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女魔法使いは後宮に入りました 1

 国王陛下との深夜にまで及ぶ攻防の末にどうにかもぎ取った領主相談役という新たな仕事場。エリート色である宮廷魔術師から、窓際族に左遷と言う名の栄転をした私。


 そう栄転だ、栄転。


 それなのに……これはどういう事だよぉぉおおおおお。



 週3日出勤なのに週6で仕事に出ているのだ。

 それがもう2か月も続いている。



 話と全然ちがうじゃねーか!!

 週3出勤、副業OK……週6出勤じゃ副業もできねーよ!!


 それもこれも奴が……第五王子が領主(仮)になったからだ。(仮)って何だよ、真面目にやれよ!!上司命令により週3出勤から週6出勤になった。おかげでやってみたかった転生者らしい事……料理革命とかが出来ない。まあ、良く考えれば学生時代はロアナにお世話になりっぱなしだったし、前世でも料理は家庭科の調理実習レベルだから料理革命は無理なんだけどね。


 そして何より、第五王子と言う学生時代から苦手な奴と毎日のように顔を合わせなきゃならない事だ。精神的ストレスが半端ないよ!



 「ふっぎゃぁぁああああ、せめて給料倍にしないと割に合わないよ!!」



 突然叫びだし髪を掻き毟る私に職場(地方領主城)に居た使用人たちがギョッとした顔振り返ったが、そんな事は知らん。だって、給料はたったの1.2倍だよ。


 しかも第五王子の付き添いでパーティー行ったり……貴族のお嬢様方の嫌味攻撃を笑って受け流したり、大変なんだから!ちなみにドレスはお断りして仕事用のスーツで参加している。だって貴族たちの間では同じドレスを何度も着ると貧乏人扱いされるらしいのだ。ロアナが言っていたのだから間違いない。だからドレスを着るなら必然的に何着も買わなくてはならない。しかもそれに合わせた装飾品もだ。つまりはいくらお金があっても足りないのである。私からしたら、ムダ金もいいところ。



 貴族との人脈も……むしろ関わり合うのさえ嫌な私にとっては、割に合わなさすぎなのである。



 鬼気迫る形相で廊下を歩いていると、後ろからストレスの元凶(第五王子)の声がした。



 「おい、カナデ。来週ハネス伯爵家のパーティーに参加する。お前も用意――――」


 「知るか、ボケナスーーーーー!!!」



 ついにストレスゲージは限界突破した。


 もう上司に労働環境の改善を要求しよう……直属の上司はコイツだった!!こんな時どうすればいいの?こんな左遷先じゃ相談できる人もいない。前世ならネットがあったのに。



 「誰がボケナスだ!上司に向かって――」


 「そうだ、困った時の知恵袋!!」


 「俺の話を聞けー!!」



 今の私の状況を相談する相手はいない。だけど……こういった仕事の相談は前世の某知恵袋サイトでは珍しい事ではなかった。斯く言う私も暇つぶし程度に読んだことがある。社会人にはなりたくねーって言う感想しか持たなかったけどね!


 某知恵袋サイトでは仕事の悩みは上司に相談しろとよく回答されていた。でも私の場合は元凶が上司である。それならば……その上の役職の者に訴えるしかない。第五王子の上……国王だな。よし行こう、今すぐ行こう!!



 「殿下、そろそろ終業時刻なので失礼いたします。それと明日は此方には来れませんので、急なお仕事は無理です。絶対に無理ですからね!私は居ませんから、家に来たりしないで下さいよ」



 休日に今住んでいる借家に来る時があるんだよね。休日にまで上司に会うとか、どんな拷問よ?



 「カナデ、来週の――」


 「では、予定がありますので!」



 転移魔法を即座に展開し、第五王子の元を素早く去る。奴にこの直談判計画を知られる訳にはいかない。即時実行さ!





 「王都へ到着!いざ行かん、王城へ!!」



 王宮に顔パスで入り、真っ先に外務局へ向かった。そう、ロアナの職場だ。今ならまだいるだろうし、今夜は寮室に泊めて貰おう。そして本命の国王への面会許可申請をしないとね!職場の移動をさせてもらえないなら……今度こそ辞職か。バックれるのは最後の策だね……直属の上司が王族だからね。国外追放とか指名手配とかになったら空の国のお菓子が気軽に食べられなくなるし。由々しき問題だ!!



