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コロシアム。健全な戦いですので保護者の方は安心してください

続タナカ視点



 コロシアムは血なまぐさいものではなく、この学園の生徒たちによる健全な戦いだった。

 殺傷能力のある魔法は禁止され、武器も刃は潰してある。医療班も控えていて安全に配慮されていた。


 正直に言うと、健全な戦いで助かった。

 血なまぐさい戦いだとティッタとアイルが口汚い野次を飛ばしながら興奮し、私たちはさぞ悪目立ちしていたことだろう。



「もっと血しぶき舞う熱い戦いが見たかったぜ」


「いいじゃない、アイル。こういう戦いは人族模様を楽しむものなのよ。きっと、今戦っている二人に恋の花が咲くのだわ……」



 ティッタは妄想にポッと頬を染めながら試合を眺める。

 私は頬杖をつき、耳をそばだたせた。



(……恋の花、ね。ティッタには悪いですが、どうやらこの学園ではあまり咲かないようなので、私としては安心です)



 今行われている試合では銀色の大剣を振り回す桃色の髪の少女と、カナデより数歳上の二刀流の少年が戦っていた。

 少女が雷魔法の纏った斬撃を放ちながら、少年へ叫ぶ。



「さあ、マティアス殿下。わたくしの鬱憤の捌け口になってくださいませ!」


「エリザベート殿。社交で疲れているのは俺も一緒だ!」



 少年は緩やかな動作で雷を難なく避ける。少女は悔しそうに容赦なく攻撃魔法を連続で放った。



「ああ、もう! リエラばっかり楽しんで狡いですわ。わたくしも働く女性といものを体験してみたかったのに!」


「だから俺もカ、カナ……」



 顔を朱に染めながら動揺する少年の隙を突き、少女は身体強化の魔法を使って急速に接近する。そして少年の眼前に銀色の刃を躊躇なく振り下ろした。



「この溜まりに溜まった鬱憤。マティアス殿下で晴らさせてもらいますわ!」


「エリザべート様、本気は出さない約束だろう!? 俺たちには立場というものが――」


「問答無用! 戦いに慈悲などないと知ってもらいますわ!」

 

「理不尽な!」



 少女の流れるような斬撃を少年は必死に剣で裁いていく。

 魔法は少女が技術的に上だが、剣技は少年の方が上らしい。決着は当分つかないだろう。

 私は彼らの会話を聞くのを止め、ティッタとアイルに視線を移す。



「あのふたりは、人族にしては中々ですね」


「だな。あの強さだと、人族史ならそこそこ名を残すんじゃねーの?」


「それはどうでしょうね。人族とは脆く、柵も多い生き物ですから」



 私は懐中時計を取り出し、時間を確認する。時刻は昼過ぎ。そろそろカナデとの約束の時間だ。



「そろそろカナデとの約束の時間ですね。ティッタ、アイル、準備をしてください」

 

「あー、楽しかったわ。たまにはああいう正道の戦いもいいわね」



 ティッタは手持ちのジュースをすべて飲み干し、手近にあった飛び跳ねるゴミ箱へ器用にカップを投げ捨てた。



「ティッタ、もう少しお行儀良くしなさい」


「本当に堅物だわ。今の可愛らしい投球を見てそんな感想しか思わないなんて」


「姉貴、タナカ。いいからカナデのところへ行こうぜ!」



 切り替えの早いアイルは席から立つと、小走りで出口へと向かう。

 私とティッタは呆れながら彼をゆっくりとした歩調で追いかける。



(カナデと会った後はどうしましょうか。やはりティッタとアイルに人族文化を勉強させて……)



 手のかかる弟妹への教育について考えていた私は、向かい側から歩いて来る銀髪の男にすれ違う直前まで気が付かなかった。

 このままでは肩がぶつかると思った私は、慌てて銀髪の男を避けた。



(しまった。人族という設定にしては、素早すぎる動きでしたね)



 まあ、一瞬の出来事だったし、人族で気がつける者は居ないだろう。人にぶつかることがなくて良かったと安堵した私だったが、突如、背後から凄まじい殺気を浴びて全身がビリビリと粟立った。



「? どうしたのよ、タナカ」



 突然足を止めた私を訝しげにティッタが見上げる。

 妖精女王のティッタも気が付かないほどの殺気……つまりは神属性の魔力のみを放ち、私だけに殺気を感じ取らせた。あの銀髪の男はもしや……



「腹の具合でも悪ぃのか?」



 立ちすくむ私に不審に思ったのか、戻って来たアイルが心配そうに私の肩を揺らした。



「いいえ、何でもありませんよ。ただ、世界は意外と狭いと思っただけです。もう関わりたくはないと思っていたのに、こんなところで会うとは」



 自分の力を偽ることなく友達をつくり、生き生きと学園生活を送れているようだしし、この学園はギリギリだがカナデをいさせるのに合格している。

 何より、人族の特権階級ばかりが集まったことで、自由恋愛はあまりないようだ。カナデと同じ年頃の人族が少ないことから考えて、ティッタの言う恋の花も少ないに違いない。


 銀髪の男も招待客の一人のようだし、カナデと関わることもないだろう。



「さあ、行きましょう。カナデが待っています」



 私はそう言うと、不思議がるティッタとアイルに微笑んだ。




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