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魔法少女は魔法武芸大会に出場しました 7

 団体戦のルールを説明しよう。


 

 ルールは簡単。戦闘員は5~10人までそれ以上でもそれ以下でもダメだ。そして勝敗は戦闘員を全員撃滅するか、相手陣地にあるフラッグを破壊するかだ。実にシンプルである。



 私たち黒組は、前衛に魔物狩りで接近戦に慣れている私と魔法陣のおかげで素早く魔法が行使できるサルバ先輩。後衛に威力の高い魔法が得意なサーリヤ&サーニャ先輩。そして一番後ろに我らが苦労性の司令塔でフラッグを守るロアナだ。


 バランス悪すぎなパーティーだ。


 対する白組は……あくまで予想だけど、前衛に個人戦で優勝したエリザベート会長と第五王子。後衛にガブリエラ先輩とベルナさん。バルミロ先輩は……情報不足で予想不可能だ。


 完全に敵に戦術を予想させず、さらにはバランスのいいパーティーだ。


 いや、私たちもバランスが悪すぎて予想不可能かも……?

 根本的におかしい気もするけど、ある意味一歩も引いていないね!



 「という訳で、一番槍は貰ったぁぁあああああ」



 私は浮遊魔法を使い、最速で敵陣地に突っ込む。囮役だ。


 すると、いきなり視界が黒に染まる。

 おかげで私の突撃は不発に終わる。



 <カナデ、冷静にね。サルバドール、これは何かしら?>


 

 首にぶら下げた板からロアナの声がする。 


 私とサルバ先輩の共同開発の魔動携帯電話だ。四角い小さめの板に通信魔法陣を行使できる魔法陣を書いてあるのだ。有効範囲は500メートル。地球の携帯電話の性能には程遠いが、今回の戦いでは役に立つと思う。



 <恐らく魔法薬の組み合わせで黒の霧を作ったんだろう。探査と気配察知を同時行使できる私とカナデは周囲警戒しつつ迎撃する>


 <カナデ了解でーす>


 <じゃあボクたちが霧をどうにかするね>


 <それではそれで。何かあればすぐに通信を>


 <<<<了解>>>>



 探査と気配察知魔法を同時展開をして相手を探る。


 どうやら私の方向に二人、サルバ先輩の所に一人、そして後衛で大規模魔法の行使を準備中かな。最後の1人はフラッグを守っているか、不測の事態に備えているか。そしてこの前衛の迷いのない突撃はこの黒い霧の中で正確に私たちを捉えているってことだね。


 霧で速攻を使えなくなって焦っている私たちに奇襲をかけるつもり?


 笑止!この程度、ブラックスライムの毒ガス攻撃に比べたら屁でもないわ!そもそも毒を使った攻撃は禁止だけどね!!



 <ロアナ、私に敵2サルバ先輩に1。後衛に大規模魔法の気配あり>


 <この霧、利用させてもらいましょう。サルバドールはアレの準備、カナデは移動して魔法の方を対処。サーリヤ先輩たちはそのまま続行で>


 <了解だ。やっと……試せる……ハアハア……>


 <<それじゃ行くよ、風よ闇を天空に舞い上げろ!!>>



 通信機からサーリヤ先輩たちの呪文が聞こえた瞬間、周囲が大きな風に包まれる。

 私はロアナの指示通りに転移魔法で上空へと移動した。


 黒の霧はサーリヤ先輩たちの生み出した風により霧散する。


 恐らく敵の最初の作戦は失敗。だけどそれほど重要なものではなかっただろう――あわよくば一人ぐらいって事かな。


 私たちをなめて貰っては困るのだよ!



 先程まで私がいた場所には第五王子とエリザベート会長がいた。先に弱そうな私を殺ろうって魂胆!?容赦なさすぎだろ!!


