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女魔法使いは魔王討伐メンバーに抜擢されました

 

 ――――魔王宣言

 最強の獅子魔族が自らを魔王と宣言し、世界を征服し蹂躙すると2か月前に表明した。それにより世界中が恐怖に慄き、混沌と化した。20あった人間の国は、もう5か国にまで減った。まさに人類存亡の危機……ベッタベタのハリウッド映画かよ。スーパーマンやらスパイダーマンやら出てきてもおかしくないんじゃないかなーと最近現実逃避している。



 空の国の宮廷魔術師(下っ端)である私、カナデはぶっちゃけ魔王とか人類存亡の危機とかどうでもいいのである。むしろ国をぶっ壊してくれないかなーと恨み辛みで呪詛をかける勢いだ。その原因は目の前の書類の山である。その山は小学生のピクニックに最適の高尾山ではない。部屋中を埋め尽くす山々は、もはや歴戦の登山家たちにも畏怖と敬意を持たれるヒマラヤ山脈級だ。


 魔王にビビった給料泥棒の爺共が、私に仕事を大量に押し付けて逃げたため、今この城の宮廷魔術師は私しかいない。おかげで面白いように仕事が溜まる溜まる。いや、全然面白くないんだけどね、笑わないとやっていられないって言うかさ。もう1か月以上寮に帰っていないんだよ?おかげで寮室の魔力冷蔵庫が怖くて怖くてしょうがないんだよー!!目の下にはクマがあるし、自慢だった長い黒髪は艶がなくなっているし。この過酷な労働状況……。認めたくはなかったけど、現実を受け止めなくてはならない。



 「私、就活失敗した……」



 うわぁぁぁあああ。『城勤めって前世の公務員じゃない?』とか、何て馬鹿な事思っていたんだよぉぉおお。そりゃさ前世では労働基準法とかあったし、過労死とか問題になっていたからね、無理な労働はさせないさ。でもね、この世界には労働基準法も労働組合もない。何時間でも何歳でもOKなのだよ。なんてこったい!このままじゃ過労死してしまうがな。



 「スローライフを送りたい……」



 机に突っ伏して思わず呟いてしまった。思い出すのは前世の記憶。どう●つの森や牧●物語……気ままなスローライフ。現実はクソゲーだぜ。


 書類を片づけながら前世での生活(疑似世界)の思い出に浸っていると、部屋にノック音が響く。現れたのは王宮侍女さん。年若い侍女さんの顔には疲労が見て取れる……お互いに大変っすね。



 「カナデさん、国王陛下がお呼びです」


 「了解しました」



 フラフラになりながらも侍女さんの後について行くと、陛下の私室に案内された。中に入ると陛下がフルーツタルトを食べていた。何だろう、この胸の奥のモヤモヤした感情。これって…………殺意以外のなのものでもないよね。陛下の目の下にクマはない、むしろお肌プルップルだ……オッサンのくせに。顔色も良好、むしろ前より太った?もう何!?自慢かよ。貧乏暇なしぃ~って馬鹿にしてんのかゴラァ。金ぐらい持っとるわ!魔道具作りで荒稼ぎした国家予算並みの貯金がな!!


 

 「来たかカナデ。其方も食べるか?」


 「いただきますでございます!」



 ひゃっほーう!陛下太っ腹、ナイスミドルゥ♪

 久しぶりに食べたフルーツタルトは美味しかった。さすがは宮廷料理人の作った一品。お口の中がぴょんぴょんするんじゃ~。



 「お話とは何でしょう?」



 上品に口元をナプキンで拭き、呼び出しの理由を問いかけた。



 「食べていいとは言ったが、ワンホールの内の5/6食べるとは思わなんだ。……その、な。魔王宣言のことは知っておうだろう?」


 「ええ、まあ。尤も私にはどうでもいいことですが」


 「まあ、カナデだしな……。実は魔王軍の参謀が帝国の元宰相でな、つまりは人間だったのだ。当の帝国は魔王軍の支配下にはあるが、此度の侵攻が元宰相という人間主導であるという事実は変わらん。他の人間の国も被害者面することも叶わなくなった」



 魔王が脳筋種族の獅子魔族だってことは有名だから、ブレーンがいると思っていたけど、人間だったとはね。魔王を操る参謀……影の魔王みたいな?うわぁ、前世の馴染みのカズくんが喜びそうな設定。


 ボケっとしていたら、陛下がゴホンと咳払いした。

 上の空でしたサーセン。


 

 「それで、だ。人間の国々も漸く協調姿勢を取ることになってな、魔王を打倒すために各国の精鋭が集められることになった」


 「へぇ~、うちの国からは誰が行くんです?」


 「マティアスだ」



 第五王子か。性格悪いけど剣の腕は国で一番いいからなー、妥当な選択だね。



 「そうですか。殿下のご活躍をお祈りいたします」



 無難な答えを言っておく。まあ、嫌いだけど死んでほしいわけじゃないし………………って沈黙長いな!陛下を見るとソワソワと落ち着かない様子で私を見ている。オッサンがそわそわするとか、マジ誰得やねん。



 「……あの、陛下。お話が終わったのならお暇したいのですが」



 書類のヒマラヤ山脈をどげんかせんといかんのじゃ~。ああ、また仕事とか憂鬱。



 「まて、カナデ。話はここからだ。その……魔王討伐に行ってもらいたいのだ」


 「わ、私がですか!?私が行ったところで邪魔になるだけですよ!」



 協調性とかあんまりないし。野営とかしたくない。



 「そんなことはないぞ!実はな、五か国の王すべてからの推薦でな。断るのはちょっとな……」



 ちょっと、五か国の王全員ってマジっすか!いち平民に権力の椀飯振舞!!外堀は埋められ、退路は断たれた。本当に勘弁してぇ。王命(通常の5倍の攻撃力)なんて拒否できないじゃんよ!


