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人外たちの祝勝会

 空の国王都の外れにその店はある。


 レストラン『コマドリ亭』

 新鮮な食材にこだわったお店で多種多様な種類の料理がある。この店の一番の特徴は完全個室制と言う事で、客の情報を他者へ漏らすことのない徹底的な情報管理をしている。貴族や政治家、はたまた不倫中の異性の逢瀬など色々な事に利用される。また、料理の味も一級品なので普通の客も来る。


 時刻は完全に闇が広がった頃。

 活気のあるこの店に1人の少女が現れる。



 「いらっしゃいませ」


 「こんばんは、店長さん」



 黒髪黒目の女魔法使い。この国で知らないものはいないだろう。3週間前に魔王を討伐した英雄の1人だ。しかし少女はそんな事はどうでもいいのか、魔王が現れる前と同じ態度で店長である男に接していた。また店長も権力者やいわくつきの者が多く訪れる店なので、驚いた様子もない。



 「皆様すでにお揃いですよ」


 「私が一番最後ですか……出来上がっていないといいけど」



 店長は女魔法使いを店の最奥にある部屋へと案内をする。


 そこには既に3体の男女が女魔法使いを待ち構えていた――――











 店長さんに案内された部屋に入ると、中には私の兄のような者たちがいた。



 「ごめん遅くなったー」


 「おっせーよ、バカナデ!」


 「はぁ!? 黙れアホイル、こちとら忙しいんじゃ。ニートのお前と違ってな!!」



 個室に入って一番に話しかけてきた男を私は睨みつける。男の歳は20後半に見え、絵具をぶちまけたような真っ青な刈り上げた髪に鋭い紺色の瞳をした野性味溢れる美丈夫だ。しかしこの男……人間ではない。本性は竜だ。爬虫類だぜ、ぷぷぷっ。



 「おい、何か変な事考えてるだろ……?」


 「考えてますけどー?」


 「上等だ、コラ」


 「はいはい。カナデもアイルもそこまでにしなさい」



 火花を散らしていた私たちの間に入ったのは、イケユニコーンのタナカさんである。タナカさんもいつもと違い、人化仕様。外見年齢30前半で、銀の長髪に金の瞳の麗しい紳士だ。タナカさん素敵!ユニコーンじゃなかったら惚れてたよ!



 「チッ」


 「ごめんなさい、タナカさん。ティッタお姉ちゃんも」


 「カナデちゃんが魔王討伐に出かけたと聞いてから心配だったんだから。怪我もなく元気そうで良かったわ」


 

 そう言って微笑んだティッタお姉ちゃん。ちなみにティッタお姉ちゃんも例にもれず人間ではない。妖精族だ。今は人化してパステルグリーンの髪にオレンジの瞳の10代前半の儚い美少女って感じだ。性格は全然儚くないんだけどね。



 「うん。心配かけてごめんね。タナカさんもショコラありがとう。とっても美味しかったし、元気づけられた」


 「礼などいいんだよ。頑張っているカナデにあげたご褒美なんだから」



 タナカさんマジ紳士!!あの時タナカさんが来てくれなかったら……私はストレスで胃に穴が開いていたに違いない。そして心的疲労で精神病に罹っていたかもしれない……割とマジで。



 「カナデなら魔王程度相手にならないだろ」


 「敵は魔王だけじゃなかったんだよ!このお気楽駄竜が」


 「今何て言った……?」


 「お気楽ニートのアホ駄竜って言ったのよー」


 「おい、さっきより増えてんぞ」


 「まあ、増やしたし?」


 「よしっ、表に出ろ。潰してやる、カナデ」


 「止めなさい、アイル。まったく、大人げない……お前の方が何百歳も年上だろうに」



 そう、タナカさんの言う通りアイルは何百年も生きる竜だ。そしてタナカさんも年を数えるのが面倒になるほどの生きているらしい。ティッタお姉ちゃんは……年齢の事を聞くと笑顔で威圧してくるから判らない。だけど、100年以上生きているのは確実だ。だってこの三人は御爺ちゃんが10代の頃からの友人だったからだ。御爺ちゃんが生きていた頃はよく皆でお茶を飲んだものだ……懐かしい。私にとって3人は偶に会える兄弟みたいな感じだ。人外だけど。



 「けっ。命拾いしたな、カナデ」


 「ソウデスネー」



 棒読みで言うとアイルは顔を顰めた。元々強面の顔が、ますます凶悪になった。裏社会の人間に見える。アイルは昔、タナカさんにケチョンケチョンにされたらしく、絶対に逆らわない。


 紳士的で強くて、しかもそれを驕らない……タナカさんがいい男過ぎてヤバイ。だけど、ユニコーン!