 サルバ先輩の所には……バルミロ先輩か。あの人本当に万能だね。


 大規模魔法はガブリエラ先輩か。と言う事はその後ろはベルナさん。



 「何だこれは……」



 今だ吹き続ける風と一緒に大量の御札が舞っているのだ。


 これはサルバ先輩がサーリヤ先輩たちの風を使ってフィールド全体に巻いたものだ。一枚一枚丁寧に魔法陣が書いてある。


 そしてサルバ先輩が手元にある赤い御札に魔力を通した瞬間――それは現れた。



 『わたしを抱いてーー!!』


 『解析させろーー!!!』


 『『遊ばせろぉぉぉおおお』』


 『お菓子を寄越せーーー!!』



 それは何十人もの私たち(・・・)

 日本の式神をイメージしており、それらは私たちの姿をしているためかなりややこしい事になっているはずだ。


 ってこんな変な声を出すだなんて聞いていないよ!?

 こんな悪戯をしたのは、あの双子だな……後で見てろ、先輩だけどな!! 



 一見凄そうな技だが、媒介が紙で脆弱である事、大量の魔力を消費する事、式神の行動パターンが敵に近づく事だけなどデメリットも多い。正直に言って魔力量の多い人以外は使えない無駄だらけの技だ!!


 でもどうしてもサルバ先輩が実験したいって煩かったらね。早めに使うことにしたロアナの判断は正解だよ。指示無視して勝手に使いそうだし。



 <素晴らしい、素晴らしすぎるぞぉぉぉおおおおおお>



 通信機からサルバ先輩の魂の叫びが聞こえる。

 私はそっと通信機の音量を下げた。



 おおっとサルバ先輩を気にしている場合じゃなかった。


 ガブリエラ先輩の詠唱が終わったのだ。

 第五王子と会長とバルミロ先輩は纏わりつく式神たちを剣で切り付けつつ、後退した。

 ガブリエラ先輩の魔法に巻き込まれないようにするためだろう。


 でも……バッサバッサと自分にそっくりな式神が切られていくのは複雑だよ!!


 

 浮遊魔法を解除し、地面に降り立つと私は魔力障壁を魔法陣エフェクトに組み込み、いくつも展開する。


 魔力に質から考えるに……炎の最上級攻撃魔法?そんなの大会で使っていいの!?会場吹っ飛びますけど!?



 魔力障壁だけじゃ抑えきれない!!



 白組陣営から炎を纏う炎弾が放たれる――――



 これじゃ一か所に障壁を集中できない!!



 「ぬ、塗り壁ぇぇぇええええ」



 秘儀塗り壁(ただの土魔法で作った巨大な壁)を生み出す。


 魔法障壁までワンクッションおけばどうにか……いや、無理かな。試合開始直後から練り上げた魔力で放たれているし。


 

 <ごめん、防ぎきれな――>


 <<大丈夫だよ、カナちゃん。土よ、かの炎を退けろ!!>>



 サーリヤ先輩たちが、私の秘儀塗り壁(ただの土壁)を完全にコピーし、いくつも作りだす。遠距離で魔法を使うのは魔力を大量に使う。それでも私のフォローをしてくれる……本当に頼りになる先輩たちだね。でも式神の件は許さん。



 炎弾はまず式神たちを燃やし尽くし、次に私とサーリヤ先輩たちの作った塗り壁を破壊する。

 そこでいくつかの炎弾は爆発したが、当然威力を相殺するには至らない。



 あとは魔力障壁に魔力を込める!!


 炎弾が当たり、魔法陣エフェクトが次々と破壊されていく。

 辺りには爆音が轟き、爆風が視界を遮る。



 うわっ目と口に砂が入った!!

 痛っぁぁぁああああ。そしてジャリジャリするぅぅぅうううう。



 「ぺっぺっ……」



 恐るべしこれも全てガブリエラ先輩の計算か!なんて恐ろしい人だ!!


 必死に障壁に意識を集中させる。


 

 そしてどうにか最後の炎弾を防ぎ切る。



 「……やった」



 3人が魔力を大量に消費したが、どうにか耐えられた。


 息を吐こうとした瞬間、殺気を感じ結界を張る。

 するとそこに大剣と双剣が叩きつけられる。



 もう攻撃に転じたの!?


 

 振り返るとそこにはエリザベート先輩と第五王子がいた――って第五王子二刀流なの!?何それ、ふざけんなよ。かっこいいじゃないか、剣がね!!


