女魔法使いは上司たちに報告をしました
※コメディー成分少量
※後半、宰相補佐ユベール視点
「これが報告書です」
私は空の国に帰って来て直ぐ、職場(王太子執務室)へ向かった。執務室の中にはいつも通り、山のような政務をこなすエドガー王太子と宰相補佐様がいた。ワーカーホリックかよ。私はそんな二人に愛想笑いを浮かべつつ、早くこの場を去り、尚且つ休暇をもぎ取る算段を立てていた。あわよくば有給!有給を!!
「やぁ、おかえりカナデ。君がいない間、お茶を入れてくれる人やお菓子を差し入れしてくれる人がいなくてね。寂しかったんだ」
爽やかな笑顔を浮かべているけど、この王太子はお腹がどす黒いんだぜ。
「侍女さんに頼めばいいじゃないですか」
「嫌だよ、毒入りかもしれないじゃないか」
「なら私も警戒して下さい」
「君なら毒なんて足が付きやすい暗殺なんてする必要ないでしょ?魔法で事故に見せかけて殺す事もできるだろうし」
「しませんよ!王族なんて殺して面倒な事になるなんて絶対に御免ですぅ」
「うん。だから君を信用しているよ、カナデ。信頼はしていないけど」
「どう違うんですか……」
「どう違うんだろうね?」
もうなんなの!王太子絶対に私をからかって遊んでいるよね。腹いせか、八つ当たりかしらんが、他を当たれコノヤロー!!
「エドガー様、遊んでいないでカナデの報告書に目を通して下さい」
宰相補佐様ありがとう。だけど助け舟を出すなら、もっと早く出してよ!!
「……へぇ、巨人族を超級の魔物……それも変異種を狩れるまで鍛えたのか。うちの騎士団総長にも見習ってほしいな」
「第五王子殿下は関係ないと思いますけど」
「それはそれは残念だ……マティアスがね。あれ?こっちは巨人島の特産物リストだね。カカオにフルーツに酒類……それと鉱石か」
「はい。今までの主な貿易品はカカオでしたが、他にも何かないかと思いまして調べました。フルーツの方は貿易品としては扱いにくいでしょうが、鉱石と酒の方は貿易品として扱えると思います。鉱石は質が良い物が多く、何より埋蔵量が凄かったです。そして酒の方はアルコール度数は強めですが、フルーツを使ったお酒が多くありました。人間領では珍しいので需要があると思います」
お酒に関しては、お菓子作りに活かせそうだよね!
「ねえ、カナデ。地理的に離れた空の国が巨人島と貿易を行うと思ったの?君には超級の魔物をどうにかしてと頼んだだけなのに」
「魔物を倒して終わりだなんて慈善事業、王太子殿下がする訳ないじゃないですか!」
「うん、ナチュラルに酷いよね、君は。それで、どうして?」
「魔王討伐に赴く前に、私は侵略された人間の国について調べました。一応、敵の情報は多いに越したことはないですし。そして南の国々は侵略はされたけど、王家が残っている場合が多かったのに気付きました。抵抗し戦った国家は、王侯貴族に多くの犠牲者が出ています。ですが南はそれが少ない。考えられることは1つ、抵抗をしなかったということ。国を滅ぼすのは大変ですし時間がかかります。ですが、トップを服従させ国を支配したのなら……もちろんタダではなかったでしょうが」
「その通りだよ。巨人族の貿易国は王侯貴族を守るために国と民を売ったんだ。農作物を無理やり徴収して魔王に献上したり、人間の女を宛がわせたりね。おかげで国土は荒れていないみたいだけど」
「でも、これから荒れるでしょうね」
守って欲しい時に自分たちを売るような国家じゃ、民衆が黙っていないだろうね。英雄王が誕生するのか、それとも王を置かない国家造りをするのか……まるでフランス革命だね。
「南はね、陽帝国の侵略被害を受けていない地域だからぬるま湯に浸かっていたんだよ。弱い国家は抵抗する前に魔王軍に蹂躙され、強かな国家は民を献上した……全部が全部じゃないけどね」
「はい、王太子殿下の側室であるユリア姫のご実家は違うのでしょう?でしたら、そこから貿易を行うのかと私は思いました」
「当たりだよ。既にユリアの実家である水の国には話を付けているし、水の国と空の国の間にある2国には街道を作る計画を持ちかけている」
「仕事が早いですね」
「まあね。それで、どうして態々カナデが特産物リストなんて作ったんだい?外交官に任せればいいだろうに」
「巨人族との貿易の価値を低く見られたくなかったので……利用価値があるのなら、王太子殿下は人間の害意から巨人族を守って下さるでしょう?」
この人、基本的には損得勘定でしか動かないからね。
「そうだね。今回のように奴隷の一歩手前のような状況にはしないね」
やっぱりそうだったんだ。弱い国に不平等な条約を結ばせたり、支配するのは前世の歴史で、国家の常套手段だったからね。南の国には奴隷制を敷いている国もあるぐらいだし。だからこそ民を簡単に犠牲にするような国家が、巨人族自体を資源とみなさない訳がない……うわぁ、やっぱり政治には関わりたくないわ。
「王太子殿下は巨人族に不利な条件を出さないのですか?」
「憎まれるのは何時でも出来るけど、恩を売るのはそう出来ることじゃないからね」
「左様ですか」
相変らず黒ッ。施政者としては心強いけど……プライベートまで親しくするのは勘弁したいタイプだよね。まあ、立場が違い過ぎて親しくしようがないけど。
「カナデ、この報告書は何です?」
今まで報告書を見ながら黙っていた宰相補佐様が眉間に皺を寄せながら私に問いかけてきた。そんなに皺を寄せると跡になっちゃうぞ!