 おっと、考え事をしていたら外務局に着いた。

 ドアをノックして、外務局に入室するとそこはいつも通りの忙しさだった。

 皆様お疲れ様です。



 「すみませーん、ロアナ・キャンベルさんいますかー?」


 

 大きな声で尋ねると、奥の部屋からロアナが出てきた。書類をいっぱい持っていて大変そうだ。そして書類の上に乗る2つの塊がうらやまけしから――違う、アレはただの脂肪だ。羨ましくなんかない。本当に羨ましくなんかないんだからね!



 「カナデ!? どうしたの、今はアナレス地方で領主相談役やっているはずでしょう?」


 「今日の仕事は終わらせて来た。後……今日はロアナの部屋に泊まらせてもらってもいい?夕飯奢るからさ」


 「それは大歓迎だけど……何かあったの?」


 「職場の事で陛下にお話しがあってね。忙しそうなところに申し訳ないんだけど、面会許可申請出してくれる? ダメなら……最終手段に出るしかないかなぁ」


 

 室内の喧騒がピタリと止んだ。どうしたんだろう?何かあったのかな。



 「カナデ。ちなみに最終手段って?」


 「あれ、言葉に出てた? 最終手段は秘密だよ。出来ればやりたくないんだけどね……心の安寧の為なら、多少の不自由は我慢しようと思っている。この国以外にも(お菓子屋さんが)あるしね」


 「緊急配備! コードブラック、コードブラック発令!!」


 「「「了解です、大臣!!」」」


 「うわぁっ、ビックリした……いきなりどうしたの?」


 「あっあぁ~、ちょっとね、緊急事態が起きたのよ。カナデが気にすることはないわ。ええっと……あっ運がいいわね、カナデ。丁度陛下との面会が空いているみたいだわ。本当に運がいい、運がいいわ」


 「えっ本当!? 私より優先するべき人がいるんじゃない?」


 「そんな事気にしなくていいのよ、カナデ。準備ができ次第、侍女が迎えに来るわ。そうだ、お菓子があるわ。一緒に食べましょうか」


 「ロアナ仕事中でしょ?」


 「いいのよ、休憩中だったの!」


 「いや、書類運んでいたじゃん」


 「細かい事はいいのよ。さっお菓子でも食べましょ」



 ロアナがチラチラと他の人達の顔を見ながらお菓子を差し出してきた。もしかして職場で上手くいっていないとか?元々ロアナは財務局志望だったもんね。後で仕事の愚痴でも聞いてあげようかな。



 「……これはマイマイ堂のマドレーヌ!!」


 「食べただけで店を当てるなんて流石ね……」


 「ふふんふん! もっと褒めてくれていいのよ」


 「誰が褒めるか!!」


 「いたたたっ」



 ロアナさん、こめかみをグリグリするのだけは止めて!ホントマジで痛いから!!











 「陛下は私を週3残業なしの領主相談役に左遷してやると仰いました。それが今や週6出勤、残業ありです。しかも、パーティーの同伴と言う職務範囲外の仕事まで行っています。これはどういう事ですか?魔王討伐の褒美とは何だったのですか?嘘ですか?」



 国王と面会を取り付けた私は、挨拶もそこそこに国王を問い詰めた。王族に不敬な態度じゃないかって?はっ、労働者とは常に弱い立場。労働組合もないこの世界で雇用主に異議申し立てをするんだ、命がけに決まっているよ!


