魔法少女は魔法武芸大会に出場しました 6
魔武会までの2週間は会場設営やらなんやらで授業はお休みだ。
それを利用してわたしたちは合宿をすることにした。
という訳で……
「やって来ました、我が実家!!」
ででーん!!入学してから久しぶりに帰って来たどー。
だけど転移魔法ですぐだから、あんまり帰省したって感じがしないよね。
深い森にある立地で特殊な結界も張ってあるし、これなら腹黒策士たち(ガブリエラ先輩とベルナさん)に情報収集される心配もナシ!それに魔物も多いこの森なら修行になるし、家があるから身体を休める。そして何より、ここには御爺ちゃんの残した魔法関係の資料がある!!
ふははは、持つべきは偉大なる祖父なりっ!!
「ここが伝説の魔法使いが住んでいた家……」
「貴重な研究資料……じゅるり……」
「こんなに見るからにヤバそうな森初めて見たね、サーニャ」
「うん、面白そう。早く探検したいね、サーリヤ」
「荷物を置いたら森で狩りをして、夕食にしよう」
「「 は~い 」」
「その前に研究資料を――」
「お黙り、サルバドール!!」
「うぐぅあああ」
ロアナの鉄拳制裁が素早くなっている。
友人の悪い意味での成長から目を逸らしつつ、とりあえず私は家の中を案内することにした。
♢
家の次は森を案内することになった。
ちなみにこの森全体は御爺ちゃんの所有物だった。今は相続したから私の森だけどね。ちゃんと国に承諾を得ているよ。所有主として森に出る魔物を定期的に減らさないといけないんだけど……半年以上放置だね!魔物が活性化してそうだ。
「この森の中には色々な魔物がいるからね、訓練になると思うよ」
「ダメだわ……危険よ……良くないものを感じるわ……」
ロアナは自称霊感持ちのような痛い発言を繰り返している。サーリヤ先輩たちは、はしゃぎっぱなし だ……この人達は本当に15歳なのだろうか?時々疑問に思う。サルバ先輩は興味深そうに森の中をキョロキョロと見回している……セレブには森が珍しいのかな。
「あっ500メートル先に魔物発見。種類は……キンバリーベアか。ベア肉って臭みが強いんだよねー」
「カナデ、どうして判るんだ?」
「えっ遠隔透視と気配察知の魔法を使っているからだけど?」
「何!? それを同時に扱えるようになれば……魔法陣ならば可能だ!!」
サルバ先輩が熱くなりだした。うっざい。
「そこじゃないでしょう、サルバドール!! キンバリーベアは上級の魔物よ!」
「魔物に階級とかあったんだ」
「知らなかったのカナデ!?」
「あっカナちゃん、ベアちゃんがコッチに猛スピードで突進してくるよ」
「きゃっはは~早い早い!!」
「「風よ、悪しき者を取り囲めウィンディーサークル!」」
サーリヤ先輩たちが元気よく詠唱すると、キンバリーベアは上空に舞い上がった。
「「アーンド、貫け閃光!!」」
最低限の詠唱で巨大な光の矢が2本サーリヤ先輩たちの前に現れ、そのまま一直線にキンバリーベアへと向かう。
――――グビャァァァアアアア
上空で身動きの取れなかったキンバリーベアに光の矢は直撃し、そのまま落下する。地に叩きつけられたキンバリーベアは絶命していた。
「すごいわ……」
「あれでもあの二人は2年生で魔法実技はトップだからな」
ロアナの呟きにサルバ先輩が答えた。
どうやらチートキャラがいるのは第五王子のチームだけじゃないみたい。
「それじゃ、サクサク侵攻するよ! どうせならベア肉じゃなくて、もっと美味しい肉を調達したいし」
「「りょうかーい!!」」
「どうせ食べるなら、ワイルドタイガーの肉がいいな。ここにいるといいんだが……」
「いるよ、サルバ先輩。だけどあんまり見かけないレア魔物なんだよ。逃げ足が速くってさ」
「ワイルドタイガーも好戦的な上級魔物よ。それが逃げ出すってどういう状況なの? 常識人はいないの……?」
ロアナがぶつぶつ言っているが、気にしない。
まったく、集中してくれないと困るよ!今夜の夕飯がかかっているんだからさ。
結局今日は、キンバリーベアとワイルドタイガー、ウルフを3匹狩りました。
そして何だかヤケクソ気味なロアナが調理してくれたよ!