 私は一つ思い当たることがあった。現在この国の宮廷魔術師は私一人。恐らく魔王討伐パーティーの構成的に魔法使いが必要だったのだろう。人間の国の中で一番魔法が発達しているのは、この空の国だ。そこから魔法使いを選出するのは至極当然のこと。しかも私は切り捨てても後腐れのない平民。まさに最適の生贄だ。あのボンクラ糞爺共がいれば、私にこんな面倒な役割回ってこなかったのにぃぃいいい。奴らの残り少ない毛根よ、死滅せよぉぉおおお。



 「どうした、カナデ。俯いたりして……さすがのお前も堪えたか?だが、これは五か国の総意で――」


 「すみません、陛下。ちょっと心の中で呪詛を呟いておりました」


 「おっおう。さすがはカナデだな……して、どんな呪詛を?」


 「老害共の毛根を根絶させる呪詛でございます」



 呪い何て専門外だから本当にかけている訳じゃないけどね。人を呪わば穴二つとも言うし。



 「わ、我にはかけるでないぞ!!一生のお願いだ!!」



 陛下は頭を両手で押さえて涙目で訴えてくる。だからオッサンの涙目とか誰得やねん。それにしても、王族の言葉は重いと言われているのに、ここで私に対して一生のお願いとか使っていいのだろうか?まあ、冗談だよね。平民の私に陛下がお願いすること何て無いだろうし。私も冗談で返しますか。



 「そんなことしませんよ、陛下。内心はどうであれ、王族に立てついたりしませんよ~」


 「絶対だぞ!我との約束だからな……それで、カナデ悪いが行ってくれるか?」



 行ってくれるかも何も、私に拒否権なんてないじゃん。魔王討伐か……魔王は確か獅子魔族か。獅子……ライオン……某黄色と緑のライオンともちもちのライオンを思い出すなぁ。ドーナツが食べたい。

 ああ、現実逃避している場合じゃないよね。しょうがない魔王討伐に行くか……って今思ったけど、これって転生者っぽい展開じゃない!?それに魔王討伐に行くってことは書類を片づける仕事はしなくていいんだよね!やったぁ~、激務から解放されるよ。



 「あの、私の仕事の代わりは誰かがしてくれるんですよね?」


 「もちろんだ!帰還の暁には褒美を用意しよう」


 「魔王討伐の任、お引き受けします」


 

 こうして私は意気揚々と魔王討伐に向かったのだ――――










 光の国の王宮で魔王討伐パーティーの顔合わせが行われた。これは親睦を深める食事会も兼ねている。煌びやかなホールではなく、王宮内の一室で行われた。人類存亡の危機でお金と時間をかける余裕がないのだろう。


 室内にはパーティーメンバーであろう人達と、光の国の王様と宰相、それに国の重鎮であろう貴族のおじ様達、それに給仕の者がいた。まあ、人間世界は自粛ムードだしね。私は見栄とか気にしないし、並べられた食事が美味しそうで内心ウハウハだ。卑しい平民とか言われるのが嫌だから顔には出さないけど!早くローストビーフっぽいの食べたい!!むっちゃ食べたい!!


 

 「此度の招集に応じてくれたこと、光の国の王として感謝申し上げる。2か月前の魔王宣言により世界は未曽有の危機じゃ。皆が知っている通り光・空・雪・大地・風の国以外はすでに魔王軍の支配下に置かれておる。力を合わせ、魔王を打倒さねば我ら人間が生き残る術はないだろう。故に――――」



 おじいちゃん王の話長すぎ。料理が冷めちゃうじゃん!



 「陛下、そろそろ本題に……」



 王様の傍に控えていた宰相が声をかけた。ナイスアシスト!



 「ん?そうじゃな。これから命を預ける仲間じゃ、知っている顔もあるじゃろうが、自己紹介をしてくれるかの」



 王様が言うと10歳ぐらいの美幼女が前に出た。



 「(わらわ)は光の国の聖女シルヴィア。よろしく頼むぞ!」



 この女の子が300年生きているって噂の光の国の聖女!?確か精霊を身に同化させているんだよね……だから合法ロリなのか。と言うか聖女よ、視線が見事に男にいっているな。外見はロリなのにビッチさんなのか!?



 「ぼ、ボクの名前はアルトです。光の国出身です。よろしくお願いしましゅっ」



 盛大に噛んだな……。この少年、場馴れしていないようだけど?