 通信している余裕なんてないっ。



 ふたりの剣技を結界で受けつつ、考える。


 こういう場合、先にどちらかを潰すのが先決だよね。



 「戦場で長く考え事をするのはいけませんわ!!」


 

 雷を纏った大剣の一撃が降り注ぐ――――



 「うわぁっ」



 そして会長は一撃に続いて第五王子の連続の攻撃が来る。


 一撃が重い会長と手数の多い第五王子か!

 私にとっては組み合わせ最悪だね!!



 <カナデ――こちらも交戦中。バルミロと1年の男だ――>



 サルバ先輩の余裕のない声が通信機から小さく聞こえる。



 ――パリンッ



 「よそ見しているからだ、黒髪!!」


 「しまっ――」



 魔力障壁が破られた。


 即座に転移魔法を展開し、上空に逃げる。

 転移魔法の速さを重視したため、二人との距離はそう離れていない。


 観客席が何やら騒がしいが、気にしていられないよ。



 「甘いですわっ!!」



 会長が浮遊魔法を使い、追撃してくる。

 さっきから思っていたけど、会長は無詠唱なんだね。


 第五王子は浮遊魔法が使えないからか追って来ない。



 エリザベート会長の一撃を最小範囲の防御結界を展開し、受け止める。

 雷は纏っていないし、1人だけの攻撃なら受け止められるよ。



 ――キンッ



 「くっ……」


 エリザベート会長が剣を止められ、唸り声を上げる。

 私は防御結界を緩めずに光の矢を作りだす。

 細い一本の矢だが、そこに魔力を圧縮させる。



 「打ち抜けぇぇえええ」


 「ぐぅぁぁあああ」



 放たれた矢にエリザベート会長は瞬時に反応し、大剣で防御する。しかし矢の威力から会長は大剣ごと放物線を描きながら飛んで行った。


 ……たぶん、無事なんだろうな。


 とりあえず今は、残りの敵だ!!



 私は第五王子とにらみ合いながら地面に降り立った。

 そして即座に氷の大斧を2つ作り出す。


 そっちが二刀流なら、こっちはダブルアックスじゃぁぁあああああ!!


 カッコよさで負けないんだから!!

 


 「俺が勝って地面に這いつくばらせてやるっ!!」


 「もうすでにそれはやっただろうがぁぁああ!!」



 私は忘れないぞ、初対面での虐めを!!


 

 私は大斧を振りかぶり、第五王子に向けて放つ。

 しかし第五王子はそれらを最小限の動きで避け、私に接近する。



 「トドメだ――ってうわぁぁっ」



 第五王子がバランスを崩し、転んだ。


 ふっふふ、伊達に偵察していなのだよ!

 貴様が早さ重視の剣の使い手なのは知っている!!

 二刀流は予想外だったが、早さを重視するなら最小限の動きをするのは予想がつく。


 つまりは大斧の攻撃で第五王子の回避場所を誘導して、そこに瞬時に氷を張ったのさ!!

 闇魔法の鎖で第五王子を拘束し、反撃出来ないようにする。  



 「年貢の納め時じゃぁぁあああ」



 身体強化の魔法を右腕全体に施し、振りかぶる。



 ――パシンッ



 周囲にビンタ音が響く。

 


 「これであの時の事はチャラにしてあげる」



 カッコよく決め台詞を言ったが、第五王子は精神的なショックとビンタによって気絶していた。

 

 最後まで聞いてよぅ!!



