魔法少女は魔法武芸大会に出場しました 3
憤怒の表情で私を睨みつける第五王子、黙々と昼食を取りつつ面倒事は早く片付けろと視線で促すロアナ、そしてそれらをまるっと無視する私……うーん、カオスだね!
しかしずっとこの状態では良からぬ噂が立つかもしれない。ここは穏便かつスマートに対応して第五王子には消えて貰おう……この言い方だと何だか物騒だな。世の中、平和が一番だよ!ラブ・アンド・ピースッ!
「勝負って何の事ですか?身に覚えがないのですが……」
「身に覚えがないだと!? 3日前の武芸の授業での事を忘れたとは言わせないぞ!」
「あぁ……」
ここで忘れたって言ったら、さらに面倒な事になるんだろうな……でも覚えていないよ。何かあったような、無かったような。誘拐事件とサルバ先輩のキャラが濃すぎて、第五王子の事なんてかき消されちゃっているし。どうするかなぁ。
「カナデ嬢は忘れているようですよ、マティアス殿下」
ひょこっとベルナさんが出て来た。おい、どっから湧いてきた。
「なっ……王族との会話を忘れているだと……?」
「何と言いますか、実に執念深いですね」
「俺は王族としての言動に責任を持っているだけだ!」
「つい先日まで我儘好き放題だった馬鹿王子が何を言っているんだか」
「おいベルナ! 主人になんて口を……」
「はいはいー、敬って欲しいなら、それ相応の威厳を身に着けて下さいねー」
「な……」
じゃれ合う王子と側近を横目に私はロアナに問いかけた。
「ねえロアナ、第五王子と私が勝負するって武芸の授業中に言ってた?」
「言っていたわね。わたしも今まで忘れていたけれど……正直インパクトの薄い出来事だったもの」
「うへぇ、本当に言っていたんだ。 全然覚えていないよ……」
「王族の言動は何よりも強いわ。これからは気を付けなさいよ」
「はーい」
ギャーギャーと騒いでいた第五王子がくるりと此方を振り向き言い放った。
「そう言う訳だ。そこの木刀を持って俺と勝負しろ!」
「え? 嫌です」
無理無理。蛇腹剣素振りして思ったけれど、私には武芸の才能は皆無だ。負け戦に参加するほど私は酔狂ではない。さっさと負けて第五王子と距離を置く策もあるけど……ダメだ、第五王子のムカつくドヤ顔しか浮かばないよ。
「なっ……」
「貴方は馬鹿ですか。素人相手に自分の得意分野で勝負しろだなんて……しかも年下の女の子に」
「年下……そう言えばそうだったな。子どもらしくないから忘れていた」
「し、失礼な。正真正銘の……ナナサイジデスヨ」
思わず目が泳ぐ。前世年齢を足せば二十代……いやいや、前世の年齢を足すなんて聞いたことないし。私からオバサ――じゃなくて、年上の魅力が出ているわけじゃないよね?何が言いたいかと言うと、私は幼女だよ!!
「とにかく、剣術勝負は無しですよ殿下」
「だがそれでは……」
「魔法武芸大会で決着をつけてはどうでしょう?」
ベルナさんは爽やかな笑顔で提案した。
しかしまさか……魔法武芸大会だなんて。
よりにもよって魔法武芸大会だなんて。
そう――――
「魔法武芸大会ですって…………ねえロアナ、魔法武芸大会って何?」
取りあえず深刻な顔をしてみたけれど、私は魔法武芸大会って知らないんだよね。ここは我らがロアナさんに聞くべきだよね。困った時のロアナさん、マジ頼りにしてるぅ~。
「はぁ……そんな事だろうと思ったわ。魔法武芸大会はルナリア魔法学園で4年に一回開催される武芸大会の事よ。魔法無しと有りの個人戦部門、2対2のペア部門、そして……団体戦部門。殆どは魔法騎士科の3・4年生の活躍の場ね。ちなみに各国の要人が大会当日に見学に来るわ……いったいどう言う裏があるのかしら?」
「裏などありませんよ、ロアナ嬢。僕はただ剣術が得意な殿下と魔法が得意なカナデ嬢が勝負出来る機会があると進言しただけです。知っていますか、カナデ嬢。魔法武芸大会に出場して活躍すれば武芸の授業で好成績を貰えるんですよ?」
「ええっ本当に!?」
第五王子との勝負はどうでもいいが、単位は欲しい。だってこのままじゃ絶対に単位取れないもん!七歳児に考慮された授業じゃないしさ。
「個人とペア部門は武器の使用が必須ですし……団体戦部門でよろしいかと思います。お互いの得意分野と、それ以外の全く別の要素での勝負になりますから……剣術勝負よりは公平かと」
「ではそうしよう。俺が勝ったら黒髪、お前は俺の言う事を何でも聞け。お前が勝ったら何でも好きな物をくれてやる」
尊大な口調で言う第五王子。もはや上から目線がデフォルトだね!