 「お子様アイルは放って置きましょう。今日の主役はカナデちゃん何だから!」


 「誰がお子様だ!このババ――」



 アイルがティッタお姉ちゃんに禁断の言葉を言おうとした瞬間、アイルの頬に赤い線が現れる……血だよ、血!おそらくティッタお姉ちゃんが放った風魔法の刃が当たったんだと思う。でもきっとアイルの自業自得だよ。ティッタお姉ちゃんに年齢に関する話題はタブーだと言うのに。そしてよりによってバから始まりアで終わる、女が言われたら一生根に持つ言葉を言おうとするなんて……私もフォローできないよ。


 「何か言ったかしら、アイル?」


 「ナニモイッテマセン」


 「そう? それならいいんだけど」


 「……カナデ、喉が渇いたでしょう。果実水ですよ」


 「あっありがとう、タナカさん!」


 「アイルとティッタもですよ。今日はカナデの魔王討伐記念の祝勝会です。乾杯しますよ」



 そう言って飲み物を渡すタナカさん。さっきまでの冷ややかな空気はどうにか消えた。さすがタナカさん、空気の読める紳士!!



 「では、カナデの無事と勝利を祝って、乾杯」


 「「「乾杯!!」」」



 コツンとグラスを当て合い、乾杯した。



 「おい、ジュースなんてしけた物飲みやがって」



 私以外は皆、お酒を飲んでいる。3人とも酒豪なんだよね。竜は判るけど、妖精と神獣が酒豪って……イメージ的に、アウトだよね。



 「いいんですよ。カナデにはお酒はまだ早いです」



 アイルの言葉に私ではなくタナカさんが答えた。



 「そうは言ってもカナデは確か成人してんだろ?」


 「うん、しているよ」


 「ダメです! カナデに何かあったらどうするんですか。責任取れるんですか、アイル。否、責任何て取らせませんからね!」


 「……俺が悪かったです」


 「明日転勤先に挨拶しに行かなきゃいけないから、お酒は飲まないよ」


 そう言いながらテーブルに並べられた料理をつまんだ。


 前世でお酒は20歳からだったからね。この世界は15歳成人とは言え、ちょっと抵抗感あるんだよ。



 「そうでしょう。日常生活に支障があってはいけませんからね」


 「ねえ、カナデちゃん。転勤ってどういう事なの?」


 「ああ、この間の謁見で王から転職をもぎ取ったんだ。田舎領地の領主補佐役って言う楽な仕事だよ!」


 「浮遊島には来ないのですね、カナデ」


 「ごめんね、タナカさん。王族に私がタナカさんと仲がいいってバレたから迷惑かけたくなくて。それに私はやっぱり普通の人間だからね。浮遊島に住むよりは街に住んだ方が過ごしやすいから」


 「そうね。カナデちゃんは普通だものね」


 「そうだな。普通に普通で普通過ぎるもんな」


 「そうそう、普通なのさ」


 「……カナデが良いなら無理にとは言いません。ですが、何かあったらいつでも駆け込んで来てくれていいですからね」


 「ありがとう、タナカさん」



 頼れるお兄ちゃんと優しい(年齢の話題に触れなければ)お姉ちゃんがいて私は幸せ者だなぁ……人外だけど。あっアイルは生意気な弟って感じだけどね!本人に言うとドラゴンブレス吹いてくるから言わないけどさ。






 楽しい時間はあっという間に過ぎ、時刻は日付が変わる少し前だ。

 3人はずいぶんと前に飲み比べを始めたが、未だ脱落者が出ていない。3人酒豪だからね、決着は着くのやら。


 さて、私は明日の事もあるしお暇しようかね。



 「私はそろそろ帰るね」


 「ああん、カナデちゃんもう帰っちゃうのぉ?」


 「ごめんね、ティッタお姉ちゃん。私のことは気にせず楽しんで」


 「もうっ。今度は二人でお買い物に行きましょう? カナデちゃんのドレスとか下着を買いたいわ」


 「暇が出来たらね……」



 ティッタお姉ちゃんの買い物は滅茶苦茶長い。それに独特のセンスをしている。幼女時代の私にクマパンツくれるぐらいのセンスだ。旧型スクール水着が大好きなタイプかもしれん。



