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大盛況。従業員は大変です

カナデ視点に戻ります。

 ルナリアワールドパークは一番学園から遠い立地でありながら、開場と共に大・大・大盛況となっていた。娯楽施設もお土産屋も長蛇の列ができている。


 ガブリエラ先輩の各国上流階級への宣伝で興味を引き、ロアナが鍛え上げた精鋭たちが巧みに接客し誘導、そして正確なダイヤで動く猫バス風ゴーレムと私の転移魔法で招待客を次々とルナリアワールドパークへと攫う。この完璧な連携があってこそだろう。



「本当に前世のテーマパークみたいに人がいっぱいだなー。忙しすぎて、休憩が三十分も取れなかったよ」



 娯楽施設は最大三時間待ちで、飛び入り参加歓迎のコロシアムではエリザベート会長や第五王子などの大物が対戦し、これまた大盛況となっている。おかげでみんな目の回るような忙しさだった。


 私の仕事はというと、転移魔法で三十分に一回お客様をパークへと運び、施設に不備が見つかればすぐに直しに行くという地味だが大切な仕事をやっている。



「疲れた身体には、やっぱり甘いお菓子だよねー。タナカさんたちに会う前に食べておくか」



 待ち合わせ場所に着いたが、タナカさんたちはまだのようだ。私は手近な店で今話題の生チョコドーナッツを購入すると、早速ベンチに座って食べ始める。


 しっとりと冷えた甘めのドーナッツに、ミルクたっぷりのほろ苦い生チョコがかかっており、それらが口の中でとろけて融合する新感覚のおいしさにほっぺが落ちそうだ。


 手についた生チョコまで舐め取り、私は幸せな笑みを浮かべる。



「んまぁ~! さすがロアナが選び抜いた話題のお店だね」



 今回、このルナリアワールドパークの飲食店は学生たちで運営せず、すべて外部のお店に声をかけて出張支店というかたちで営業してもらっている。


 金と流行に敏感なロアナが誘致したため、祭り映えする有名なお店や、特徴的な商品を出す旬なお店が多い。


 売上の八割は飲食店側の利益として持って帰ることができ、尚且つ各国へ自社の商品を宣伝することができるため、彼らの熱の入れようもすごい。


 こういったプロを入れることで出し物のクオリティーを上げているのだ。だが、なんというか……これは本当に学生の主催するお祭りなのだろうか。規模が大きすぎる気がする。



「やれやれ。凡人にはついて行けない世界だね」



 残業帰りのOLのような憂いを帯びた溜息を吐いて黄昏れていると、コロシアムがある道の方から一際キラッキラと輝く美形三人組が、道行く人の視線を釘付けにしながら現れた。


 彼らはベンチに座る私を見て、大きく手を振る。



「カナデちゃーん!」


「ティッタお姉ちゃん、タナカさん、アイル! 来てくれてありがとう!」



 私はティッタお姉ちゃんに駆け寄り抱きついた。



「まあまあ、カナデちゃん! そのお洋服とっても似合っているわ。可愛い!」


「え……そ、そうかな?」



 私はビクリと肩を揺らし、頬を引きつらせた。

 今の私はゴシックロリータっぽい派手な従業員服に、黒のウサ耳をつけている。色々とギリギリな格好だ。確実にティッタお姉ちゃんが着た方が似合う。



「いつもと何か違うのか?」



 アイルはずいっと私に顔を近づけると、不思議そうに首を傾げた。



「デリカシー拾ってこい、このダサ竜!」


「なんだと!?」



 この格好を見て何も言われないのは、それはそれでムカつく!



