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建設。安全確認はしっかりと


 学園祭まで残り一週間。

 天下一番を目指す私はというと……ヘルメットを被り、学園から少し離れた広い荒れ地で現場監督をしていた。

 


「はーい、そこで大ゴーレムくんはストップ。小ゴーレムちゃんたち、壁は白黒に塗ってね。なんかこう……コテ跡とか付けて、職人芸満載のモダンな雰囲気でよろしく!」



 忙しい様子でゴーレムたちが動き回り、テーマパーク建設が急ピッチで進められている。


 土産物屋や飲食店や展示場など、様々な建物が順調に出来上がっていた。建物は『不思議の国のアリス』を参考にした色合いで、白と黒をベースに差し色に赤が散りばめられている。


 建築様式もこの世界に多いレンガ造りばかりではなく、現代日本のビル建築なんかも融合させ、異世界風ファンタジー空間を目指してみた。



「やっと形になってきたなぁ」



 魔武会で使用した戦闘ゴーレム魔法がこんな風に役に立つなんて思わなかった。彼らのおかげで、余計な人件費と時間がかからずに大規模な建築ができるのだ。



「まあ、ゴーレムを動かしているのは私だけど。結構魔力を持って行かれるなぁ」



 私は体力回復兼やる気アップのために持参したイチゴのフレッシュジュースを一口飲み、建築途中の町並みを見た。


 道は夜になると淡く光るモノクロのタイルが敷き詰められ、猫足の外套やシックなゴミ箱は昔見た外国アニメの道具たちのようにピョンピョンと跳ね回る。



「うんうん。普通にファンタジーっぽい! いかにも学生っぽいことしてるー!」



 自画自賛をしてフレッシュジュースを腰に当てて飲む。

 なんとやりがいのある仕事だろう。前世では就職するなら公務員がいいと思っていたが、意外と建設業界が向いているのかもしれない。

 


「「カナちゃん監督ぅー!」」



 甲高い叫びと共に、サーリヤ先輩とサーニャ先輩が走ってきた。



「お疲れ様です。調子はどうですか?」



 そう言ってフレッシュジュースを渡すと、二人揃って一気に飲み干した。



「ぷはっ。絶好調だよ。これ、みんなで着る制服のデザイン。なかなかの力作だよ。ねえ、サーニャ」


「うん、サーリヤ。機能性もばっちり! あと、こっちはグッズのデザインだよ。ぬいぐるみとか、子ども向けの物を先に作ってみた」



 サーリヤ先輩から渡されたスケッチブックには、制服やお土産の細かいデッサンが描かれていた。

 そのどれもがこのテーマパークの世界観に沿っていて、尚且つ可愛らしいものだ。


 ロアナも涎を垂らして喜ぶだろう。これは稼げる!



「か、可愛いですよ……!」


「「えへへ!」」



 手放しに褒めると、サーリヤ先輩たちは照れた顔で笑った。

 私はスケッチブックのページを捲り、そして気になるものを見つけた。最初のページにあった制服を来た男女のバストアップの絵に、真っ黒で長い耳が生えているのだ。



「この頭に付けている耳はなんです?」


「獣耳のカチューシャだよ。カナちゃんの教えてくれたアリスの物語に合ったものだと思うけど?」


「へ、へぇ……確かに可愛い子がつけると絵になると思うけど……」



 確かに現在の見た目年齢から見て、私が付けても違和感がなく微笑ましいものだろう。だが、中身は成長しきっている平凡顔の私には、この浮かれた耳を付けてはしゃぐのは色々とキツいのだ。主にメンタルが。