家の嫁の料理はやっぱり最高だね。
♢
さて、あれから私たち黒組の修行の日々は続きました……って言えたら良かったのだけど、如何せんやることが多くてね。私は錬金術で武器や杖を作り、サーリヤ先輩たちは戦闘服を縫い上げた。ちなみに武器や戦闘服の素材は学園指定の物を使っている。お金の力で無双されたら困るかららしい。経費が掛からなくていいけど、もし学校指定以外の素材を使ったら不正となって問答無用で罰則だそうだ。そうしたら単位が取れなくなるから、私たちは誰一人として不正を働こうだなんて思わなかったよ!
そしてサルバ先輩は魔法陣を使った戦術道具を作っていた。光属性しか持たないものが水属性の魔法が使えないように、魔法には適性というものが重要になってくる。魔法陣はそれらを補うことが出来るらしく、陣を書く手間はあるが自分の適性以外の魔法を使うことができるそうだ。めっちゃ便利やないかーい。魔法陣を正直侮っていたよ。サルバ先輩との共同発明と言っていいのか判らないけど、私もアイデアをだしたりしてサルバ先輩を手伝った。
ロアナは魔法使いしかいないバランスが悪すぎるこのパーティーの戦術を必死に練り上げていた。魔法武芸大会なのに武術使うメンバーがいないっていうね。しかもこれは予想外の問題だったんだけど、私の実家に引き籠ることで腹黒策士たちにこちらの情報を与えないようにした結果、私たちも相手の情報が一切得られないっていうね。こんなんで作戦立てられるのか状態だよ!
基本的に午前は個人に与えられた仕事をして、午後は森に行って連携や戦闘力の底上げをした。そのおかげで最初はバラバラだったチームワークも良くなった。心配なのは魔物と戦ってばっかりで対人戦の訓練をしていない事だね。すごい心配!!
そんなこんなでロアナが御爺ちゃんの隠していた、えっちぃ本見つけて家が水没寸前になるとか色々事件は起きたけど、概ね順調に進んだよ。
という訳で、今日は魔武会の当日さ!
「まさか団体戦登録チームがわたしたちの黒組とマティアス殿下の白組しかいないとは思わなかったわ……」
「もう最低でも準優勝は決定だよ。盛り上がんないね!」
私とロアナは軽口を叩きつつ、個人戦(魔法なし)決勝を偵察していた。決勝に駒を進めたのは第五王子と4年生の先輩だ。本当に強かったんだね、第五王子。
「始めっ」
審判の掛け声と共に決勝戦が始まった。
先に動いたのは第五王子。相手に一直線に向かったと思ったら一瞬にして消えた。
文字通り『消えた』のだ。
次に第五王子が視界に現れた時には相手の後ろに立っていて、相手の防具は留め具がすべて壊されてずり落ちていた。
まさに瞬殺。
決勝戦だよね?
「きゃぁぁああああ、マティアス殿下ぁあああ」
「かっこいいいいいい、そしてかわいいいいいいいい」
「「……」」
金切声を上げる女子たちの影で私とロアナの思いは一つだった。
『 あ れ と 私 た ち 戦 う の ? 』
アイツ本当に9歳かよ!相手の先輩20歳ぐらいだよ!?噛ませ犬にもなってないよ。
哀愁漂う相手の先輩の背中を、会場にいる大半の人々共に見送った。
「本格的にやばいね……魔法使用可の個人戦はエリザベート会長が優勝だし」
「わたしたちを苛めて楽しいのかしら……」
「貴族の遊びでキツネ狩りってあるよね」
「……」
「沈黙は痛いです、ロアナさん」
刻一刻と団体戦の時間は近づいて行った。
♢
「聞いてよサルバ~。アタシらペア戦の賭けで大穴当てだんだよ!」
「これで新しい楽器が買えるね!サーニャ」
「煩いぞ、双子。今魔法陣の最終調整をしているんだ……はっそうかこの部分を短縮化させれば魔力消費がさらに抑えられる……しかし応用性は減るか……」
「「ねえねえ聞いてってば~」」
団体戦の選手控室にはいつも通りの先輩たちがいた。マジ鋼メンタル。
「「カナちゃん、ロアナちゃんやっほほ~」」
「おはようございます、先輩方」
「やっほほ~です、サーリヤ先輩、サーニャ先輩。それとついでにサルバ先輩」
「カナデ、この魔法陣についてなんだが――――」
「ああ~はいはい」
「悩んでいるのが馬鹿らしくなって来たわ」
私たちは私たちらしく試合をしますか!