 「アルトは聖剣を抜いた勇者なのじゃっ。将来有望なのだぞ……げへへ」



 聖女は勇者の腕に飛びついた。彼女の眼はギラギラしていて、捕食者の目だった。肉食系女子に草食系男子じゃないか……この二人には近づかないようにするか。



 「雪の国から馳せ参じました。猛獣使いの第二王女フローラですわ。よろしくお願いいたします」



 気の強そうな王女様だな。歳は私より4・5歳上かな。怖そうだけど、勇者と聖女よりはマシかな。ふと王女の腰に提げられている物に目がいった。

 

 鞭!!鞭っすか!!しかも今気づいたけど、王女様赤のハイヒール穿いているしっ。色んな意味で本物!!絶対に近づかないようにしよう。調教とかされたら嫌だし……ヤバそうになったら、さり気無く第五王子を進呈しよう、そうしよう。



 「風の国、弓使い。フィートレンテ」



 ……ってそれだけかい!せめて「よろしくお願いします」ぐらい言おうよ、大人の男何だからさ。他の人たちも唖然としているよ!本人は部屋に飾ってある絵を鑑賞し始めているし。自由だな、おい!


 なんか一緒に居たら疲れそうだし近づかないようにしよう。



 「大地の国出身、槍使いのダルカスだ!これでも国じゃ騎士団長を務めている。俺はこの筋肉に賭けて魔王を必ず滅ぼすと誓おう、この筋肉に賭けてな! これからよろしく頼む!」



 がははと豪快な笑い声を上げた30代ぐらいの大柄の男。部屋の中の変な空気を断ち切ってくれたのは嬉しいよ?でもさ、殊更筋肉を強調しなくてもいいんじゃない? そんな力こぶとか見せなくてもいいから!コイツ絶対に脳筋だよ、筋肉主義だよ!近づきたくねぇぇええ。



 「空の国が第五王子マティアスです。剣しか誇れるものがない若輩者ですが、どうぞよろしくおねがいします」



 そして微笑んだ第五王子。そのあまりの美しさに壁際に控えていた侍女たちが頬を朱に染める。うわぁ、猫かぶり王子に惚れるなんてご愁傷様。謙虚なふりをしているが、奴の本性は、我が儘・俺様・マティアス様だ。やだやだ、私の人生が続く限り近づきたくないよ。


 第五王子が私に視線を移す。ああ、はいはい。自己紹介ですねー、判ってますよ。



 「同じく空の国から派遣されました、カナデです。末席ですが、宮廷魔術師に名を連ねております。平民の身の上ですが、皆様のご迷惑にならないように精一杯頑張ります。どうぞ、よろしくお願いします」



 そう言って愛想笑いを浮かべる。うん、我ながら普通な自己紹介だ。悪目立ちはしないだろう……って何か宰相と王様がコソコソ話しているんですけど!心なしか周りも騒がしい?第五王子も睨んでくるし……アレか、みんな私が平民だから馬鹿にしているのか。平民の雑草根性舐めるなよ!



 「それでは皆様、親睦を兼ねて食事をお楽しみください」



 宰相の言葉により、食事会が始まった。だが、貴族王族の皆さんは歓談スペースで情報交換を行っている。所謂社交と言うものだろう、実に面倒くさそうだ。ちらちらとコッチを見てくるのがウザい……どうせ私を話のタネに盛り上がっているんだろうけど。気にしてもしょうがない。私は平民だから社交とか一切関係ない。食事スペースに直行だぜ!平民最高ーー!!


 お目当てのローストビーフっぽい物を口に運ぶ。しっかりとした弾力のある正体不明のジューシーな肉に、爽やかな香りのソースが絡み、思った通り美味しい。欲を言うならば、山葵とか欲しいな……この世界にあるのかは判らないけど。


 食事スペースでの歓談はご法度だ。だから、私は誰にも邪魔されずに料理を楽しむことが出来た。絶対に歓談スペースになんか行かないよ。用もないし。


 

 それにしても……パーティーメンバーが誰一人として近づきたくない人種なんだが。明日は魔王討伐に出立する。煩わしいことを考えることは止めよう。こんなに美味しい料理を食べられるのは今日で最後かもしれない。だから今はこの美味しい料理を全力で楽しむのだ!!



 そして夜が更けて、私たちは魔王討伐に出立した。





♢  





 激務から解放される!と思っていた時期が私にもありました。



 


「勇者ぁ、あんな地味顔の黒魔女なんて放っておいて(わらわ)と結婚しようぞ!既成事実大歓迎じゃ」


 「え……いや、女の子が気軽に結婚とか言っちゃだめだと思うな、聖女さん。そ、そうだよね、カナデ?(チラッ)」


 「あたくしの国の方が美しいですわ。文化も教養も他国に追随を許しません。そうは思わなくて?カナデ」


 「氷ばかりの資源のない国が何を言う。豊かな資源と卓越した魔法技術を持つ我が国の方が優れているに決まっている。そうだろうカナデ」


 「ふんっ、資源も魔法技術も自力で手に入れた物ではないでしょうに」


 「何だと……我が国を愚弄するのか!」


 「あたくしは事実を言ったまでですわ」


 「俺の筋肉たちよ……今日はどんな風に虐めて欲しいんだ?遠慮なく言ってみろ」


 「赤い蝶とは珍しいな。追いかけよう」



 もう、何なのこの状況は!!

 聖女には謎のライバル認定されるし、勇者は私に縋ってくるし、王女様と第五王子は喧嘩するし、槍の騎士は筋肉と語り合い始めるし、弓使いは自由人だし。誰か助けて!!


