ったので、心配はいりません。むしろカナデとの結婚なら、皆大歓迎でしょう」


 「え!?15年前って……」


 「サヴァリス殿下は、月の国王の実弟で37歳だ!!」



 第五王子の叫びに私は驚愕を露わにする。確かに王様に似ているとは思っていたけど、実弟!?異母兄弟じゃないのかよ!!



 「37!?どう見たって20代前半じゃん」


 「私は魔力が多いためか、20歳を過ぎてからあまり体が成長していないのです。だからこそ私はカナデに相応しいと思いますが。カナデは魔法使いですから、私と一緒でもうすぐ成長が緩やかになると思いますよ」



 何それ!?確かに御爺ちゃんも180歳オーバーの長寿だったけれど。つか本当に結婚、プロポーズな訳!?ドッキリじゃなくて!?でもこんな豪華面子の中でドッキリはしかけないよね?本当の意味でドッキリな国際問題になるしっ。


 サヴァリスの表情を見ると真剣そのものだった。



 「わ、私の何所が気に入ったの?」


 「容赦なく魔物に先制攻撃を仕掛けるところや的確な戦闘補助ができること、そして単体での強さでしょうか……」



 戦 闘 関 連 し か な い の か よ !


 まあ、私の平凡顔に惚れたって訳じゃないのは説得力があるけどさ、乙女心は複雑なんだよ。ロリコンって訳でもないんだろうけど……私にも理想の結婚相手というものがありまして!!



 「け、結婚相手は、私が好きになった普通な人って心に決めているので――」


 「つまり現在恋人はいないと」


 「え、そうだけど、そうじゃなくて――――」



 もう実力行使じゃ!私はサヴァリスの手を振り払い、即座に転移魔法を展開させる。逃げるが勝ちだよ!!


 転移する間際に『今度は私が会いに行きますね』と聞こえた気がしたが、気のせいだ。




 私は平凡に生きたいんだよーー!!!





 まさかのプロポーズEND。きっとカナデには変態を引き付けるフェロモンが出ているのでしょう。ちなみにサヴァリスの好きな女性のタイプは戦場で自分の背中を預けられる人。サヴァリスの戦闘力はカナデに匹敵します。まじコワ将軍。



それと本編にて「私たちが城に帰って魔物の事を報告すると、凄い驚かれた。そりゃそうだよね、海産物が消えたんだから」とありますが、当然海産物消失に驚いた訳じゃありません。セイレーン+クラーケン2体と言う上級の魔物たちと雑魚20体ぐらいを、軽いノリで倒して来たからです。カナデも大概……




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