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教訓。人の話は最後まで聞きましょう

5/11 アリアンローズ様より書籍版1巻が発売します。

それに伴い、タイトルをワーキングコンチェルト!→自称平凡な魔法使いのおしごと事情に変更します。

詳しい書籍情報は活動報告にて。


今回は1巻発売記念で、新章連載開始。

魔法武術大会後でカナデ8歳2学年の話です。

キャラが分からなくなったら、62部の登場人物へ。

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。



 私は元々日本に住む、相原あいはらかなでという名前の普通の女子校生だった。


 毎日家族とご飯を食べて、学校に行って、友達とおしゃべりして、時々バイトをしたりして、そんな日常を送っていたはずなのに……ある日、目を開けると魔物や魔法、人間以外の種族が当たり前に存在するような、異世界に転生していた。



 転生してからの私は、何故か前世と同じ『カナデ』という名前と外見を与えられて、サンタクロースにそっくりなお爺ちゃん――伝説の魔法使いポルネリウスの孫として生きることになる。


 お爺ちゃんの他には、世話焼きなイケユニコーンのタナカさん、どう見ても十代前半にしか見えない妖精族のティッタお姉ちゃん、小学生男子並の馬鹿をやらかすアクアドラゴンのアイルが、今の私の家族だ。


 種族は異なるけれど、仲の良い普通の家族・・・・・である。



 だけど、お爺ちゃんは私が六歳の時に死んでしまう。


 その後は人族として二度目の人生を生きることを決めた。誘拐事件や最年少裏口入学や、王子様を魔法武術大会でビンタして敗北させたり、少々のトラブルはあったが普通の・・・学生生活を送っている。


 そして、早いもので私はルナリア魔法学園の二学年に進級した――――






 全校集会。


 それは日本でも、異世界でも、ヤンキー校でも、セレブ校でも学生にとっては等しく憂鬱なものだ。


 特に、偉い先生の話は大嫌いだ。決められた集会の時間を調整するためや、学生たちの為になる話を年長者として聞かせたいなど、話を長くする気持ちは十分に理解できる。


 理解できるけれども……聞かされている身からすれば、ストレスが溜まるだけだった。



「あー、全校集会って正直苦痛だよね。理事長ったら、もう十五分以上話しているよ」



 私はジトッとした目で、壇上に立つ理事長を眺めていた。


 最近、近くの街でマナーの悪い学生がいるので我が校の生徒としての自覚を持つように――と、ありふれた注意から始まり、今では延々と学生たちへ説教をしている。つまり、私たち学生にとっては毒にも薬にもならないどうでもいい話で、非常に退屈だった。



「講堂の中に生徒全員集められて、身動きが取り辛い中で直立姿勢を維持。そして銅貨一枚にもならない話を聞かされる……拷問よね」



 そう言って隣で深く溜息を吐いたのは、私の親友ロアナ・キャンベルだ。料理上手の気配り上手。だけど守銭奴なのが玉に瑕の貧乏子爵令嬢である。



「もうさ、立ったまま寝られる魔法を開発したい気分だよ」


「それいいわね、カナデ。学園内なら、そこそこ需要があって儲かりそうだわ」



 ロアナは可愛い顔を歪めて、ぐふふと気味悪く笑った。



「ま、まあ……儲かるかは別として、便利そうな魔法だし、ちょっと挑戦してみようかな」



 私はそっとロアナから目を逸らし、立ったまま寝る魔法を作ってみることにした。


 壇上を見れば、理事長は熱の篭もった説教をしていてまだまだ長引きそうだ。おそらく、時間いっぱいまで彼のご高説は続くのだろう。



(理事長の話は、あと十分ぐらいで終わるかな。ちょうど良い暇つぶしになるか)



 私は直立姿勢のまま、体内の魔力を循環させる。

 周りに察知されるような、派手な魔力は使えない。糸のように細く魔力を動かさなくてはならないのだ。


 体力を回復させつつ、脳を休め、表情は真面目な学生風に。それを無意志に行えるように、魔力の質を一定に保つ。


 すると、私は短い時間だが眠りの世界へと旅だった。



「――ということです。本日の全校集会は以上となります」



 拡声器から理事長の声が聞こえる。ぼんやりと私の意識が覚醒した。


 時計を見れば、魔法を使ってからちょうど十分が経過している。



(短時間睡眠だけど、意外と目がスッキリするね。先生たちにも寝ているのが見破られなかったよ。でも、理事長の話の内容は頭に残らないし、目覚めるタイミングを状況に合わせられないのは問題だな。次はそこを改善しよう)