「何か不備でもありました?宰相補佐様」
「素晴らしい報告書です。巨人族を超級の魔物を倒せるまで鍛え上げた……それだけのはずがないでしょう?何を隠しているのですか、カナデ。白状しなさい」
「ええっと……その……」
な、何故バレたし!だって書けないよね?軍曹と慕われて、アイドルになったなんて!!恥かしすぎるよ!!
「カナデ、言わないと上司権限で有給減らすよ?」
鬼ー!!鬼だ、この王太子!!
「巨人族の中で……ぐ、軍曹の愛称で慕われ、宴で披露した歌を気に入られて、また来てほしい……むしろ此処に住んでくれと言われました!」
「何ですかそれは……他に隠し事は?」
「あ、後は確定事項ではないのですが、私の作った武器を神器として祀ると言っていました!」
「あっはははは、カナデは神様になったのかい?神様の上司なんて恐れ多いなぁ~」
笑うな、王太子!!
「はぁ……罰としてカナデは明日の秋の茶会にエドガー様の護衛として出て下さい」
「ええっ、出張の翌日に出勤ですか!?と言うか茶会まだ終わっていなかったんですか!?」
「諸々の理由で開催が延期されました。それと出勤は虚偽報告をしたのだから罰として当然です。代わりに明後日から3日間は有給とします」
「人の罪悪感に漬け込みつつも、褒美を与えるなんて……これがアメとムチ?私、宰相補佐様に調教されてる!?」
「馬鹿な事を言うのは止めなさい」
「はーい」
「カナデ、今日は疲れているだろうから帰っていいよ」
「了解です!あっ、お土産に巨人島産のお酒を数種類持って来ました……樽で」
「それは楽しみだな、料理長に預けておいてくれるかい?」
「はい。アルコール度数が高いのでお気を付け下さい。それではお先失礼しまーす」
ふんふん~♪料理長にフルーツとカカオを渡してスィーツ作って貰おう!
♢
やっと静かになりました。カナデは破天荒な子です……自覚がないのが更にたちが悪い。隣にいるエドガー様は気持ち悪いほどに笑顔。ここ最近の激務と貴族の嫌味、カナデの用意したお茶とお菓子が食べられないのが、思っていたよりもストレスになっていたらしい。確かに、あれは美味しいです。
「ねぇ、ユベール。前から思っていたけど、カナデは政治関係もいけそうだよね」
「本人が嫌がるでしょう」
「そうだね……うーん、ぜひ側近になってもらいたいんだけど……カナデは自由な子だからね、この国に縛り付けるのなんて無理だ」
「陛下はそうは思っていないみたいですが?マティアス殿下とカナデを結婚させようと画策しているようですが」
「ああ、前の領主と補佐役の事?失敗していたら世話ないよね。父上は立場を与えれば上手くいくと思っている節があるんだよ。マティアス母親の件しかり、カナデの爵位の件しかり、ね」
「ですが、カナデの件は諦めないでしょう。今回でカナデは巨人族を完全に味方につけました」
「さらに商品価値を上げたって訳だ……あっははは、本当に面白い。下心があったとして、それがカカオのためだなんて……」
「カナデにとっては重要事項なんでしょう。それで、カナデのお土産は明日の茶会で貴族に振る舞うのですか?」
「そうしてくれるかな。カナデが帰って来て良かったよ。カナデが帰ってくるのを待つために茶会を延期したっていうのに、中々帰って来ないんだもの」
「護衛を用意出来ず、申し訳ありません」
「カナデを待つことが最善だと判断したんだろう? 前回の暗殺騒ぎもあるし……何よりカナデが私の部下であることを見せつけるのは、良からぬことを考える貴族共への牽制になる……信頼しているよ、ユベール」
「はい」
明日の茶会では、英雄の女魔法使いを携えた王太子が巨人島産の酒を手に入れた事で話題が持ちきりになるだろう。そして巨人島との貿易が成功すれば、エドガー様は大きな実績を得ることが出来る。
これで英雄である第五王子を担ぎ上げようなどと愚かな事を考える者たちが減ればいいですが、どうなることやら。
コメディージャンルなのにドロドロシリアスでごめんなさい!
お詫びに小話を同時投稿しました。