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兄弟の対話


王太子視点です





 ――バンッ



 執務室の扉がノックも無しに無遠慮に開け放たれた。

 そして憤怒の形相の一番下の弟、マティアスが現れた。



 「兄上、これはどういう事ですか!」



 マティアスが握りしめた手紙に気づきつつも、僕は何食わぬ顔で返答する。



 「どういう事って?」


 「カナデが兄上の部下になったと言う事です! カナデは元々俺の部下です。それなのに俺の許可もなしに……」


 「許可なら陛下に取ったよ。意味は……判るよね?」


 「うっ……ですが、カナデが行方不明になってから、この手紙が来るまで時間がかかり過ぎです!」


 「そりゃもう、時間がかかるように届けたからね」



 カナデの居場所が判れば、真っ先にマティアスは王宮に来たに違いない。それで粛清の邪魔になるかもしれないのだから、当然の処置だ。何より……マティアスが粛清に巻き込まれれば、陛下が出張って来て面倒な事になっていただろう。



 「王宮内の事は……聞きました。もう兄上にカナデが協力する事はないはずです、返して下さい!」


 「君は本当にカナデが好きだね」


 「そ、そんな事は!!」



 先程までとは違う意味で顔を赤くするマティアス。

 なんて判りやすいのだろう……本当に王族なのかい?



 「カナデの何所が好きなんだい?」



 僕は意地悪に質問を続けた。


 マティアスがカナデの何所が好きだなんて、判り切っている。『強い所』だ。マティアスは母親が後宮内の争いで精神的に参っていた事や毒殺された事がトラウマになっている。本人が理解しているかは別だが。故にマティアスは、強い女性が……カナデが好きなんだろう。

 

 カナデは、この世界でも最強の部類だ。つまり、マティアスにとってカナデ以上の理想の相手を探す事は難しい。だからこそ、苦手であろう僕の所に直談判するほどにカナデにこだわっている。


 ……なんて、イジメがいがあるのだろう。


 

 「べ、別に好きなど……」


 「ふーん。じゃあ嫌いなんだ?」


 「嫌いでは……」


 「そう? あっ、カナデを返す事はできないよ? もう陛下から了承は得ている」


 「それなら、カナデに会わせて下さい!」


 「無理だよ。昨日からカナデは長期休暇に入っている。しかも行方不明だ」



 何か平べったい魔道具に乗って何処かへ向かったという目撃情報はあるが、行方は誰も知らなかった。



 「ですが……」


 「マティアス。王家の権力で囲い込める女性と違い、カナデは自由だ。自分の気持ちを押し付けるだけではなく、カナデの気持ちも考えなさい。カナデは強い。だからこそ誰の力も必要ないし縛られない。そんな彼女の特別になりたいのであれば、どうすればいいのかを考えなさい」


 「兄上……」



 マティアスは……いや、僕もだが愛すると言う事がどういう事なのか知らない。母たちは醜い争いに夢中で、僕らの事なんて眼中になかった。父上もマティアスは愛しているようだが、その愛情も本人には伝わっていないようだ。



 「他の誰かにカナデを掻っ攫われるかもね、あははっは」


 「さらわ……」



 何を想像したのか、一気に顔を青ざめるマティアス。

 ああ、なんて面白い。苛めがいがある弟なんだ!


 一頻り笑った後、僕は真剣な顔になり、マティアスに一枚の紙を渡す。

 マティアスもまた、僕の雰囲気が変わった事を察知し、居住まいを正した。



 「父上から任命状を預かっている。騎士団総長に第五王子マティアスを任命する……だそうだ」


 「謹んでお受けいたします」


 「それと、彼の事だけど……」


 「第二王子が……毒を飲んだ事ですか。俺はあまりあの人を知りません。疎まれていましたから。だから、あの人が死んだと言っても特に何も感じません」



 第二王子は、予定を早められて粛清の混乱の中で毒殺された。表向きは病死だ。



 「そう……」


 「兄上、俺は王になるつもりなど微塵もありません。身内での争いは辛いだけだ……」


 「それは良かった。僕も腹違いとはいえ、兄弟を手にかけるのは嫌だからね」


 「俺は兄上を支えます」



 昔は我が儘で生意気だったのに……少しは成長したのかな。


 第三王子と第四王子からも、マティアスと同じ言葉を貰った。周りがどうであれ、これでもう兄弟同士の争いが起る事はないだろう。


 だけど、出来る事なら5人で国を守りたかったかな……。



 「よろしく頼むよ。それでマティアス、カナデにいつ愛の告白をするんだい?」


 「あ、兄上!!」


 「あはは」



 あまり近づけさせるとカナデが逃亡しそうだけど、適度なら……いい暇つぶしになるかな。


 さて、カナデが僕の義妹になるのか、部下のままなのか、それとも別の関係になるのか。娯楽として観さ――いやいや、第三者が他人の恋愛ごとに首を突っ込むと碌な事にならないから、見守る事にするよ。


 でも今は……関係性が変わって他人になるって言う線が濃厚だよね。









今日は短めのお話でした。

これにて、後宮編は終了となります。


本来なら時間軸を飛ばすところですが、今回はこのまま続けようと思います。

という事で、次からは新章『魔族領旅行編』となります。

後宮編と巨人島編の間のお話です。

仕事ではなく休暇なので、のんびりとした話に……なりそうもありません(笑)


ではでは、次回をお待ちくださいませ!



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