 しかし第五王子にばかり気を取られてはダメだ。

 


 「サルバ先輩の所に行かないとっ」



 転移魔法を展開して、すぐにサルバ先輩の所へ向かう。




 「サルバ先輩!!」


 「……カナちゃん!!」



 そこに居たのは力尽きたサルバ先輩とボロボロのサーリヤ先輩だ。

 ロアナにどれだけ殴られ蹴られようとピンピンしているサルバ先輩が倒されるなんて……。


 取りあえずサーリヤ先輩に治癒魔法をかけつつ、状況を聞く。



 「こっちは第五王子を倒して、会長を自陣へ吹っ飛ばしたよ」


 「バロ先輩とベルくんをサルバ先輩が相手にして、ボクが加勢に来た時にはサルバ先輩ボロボロだった。どうにかベルくんを仕留めたけど、バロ先輩には逃げられちゃった。サーニャにはロアナちゃんとフラッグの護衛に行ってもらってる」


 

 魔力を大量消費した後にふたり一気に相手にするなんてサルバ先輩すごいな。

 魔法陣の実験による興奮状態でハイになっていたからかもしれないけど!


 おもむろにサーリヤ先輩の指差した方向にはベルナさんの屍があった。一年で研究職っぽいもんね、だから逃げ遅れたのかな。それにしても腹の立つ死に顔だ……今回の元凶だからそう感じるのかな?



 「足蹴にしたいけど……それは死者への冒涜になってしまう!この怒りをどこに向ければいいんだ!!」


 「いや、死んでないからね。カナちゃん」



 サーリヤ先輩にツッコまれた……なんか複雑ぅ!!



 <カナデ、状況はどうなっているの!?カナデ!?>



 通信機から小さくロアナの声が聞こえた。

 そう言えばサルバ先輩の興奮した声が聞きたくなくて音量下げたんだった。



 <ごめん、ロアナ>


 <通信は密にって試合前に言ったでしょ。それで被害は?>


 <サルバ先輩がやられた。サーリヤ先輩もほとんど魔力がない。それと第五王子は倒した……決め技はビンタで>


 <それは良くやったわ、カナデ>


 <ベルナさんはサーリヤ先輩とサルバ先輩が()った>


 <くっ……なんて羨ましい。死体はどうなっているの?>


 <ムカつく顔で昇天しているよ>


 <足蹴にしたいわ……>


 <とりあえず、顔に落書きしたよ。ロアナちゃん>



 通信に入って来ないと思ったらサーリヤ先輩なにしてんの!?

 そしていつでもペンを持ち歩いているんだね。


 ベルナさんの顔には定番の瞼に目と黒幕(笑)文字が……ナイスです、サーリヤ先輩!!



 <サーリヤ先輩はいい仕事をしたよ、ロアナ>


 <ありがとうございます、サーリヤ先輩>


 <アタシも書きたかったぁ~>


 <今度は一緒にやろうね、サーニャ>


 <もちろんだよ、サーリヤ>


 <ではその辺にしてこれからの作戦に行きましょう。向こうは3人でこちら4人数的には上ですが……最強の3人がいる時点で向こうの有利ですわ。サーリヤ先輩はほとんど魔力が残っていませんし、サーニャ先輩も序盤で多く魔力を使いました。わたしは元々戦闘力には期待できませんし……>


 <当初の予定通り最強の切り札を使おう、ロアナ>


 <ではサーリヤ先輩はサーニャ先輩と合流してバルミロ先輩に突撃。カナデは臨機応変に――以上。相手は通信機がないので体勢を整えるのに時間がかかります。先手を打つなら今です>


 <<<了解>>>



 臨機応変に――つまりは私の自由にしていいと言う事。

 それなら自由にさせてもらおうではないか!


 大量の魔力を大地に流し、私の今出来る精一杯を形にする。



 「いでよ、ガ○ダムゴーレム!!」 

 


 土魔法で作られたのは、地球でお馴染みの機動戦士だ。しかし関節はないし、歩き方はぎこちないし、まだまだ細部の作りも甘い。何より色が茶色一色!!どことなくダサい。材料が土だからしょうがないんだけどね!!



 ガ○ダムゴーレムの肩に乗り、私は敵陣地へ走る。

 ドタドタ煩いけど、囮になっていると思う事にしよう!


 ポジティブシンキング~!!



 「はぁぁああああああ!!」



 気配を魔法で遮断して潜んでいただろうエリザベート会長が背後から攻撃を放つ。

 

 さっきの私の光の矢の攻撃を防ぐために大剣を犠牲にしたのか、手に持っているのは普通の剣だった。


 この程度の剣は軽いわ!!