 一応このパーティーのリーダーは勇者だ。王女様と第五王子じゃ角が立つし、聖女と槍使いと弓使いじゃ力不足。なので、伝説の聖剣を抜いたという勇者に白羽の矢が立った。私はもちろん最初から除外されていたさ。私がリーダーじゃないのは良かったのだけど、如何せんヘタレな勇者にこの協調性のないメンバーをまとめるのは無理だった。故にこの状況、私が一番協調性があるってどういうことだい!


 今は魔王軍の本拠地である魔王城に向かっている。元は人間国最大の国だった帝国の城である。本当は転移魔法でさくっと向かいたいのだが、魔法を使っている時に妨害されると厄介なので歩きで向かっている。魔王を訪ねて三千里……三千里って何キロだろ。


 光の国を出立して10日。勇者パーティーの噂を聞きつけ、魔王は己の配下を幾度か私たちにけしかけてきた。連携の取れてない勇者パーティーだったが、送られてきた敵が小手調べ程度のレベルだったため、何とか倒すことができた。だけど、本命の魔族が現れたら、このパーティーでは敵わないだろう。それをこいつ等は判っているのだろうか?



 「はぁ……」



 思わず溜息を吐く。溜息を吐かなくても幸せが逃げていく気がする。宮廷魔術師として働いていた時は確かに激務だったが、僅かばかりの休憩時間があった。しかし今は休憩時間がなく、寝ている時ですらアホ共のせいで油断できない状況だ。何これ?城にいた時のほうがマシってどういう事よ。私のストレスゲージはMAX越えだよ……。



 「か、カナデ!どうにかして……」



 勇者が私の足にまとわりつく。お前がリーダーだろうが!うわっ聖女がこっち睨んでいるし……。


 私はまとわりつく勇者を引っぺがし、フラフラと森の奥に入ろうとしていた弓使いの首根っこを摑まえる。



 「王女様、第五王子殿下、そろそろ野営の準備をした方がいいかと思います」



 今だ尽きないお国自慢という名の喧嘩をする二人に声をかけた。



 「この高慢王女に馬鹿にされたままでいられるか!」


 「何ですって高慢なのはそっちでしょ!」


 「早くしないと日が落ちてしまいます。今日は英気を養い、明日決着をつけては?」


 「カナデの言う通りだな。首を洗って待っていろ」


 「そっちこそ!」



 そう言って二人はお互いに離れた場所で野営の準備を始めた。本当に協調性がないな!とりあえず私は首根っこを掴んでいた弓使いを第五王子の方に放り投げた。そして、筋肉と会話をしながら笑顔で腹筋をしている槍使いに近づく。何か狂気を感じる……。



 「ダルカスさん、筋トレもいいですけど疲労回復のために早めに身体を休めて下さい」


 「ああ、筋肉たちが満足したらすぐに寝る!」



 筋肉たちって何だよ!そいつらに意思はないよ!

 私、筋肉恐怖症になりそう……。


 そして私の一番のストレスの原因である2人の元に向かう。



 「助かったよ、カナデ。ありがとう」



 何がありがとうだよ!本来ならお前の役割だよ!他の奴らに頼み辛いからって私を利用しやがって……労えばそれでいいとでも思ってんの?報酬の1つや2つよこせや!



 「聖女様に勇者も野営の準備をして下さい」


 「平民風情が妾たちに偉そうな口を利くでない。勇者ぁ、今夜こそは一緒に寝ようぞ」


 

 勇者もその平民風情の1人だよ!聖剣を抜いたとは言え、コイツ農家の三男だし。勇者には甘ったるい声使いやがって……まるで婚期を逃して必死になるお局様だよ!合法ロリだけどな!!


 不満は口には出さずに愛想笑いを浮かべる。本当はここに居る全員に文句を言ってやりたい。だけど私はただの平民。王族や貴族に名誉ある役職の人たちに立てつくことは建設的ではない。この世界は身分が絶対だ。だからグッと我慢する。木の根に横になり、私は寝ることにした。




 夜の闇が深まり辺りは静寂に包まれる。どうにも寝付けないので私は少しだけ野営近くの川に散歩に出ることにした。


 穏やかに流れる川に地球とは違う紫色の月の光が反射する。その光景は美しく、私の心を落ち着かせるものだった。そして思わず涙が零れる。どうやら自分が思っている以上に精神的に参っているらしい。



 ――――キュイーン



 私の頭上で大きな魔力を感じた。すぐに立ち上がり臨戦態勢になる。これは……転移魔法?魔族には使えない魔法のはず。一体誰が?