♢
競技場には仁王立ちの第五王子とメンバーがいた。
「ふんっ逃げずに来たことだけは褒めてやろう。貴様らが不平を言わないようにこちらも5人で戦いに臨む。絶対に俺に服じゅ「来ましたわね! 後輩とはいえ容赦はしませんわ!」」
第五王子の話に被せてきたエリザベート会長。態とじゃないんだろうな、うん。そして私はエリザベート会長に乗っかるぜ!!
「ええ、こちらも全力で行きますよ。覚悟して下さい会長!!」
「正々堂々、良い試合をしましょう」
「はいっ」
ガシッと握手を交わす私と会長。これだよこれこれ!私が求めていた熱い展開だよ!!
「俺の話を聞け!!」
ああ~聞こえないなぁ。
「1分後に試合が開始されます。選手は所定の位置へ移動して下さい。繰り返します――」
開始予告のアナウンスが聞こえたので、私は会長と第五王子に背を向けて仲間たちの元へ向かう。
すると背後から第五王子の捨て台詞が聞こえた。
「勝つのは俺だからな!!」
くるりと回って振り返り、私は不敵に笑う。
ここは挑発をしておきますか。
だって勝負はすでに始まっているのだから。
「勝つのは私たちですよ」
私の声が第五王子に聞こえたのか判らない。
だけど私の馬鹿にしたような顔は見えたはずだ。精神攻撃が基本だよね!
おーおー、屈辱で顔が歪んでら~。作戦成功!
挑発に乗るのは愚かなのだよ!9歳児に大人げないって?いいんだよ、今の私は7歳児だからさ!
「カナデ遅いわ」
自陣へ向かうと他のメンバーは揃っていた。身に着けている服はサーリヤ先輩がデザインしてサーニャ先輩が縫い上げた至高の一品。黒を基調としていてカッコいいが、どうにも悪役っぽいのだ。いや、私は好きだけどね、悪役。
そして対する敵である第五王子陣営は白の戦闘服を着ている……向こうは白組だからね。それと向こうには美形しかいないからだろうか……正義の味方っぽい。という事は私たちが悪役!?顔面格差社会!?そんな事ないよね……ボサ眼鏡のサルバ先輩と平凡幼女の私以外は可愛いもん……サーリヤ先輩男だけど。
「遅れてゴメン」
「「大丈夫だよ~」」
「早く実戦で魔法陣を試したいな……」
「最後まで纏まりがないわね……」
溜息を吐くロアナ。心なしか以前よりやつれている気がするぞ……苦労をかけてすまんな。よっし、ここはいっちょ私が盛り上げますか!
「これは純然たる試合よ!この機会に単位と一緒に学内での地位を確立するのだ。目指せ、楽しい完全無所属ライフ!!面倒な権力何てクソくらえ!!今こそ日頃の鬱憤を晴らす時……そう、すべては単位と我らの自由の為に、いくぞ黒組!!」
「「おお~、権力者をぶったおせ!!」」
「そうか……今日は合法的にあのいけ好かない男に制裁を加えられるのね、うふふふふ」
「相手は戦闘能力の高い者ばかりだからな、遠慮なく実験できる」
ん?本格的に私たち悪役になって来たんですけど!!おかしいな友情・努力・勝利をスローガンにしていたのに……まっいいか。仲良きことは美しきかな。
――――ゴーンゴーンゴーン
始まりの鐘が会場に鳴り響く。
私は拳を勢いよく振り上げ、叫ぶ。
「革命じゃぁぁぁああああああ」
「「「「おおーーーー!!!」」」
こうして黒組対白組の戦いの火ぶたは切って落とされた――――
遅くなって申し訳ないです。漸く、戦いが始まりました。
後日談合わせてあと3話ぐらいで魔法武芸大会編は終了予定です。
では次回をお待ちくださいませ。