 ガ○ダムゴーレムの右腕でエリザベート会長を薙ぎ払う。



 「拘束っ」



 ガ○ダムゴーレムの右腕に闇魔法で作られた鎖が撒きつく。

 バルミロ先輩か……サーニャ先輩とサーリヤ先輩は?



 ちっ、小癪な!!



 「カナデ覚悟――!!」


 「貫け、閃光!!」



 数本の光の矢が降り注ぐ。

 

 これは――――



 「サーリヤ先輩、サーニャ先輩!!」



 光の矢は恐らくサーニャ先輩一人のものだろう。



 「「ごめん、遅れた!!」」


 「ナイスタイミングです!」


 

 ガ○ダムゴーレムを動かして力ずくで鎖を解いて、先輩たちの元へ後退して会長たちと距離を取る。


 すると会長が雷を纏った剣で突撃してくる。

 咄嗟にサーリヤ先輩が魔力障壁、サーニャ先輩が防御結界を張る。


 魔力障壁は魔法攻撃に有用で、防御結界は物理攻撃に有用だ。

 しかし、魔力の残り少ないサーリヤ先輩では会長の一撃を止められない。



 「私の相手をよろしくお願いします、カナデ様」


 

 バルミロ先輩が数十本の氷の矢を放った。

 狙いは私だけど、時間差で当たるようにしているね!


 それらをガ○ダムゴーレムで薙ぎ払う。


 矢は全て防いだ。だが、バルミロ先輩は攻撃が止んだ次の瞬間には私の目の前に移動していた。



 「それは予想済みだよ!!」


 

 ガ○ダムゴーレムごと転移し、バルミロ先輩の上に移動して、先輩の身体を叩きつける。



 「ぐふぁぁあああ」



 よっしゃ、直撃!!


 サーリヤ先輩とサーニャ先輩を援護しなきゃ!!



 サーリヤ先輩たちの戦いに目を向けると、サーニャ先輩と会長の一騎打ちの最中だった。

 接近戦に強い会長が優勢だ。

 サーリヤ先輩は少し離れたところに倒れている。


 サーリヤ先輩の犠牲は無駄にはしないからね!!



 「サーニャ先輩、今助け――」


 「水よ、かの者を捉えよウォーターサークル!!」


 「包み込め!!」



 直前まで隠された魔力を感じ取った私は、本能でガ○ダムゴーレムから飛び降りる。



 「うぶぅあっっ」 


 

 浮遊魔法を使ったが、着地には失敗した。

 うへぇ、顔が泥だらけだ。


 直前に聞こえた声はガブリエラ先輩の詠唱とバルミロ先輩の叫びだ。

 バルミロ先輩しぶと過ぎぃ。


 私は振り返り、攻撃を受けたであろうガ○ダムゴーレムの状態を確認する。



 ガ○ダムゴーレムはガブリエラ先輩とバルミロ先輩の水魔法による攻撃を受けていた。形状は崩れ、水の中で蠢く様は、生まれたての巨神兵のよう……。


 ずるずるのでろでろ……


 こんな……こんな事ってないよ……



 「いやぁぁあああああ」



 バチバチっという音と共にサーニャ先輩と会長の戦いにも決着が着いた。息を切らしながらも、立っているのは会長だけだった。


 ――――サーニャ先輩。



 「お前ら……それでも人間かぁぁぁあああああああ」



 水に囚われた元ガ○ダムゴーレムを必死に操作する。会長がこっちに戻ってくる前に決着をつけなければ!!


 私は雄叫びを開けながら、元ガ○ダムゴーレムの内部に組み込んだ術式を解放する。



 「口からバズーカァァァアアアア!!」



 ずるずるのでろでろのガ○ダムゴーレムから放たれた大質量の砲撃。

 ガ○ダムゴーレムの奥の手さ!!自爆と迷ったんだけどね!!



 「障壁!!」



 ガブリエラ先輩とバルミロ先輩が障壁を展開する。



 「だけど、脆いよ!!」


 

 砲撃は障壁を突き破り、ガブリエラ先輩に直撃コースだ!