「喧嘩は止めなさい、アイル、カナデ」



 そう言って優しい笑みを浮かべたタナカさんが私を抱き上げた。



「タナカさん! 学園祭、楽しんでくれている?」


「ええ、とっても。……カナデは楽しいですか?」


「うん! 忙しいけど、やりがいがあるよ」


「良かったです。昼食がまだでしたら、これから一緒にご飯でも食べませんか?」


「行く行く! 何を食べよっかなぁ~」



 オムライスやハンバーグなど、食べたいものを頭にたくさん浮かべていると、首から提げている連絡用の魔道具がブルブルと震えた。


 私は嫌な予感がしながらも、魔道具の中央に描かれた魔法陣をタップする。



「もしもし、カナデでーす」


<こちらロアナよ。カナデ、エリザベート様とマティアス殿下の戦いでコロシアムが損傷したみたいなの。一時間以内に直してくれる?>


「ええー。今休憩中だよー。ご飯食べに行くのにー」


<コロシアムの入場料と飲食料は全体売上の15%を担っているのよ。ここが動くか動かないかが天下の分かれ道なの。次の演目も詰まっているし、早く復旧させなくちゃ>


「分かったよ。少ししたら行くから」



 沈んだ口調でそう言うと、再び魔法陣をタップして通信を切る。私は眉尻を下げてタナカさんたちに向き直った。



「ご飯食べられなくなっちゃった。私、技術部門の責任者だから行かないと。ごめんね」


「いいんですよ。次に帰省したときにたくさん話を聞かせてください」


「そうよ、カナデちゃん。みんなに頼りにされているんだから頑張って」


「ま、次に会ったときは全力で戦って遊ぼうぜ」



 口では慰めてくれるが、タナカさんたちは心底残念そうだ。

 私はお詫びの気持ちを込めて、ポケットから三人分の特別優待チケットを取り出す。



「本当にごめんね。娯楽施設に並ばないで入れて、食べ物とお土産が半額で買えるチケット。ぜひ、利用してね」


「ありがとうございます、カナデ」


「まあ、カナデちゃん。ありがとう!」


「カナデにしては気が利くな」


「いいってことよ!」



 私はふんぞり返って笑う。

 するとタナカさんがチラチラとパークを覆う壁を見ながら心配そうに問いかける。



「カナデ。あの壁はゴーレムでできていますよね?」


「そうだよ。よく分かったね!」



 パークを覆う壁はよく見ると、四角いゴーレムが積み重なってできている。しかし、今は機能を停止させているため、パッと見た感じではただの壁にしか見えないだろう。



「ゴーレムの中の術式は、どういった意図で組み込んだのですか?」


「むっふふ、サプライズだよっ。お祭りの最後までこうご期待!」



 私はグッと親指を立ててウィンクをした。

 するとタナカさんは頭が痛そうに額へ手を当てると、深く溜息を吐いた。



「……いえ。私の杞憂ならいいのです」


「? そろそろ行かなくちゃ。みんな学園祭を楽しんでね!」



 そう言って私が駆け出すと、タナカさんが珍しく大きな声で叫ぶ。



「カナデ、銀髪の男には注意してください!」


「うん?」



 私は後ろ向きに走りながら、タナカさんの言葉の意味も分からず手を振った。

 そして再び前を向き考え込む。



「銀髪の男……銀髪の男……そうは言っても、どう注意したらいいんだろう?」



 この世界の髪色はアニメのような派手なものが多く、銀髪も別に珍しいものではない。人化したタナカさんの髪色だって白銀色だ。

 

 それに『男』というだけでは注意しようがない。言うなれば、幼児も老人にも男がいるのだから。範囲が広すぎる。



(まあ、いいか。コロシアムに行くまでに屋台で何か買って小腹を満たそう)



 ロアナは一時間以内に直して欲しいと言っていたし、まだ時間に余裕がある。私は歩幅を緩め、キョロキョロとおいしそうな屋台を探す。



「可愛い黒ウサギさん。ちょっとお伺いしたいことがあるのですが」


「ひゃいっ」



 突然、前触れもなく背後から肩を叩かれた。

 私は周囲を気にしていたはずなのに、気配もなんて微塵も感じなかった。驚いた私は後ろを振り向きながら後ずさる。



「実は迷子になってしまいまして。連れを探してはもらえませんでしょうか?」



 そう言ってサングラスをかけた銀髪の青年が私に優しげな笑みを浮かべる。銀髪の青年は第五王子並に端正な顔立ちをしていて、雰囲気も口調も柔らかい。


それなのに何故かわたしは本能的に恐怖を感じ、背筋が凍り付いた。



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