 何もないはずの虚空から現れたのは、白銀の毛並みに黄金の角を持つ美しい神獣――ユニコーンだった。その懐かしい姿に私は思わず声を張り上げる。



 「た、タナカさん!!」


 「こんばんは、カナデ。夜遅くに訪ねるのは良くないと思ったけれど、カナデが大変だと知り合いの精霊に聞きいて、いてもたってもいられませんでした」


 「タ゛ナ゛カ゛さ゛ん゛」


 鼻水と涙でぐしょぐしょな顔で私はタナカさんに駆け寄り抱きつく。そんな酷い形相の私を咎めず、タナカさんは抱擁を受け入れてくれた。


 タナカさんは私の魔法の師匠である御爺ちゃんの茶飲み友達で、私とも兄妹のような家族関係を築いている。ユニコーンだけど。ちなみにタナカと言うのは愛称で本来はなっがい名前らしい。



 「可愛いカナデにお土産があります」



 タナカさんがそう言うと、虚空からラッピングされた小さな箱が現れた。



 「これは?」


 「ショコラですよ。甘いものを食べれば少しはカナデも幸せな気分になると思ってね」


 「食べてもいい?」


 「もちろん。カナデの為に持って来たのだから」



 キュンッと私の胸の奥がときめく。タナカさんマジ紳士!もう、二足歩行なら惚れてたよ!破かないように丁重に包みを開けてハート型のショコラを一粒口に入れる。甘くほろ苦いショコラが口の中で溶ける。今まで食べたお菓子の中で一番美味しいよ!



 「美味しい、ありがとうタナカさん。ちょっとだけ元気でた」


 「色々と大変みたいですね」


 「うん。協調性のないパーティーでね、私の精神がガシガシと削られているよ」


 「傲慢な人間たちの考えることは判らないけれど、カナデに負担をかけるようでは本末転倒。どうせならカナデ一人の方が効率が良かっただろうに……」


 「あっははー、私1人じゃ何も出来ないよー」


 「カナデの自覚症状なしは変わりませんね。本当に辛くなったら逃げなさい」


 「逃げる?」


 「そう。辛いのならば私の所においで。浮遊島なら魔族の侵攻もないし、神獣や精霊たちもカナデを歓迎しますよ。アイルとティッタもこちらに移住するかもしれませんね。カナデは私たちの大切な妹なのですから。……でもその前にカナデを泣かせた奴らに仕返しするのが先ですね」


 「仕返ししてもいいの? 私、平民なのに」


 「身分など所詮、人族が作りだした不確かなもの。だから平民だからと言って、カナデが1人が我慢をする必要はありません」


 「そっか……そうだよね! 平民だから仕事だからってこんなに我慢する何て私らしくないよね。あんなアホ共に気を使う何て馬鹿らしいし。コネで就職したから頑張ろうと思っていたけど、こんな馬車馬のように扱き使う所で働いて何ていられないよ。私は我が身が一番可愛い!そうと決まれば仕事を辞めよう!転職しよう!思い起こせば、不眠不休で書類の山に埋もれ、アホ共の御守りをする事になったのは、魔王が現れたからだよね。よしっ最速で魔王を倒そう」


 「カナデが立ち直ってよかったです」


 「ありがとう、タナカさん。全部終わったら浮遊島に移住しようかなー」


 「待っていますよ、カナデ。では、くれぐれも気を付けて」


 「了解だよ!」


 「夜も遅いし私も帰ります。カナデも疲れているだろうし、明日に備えてもう眠りなさい。頑張ったご褒美にカナデの好きな料理とお菓子を用意して待っていますよ」



 タナカさんイケユニコーン!!どうして四足歩行なの!



 「うん。タナカさんありがとう、またね」



 タナカさんは転移魔法を使い、虚空へと消えた。タナカさんのおかげでスッキリしたし、残りのショコラ食べて寝よー。






 


 

 睡眠時間は短かったけど、今朝の目覚めは凄く良かった。タナカさんに会えたからか、心が軽い。今ならアホ共を総スルーできる気がする♪


 

 「そのお粗末な頭じゃ判らないでしょうけど、雪の国は様々な流行を作り出しているのですわ。ドレスに宝飾品、音楽だって最先端なのは我が国。どう、素晴らしいでしょう?」


 「そんな浮ついたものを誇るなど所詮は氷で閉ざされた国だな」


 「何ですって!」


 「腹筋よしっ、背筋よしっ、大胸筋よしっ、上腕二頭筋よしっ――――」


 「勇者ぁ、結婚したら子どもは何人欲しいのじゃ?」


 「え?結婚とかは僕たちには関係ないんじゃないかな……か、カナデ」


 「あんな貧乳で地味な女は勇者は気にしなくてよいのじゃ。妾だけを見ているがよい」


 「あの花は珍しい色をしているな。よっし見に行こう」



 ……ブチっと私の中の何かが切れる音がした。たぶんアレだ、堪忍袋の緒が切れました!ってヤツだ。もういいよね、私十分頑張ったよね?遠慮なんてする必要ないよ。


 こ の ア ホ 共 に 何 を し た っ て 許 さ れ る よ ね ?



