その美しさは幻想
※下ネタ注意
もう一度言います。下ネタ注意です!!
そして主人公視点に戻ります。
御爺ちゃんが死んだ。
ちょうど1週間前のことだ。突然、御爺ちゃんが「明日、儂は死ぬから今日はパーティーじゃ!」と言い出した。それは冗談でも何でもなく、タナカさんとティッタお姉ちゃんとアイルは夜通し飲み明かし(私はジュースを飲んだ)、次の日の朝には、御爺ちゃんは冷たくなっていた。
それから3日間、私は泣きまくった。
だけど、元々2年以上前から御爺ちゃんは、もうすぐ死ぬと言っていた。だから、泣くのは3日で済んだ。別れを覚悟する時間は十分あったのだ。
御爺ちゃんは、この国――いや、この世界で知らぬ者がいないほどの有名人。御爺ちゃんの訃報を聞いたら、墓参りに来る人達が大勢いるだろう。そういった人達が来たら、お茶を出したりと、おもてなしをしなくてはならない。本当に、本当に面倒だけど、そういう事をちゃんとしないと馬鹿にされるのは御爺ちゃんだ。孫として、御爺ちゃんの顔に泥は塗れない。
という訳で、身内とも言えるタナカさんたちと葬儀を行った後、家に溢れかえる御爺ちゃんの遺品を片づけていた。
もちろん、タナカさんたちは人化している。アイルなんてデカすぎて家に入れないからね!当たり前の処置である。
「何このカッコいいポーズ集って……」
御爺ちゃんの書斎で見つけた、黒皮の背表紙がついた本。難しそうな本だなーと思って開けたら、某あり得ないけど何かカッコいい立ち姿のようなポーズ絵がたくさん書いてあった。
「あら、懐かしいわ。昔のポルネリウスは情熱的で、ここにあるポーズを取って、わたくしに愛を囁いてきたのよ。……バカで可愛いくて、うっかりときめいたわねー」
えっ何それ!? ポーズ決めながら愛を囁くって馬鹿じゃない?アホじゃない? 完全に黒歴史でしょ、コレ。
……というか、聞き捨てならない言葉を聞いた気がするんですけど!
「ねえ、ティッタお姉ちゃん。愛を囁くって……御爺ちゃんとティッタお姉ちゃんって、その……」
「愛し合っていたわ。結ばれることは無かったけれど」
そう言って遠くを見つめるティッタお姉ちゃんは、外見年齢10代前半でありながら、女の顔をしていた。
御爺ちゃんとティッタお姉ちゃんが、そういうアダルトな関係だったなんて知らなかったよ!!
「全然気づかなかったよ」
「まぁ! アイルでも気づいたのに、カナデちゃんは鈍感ね。そんな事では、いい男は捕まえられないわ」
「に、鈍くないもん! それに将来は、普通な人と普通な家庭を築く……予定だしっ!」
身の程を弁えて、高望みはしない。一般人と結婚することこそ、私の夢だ!!
前世では、彼氏すらいなかったし……今世こそは……必ずや、リア充になってみせる!!
「無理だろ、普通に考えて」
「カナデに結婚は、早すぎますよ」
私の言葉を否定したのは、アイルとタナカさんだった。
タナカさんは良いとして、アイル、テメェはダメだ!
「頭空っぽで気遣いのできない、非モテ竜のくせに……」
「よく分からねーが、今、俺のことバカにしただろう!?」
まるで、小学生男子のようなオツムの水竜(数百歳)を睨みつける。
「馬鹿にしましたけどぉー?」
「いい加減、カナデとはどちらが上かハッキリさせるべきだな……!」
「これだから馬鹿は嫌だよ。アンタが破壊した物を元に戻すのは私なんだよ? 水やりしかできない、ニート竜を卒業しない限り、アイルの地位はこの家の底辺。そこのところ、良く考えてよね!」
「ぐぬぬ……」
ふっふ、口では女子には叶わないのさ!
悔しそうに顔を歪めるアイルを見て自身の勝利を確信した私は、片づけに戻る。
御爺ちゃん、少しは片づけてから逝って欲しかったよ。
生前整理、終活、これ大事!!
「ん? またポーズ集?」
今度は、茶皮の高そうな本を見つけた。辞書なみに分厚い。
私は、嬉々とした表情で本を開く。
他人の黒歴史は、蜜の味~♪
「ポエム集だったりし――うわぁっ」
本を開くと、そこには女性の……その、何だ。裸体が書かれた本だった。つまりは、えっちぃ本である。言わせんな、恥ずかしいっ!
異世界のえっちぃ本に好奇心は抑えられず、私はページを捲る。
「み、見事に巨乳でお色気ムンムンの女の人ばかり……」
世間に対して声を大にして言いたい。女の価値は胸じゃないと思うんだ!!
「ふーん。ポルネリウス、こんなの隠し持っていたんだ……。へえ……」
いつの間にか、本を覗き込んでいたティッタお姉ちゃんの背後にブリザードが吹き荒れる幻が見えた。
「ティッタお姉ちゃん、これは絵だから絵!! きっと御爺ちゃんは胸じゃなくて、尻派だったんだよ。大丈夫、ティッタお姉ちゃんは華奢で素敵だよ!!」
胸が揉めないなら、尻を揉めばいいじゃない!!とばかりに、私はティッタお姉ちゃんを褒めちぎった。
ちなみに私も他人事ではない。前世では貧に――ではなく、小ぶりで可愛らしい胸の持ち主だった。
でも、きっと今世は、大きくなってみせる!!まだ私は6歳。希望はある。ありまくりだよ!!