今の私の頭の中は『単位』でいっぱいだった。少々面倒だが、武芸授業の単位が取れるかもしれない。煩い第五王子なんて眼中になかった。
「単位単位単位単位単位単位単位……」
「では、カナデ嬢も了承して下さったみたいですし、参加の申し込みをしてきますね」
「逃げるなよ、黒髪!!」
「単位単位単位単位単位単位単位単位単位単位……」
「お前、人の話を……」
「はいはい、行きますよ殿下」
ベルナールに引きずられて第五王子は去って行った。
「カナデ……大変な事になったわよ。あの胡散くさい男に乗せられて……」
「え、どういう事?」
「魔法武芸大会で団体戦は花形と言うか……学園内でのヒエラルキーを示す場でもあるの。今年は誰かさんのせいで派閥関係がぐっちゃぐっちゃになっているから出場者は少ないと思うけれど……色々面倒ね。団体戦って事はメンバーも集めなくちゃならないわ。最低5人……カナデ、あてはあるの?」
「ぐぬぬ……」
「つまりわたしが言いたいのは、これを期にカナデに恩を売ろうとする貴族が現れると言う事よ」
「ええっ、上流階級に借りなんて作りたくないよぅ!ホワイトデーの三倍返しより吹っかけられそうだしっ」
「ほわいとでーが何かは知らないけれど……何の人脈もないカナデは今、ピンチなのよ」
「のぉぉおおおお、全然公平じゃない!!」
「たぶんあの男は、カナデを魔法武芸大会に参加させることで王子が勝つ場を作りつつ、己の知識欲を満たす事が出来る……とか考えたんじゃないかしら。他にも別な黒い思惑が幾つも考えられるわね」
「べ、ベルナさんってヤバイ人?」
「そうね。わたしの印象だと狡猾な貴族の面を持った魔法馬鹿って感じかしら? ある意味同じ貴族で可笑しな方向に魔法馬鹿のサルバドールとは正反対ね」
初対面の時に何だか本能的に近づきたくないなぁと思っていたけれど、本当近づくべきじゃない人だったなんて……私の中の野生の本能、馬鹿にできねぇ!これからは本能に忠実に……いや、それだと人としてダメだから、それなりに本能に忠実に生きていきたいと思います!!警戒心は常にMAXだよ!
「はぅぅ、今から勝負の変更を……」
「無理ね。今頃参加申し込みをしているだろうし、カナデの逃げ道は塞いでいると思うわ」
「どどどどうしてこうなった!」
「単位に目が眩んだから……違うわね。第五王子とあの男に目を付けられたからじゃない?良かったわね、モテモテよ」
「そんなモテ期望んでないよ! もう、どうしたらいいのさ。私とロアナ以外のメンバーをどう賄えばいいの……?」
「わたしは強制参加なのね……」
私は自身の劣勢に歯噛みする。
前世のとある偉大な冒険家が言っていました『勝負はスタートする前に決まっている』と。私も誇らしげに言う立場になりてぇぇえええ。もう王族と貴族からの勝負は受けないよ!!絶対に信用なんてしないんだからね!!
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単位……それは学生を苦しめる呪縛であり、教師の最大の交渉道具……なんつって。
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