 魔力で首輪と鎖を作り、フラフラと単独行動をしようとする弓使いに投げ縄の要領で首輪を投げつける。弧を描き、首輪は弓使いの首にかかる。キュッと首輪が締り、弓使いの首にフィットする。そして鎖を引き寄せ、弓使いを足元に這いつくばらせる。



 「あぐぅ……」


 「集団行動の出来ない駄犬には首輪が必要よね?」


 「な、何をしておるのじゃ!その男は公爵家の令息じゃ、お前のような下賤な者が逆らってよい相手ではないぞ」


 「か、カナデ、仲間に乱暴は良くない、と思うよ……」


 「黙れ、行き遅れの処女ビッチと八方美人のヘタレが。お前たちのくだらない恋愛ごっこに巻き込みやがって。私に関係ない場所で乳繰り合ってろ。大体ヘタレ、この行き遅れにお前がハッキリ言えば、私の心が害されることは無かったんだよ。優柔不断のクソ野郎が」


 「でも……」


 「お前のデモデモダッテにはウンザリなんだよ、この言い訳野郎。本来このパーティーはリーダーのお前が仕切るはずだったんだよ。なのに私にばっかり縋りつきやがって……それがこの体たらく。何が(つわもの)を集めたパーティーだ、集団行動も個人の感情も抑えられないアホ共ばっかり。仕事なんだから少しは我慢しろよ」



 黙り込むパーティーメンバーの中で、聖女だけが私を睨みつけていた。



 「言わせておけば……このドブスの黒魔女が!!」



 そう言って聖女が私に光属性の攻撃魔法を放つ。攻撃魔法は光の矢でその数は100本を軽く超えるだろう。それらが降り注ぐ中、私は腸が煮えくり返る思いだった。


 ドブスですって?私はブスじゃなくて平凡顔なのよ!さっきは私の事を貧乳って罵っていたし……ちょっとは揉める私と違って、お前揉むところのない絶壁だろうが!


 瞬時に魔力障壁を作りだし、すべての矢を受けきる。



 「うそじゃ……」



 何が嘘なものか。攻撃魔法が魔力障壁に阻まれるのは必然(・・)だというのに。


 私は懐から白の扇子を取り出す。この扇子はフェニックスの羽に世界樹の枝、精霊王の涙など希少な素材が使われている。御爺ちゃんが誕生日にくれた魔法媒介だ。普段は使わないが、ここぞという時に使うことにしている。扇子の効果は主に攻撃魔法の能力の増幅。そしてこの扇子、ものすんごい丈夫なのだ。百人乗っても大丈夫な某物置なんて比べ物にもならないほど頑丈な造りをしている。



 「パーティーメンバーの精神を攻撃するだけじゃなくて、物理攻撃もするんだ? さすがは慈悲深い聖女様ね」



 右手を身体強化し、手近な岩を扇子で叩く。


 ――――バコーンッ


 木端微塵に岩が吹き飛んだ。



 「ひぃぃいい。わ、妾は聖女だぞ!妾に何かあれば光の国が黙っておらん」


 「だから何? 人類滅亡の危機の今、聖女が一人死んだところで何も変わらないよ。それに今は魔王討伐の最中、聖女は命がけで戦って死んだって言えば皆納得してくれるよ。ああ、慈悲深い聖女様!貴女のおかげで世界は平和になりました!ってね。なんなら、そこの貴女のお気に入りの勇者との恋物語でも捏造してあげようか? 平民はそういうの大好きだからね」


 「ああ……」



 聖女が顔を青ざめながら失禁していた。ちょっとやり過ぎたかな……うーん、別にやりすぎてないね!


 ちらりと他のメンバーに目を向けるとよく判らないことになっていた。勇者は脅えた表情で私を見つめ、槍使いは私に跪いている。王女様は顔を仄かに赤らめ、第五王子は不機嫌そうな顔で此方を見ている。弓使いは……跪きながら何故か私の靴を舐めている、汚いから止めろ。何ですのこの状況。



 「ええっと、何か?」


 「なんという圧倒的な強さ!尊敬しますぞ、カナデ殿」



 暑苦しいぞ、槍使い。私は筋肉主義者にはならないからな!



 「束縛がこんなに心地いいなんて……僕を貴女の飼い犬にして下さい!ご主人様」


 「うせろ」


 「きゃいんっ♡」



 蹴り飛ばしたらいい声で泣きやがった……弓使いは真性の変態だ。



 「……羨ましい。カナデ、あたくしも貴女の物にしてぇぇ」



 王女様も変態だった。あれだけ強気に第五王子と口論していたのにSじゃなくてドMなの!?



 「……」


 「どうして蹴ってくれないの!?あたくしが王女だから?」


 「何で蹴り飛ばして喜ぶって判っている女に私が奉仕しなきゃならないのよ。あと気安く名前で呼ばないで穢れる」



 思わず汚物を見る目で王女様を見てしまった。だってしょうがないじゃん気持ち悪いんだもん。



 「はうん♡ お姉様、あたくしを傍に置いて下さいまし~」



 弓使いと競うように私に擦り寄る王女様……本当に王女様だよね?

 王女様の皮を被った変態って言われた方が納得できるんだけど……。



 「どうして酷い目に遭っているのに、俺に相談してこないんだ、カナデ!」


 「貴方がそれを言う!?」



 お前も私を苦しめていた一人だよ、第五王子!





 ――――ズドーンッ



 轟音と一緒に地面が揺れる。状況を確認するため、音の方向を見ると、10メートルほどの魔族が悠然と立っていた。尻尾は蛇で胴体はドラゴン、そして二つの狼の頭。統一感無さすぎぃぃいい。



 「「愚かな人間の勇者たちよ、魔王軍四天王が一人ドラーフがすり潰してやろう」」



 2つの狼の頭部が喋るだけで大地が揺れる。そんなことよりも私は四天王と言う言葉に驚いていた。中ボス飛ばして四天王とは。このお粗末な勇者パーティーにレベルアップを許さずに大ボスを送り込むなんて……魔王軍参謀やりおる。



 「ひぇええええ」


 「どうしよう!」


 「腕が鳴るな!」


 「ああ、ご主人様ぁ」


 「お姉様、素敵」


 「おい、カナデ!俺の後に隠れろ」



 何このカオス状態。面倒くさい!!