 凝り固まった身体をほぐすように、両手を組んでぐーんと背伸びをする。


 もうそろそろ昼食の時間だ。私は良い感じに空腹になったお腹をさすると、ロアナにとびっきりの笑顔を見せる。



「やっと終わったね。お腹も空いたし学食に行かない? 今日の日替わりランチのデザートは、レモンゼリーだよ!」



 ポンッとロアナの肩を叩くが、彼女は俯いたまま反応がない。

 私が眠っている間に、何かあったのだろうか。

 それとも、ロアナもまた立ったまま寝る魔法でも開発していたのだろうか。



「……ロアナ? もう集会は終わったみたいだよ。寝ているの?」



 私は心配そうに彼女の顔を覗き込む。


 すると、いきなりロアナは血走った目を見開いて、私の身体を抱き込んだ。



「うひゃぁぁぁああああああっ。革命がおきるわ……いいえ、この手で起こすのよ! 金の卵は、わたしのものよ!」


「ロアナ、どうしたの!?」



 興奮し我を忘れているロアナの叫び声に驚いていると、周りの学生たちからも怪しげな叫び声が次々と上がる。



「「「うひゃひゃひゃっひゃぁぁあああああ!!」」


「ど、どどど、どうしたの!?」



 私が眠っている十分間の間にいったい何が起こったのだろう。


 少し前まで、皆退屈そうに理事長の話を聞いていたではないか。私を抱き込むロアナの腕の力は一向に緩む気配がない。ロアナの息は荒く、「金……金金金……金ぇ!」と涎を垂らしながら私を見ているのだ。


 あまりの恐ろしさに、彼女の瞳の中にえんきごうを幻視してしまう。



(何があったのか知りたいけど……知りたくもない気がするよ!)



 そう心の中で叫んでいると、ホラー映画のゾンビのように周りの生徒が首をぎゅるんと回して、血走った目で私を捉える。



「ひぃっ」


 

 このままだと私は喰われてしまう!

 

 そんな恐怖で私はガクガクと震えた。



「カナデ、獣に食い尽くされないように、急いで転移魔法を使って! 逃げるのよ!」


「でも、ロアナ。逃げるって言ってもどこへ!?」



 ここから逃げることは賛成だが、闇雲に転移する訳にもいかない。放課後まで学園の外に転移してはいけないと理事長にも言われているので、別の国に逃げることもできないのだ。



「学園内で落ち着いて話せる場所よ! あ、ちなみにわたしたちの寮は駄目よ。飢えた獣のいる危険地帯だわ。情報が筒抜けになるし、押しかけられるから」


「そんな我が儘なぁ……」



 寮以外に、落ち着いた場所が思いつかなかった。

 とりあえず、いつでも転移できるように魔法は展開したが、これでは完全に逃げられない。

 生徒たちは、ゾンビのようゆっくりと歩きながら、私たちへと近づく。



「うわぁっ! なんなのこのゾンビたちは。墓場でヒップホップダンスでも踊っていてよ!」


「くっ、わたしの金づ――じゃなくて、大親友は絶対に渡さないわ! 散りなさい、亡者!」


「今、金づるって言いかけたよね!?」


「可哀想にカナデ。恐怖で幻聴が聞こえたのね……」


「そんな訳あるかぁ!」



 ロアナと言い合いをしていると、生徒たちはいつの間にか協力し合い、徐々に包囲網を作り上げていく。私たちは完全に囲まれた。


 

「まずいよ、ロアナ。魔法展開中に私の身体に触れられたら、ゾンビたちも一緒に転移しちゃうよ!」



 一か八か、適当なところに転移をしようとしようとすると、私の肩がしっとりと冷たい手で掴まれた。

 


「ではひとまず、温室なんてどうでしょう?」


「ガ、ガブリエラ先輩!?」



 振り返ると、そこにいたのは魔法師学科四年生のガブリエラ先輩だった。楚々とした雰囲気の美人で、成績優秀、侯爵令嬢という高貴な身分でもある。……そして、とんでもなく腹黒だ。



「ほら。早くしないと、襲われてしまいますよ?」



 ガブリエラ先輩が指さした先を見ると、ニタニタと笑うゾンビがこちらへ飛びかかろうとしていた。



「き、緊急退避!」



 私は急いで転移魔法展開させる。咄嗟のことだったので、ガブリエラ先輩の指示通り行き先は温室にしてしまった。



「カナデさん、ロアナさん。わたしも一枚噛ませてくださいね」



 空間が歪む僅かな瞬間。ガブリエラ先輩は真っ黒に輝く清楚な笑みを浮かべたのだった。




 




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