 国王はうるうるとした涙目でコッチを見て来る。オッサンチワワとか誰得やねん。国王は相変らずギャルゲーヒロインのような仕草をする中年だった。



 「ぐぬぬ……し、しかし給料は上がったのであろう?」


 「ふざけた事言わないで下さい。本来の仕事の2倍以上の仕事を行って1.2倍の給料だなんて誰が納得しますか? 挙句休日に上司が家に来るんですよ。何で私的な時間まで仕事をしなくてはならないんですか? 精神的に参っているんです。もう嫌です、職場を変えて下さい。もしくは上司を変えて下さい。それがダメなら辞めます。むしろ辞める方向でお願いします」


 「……カナデ、其方はマティアスの事をどう思っているんだ?」


 「どうって……元同級生、元パーティーメンバー、現上司ですけど」


 「見事に他人だな……」


 「何当たり前な事を言っているんですか? 王族と平民ですよ? 殿下に個人的な感情を抱くことはありません」



 すべてはアイツのせいだ第五王子。虐められた恨みは忘れん……って今もある意味職場で虐められているんじゃない、私。そうだよ、パワハラだよ!!くっそう、前世だったら証拠集めて訴えて、そして勝てたのに!!おのれ、第五王子……若ハゲになれ。


 心の中で呪詛を唱えていると、国王がカタカタと震えだした。


 寒いのかな。それとも既に老人特有のプルプルが……王の仕事って大変そうだもんね。老けるの早そう。だけど私は断固戦うよ!最適な労働環境のために、そして私の心の平和のために!



 「か、カナデもう少しマティアスの気持ちを考えてやっても……」


 「いじめっ子の気持ちなん――失礼しました。高貴な方のお気持ちなど私如きには測りかねます」


 「だが――」


 「陛下。色々面倒なんで辞める方向でお願いします。その方がスッパリと終わってお互い楽かと」



 王の言葉に割り込むなんて不敬罪も良い所だ。もういっそ不敬罪でいいから、仕事辞めさせてーな。こりゃ私、相当精神的に参っているんだな。



 「全然楽じゃないぞ! 判った、職場を変えよう」


 「いや、お気遣いなく。思い起こせば、陛下から拝命した仕事に碌な物が無かったと思いまして。宮廷魔術師しかり、魔王討伐しかり。もう陛下の下で働きたくありません」



 正直言って信用ならないんだよね、このオッサン。たぶん王様じゃ末端の労働環境なんて把握できていないんだと思うんだけど。



 「だったら僕の下で働いて見ないかい? 黒の女魔法使い、カナデ殿」



 後ろを振り向くと、会話に割り込んできた男がいた。金髪碧眼――空の国の王族の特徴だ。つまりは王子?確か王子は5人いるはず。第五王子を除いたら後4人……多すぎっ。魔王討伐後の謁見に王族はいたはずだけど……正直言って入場した時は下向くのがマナーだったし、興味もなかったから判んないよ!


 王族は雲の上の存在というか、身近な存在じゃないし。王宮が元職場とは言え、すっごい広いし!それに王族はセキュリティーが厳しい場所にいるから会える可能性なんてほぼ皆無だし。


 つまりは……この王子何番目だよ!!

 名前呼ばれたって事は会話しなきゃいけないよね?ただの殿下呼びでいいのかな……もう気分は知らない人に声かけられたと思ったら知り合いだった、でもこの人誰だっけ状態だよ!長いな。



 「エドガーか。面会中だぞ」


 「すみません、陛下。それでお返事はもらえないのかい?」



 国王ナイスアシストって思ったけど、そうでもなかったぁぁあああ。何番目なの?見た目は20代前半だから3番目ぐらい? そもそも第一王子の年齢知らねー!!思っていたけど、私、自国の王族の事知らなすぎじゃない? 王都にあるお菓子屋さんを創業順に言えって言われたら完璧に言える自信があるのにぃぃいいい。 



 「……そ、それはどういう事でしょうか。で、殿下」


 「僕の元で働いて欲しいんだ。丁度、女手が欲しい所だったからね。そうだ……僕が与えた仕事をやり遂げたら、1カ月の休暇をあげるよ。いいですよね、陛下」


 「か、かまわん……他国に取られるよりは……」



 なぬ!?一か月の休暇……幻のリフレッシュ休暇なのでは。どうしよう、魅力的な御誘いだ……。



 「ちなみに休暇は有給、労働時間は8時間残業なし。給料は今よりちょっとだけ上乗せ……どうかな?」


 「やります! ぜひ、やらせて下さいませ」


 「決まりだね。そう言う訳で、カナデは僕が預かります。陛下、マティアスが可愛いのは判りますが、それを他人に押し付けるのはどうかと思いますよ」


 「お前は昔から可愛げがないな」


 「それは申し訳ありません。親に可愛がられた事などないもので」



 ニコニコと笑顔で話すエドガー殿下。何だろう、そこはかとなく腹黒臭がする。えっ、もしかして選択肢間違えた?



