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驚愕。妹が異世界を作り出していたのだが

タナカ視点



 私、神獣族の長タナカは、妖精女王ティッタと魔素竜アイルと共にカナデの通っている、人族領のルナリア魔法学園を訪れていた。

 パンパンと常に小さな花火が打ち上がり、装飾の多い服を着た人族たちが長蛇の列を作っている。あちこちでくだらない密談が行われ、知りたくもない人族の裏事情が聞こえてくる。



(……まったく、耳が良いのも考え物ですね)


 

 ここはポルネリウスの出身校――中退したが――だったので、もう少し開放的な場所を想像していた。

 だが、実際は真逆で人族の柵が多い場所であるようだ。



「人族の祭りというのは、なんでこうも派手なのでしょうか?」



 入場口の人混みに酔った私は小さく溜息を漏らす。



「良いじゃない! 私は派手で盛り上がるのが大好きよ」


「オレは早く飯が食いたいぜ。さっきから、肉の焦げる良い匂いがしてくる」



 人族の姿でキャッキャと騒ぐティッタとアイルの頭に私は優しく手を乗せた。



「浮かれすぎです。良いですか、今日はこの学園がカナデに相応しいか見極めるために来ているのですから」


「嫌な保護者ねぇ」


「人族の友人もできたんだろう? 最初はぶっ飛んだカナデが人族の学園に馴染めるか心配だったが、上手くやれているみたいじゃねーか。案外、ここでは大人しくしているのかもな」



 危機感のないティッタとアイルを私はキッと睨み付ける。



「そうは言っても、カナデが狡猾な人族に利用され、虐げられているかもしれません!」


「タナカは心配しすぎよ。外に出れば、カナデちゃんだって自分の桁外れの力を自覚するわ。人族に馴染むために、力を隠すぐらいはできているはずよ」



 ポルネリウスと一緒に人族に紛れて各地を放浪していたことのあるティッタは、呆れた顔で私を見る。



「……少しはカナデを信用しないといけないのは分かっているのですが……」



 カナデは年の割にしっかりしているが、致命的に抜けている部分もある。幼い頃からたまに私でも驚くような奇行に走ることがあり、心配の種は尽きないのだ。


 悶々と考えていると、次第に列が捌けて私たちもカナデからもらったチケットを使い、ルナリア魔法学園へと入場する。



「やっと入れたわね。カナデちゃんの担当している出し物を見に行きましょう」


「約束の時間までまだ結構あるな。向こうで見物しながらカナデを待とうぜ」


「さて、カナデの担当している場所は確か『ルナリアワールドパーク』とか言っていましたよね」



 私が入場口でもらった学園内の地図を広げると、ティッタが隅っこを指さした。



「あら。一番端にあるのね。立地が悪いけれど大丈夫かしら。あまりお客さんが来なくて暇しているかもしれないわ」


「…………なあ、ナッさん、姉貴。もしかしてアレじゃねーか?」



 アイルが見上げた方向にあったのは、ここから数㎞離れた場所にある高さ二百メートルほどの壁だった。



「白くて高い壁がエリア全体を覆っているわ。ああでも、何か塔のような建物のだけ壁を越えて見えるわね。人族領に……いいえ、この世界にあんなに高い建物はあったかしら?」


「……嫌な予感がします。何にせよ、行ってみましょう」



 今の人族に――いいや、この世界に住むすべての種族に、あのような高度な塔を建築する技術はまだ生み出されていないはずだ。


 だとすれば、考えられるのはただ一つ。神属性魔法による錬金術で万物の法則をねじ曲げて作られたのだ。


 ただし、神属性魔法を使えるのは私やポルネリウス……そしてカナデのような、忌々しい黒の・・呪術師に祝福された存在だけだろう。



(……まったく、人族社会に身を置けば少しは成長するかと思いましたが……うちの子はどうやら自分が特異な存在だという自覚がこれっぽっちもないようですね……)



 私が深く溜息を吐いていると、視界の端で黒と赤の派手な衣装を着た少年少女が大きな看板を掲げるのが見えた。



「さあ、ルナリアワールドパークへ行くお客様はこちらから! ゴーレム馬車でお送りいたします!」


「乗り物酔いがしやすい方には、三十分に一回運行している転移魔法がオススメ! あっという間にルナリアワールドパークに到着します。ただしこちらはお一人様金貨一枚となっておりますのでご注意をー」



 呼び込みの声を聞いて、私たち三人はピタリと石像のように静止する。



「タ、タナカ。転移魔法って……人族だと、今はカナデちゃんぐらいしかできないわよね!? 何をやっているのあの子はー!」



 ティッタは余程驚いたのか、いつも演じている華奢な美少女の仕草を止めて私のジャケットを掴み、力一杯揺さぶった。



「正確にはあともう一人居ますが……この場合はカナデの仕業でしょうね」


「カ、カナデちゃん。そんなことをしていたら、男の子にモテないわよ!」


「あははっ、カナデの奴、自重してねーの! いいぞー、もっとやれー!」


「黙りなさい、アイル」



 色々と頭の痛い事が発覚し苛ついた私は、考えなしに笑い出したアイルの腹を殴る。



「おふぅ……久々の理不尽説教」


「いいから、早くカナデのところへ行きますよ」



 私は手をパンパンと叩いて手袋の埃を落とすと、不細工な巨大猫型ゴーレムに乗りルナリアワールドパークへと向かった。









 パーク内は、まるで異世界に迷い込んだかのような美しくも発達した光景が広がっていた。

 見たこともない黒と白のガラス張りの建物や、動く真っ赤な外灯、歩くごとに光るタイルの道。幻想的なそれらに、私は年甲斐もなく魅入られた。


 