 「カナデ、今度一緒にバトラル山脈に行こうぜ! あそこのサラマンダーが結構強いんだ。しかも群れせ襲ってくるんだぜ、群れで!!」


 「ああ、その内ね」



 このバトル脳が!と言う言葉は飲み込んだ。アイルは竜族の中では若い方らしく、まだまだ血気盛んなのだ……やれやれ、これだから男は。



 「夜も遅いですし、送ろうか?」


 「大丈夫だよ、タナカさん。店を出たら転移魔法使うし」


 「お店を出たらすぐに使うのですよ。知らない人に声をかけられてもついて行ってはいけません。そんな輩は神属性魔法で滅してしまいなさい」


 「私に声をかける人なんていないと思うけど? でも判った。変な人がいたら魔法で凍らせるよ」


 「そうね、それが普通の淑女の対応ね」


 「ああ、普通に普通で普通すぎる対応だ」




 さすがに神属性魔法を無暗に使う訳にはいかない。アイルとティッタお姉ちゃんが言う通り、氷漬けにするぐらいの対応が適切だよね。




 「3人共の飲みすぎちゃダメだよ。それじゃあ、またね~」


 「おう、またな」


 「カナデちゃん、元気でね」


 「カナデ、気を付けて」 



 個室を出た私は店長に声をかけ、3人(人外)のことを頼んだ。あの様子じゃ飲み比べが終わるのは閉店間際になるかもしれないし。嫌な客だと思われたくないしね。


 店を出ると、辺りは静まりかえっていた。


 王都とは言え外れだ。やはり中心地に比べると、夜は一部のお店以外は賑わいがない。



 「うーん、食べた食べた」



 背伸びをして、前世では見れなかった満天の星空を眺めつつ転移魔法を展開する。



 「明日は寮を引き払って、新しい職場に挨拶だ。がんばろぉ」












 カナデの去った後も人外たちの飲み会は続いていた。多種多様の酒瓶がテーブルに並んでいたが、その殆どはカラだった。だがしかし、人外たちは酔った様子はない。人間向けの酒では彼らを酔わすことは出来ないのだ。



 「あまりカナデをからかうんじゃありません」


 「だってぇ、カナデちゃんが自分の事普通だと思っているのがおかしくって」


 「だからバカナデなんだ。大体、俺らと親しい時点で普通じゃないだろうに。妖精女王にアクアドラゴン、神獣の長だぜ?」



 そう、彼らは人外だが、ただの人外ではなかった。ティッタは妖精族を束ねる女王だし、アイルはこの世界を構成する6体の魔素竜の中で水を司るアクアドラゴンだ。そしてタナカはこの世界の最強種とも言える13体の神獣の中で最古のユニコーンだ。


 女魔法使いカナデの兄たちは、とんでもないこの世界の強者だった。



 「仕方ありません。カナデの普通への執着は異常ですから」


 「その言い方だと何だか呪いみたいね」


 「実際それに近いと思いますよ、ティッタ。カナデには出会った頃から強力な術がかけられていますから。普通に執着するのもその一部だと私は考えています」


 「ナッサンが解けば万事解決なんじゃねーか」


 「……無理ですね」


 「わたくしでも見つけられない、そしてタナカでも解呪不可能の術なんて……いったい誰がかけたのかしら」


 「判りません。ですが長年見てきましたが、カナデの身体を蝕むような術ではないようです。それに解呪の方も、どうやら一定条件を満たせば解呪出来るようです。完全に解けないという訳ではありません」


 「まっ、カナデならどうにかしちまうんじゃねーの? アイツ明らかに人族の域超えているし」


 「そうね、加護持ち(・・・・)だったポルネリウスを超える勢いの――いえ、超えた実力だもの」


 「現状維持しか出来ません。ですが、カナデに何かあった時は必ず駆けつけます。それがポルネリウスとの約束であり、可愛い妹のためですから」


 「わたくしも妹の為になら一肌でも二肌でも脱いじゃうわ!」


 「ババアの裸なんて見たくな――」


 「死にたいようね、アイル」



 アイルの手にしていたグラスが木端微塵にはじけ飛んだ。



 「スミマセンデシタ」


 「ティッタ、店の物を壊すんじゃありません」


 「ごめんなさい。後でちゃんと弁償するわ……後で覚えておきなさい、馬鹿アイル」



 ティッタが幼い顔で妖艶に笑った。

 それを見たアイルは背筋が凍った。アイルはアクアドラゴンとはいえ、若輩者。昔――およそ2000年前は殺戮の狂戦士だった妖精女王には敵うはずがないのだ。ちなみにティッタはこの殺戮時代をあの頃はちょっとヤンチャしていたのよねと元ヤンだったの恥ずかしーと言ったノリで周囲に話している。勿論それを聞いた相手の顔が真っ青なのには気づかない。



 「さて、飲み比べを再開しますよ。店長に人間仕様ではないお酒を用意してもらっていますから……負けたら今日の飲み会代を全額払ってもらいます」


 「乗ったわ!」


 「竜の矜持に賭けて負けねぇ」



 こうして人外たちの飲み比べ第二ラウンドは開始された。


 その結果は、神獣と妖精がホクホクの笑顔で、竜がやつれた顔でコマドリ亭を出た事から察せられるだろう。





カナデと人外な兄弟たちでした。

時系列は謁見後と転勤後領主に会う前です。

今回は新章後宮編の前日弾です。次回からメインのお話に移ります。

カナデが普通だと思っているのは理由があるかも……しれない。

詳しくは今後の展開で。



感想についてなのですが、色々思う所がありまして、感想返信を再開します。やっぱり感想覧を開いているからには、時間を使って書いて下さった感想に返事を書くのが礼儀かと思いまして。

ただ返信の方は、今回の更新からとさせていただきます。

それ以前に感想を下さった皆様、申し訳ありません。



では、気長に次回をお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] タナカさんイケメン過ぎてカナデの男の基準爆上がりしてそうだなぁ。そして上がった基準をツンデレ(デレない)王子が下げる笑
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