 「では行こうか、カナデ」


 「は、はいっ。了解であります!」



 このひとには逆らってはいけない。そう私の第六感が告げている!!



 そのまま私は、エドガー殿下と共に部屋から退出した。


 結局エドガー殿下って何番目の王子なの!?










 「ここがカナデの主な職場になる場所だよ」


 「そ、そうですか……」



 見られてるぅぅううう。めっちゃ見られてるよぉぉぉおおお。


 エドガー殿下に連れられて来たのは、王宮の奥にある部屋だった。本棚とか高そうな応接セットと机が置かれているし、執務室だと思う。まあ、それはいいんだ。ただ入室した途端、中にいた強面の男性からの射抜くような視線にさらされているのだ。マジ怖いよ、悪人面だよぉぉ。



 「ユベール……カナデが脅えているよ。睨むのは止めなさい」


 「元々の顔ですが?」



 性質が悪いなっ。



 「そう? じゃあ、しょうがないね」


 「ところでエドガー様。どこで拾って来たんですか……」



 呆れたような視線でユベールさん?に見られた。

 私は犬猫かよ。



 「父上が対処に困っていたから、僕が貰ったんだよ」


 「はぁ……そうですか……」


 「カナデ。この仏頂面の男はユベール・オーランシュ宰相補佐。ちなみに爵位は公爵だよ」


 「ユベール・オーランシュ宰相補佐です。真面目に仕事をするのなら歓迎します」


 「よろしくお願いします……」



 宰相補佐!?公爵!?貴族の中の超エリートじゃないですか!

 と言う事はエドガー殿下は……。



 「そして僕はエドガー王太子だよ。君の予想は当たったかな、カナデ?」



 私が王子の事知らなかったのバレてるぅぅうううう。



 「本当にすみませんでした!!」



 此ればっかりは平民だとか関係ない。

 自国の王族を把握していないとか、完璧に私が悪いよ。



 「いいよ、僕は気にしてないし。何よりカナデが悪いと思ってくれているならそれが一番だからね」



 おい、サラッと腹黒発言すんな!!

 もうあれだよ、完全に優位に立たれたよ。

 怖いよ……本当にあの第五王子の兄なの?



 「それでカナデ、君にやってもらいたい仕事があるのだけど……」


 「はい。何なりとお申し付けください、王太子殿下……」



 もうどうにでもなーれ。


 私のヤケクソ発言に満足したのか、王太子はそれはそれは爽やかなで真っ黒な笑顔を浮かべたかと思うと、とんでもない爆弾を投下していった。



 「それじゃ、遠慮なく。カナデ、僕の後宮に入ってくれるかな」



 えっと……どういうこと!?






後宮編本格スタートです。

でもまだ後宮に入れていません(笑)



第五王子が領主(仮)をしているのは、王様がカナデと第五王子をくっ付けようとしている策略。元々第五王子は空の国最強の剣の使い手なので、王は領主にするつもりなどありません。故に(仮)。

 

 そして第五王子がカナデをパーティーに一緒に出席させるのは、自分とカナデが親しい仲だと周囲に認識させるための策略――だったが、カナデがドレスの一切を拒みあくまで仕事という体を崩さない為、中々うまく行かない。そしてカナデはパーティーに行くことに辟易しているという最悪なパターン。だがそれには気づかない。

王様と第五王子は似た者親子です。割と悪い意味で。だからこそ国王の寵姫だった側妃は殺され、マティアスはカナデに嫌われてしまう……ってコメディーにつける設定じゃないですね。最近はコメディージャンルを変えようかと真剣に悩んでおります。



明日は登場人物や用語をまとめた物を投稿しようと思います。



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