 「王女様とダクラスさんは使えない聖女と勇者の護衛。駄犬は遠距離からの支援、第五王子殿下は駄犬の護衛、判った?」


 「判りましたわ!」


 「了解だ、カナデ殿」


 「ご主人様の命令……」


 「何故俺がお前に従わないといけないんだ!」


 「いいから従いなさい!」



 王女様は羊型の魔獣を召喚し、勇者と聖女の護衛に入る。槍使いも警戒態勢を取り、何が起きても瞬時に対応できるようにしている。弓使いも援護するために魔族の死角に隠れ、第五王子も何だかんだで弓使いの護衛に向かったのだろう。私は巨大な魔族と対面する。



 「人間の小娘一人で何が出来ると言うのだ? しかしその黒髪……何と珍しい、初めて見たぞ。気に入った! 小娘、お前は戦利品として持ち帰ろう」


 「私としてはアンタみたいな魔族のほうが珍しいんだけど、ねっ」



 光の矢を数本放つ。しかし魔族は避ける仕草もせず、平然と受け止めた。流石は四天王、なんつー防御力。ここはアレを使うしかないね。と言うか、こんな機会じゃないと使えないよね!



 「他愛無い攻撃だ。これで終わりか?小むす―――――!?」



 水属性の上級魔法である氷魔法を使い、魔族と同じ大きさのゴーレムを作り上げる。形状は某機動戦士を元にしている。土じゃなくて、より魔力を使う氷を使っているのは、単に見てくれがいいからだ!私の日頃のストレスを存分にぶつけさせてもらうぞ、四天王の……な、名前忘れた。


 まあいい。燃え展開は始まったばかりじゃーーー!!



 「行け、クリスタルガ●ダム!! 目標を駆逐せよ!!」



 10メートル級の怪物同士の戦い。やっぱり巨大ロボには同じ大きさの敵じゃないと盛り上がらないよね!しっかし、四天王固いな。防御特化なのかな?すごい怪力でもあるみたいだけど……。


 クリスタルガ●ダムの打撃攻撃を受けても膝をつかない四天王。両腕を破壊され、クリスタルガ●ダムのほうが四天王に押されている。強い……頑張ってクリスタルガ●ダム!動かしているの私だけど。



 「ふんっ、デカいだけの木偶の坊だな」



 私の芸術品を木偶の坊ですって!?でも、ボッコボコに殴られているから言い訳も出来ない。前世のガ●ダムファンの方に合わせる顔がないよぉ。しょうがない……



 「芸術は爆発だぁぁぁあああああ」



 火属性の最上級魔法を魔族に向けて放つ。瞬時に魔族がそれに気づき、馬乗りになって殴っていたクリスタルガ●ダムから退いた。


 魔法の直撃を受けたクリスタルガ●ダムは消滅した。さらにクリスタルガ●ダムでも相殺し切れない魔法の余波により、半径50メートル程が焦土と化した。森林伐採?温暖化?知らないよ、ここは地球じゃないからね!


 私は再度クリスタルガ●ダムを構築する。



 「驚いたぞ……その魔力量に攻撃力に構築力、人間にしておくには実に惜しい」


 「はぁ!?この程度、魔法使いなら普通よ。ちなみに私の御爺ちゃんなら塗装と性能まで完璧に再現できるわよ、むしろカッコいいSE付きよ!」


 「小娘よ、普通というのを勘違いしてないだろうか……」



 四天王が無駄口を叩いているうちにクリスタルガ●ダムをカスタマイズする。両手に男のロマンであるドリルを装備させ、キュイーンと回転させる。ドリルには風属性の上級魔法である雷魔法を使い、パチパチと火花が散る演出を加えた。何で無駄な魔力を使うようなことをするのかって?カッコいいからだよ!


 

 「もう一度よ、クリスタルガ●ダム!あの四天王の……ど、ドラ……ドラちゃんをやっつけるのよ!!」


 「誰がドラちゃんだ!!」



 怒りに任せて突進してくる四天王。私は土魔法を使い巨大な植物を成長させ操り、四天王の足を引っかけた。


 ――――ズドーン


 うつ伏せに転ぶ四天王。その上にクリスタルガ●ダムを乗せて動きを封じる。そしてドリルを最大限に回転させ、四天王の背中に突き刺す。


 氷のドリルは四天王の鋼鉄の皮膚を突き破り、火花と一緒に血しぶきが舞う。どうやら、ドリルに纏わせている雷魔法がいい感じに四天王の再生能力を抑えている。無駄じゃなかったね!



 「ぐぁぁああああああああああ」



 肉体を抉られ、四天王は断末魔の叫びを上げる。

 ドリルが四天王の肉体を貫通したところで私はクリスタルガ●ダムを消す。


 飛行魔法を使い、四天王の上に飛ぶ。私の周りには白銀に輝く10本の剣が浮かんでいる。これは神属性の上級魔法で、刺した相手を消滅させる威力を持つ。


 私はじっと、あのセリフを待つ。



 「こんな、小娘にしてやられる、と、はな。早く殺せ。四天王最強、このドラーフを打ち取る栄誉を――」


 「ええっ、ドラちゃん四天王最弱じゃないの!?」



 ここは『我は四天王のなかでは最弱……』とか言うところだよね?勇者たちの未来に恐怖を植え付けるところでしょ!