「カナちゃんも強制だから。ねえ、サーニャ」


「うん、サーリヤ。この耳があってこその制服デザインだし、そこを譲るつもりはないよ。新たにデザインする時間もないしねー」



 私の懸念を素早く察知したのか、サーリヤ先輩たちはガブリエラ先輩のような黒オーラを纏って威圧してきた。


 実際、制服作りはかなり遅れている。これ以上デザインに時間をかける訳にはいかなかった。



「分かりましたよ! 採用です、さ・い・よ・う!」



 私は両手を挙げて降参のポーズを取る。

 するとサーリヤ先輩たちは飛び上がって喜んだ。



「「やったー!」」


「でも、サーリヤ先輩、サーニャ先輩。こんな複雑な制服を学園祭までに人数分作れますか?」



 私たちのテーマパークは、五十人ほどの生徒たちが手伝ってくれるとロアナが言っていた。制服には細やかなレースやリボンが付いていて、それを一週間――しかも、二人で仕上げるのには無理がある。



「ある程度は市販品を組み合わせるから大丈夫。ねえ、サーニャ」


「うん、サーリヤ。細かい装飾とか、残りは外部の業者と一緒に作るから問題なし!」


「外部の業者って……そんなお金ありますか?」


「「あるよー! ロアナちゃんから、たぁ~んまりもらった!」」



 そう言ってサーリヤ先輩たちは、ロアナからは縁遠いはずの金貨がどっさり詰まった袋を私に見せびらかす。



「……どこからそんな金を……」


 私が怪訝な顔をしていると、大ゴーレムに乗ったサルバ先輩が現れた。


「カナデ監督、資材が届いたぞ!」


「待ってましたよ、サルバ先輩! さあ、メインオブジェの制作に取りかかりましょう!」



 私はグッと拳を突き出すと、サルバ先輩の乗っているゴーレムに飛び乗った。

 そのままパーク内の中央へと向かう。


 そして目的地に到着すると、私の乗っているゴーレムの三倍はある資材の山を見上げた。



「おおっと。数字では分かっていたけれど、こうして実際に目でみると迫力あるなぁー。こんな大量の資材をよく短期間で発注できたよね」



 ぴょんっとゴーレムから飛び降りると、木箱いっぱいに盛られた魔石をじっと見つめる。


 