 「危ないっ」


 「きゃっ」



 バルミロ先輩がガブリエラ先輩を突き飛ばした。

 おかげでガブリエラ先輩は砲撃の直撃を避けたが、バルミロ先輩はまともに食らった。


 とりあえず、1人は倒した!!


 「追撃を――」


 「させないですわ!!」


 

 エリザベート会長が剣撃を私に叩きつける。

 私は防御結界を張り、それを受け止める――が背後で魔力が高まるのを感じる。ガブリエラ先輩の魔法攻撃だ。


 前衛と後衛が織りなす、基本的だが確実な攻撃体勢。

 終盤にこれを一人で相手にするはキツすぎ!!



 「勝つのはわたくしたちですわ!!」



 水弾がガブリエラ先輩から容赦なく放たれる……ここで私を仕留める気満々ね。


 

 <申し訳ありません、先輩方。勝つのは、わたしたち黒組のようです>



 わたしの首に下げた通信機から聞こえたのはロアナの冷静な声だった。



 「いっけぇぇええええ、ロアナ!!」



 フィールドを二つに割るかのような、燃え上がる(くれない)の一閃が放たれた――――











 

 敵も味方も常識外れの中でわたしが出来る事は少ない。わたしはロアナ・キャンベルは秀才であって、天才ではないのだから。それでもわたしは黒組の一員だ。王族に喧嘩を売ったカナデを見捨てられないし、サルバドールの馬鹿も放っておけない。それにあのいけ好かない男に一泡吹かせたかった。


 魔法使いだけのバランスの悪いパーティーの中でわたしに出来る事は何か、考えてもなにも浮かばなかった。魔物を弓矢で仕留めて、捌き、料理する合宿の日々。自分の未熟さにイライラしていると、カナデから武器を渡された。錬金術で創られた弓矢だった。



 「ロアナの弓矢は百発百中だからね!武器はもちろん弓矢にしたよ!!本当にすごいよね、モンハンで弓矢を使うのは難しいんだから、廃人レベル!!」


 「ありがとう……」



 一部判らない部分があったけれど、天才で規格外な友人がわたしの弓の腕を褒めてくれた。それだけで、根拠のない自信が湧いてくるのだから可笑しい。秀才が天才に勝てるような気がしてしまうのだから。



 それから戦術を練りに練り、ある一つの戦術を思いついた。


 第五王子たちは、真っ先にカナデやサルバドールを狙うでしょう。そしてその次にサーリヤ先輩たち。そして最も警戒していないのはわたし。


 ならば、わたしが黒組の切り札ですわ。



 試合開始からずっと矢に魔力を込め続けた。

 仲間が窮地でも助けに行かず、ただフラッグを守っているように偽装し、ただひたすらに少量の魔力を込める。


 通信機からは女帝の勝利宣言が聞こえた。

 わたしのことなど、眼中にないのね。

 でも、それでいいわ。


 あの人達がカナデを最大限に警戒していたからこそ、フラッグを守っていたガブリエラ先輩が動いたのだから。



 「申し訳ありません、先輩方。勝つのは、わたしたち黒組のようです」



 出来るだけ冷静を装い、宣言した。


 

 わたしは弓矢を構えながらサルバドールに渡された遠視の魔法陣を発動し、標準を合わせる。


 ここで外したら、黒組は負けだ。

 超長距離の攻撃は2度は使えない。チャンスは一度きり。

 わたしがフラッグを破壊すれば、勝ち。

 そうでなければ――――



 <いっけぇぇええええ、ロアナ!!>



 通信機から聞こえたのは、天才でわたしの大切な友人の叫び。

  


 「……わたしの矢は百発百中なのよ!!」

 


 黒組全員の思いを乗せた紅閃の矢は放たれた――――











 ロアナが放った矢は、見事白組のフラッグ破壊した。

 マジパネェっすロアナさん!!