 「あ……」


 動揺した私は魔法の制御を疎かにしてしまう。

 白銀の剣の一本が落ちる――そしてドラちゃんにサクッと刺さってしまった。

 四天王ドラちゃんは跡形もなく消滅した。




 ……私ってばうっかりさんね、てへっ。



 「お、終わりよければすべてよしっ! 四天王ドラちゃん、打ち取ったり~」









 あれから数か月。最初はバラバラだったパーティーもどうにか纏り、魔王城に到着することができました。ドラちゃん以外の四天王も駆逐済み。あとは魔王と参謀を残すのみだ。あと少しで辞職への道が開けるぞぉ。


 ちなみにパーティーのフォーメーションは前衛に私・第五王子・勇者。中距離アタッカーに王女様。後衛に弓使いと聖女様で二人の護衛に槍使いだ。勇者と聖女様も今では従順にパーティーに尽くしている。よかった、よかった。



 「さて、謁見の間の扉まで来た訳だけど……勇者、開けなさいよ」


 「何故ボクが……」


 「アンタがリーダーでしょ。それに扉を開くのは勇者と相場が決まっているのよ。ねぇ聖女様?」


 「は、はいいい。そうじゃな、カナデ様の言う通りじゃ。勇者、早く開けないか」


 「ええっ」


 「ご主人様……この卑しい犬に命令を……」


 「ちょっと抜け駆けは許さないわ! お姉様、あたくしに……」


 「失せろ変態共が。魔王の餌にしてやろうか?」


 「「はうん♡」」


 「ああ、筋肉が高揚するな!カナデ殿」


 「知らんわ!暑苦しい」


 「カナデに近づくな!」


 「勇者、早く扉開けて!」


 「はぃぃいいい」



 ――――ギィィィイイイイ



 重厚な扉が開いた。

 広い謁見の間の奥にある玉座には、魔王が座っている。

 魔王の傍にはひょろひょろの人間が立っていた。あれが参謀だね。


 厳ついライオンの顔……さすがは獅子魔族。やっぱり、もちもちのライオンみたいな外見じゃないのね、つまらない。


 

 「よく来たな、勇者とその仲間た――――」



 ――――ガシャン


 巨大な氷の檻で魔王と参謀を私は閉じ込めた。お約束のセリフ?そんなのドラちゃんの時に砕け散った夢だよ。私は早く帰りたいの!辞職したいの!転職したいの!こんなところで油売っている暇は無いんだよ。それにしても――――



 「お前たちだけは許さない!!!!」



 よくも、よくも、私の仕事を増やしてくれたな!おかげで過労死するところだったわ!!私の恨みを得と味わえーーー!!!



 「え!?ちょ、ま――――」


 

 神属性の攻撃魔法をこれでもかと私はぶち込んだ。

 他のパーティーメンバーは無言だ。変態共と筋肉は何やら興奮しているみたいだが。


 攻撃を止めて、砂埃が落ち着くのを待つ。




 参謀は予め魔力障壁で守っていたので無事だ。気絶はしているけどね。

 魔王は虫の息だ……良かった死んでいなくて。


 「勇者」


 「はいいいい!何でしょうか」


 「魔王にトドメ」


 「え!?でも……」


 「いいから!」


 「了解です!!」



 勇者が魔王に駆け寄り、聖剣で一突き。魔王は勇者によって倒された。

 面倒事は勇者が負うべきだよね、リーダーだし。



 「変態共、参謀を拘束して」


 「「了解です」」



 参謀が何所から取り出したかわからないロープで変態達に縛られている。あれは……亀甲縛りというヤツじゃないかな……詳しくは知らないけど。やっぱりあいつ等ガチ勢だ。


 まあ何にせよ、これで仕事はほぼ終わり。後は参謀を連れて光の国に戻るだけだ。やっと転職できる!ああ、顔がニヤけるぅ。悠々自適なスローライフを送るのだ。



 「じゃあ、帰ろうか♪」


 「そうだな、カナデ殿」


 「「……はい」」


 「はい、お姉様」


 「ご主人様の御心のままに」


 「これで陛下から褒美がもらえるのは確実だろう。お前には身に余る栄誉だな、カナデ」



 第五王子が顔を真っ赤にさせながら言った。何怒ってんの?私が褒美を貰うのが許せないの!?絶対に褒美は貰うんだからね!宮廷魔術師を辞めるんだから!! 



 こうして私の魔王討伐の旅は終わった。この後、自分たちの国に来て欲しいと言う変態共と筋肉に戸惑った。もちろん拒否したよ。だけど変態共は、だったら空の国に行くって煩いし、諦めさせるのが大変だった。魔王を瀕死にさせた時の方が簡単だったよ。


 魔王を倒した私と第五王子は、空の国に帰還して直ぐに凱旋パレードに駆り出されるようだ。疲労困憊の身体に鞭打つ仕打ち……ふふ。




 待ってろ陛下!絶対に辞職してやるからなー!!




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