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自称平凡な魔法使いのおしごと事情(旧ワーキングコンチェルト!)  作者: 橘 千秋
パパラッチ編 書籍3巻&コミカライズ記念
119/120

真夏日は突然に

自称平凡3巻、電子書籍ファーストで発売中!紙書籍は8月発売です。

それとコミカライズも決定!!


詳しくは活動報告をご覧下さい。




 季節は夏。

 私、カナデが所属する空の国では、未曾有の事態が起っていた。

 国の機関は麻痺し、人々は家に閉じこもり、苦しみの声が木霊する。



「いやー、マジ熱すぎ。コンクリートジャングルにいるみたいだよ」



 王宮の城門をくぐり、私は額に張り付く前髪をはらう。

 今現在、空の国は『100年ぶりのサラマンダーの大移動』とかいう、いかにも異世界的な現象によって連日酷暑となっていた。サラマンダーの軍団が地下を移動することにより、地上が暑くなる現象だ。


 元は日本の避暑地のように快適な気象が売りの空の国に住まう人々は、この異常な暑さに慣れておらず、また冷房設備なんかも整っていない。貴族も平民も関係なし暑さで苦しんでいるのである。



「はぁ、今から仕事とか怠いなぁ」



 通勤用に被っていた麦わら帽子を脱ぎ、パタパタと手で顔を仰ぐ。半袖のブラウスに綿素材のスカート、魔法使いのローブはなしと、クールビズを意識した格好だが暑いものは暑い。


 エアコンみたいな魔道具を作りたいとも思ったが、現在は酷暑続きのため水属性の魔石が高騰。入手困難な状況のため、どうしようもない状態である。



 ……まあ、夏フェスとかよりはマシな暑さだし、なんとかなるか。



 そう思いながら廊下を歩き、私は仕事場である王太子執務室の扉を開いた。



「おはようございま――――アツッ!」



 もわんとした空気に、私はたじろいだ。窓は閉め切り、床には厚手の絨毯。空気が篭もり、保温された室内は外よりも暑い。


 私がゲンナリした顔をしていると、いつも通りにピッシリとした服を来た王太子がキラキラとした笑みを浮かべた。


「やあ、カナデ。おはよう」


「王太子殿下。この部屋すごく暑いですけど、いつも通りの格好で大丈夫なんですか?」



 分厚い生地のジャケットに、スラックス、襟元はスカーフだなんて、我慢大会みたいな格好をしている。王太子の隣に座る宰相補佐様もいつも通りの格好だ。


 見ているだけで暑苦しい。


「大丈夫に決まっているじゃないか」


「さすがですね」



 上流階級にもなると、もしかしたら暑さを感じない秘術的なものがあるのかもしれない。なんて一人納得していると、革張りの椅子に座っていた王太子が、キラキラとした笑みのまま床にずり落ちた。



「お、王太子殿下ぁぁあああ!」



 慌てて私は王太子殿下に駆け寄る。彼は頬を上気させ、びっしょりと汗をかいていて絨毯に倒れたままだ。


 普通にやせ我慢だったのかよ!



「やっぱり無理しているんじゃないですか! そんな格好しているからですよ。とりあえずジャケットは脱いで、スカーフも外しましょう」



 ジャケットを脱がそうと王太子に手を伸ばすと、それを震える手で止められた。そして決意の篭もった瞳で私を見上げた。



「そ、それはできないよ……僕は王太子だか―――――」



 決死の言葉は途中で止まり、王太子は白目を剥いた。



「お、王太子殿下ぁぁあああ! 格好つけても、そんな状態じゃ台無しですから!」



 私は王太子の肩を何度も揺する。すると彼は白目を剥いたまま、口だけを小さく動かした。



「カ、カナデ……僕はもう無理みたいだ。お願いだ。僕の代わりに仕事を片づけてくれ。各国外交官の歓迎準備としゅざ――――」



 すべてを言い終わる前に王太子は気絶した。



 これって普通に熱中症だよね!? 早くなんとかしないと!



 焦る私は頼れる宰相補佐様へと視線を向ける。すると彼はペンを握り、書類を持った姿勢のまま白目を剥いていた。



「さ、宰相補佐様も死んでるぅぅうう!」



 王太子専属魔法使いになって早1年半。私に最大の受難が訪れようとしていた。



冷夏ですけど猛暑ネタ。

しばらくお付き合いください!

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