 「私たちの勝ちです♪」


 「そのようですね。悔しいですわ……」



 構えていた剣を降ろす、エリザベート会長。

 ちなみに私はガブリエラ先輩が放った水弾が直撃する寸前に魔法と物理を跳ね返す万能結界を展開した。それを見た先輩たちは驚愕の表情を浮かべていた。


 これが私の本当の奥の手……なんてね!!ただ単に魔力を多く使うから使わなかっただけなんだけど。



 ――――白組対黒組の試合を終了します。勝者は黒組です。



 ――――ワァァァアアアア



 盛り上がり熱狂する観客席。わたしも嬉しいよ!!



 「大丈夫ですか、皆さん!!」


 「あっ理事長!!」



 駆け寄って来た理事長はサーリヤ先輩たちとバルミロ先輩に治癒魔法をかける。

 するとゾンビが蘇るかのように、先輩たちは元気になった。



 どうやら他の倒れた面々も先生達が救護に向かっているらしい。

 その後私たちは理事長に言われた通りに、フィールドの中央へ向かう。


 そこには既に他のメンバーが整列していた。

 もちろん第五王子も――――


 

 「おい……黒髪」


 「何よ、第五王子」


 「負けた……だから望みを言えっ」


 「望み?」


 「勝ったら何でも望みを叶えると言っただろう!!」



 そう言えばそんなこともあったけ……ぶっちゃけ単位で頭いっぱいだった。第五王子に叶えて貰いたい願い、ね。うーん……ないな。平民が王族に何かさせたなんて噂が広まったら、私が暗殺されそうだし。お菓子がいっぱいの世界を作ってなんてお願いしても、お菓子に対する情熱のない第五王子じゃ到底無理だし。でも、第五王子の性格じゃな……『別にないですぅ』何て言ったら確実に面倒なことになる。ここは当たり障りのない事にしよう。



 「では、学園内では絶対に身分を行使しないと誓ってくださいな」


 「それだけでいいのか?」


 「はいっ」



 愛想笑いで誤魔化す。すると、第五王子の顔が赤くなった。

 え?何よ、また怒るの!?



 「わ、わかった……」


 「素直になった……?それとも怒っているの?」


 「うううう、うるさい、うるさい!!黙れこの……カナデ!!!!」


 「あ~はいはい」



 やっぱり怒っているよ、面倒な奴だ。

 どうせなら『私に一生関わらないで』って言った方が良かったかな?

 でも同じクラスだから無理か。



 「おっほん。これにてルナリア学園魔法武芸大会団体戦決勝を終わります」


 「「「ありがとうございました!!」」」



 団体戦優勝だーい!!

 私は仲間たちに駆け寄り、勝利の喜びを分かち合う。



 「魔法陣の実験が出来た……私は幸せだ……」


 「「これで単位の心配がなくなったよ!!」」


 「お疲れ様ですわ」


 「これで武芸の授業を受けなくて済むよ!」



 ああ、このどうしようもないほどの喜びを解き放ちたい!!

 そうだ、優勝と言えば胴上げ。胴上げと言えば優勝だ!!



 「よっし、皆で胴上げをしよう。勿論、リーダーのロアナを「一番軽いカナデにしましょう」」


 「え、ちょ、待ってよぉぉおおおおおおお」



 四肢を掴まれ、上に投げられた。

 思っていたよりも飛んでいるんですけど!?



 「「舞い上がれ、カナちゃん!」」


 「治癒魔法で回復したとはいえ、疲れたな」


 「わたしを生贄にしようとするからよ、カナデ」


 「わたくし達も参加しましょう、バルミロ、ガブリエラ」


 「そうですね、エリザ」


 「やられた分はここで倍返しですね」


 「殿下は参加しないのですか?」


 「な……なじぇ俺が!!」


 「動揺し過ぎだ、マティアス」


 「もう、下ろしてよぉぉぉおおおおおお」




 こうして4年に一回開催されるルナリア学園魔法武芸大会は平穏無事?に終わったのだ。





長いです。ごめんなさい。


こうして第五王子は初恋を拗らせていく。

第五王子の好きなタイプは自分より強くて権力を望まない人。そして心の根底では女性を信じていませんでした。その理由は、次話をどうぞ。


今日は連続更新です。

まだまだ続きますよ。

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