「わぁー! すっごく素敵じゃない。可愛い、可愛い、可愛い、かーわーいいー!」



 可愛い物好きのティッタは少女のように飛び跳ねて喜んだ。その反面、常日頃から戦うことしか頭にないアイルはつまらなそうに鼻を鳴らした。



「ババアのくせにはしゃぎすぎだぜ」


「なんか言ったかしら、アイル? 爆散させるわよ!」


「じょ、冗談だって、姉貴」



 鋭い眼光で迫るティッタにアイルはたじろぐ。

 いつもならこのままアイルがティッタの攻撃魔法で黒焦げになるところだが、その前に私はふたりの間に割り込んだ。



「ほらほら、二人とも落ち着きなさい。こんな場所で騒ぎを起こしたらカナデに迷惑がかかります。いいですか、魔法も使ってはいけません。人族に成りすますのです」



 私が子どもに言い聞かせるように注意すると、アイルはキョロキョロと辺りを見回した。



「つっても、結構オレたち注目を浴びているぜ?」



 魔力は押さえ込んでいるし、目立つ服装もしていない。しかし、人族たちは私たちをジロジロと熱心に見てくるのだ。



(……本能的に私たちが異種族だと認識しているのだろうか)



 厄介だなと私が顔を顰めていると、ティッタが媚びた笑みを浮かべながらその場でくるりと回る。



「それはねぇ……わたくしが美少女だからよ!」


「歳を考えろ、歳を」


「ア・イ・ルちゃーん。後で覚えておきなさいよ? 生きたまま皮を剥いで丸焼きにしてやるわ」


「ひぇっ」



 私は笑顔で凄むティッタをアイルから引き離す。



「……はぁ。何か食べましょうか」



 ティッタの歳のことでこっそり心の中でアイルに同意しつつ、周囲を見渡した。

 カフェやレストラン、屋台など、様々な店が建ち並び、その全てに大勢の人が集まっていた。


 アイルは回転率が高い屋台へ走っていくと、薄焼きのパンに香ばしい肉と新鮮な野菜が挟み込まれたサンドを三つ買って来た。そしてサンドを私とティッタに渡すと、早速サンドを豪快にかぶり付く。



「おっ、甘辛いタレがうまいな。百個ぐらいいけそうだぜ。ナッさんも食べろよ」



 口元にソースを付けながら、アイルはサンドを食べ進める。



(屋台……というものはあまり好きではないが、カナデのためだ)



 私もサンドを一口食べる。

 ジュワッと口に広がる肉汁と甘辛いタレが絡み合い、それを香ばしい薄焼きのパンが上品に包み込む。さらにシャキシャキの野菜が加わることで食感と味が変化し、一口一口が新しい発見でいっぱいだ。



「……おいしい、ですね」


「だろ?」



 にかっと笑うアイルと反対に、私は眉間に皺を寄せた。



(これほどおいしいものが人族領にたくさん存在するとなれば……カナデが魔の森へ帰って来てくれなくなるかも知れない。栄養バランスばかりを考えていたが、味も大切だな)



 料理の勉強でもするかと考えていると、ティッタが少女ばかりが並ぶ菓子店を興奮した様子で指さした。



「これ、今女の子たちの中で話題のマイマイ堂の新作シェイクじゃない! どうしてカナデちゃんの学園に?」


「……ふむ。カナデ以外にも才能ある人族がいるということですか」



 高度な建築物や料理など、ここのあるものはすべて洗練されている。外部との交渉や資材の入手など、カナデ一人ではなく、多くの才能ある人族が協力してルナリアワールドパークは作られたのだろう。



「ねえねえ、タナカ! ここに行ってみましょうよー」


「食い物を持ち込み可だってよ! 早く行こうぜ、ナッさん!」



 パーク内の地図を見ながら、キラキラとした瞳でティッタとアイルはある場所を指さした。



「……コロシアム、ですか。完全に目的を見失っていますね。人族文化の展示場には興味がないのですか?」



 ここは娯楽施設が多いが、パンフレットの中では『人族文化~貨幣の歴史~』など、教育にいい展示会なども開かれている。私としては、この戦うことが大好きな弟妹に教養を付けて欲しいのだが……



「ジジ臭いわね、タナカ」


「本当だぜ。戦いよりも楽しいことなんてないだろ」


「……私はいくつになっても貴方たちのことが心配ですよ……」



 アイルはともかく、ティッタはもういい歳なのに。いつになったら手がかからなくなるのだろうか。




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