今ほど、前世の記憶持ちであることを感謝したことはない。
前世で蓄えたバストアップ知識が火を噴くよ!!これぞまさに転生チート!!
「あら、ありがとうカナデちゃん。それにしてもこの絵……こんなに胸が大きいのに、ウエストが細すぎない? あり得ないわ」
「あっ、私も思った。胸かウエスト、どっちかを犠牲にしなきゃいけないのにね。夢見過ぎだよねー」
「絶対に作者は男だわ。それも、夢見がちな!」
「こんな女の人は存在しないよね! 幻想だよ、げ・ん・そ・う」
えっちぃ本でガールズトークをする私たちの元に、アイルがやって来た。
「何、サボってんだよ。ナッサンに怒られても知らねーぞ」
「丁度よかったわ、アイル。これを見てどう思う」
ティッタお姉ちゃんは、一応は若い雄であるアイルにえっちぃ本を見せた。
何と言うか、チャレンジャーだよね。ティッタお姉ちゃん。
アイルは、じっとえっちぃ本を見て酷くどうでも良さそうな顔をした。
もしやお主、貧乳派か!!
「興味ないな」
「え? もしかしてアイルってその歳でE――じゃなくて、女の子に興味ないの?」
危うく幼女として言ってはならない単語を言いそうになった。危なかったぜ……。
「そもそも、人族の女は趣味じゃない。それよりもカナデ、片づけが終わったら戦おうぜ!!」
「バトル脳かよ!!」
ダメだ、コイツの中身は小学生男子だった……。
私が呆れていると、肩をトントンと叩かれた。
振り返ると、笑顔の――だけど怒っているタナカさんがいた。
「カナデ、手に持っているそれは何です?」
「これはえっと……ティッタお姉ち――」
ティッタお姉ちゃん助けてと言おうとしたが、ティッタお姉ちゃんは既にこの場から消えていた。ついでにアイルも……。
に、逃げ足速すぎぃぃいいいいい。
「カナデ、お説教です」
「……はい」
「――ですから、慎みを持つことは大切な事です。ティッタにも言えることですが……」
もう、かれこれ1時間はタナカさんのお説教は続いている。
えっちぃ本を見てお説教される幼女(精神年齢○歳)とか、どんなだよ。存在が恥ずかしすぎる。もう解放して……。
「た、タナカさん。私、すごーく反省したよ。やっぱり人間、慎みが大事だよね! うん。タナカさんの言う通り!!」
「はぁ……。今日のところは、ここまでにしましょう。私も叱りすぎました」
お腹すいたでしょうと、タナカさんが私に飴をくれた。
「わーい。ありがとー!!」
私ってチョロすぎぃ。でもお菓子には逆らえない!!
口の中に広がる甘さに自然と頬が緩んだ。
「カナデは本当にお菓子が好きですね」
「うん。大好き」
ふと、タナカさんが悲しそうな表情を見せた。
不思議に思い、首を傾げると、タナカさんは私の頭を優しく撫でた。
「カナデは……ポルネリウスが死んで悲しくありませんか?」
「……悲しいよ。だけど、たくさん楽しいことも御爺ちゃんは教えてくれたから大丈夫」
「そうですか」
タナカさんは、御爺ちゃんと本当に親しかった。
それならばと、私が疑問に思っていることを聞いてみた。
「ねえ、タナカさん。自分で死を選ぶってどんな気持ちなのかな。御爺ちゃんから聞いていない?」
私にとって死は恐怖でしかない。冷たくて痛くて悲しい、二度と経験したくないことだ。それなのに御爺ちゃんは、自ら死を選んだ。
御爺ちゃんの死に顔は、まるでこの世に後悔がないかのような穏やかな表情をしていた。
こんな死も存在するのかと、私は困惑したのだ。
タナカさんは困った顔をしながら、私の質問に答えてくれた。
「聞いていませんし、私にも分かりません。ですが、ポルネリウスのように死を自ら選んだ者たちを、私は幾人も知っています。死に安らぎを感じる者もいるんですよ」
そう言って、タナカさんは私を抱きしめた。
きっとタナカさんは、たくさんの死を見て来たんだ。
そしてその事に慣れていない。
私は腕に力を入れて、タナカさんをぎゅっと抱きしめる。
「私は死なないよ。だって、絶対に死にたくないもん。生きるためなら何でもやっちゃう覚悟もできてるぐらいだし。だから、もしかしたら……タナカさんよりも長生きするかもね」
私も御爺ちゃんのように、自ら死にたいと思う時が来るのだろうか。
……たぶん、それは私が私である限りないな。
「ふふ。では、私が死ぬ時はカナデが看取って下さいね?」
「うん。でも、御爺ちゃんみたいに自分から死を選ばないでね。残されるのは、やっぱり寂しい」
「ティッタとアイルと私たち、皆で長生きしましょう」
「約束だからね!」
「ええ、約束です」
私の肩に顔を埋めるタナカさんは、泣いていた。
ああ、やっぱり……死は冷たくて痛くて悲しい。
美しくなんてない。
これにて、孫編は終了となります。
今回はR15タグが活躍しました。
そしてサブタイが某病みのカードゲームアニメのようになってしまった…。
さて、次回からは新章に入ります。
久しぶりに時間軸が先に進み、真勇者編の先のお話になります。
細かいプロットの方が出来ていないので、お待たせするかもしれません。
では、次回を気長にお待ちくださいませ!