「……かなり高品質な魔石ですね」



 透明度、大きさ、保有魔素。その全てが市場で出回ってる中でも最高級に位置する。この魔石の山だけでも、アイスクリーム五百個よりも高い。



「魔石だけではない。オリハルコンなど、かなり希少な鉱石もあるぞ」



 そう言ってサルバ先輩が積み上がった藍色の鉱石をコツンと叩いた。

 私は苦虫をかみつぶしたような顔で腕を組み唸る。



「うーん。本当にどこからそんなお金が出てきたのか……」



 ロアナが異世界のヤミ金業者から多額の借金をしてなければいいが。



「後で臓器売買で返済とか嫌だよ。あ、でもこの世界だと臓器を取り出したら魔素で消えるのかな?」


「金に関しては、いくつかの大商会と契約して予算を工面しているようだ。きちんと学園祭後のことも考えているようだぞ」


「スポンサー契約みたいなものかな。だったら大丈夫か。まあ、金策については技術開発担当の私たちには関係ないし、与えられた予算で存分に楽しもうじゃないか!」



 私は懐から地図のように折り畳まれた大きな紙を取り出した。

 これは自作のメインオブジェの設計図だ。サルバ先輩はずいっと私の後ろから遠慮なく設計図を覗き込む。



「カナデ監督。この設計図だと塔が倒れてしまうと思うのだが」


「今更ですか、サルバ先輩。私たちは魔法学園の生徒ですよ。建築知識なんてこれっぽっちもないんだから、倒れる建物を倒れなく・・・・・・・・・・すればいいんですよ」



 私が不敵にニヤリと笑うと、サルバ先輩はハッとした様子で辺りを見回す。そして何か感じ取ったのか、地面に自分の魔力を流した。



「……もしや、これは……まさか……!」



 サルバ先輩の魔力に反応して、地面が帯状に光った。その光に沿って見ていくと、丸い円の中に複雑な模様が描かれているのが分かる。



「むふふっ、そう! 私たちに割り当てられたエリア全体を使った大きな魔法陣を描き、魔力を注ぐことで建物の倒壊を防いでいるのです!」



 一年生の時からサルバ先輩の横で魔法陣を見てきたのだ。私だって少しは成長する。

 この魔法陣は建物を補強し倒壊防ぐ術式と、陣の中にいる人族の魔力を少しずつ奪って魔法の展開に利用する術式が組み込まれている。


 今は私の魔力だけで維持している状態だが、学園祭当日は客や生徒たちからこっそりと魔力をいただくつもりだ。



(正直、魔法陣研究に熱心なサルバ先輩は鬱陶しくて関わるのは嫌だったけど……こういう大魔法陣を作るなら別だよね! ファンタジーの王道、お約束展開!)



 私はここぞとばかりにふんぞり返って自慢をした。



「これほど大きな魔法陣は見たことがないぞ! さすがだ、カナデ監督。私の魔法陣研究の後継者に相応しい!」


「サルバ先輩の研究は継ぎませんって。ほら、行きますよ」



 私はスゥッと深呼吸をすると、資材に向けて手をかざした。

 そして脳内に緻密な設計図を描き、神属性の魔力で資材を包み込む。



「いでよ、ルナリアタワー! 錬金!」



 私の叫びと共に資材が発光し、グニャグニャと形を変えていく。

 婉曲した四本の柱が絡まり合って天へとぐんぐん伸び、次第にタワーのような建物を形作る。そして三百メートルほど柱が伸びきると、先端が半円を描くようにくにゃりと曲がった。


 倒壊寸前のモノクロ東京タワーといった風情だ。



「うおお! あり得ない方向に塔の先端が傾いているのに、この揺るぎない安定感。さすがは魔法陣! 魔法陣は偉大なり!」



 鼻息荒く興奮したサルバ先輩に私はドン引きする。



「いや、魔法陣じゃなくて、ルナリアタワーのデザインに感動してよ」


 

 私は深く溜息を吐くと、小ゴーレムたちを動かしてタワーに飾り付けを始める。キラキラの電飾に真っ赤なリボン。ぬいぐるみやカードなどの小物も添えて……



「……これ、完全にクリスマスツリーじゃん。まあいいか。クリスマスの経済効果は何千億にもなるってニュースで聞いたことがあるし、メインオブジェが派手なのはいいことだ。あ、曲がっているけど、先端には星のオーナメントを飾ろう、メリークリスマス!」



 サンタとトナカイのオブジェでも添えようかと本気で考えていると、精神状態が落ち着いたサルバ先輩が「そうだ、忘れていた」と言いながら一枚の企画書を私に渡した。



「おおっ、できたのかい? 学園祭のフィナーレを飾る裏メインイベント!」


「派手で趣があるもの……というのは分からんが、双子と相談して作ったぞ」



 私はじっくりと企画書を読み込み、フフンと軽快に鼻を鳴らす。



「くぅ~、いいねぇ。憎いね。採用!」


「ロアナとガブリエラ先輩に相談するか?」


「いや、いいよ。フィナーレの企画は任せられているし、二人とも忙しいみたいだから。向こうからも何も聞かれないし」



 この間、ガブリエラ先輩に会いに行こうと思ったら、頼み事をしに来た高位の貴族の先輩を足下に這いつくばらせ、清楚な困った笑みを浮かべながら嬉しそうに交渉していた。


 ロアナに至っては、ゲスな表情を隠しもせず「お客様は神様よ! だから媚びへつらうのも恥ずかしくない。愛想を振りまき、対価としてチップを絞るだけ搾り取るのよ!」と従業員研修を開いていた。


 要するに、私は金と権力にギラつかせている二人に会いたくないのだ。



「まあ、祭りにはやっぱりサプライズがないとね!」



 私は首を傾げるサルバ先輩に笑いかけ、建設作業に戻るのだった。


自称平凡な魔法使いのおしごと事情(旧ワーキングコンチェルト!)1巻が重版になりました!

皆様ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。


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