成績発表。終わりよければすべてよし
コロシアムの修繕は問題なく終わり、ルナリアワールドパークの利益はうなぎ登りだった。
結局、公開終了時刻まで働きづめで他のグループの展示を見られなかったけれど、ルナリアワールドパークは売上勝負でかなり上位を狙えるのではないだろうか。
そんな期待を胸に、私たちは学園祭の特設ステージ前に集まっていた。そこにはすべての生徒、並びに教員がおり、これから始まる閉会式を今か今かと待ち望んでいた。
「これで学園祭も終わりかー」
しみじみとした表情で私が呟くと、ガブリエラ先輩が扇子を口元に当てて上品に笑った。
「閉会式の後は片付けがありますよ。これが結構な重労働らしいのです」
「大丈夫ですよ、ガブリエラ先輩! 片付けこそ技術班の出番です。私の作ったゴーレムたちも、サルバ先輩の魔法陣も頼りになりますから!」
「良かったです。でも夢から覚めるみたいで、ちょっと勿体ない気もしますけど」
「いや……でも、そろそろ夢から覚めるのも悪くないと思いますよ……」
そう言って私は隣で涎を垂らしながら浮かれているロアナを見た。
「ああっ、夢の大金持ち! 銅貨の絨毯を敷き、銀貨のお風呂に入り、金貨のベッドに寝るのよ……」
「うわっ、完全に成金の思考だよ」
親友の変わりようにドン引きながらも、私はガブリエラ先輩に問いかけた。
「そんなに私たちの売上って凄かったんですか?」
「売上のみを考えればかなり。でも材料費だったり、宣伝費だったり、各商会からの借入金だったり、支出も多いです」
「ええー。利益は皆に分配されるし、それだと大金持ちにはなれませんよね?」
私が唇を尖らせていると、ロアナが血走った目で肩を掴んできた。
「わたしがそんなミスをする訳がないでしょう! あのね、カナデ。学園祭後の片付けは重労働だから、今回から秘密裏に特例が認められることになったの」
「特例って?」
「展示物の販売が認められたのよ。これは一部の生徒しか知らないわ。わたしは事前にいくつかの商会と取引して、その売買契約を交わしているの。この学園祭中も色々な商会に声をかけられて、ルナリアタワーから道端のタイルまで、ほぼ全ての物が売れる予定よ!」
「……えっ」
私の背に冷や汗が伝う。
「なんてボロ儲けの商売! わたしはこれで貧乏の呪いにかぁっつ!」
「あの、ロアナ。実はさ……」
私が話そうとしていると、ステージが急に暗くなる。
「カナデさん。閉会式が始まりますよ」
「負け犬共が悔しがる様を一緒に見物しましょうよ、カナデ!」
「いや、ちょっと話を――――むぐっ」
「いいから静かにしていなさい」
ロアナは私を後ろから抱きかかえ、口に手を当てた。
壇上には理事長が現れ、晴れ晴れとした笑顔を見せる。
「ルナリア学園祭は皆さんのおかげで大盛況となりました。私も理事長として誇りに思います。さて、皆さんも疲れているでしょうし、私の話はこれぐらいにして成績発表に移りたいと思います」
理事長は懐から紙を取り出すと、それを広げて読み上げる。
「最優秀賞はルナリアワールドパークです!」
その力強い言葉と同時に、会場が一気に盛り上がる。
歓声が広がり、私以外のチームメンバーが嬉しそうに笑っていた。
「当然の結果と思っていても、やはり嬉しいものですね」
「そうですね、ガブリエラ先輩! 裏工作の賜物です」
ガブリエラ先輩とロアナはお互いを労うように握手をする。
ロアナから逃れた私は、キョロキョロと辺りを見渡した。
「サルバ先輩とサーリヤ先輩たちは……」
「どうしたのよ、カナデ? 一番はしゃぎそうな貴女がやけに大人しいわね」
私がおろおろとしている内に理事長が壇上から去り、閉会式が終わった。
それと入れ替わりに、私の探し人であるサルバ先輩たちが現れる。
「「さてさて、皆さん! 盛り上がりはここから!」」
双子が叫ぶと、テンションの上がった生徒たちが壇上に注目する。
「サルバ先輩、サーリヤ先輩、サーニャ先輩、ちょっと待ってくださーい!」
私が人垣からぴょんぴょんと飛び跳ねて手を振ると、サルバ先輩たちが一斉にグッと親指を突き立てた。
「「さてさて、カナデ監督からの許可が出たところで。お待ちかねのサプライズターイム!」」
双子たちが元気よく飛び跳ねる。それと同時にサルバ先輩が手元の魔法陣に魔力を流した。
「「さてさて皆さんご一緒に~、5秒前!」」
「「 4・3・2……」」
何か盛り上がることが行われると思った生徒たちは、荒ぶるテンションに身を任せてカウントダウンを始める。
「待って。これはなんのカウントダウンかしら……? カナデ、何か知っているの!?」
「……あはは」
ここで浮かれていたロアナが初めて厳しい表情を見せる。そして私の両肩を掴み、思い切り揺さぶった。
「「……1・0!」」
カウントダウンが終了した瞬間、ルナリアワールドパークの方から轟音が響く。それはパークを取り囲んでいたゴーレムの壁が建物を破壊しながら背の高い筒状に変わっていく音だった。
「え、ちょっと待って。わたしの大金様が……大金様がぁぁああああ!!!」
ロアナの悲痛な叫びなどお構いなしに変形は終わり、次に筒から真っ赤な炎を揺らめかせた玉が発射された。
開き直った私は、肺いっぱいに空気を吸い込む。
「たーまやー、かぎやー!! 学園祭といったら、キャンプファイヤーだよねぇぇええ!」
私の声と同時に、夜空に大輪の花火が咲いた。それが断続的に続き、前世の花火大会よりも派手に打ち上がる。迫力満点だ。
「……綺麗」
「もっともっと打ち上げろ! 今日は祭りだぁー!」
生徒たちには好評なようで、盛り上がりは最高潮に達していた。展示で余ったドリンクや食べ物を分け合い、軽快なダンスを踊りながら花火を楽しみ始める有様だ。
そんな中、ロアナだけが膝をつき、絶望のオーラを発しながら地面を見ていた。
「お金が、取引が、賠償がぁぁああああ!」
「ま、まあ、サプライズ成功ということで。片付けも楽になったよ」
今回のことは、各部署の報連相が徹底されなかったのが原因だ。欲をかきすぎたロアナが少し悪いとも言える。
学園祭は延長となり、真夜中まで生徒たちのどんちゃん騒ぎが行われた。これが後に後夜祭となり、ルナリア学園の伝統となるのはまた別の話である。
……二ヶ月も更新ができなくて申し訳ありません。
これで学園祭編は終了となります。
書籍1巻発売記念で始めたのに、9/12に2巻が発売予定です。
うぁぁああああ! 本当に申し訳ありません。こんなに長くなるとは思わなかった!
また、2巻発売日近くに何か小話を投稿しますのでお待ちください。
書籍の情報は活動報告またはTwitterにて随時お知らせいたします。