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見守る人外たち


ティッタ視点です



 競技場の中の一角。人族の支配者階級たちが集う場所に、わたくしとタナカとアイルはいた。



「あんの……カスゴミがっ!」



 バキッと大きな音を立てて、柵の一部がタナカの握力で破壊された。しかし、人族たちは誰も注目しない。それもそのはず、神獣の長と妖精女王の張り巡らせた認識阻害の魔法に気づける者など、ほぼ皆無だ。



「タナカ。ちょっと、落ち着きなさいよ。あ、カナデちゃんをサヴァリスちゃんがお姫様抱っこしてるわ! なんてロマンティック!」


「カナデに触れるなんて、1000億年早い……!」


「あら? カナデちゃんとサヴァリスちゃん、さっきキスしてたわよ?」



 およそ人族とは思えないほどの激闘の後、カナデちゃんはサヴァリスちゃんと思いを伝え合ったようで、甘いキスをしていた。その後に何やら見慣れない現象が起きていたが、そんなのは些末なこと。



 重要なのは、カナデちゃんが恋愛に目覚めたことよ!

 後でお姉ちゃんと楽しく恋バナしましょうね!!



 ほくほく笑顔のわたくしと違い、タナカは世にも恐ろしい顔で退場しようとしているサヴァリスちゃんを睨み付けている。



「兄の嫉妬は見苦しいわね」


「ティッタ! カナデが大事ではないのですか!」


「大事よ。だからこうやって隠れてカナデちゃんを見守っているんじゃない」



 人族として生きることを決めたカナデちゃんに、わたくしたちは極力干渉しないようにしている。しかし、家族として心配になるのは当然。だからずっと、わたくしたちは事あるごとにカナデちゃんを見守ってきた。今日だって、わたくしたちがここに来ていることをカナデちゃんは知らない。



 ――ガタンッ


 背後で大きな音が聞こえたかと思うと、人族たちの叫び声が聞こえた。



「ま、マティアス第五王子が御倒れになったぁぁああああ!」


「痙攣して泡吹いているぞ。クソッ、やはり心的負荷が過ぎたのか!」


「衛生兵! 心の衛生兵はどこだぁぁああああ!」



 ……うるさいわねぇ



 わたくしが眉をひそめていると、今までずっと俯いていたアイルが頭を掻き毟り始めた。



「うがぁぁああ! 俺の金がぁぁああ!」


「うるさい、アイル!」


「うがっ!」



 わたくしがぶち込んだ攻撃魔法で、アイルが床にめり込んだ。



 まったく、魔素竜のくせに情けない!



「いつまで埋まっているんです、アイル?」



 タナカは片手で無造作にアイルを引き抜いた。



「……助かったぜ、ナッサン。クソババアめ」


「死にたいようね、アイル?」


「止めなさい、ティッタ。それといい加減に学習しなさい、鳥頭のアイル」



 タナカはやれやれと額に手を当てると、わたくしの攻撃魔法を神属性魔法で無力化した。わたくしは抗議するように頬を膨らませる。



「ぶぅー」

 

「ティッタ、アイルを滅する前に聞かないといけないことがあります。アイル、『俺の金』とはいったいなんでしょう?」



 タナカが笑顔で威圧すると、アイルは挙動不審になった。



「まあ! なんて分かりやすい、お馬鹿ちゃん。さっさと吐き出してしまいなさい?」


「……ぐっ。その……実は賭けに参加していて……負けちまった」



 アイルはバツが悪そうに呟いた。



「アイル……貴方は世界の循環者たる魔素竜でしょう。それなのに賭けをするなんて……誇りはないのですか?」


「負けたってことはアイル、カナデちゃんを応援していなかってこと!? 爆散させるわよ!」



 わたくしが水竜の苦手な電撃を片手に迫ると、アイルは慌てた様子で捲し立てる。



「カナデを応援してたさ! 俺は『カナデが対戦相手を再起不能にぶっ潰す』に賭けていたんだ。でもこれじゃあ、『カナデが対戦相手と結ばれる』に賭けていた人族の一人勝ちだな……」


「……誰ですか、そんな局地的で正確な賭けをしたのは」



 わたくしは少しだけ考えて、ポンッと手を打った。



「ロアナちゃんじゃない? カナデちゃんと一番仲がいい人族だもの」


「いや……さすがにそんな友人を売るようなことは……」


「確かに、姉貴の言う通りだな。あのカナデの親友をやれているような人族だぜ? 普通じゃねーよ」



 粗方納得すると、わたくしは競技場を見渡した。支配者階級たちはカナデちゃんたちが退場した後も戦々恐々としている。一般席の方は、未だ熱狂が過ぎ去らないようだ。



 ……まあ、戦いの後にラブロマンスだもの。盛り上がらないわけがないわ!



 カナデちゃんとサヴァリスちゃんを題材にした物語がいっぱい生まれるに違いない。



「……これで良かったのでしょうか」


「いきなりどうしたんだよ、ナッサン」



 アイルが驚いた間抜け顔でタナカを見た。



「お子様なアイルには理解できないと思いますが、他種族間の恋愛は……とても歓迎できたものではありません。悲惨な結末になるのが常です」


「で、でも……姉貴とポルネリウスはちげーだろ!?」


「わたくしとポルネリウスが、お互いに愛していると思いを伝え合ったことはないわ。いつも片方だけが愛を囁き、もう片方は聞かなかったことにするの。わたくしたちは生きる時間が違いすぎる。いつか来る別れを恐れていたのよ」



 今でもポルネリウスを思い出すと、胸が苦しくなる。

 あれほど愛した人はきっと最初で最後だ。



「だけど、後悔はないのよ。ポルネリウスが死んだのは悲しいけれど、彼はカナデちゃんを残してくれたもの」



 妖精族は人族のように子供を産むことはない。世界樹から誕生するからだ。でも、わたくしとポルネリウスには、赤ちゃんの時から育てた、カナデちゃんという愛の結晶がいる。それだけで、わたくしの思いは救われ、ポルネリウスとの恋は意味のあるものとなる。



「……姉貴」


「ふふっ。まあ、カナデちゃんは大丈夫でしょう。さっき、わたくしでも知り得ないような術で魂に干渉したみたいだもの」


「……どういったものかは私でも知り得ませんが、カナデにとって良いものでしょう」


「カナデは本当にいろんな意味で規格外だな!」



 豪快に笑うアイルに釣られて、わたくしとタナカも笑いだす。



 ……ああ、どうか大切なカナデちゃんに幸あれ。



「しっかし、カナデが居なかったら姉貴はポルネリウスの最期をどうしたんだろうな?」


「そんなの……ポルネリウスを死ねないように延命させながら檻に入れて、ずっと側に寄り添っているに決まっているじゃない!」


「「……え?」」



 アイルとタナカは硬直し、その後何故か重苦しい空気が流れた。










爺監禁とか誰得?な〆方で申し訳ありません。

これにて復興祭編終了です。

次回からは最終章である「完結編」です。もう少しお付き合いください。

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