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告白のタイミング

放課後、私は教室に忘れ物を探しに来ていた。ドアが控えめに空き、先生かと思ったら、密かに思いを寄せている君島くんだった。それだけの事実で心臓が飛び出そうだった。

「忘れ物?」

「あ、うん……君島くんは?」

「俺も」

妙な沈黙が生まれる。口数の少ない二人ってわけでもないのに。

探していたものは体操着袋に紛れていた。お気に入りのリップクリームを見つけられてほっとする。

「駅通学だっけ?」

「うん。そうだよ」

「俺も、なんだ。嫌じゃなかったらーー」

その先に続く言葉を想像し、期待の風船がこれでもかってくらい膨らんでいる。今にも弾けそうだった。もしかして、もしかして。

「一緒に帰ろうよ」

私の中に弾けるような音が響いた。


***


やっぱ、ここは男らしく決めないといけないよな。隣にいる倉本に目をやる。

でもいざってなるとどうしたらいいか分からない。こういうシーンの出てくるドラマや映画、漫画の登場人物達はあっさりとやってのけているように見えていた。自分がその場に立たされている今、あの登場人物達は凄い勇気があったんだと思い知らされる。

「君島くん……」

何も喋らない俺を倉本が見つめる。やめてくれ、倉本はずっと俺の憧れだったんだ。そんな可愛い声で呼ばれたら、その大きな瞳にそれ以上見つめられたらーー

思わず、抱き寄せてしまった。


***


何が起こったのが、最初は分からなかった。

君島くんは何か言おうとして、やめた。

でもいくら鈍い私でも、ちゃんと分かった。

君島くんの体は思ったよりも大きくて、男らしかった。

私、本当に、君島くんのことが好き。


***


今言わないと、絶対タイミングを逃す。言ってしまえ。言ってしまわないとただの変態だ。

「倉本、俺ーー」

「倉本ぉ、君島ぁ、いつまでいるんだ?……っておいおい、教室で何やってんだ!馬鹿!」

「あ、いや」

突然入ってきた担任に、倉本は顔を真っ赤にしてサッと離れた。俺の手は行き場を無くし、なんだか間抜けだった。

空いたドアの向こう、隣のクラスの二人が廊下に立たされているのが見えた。学年主任のお説教待ちらしい。

「犯人ってあいつですか?」

「おいおい。犯人なんて言うな。大したことない。じゃあ早く出ろ。ほら、倉本、鍵」

さっさと荷物を揃え、駅までの道を二人で並んで歩いた。


***


「ごめん、早とちりして」

顔を赤らめながら後頭部をちょっと掻く仕草が可愛かった。

「ううん。私も、変質者かなんかだと思ったもん」

一緒に帰ろうよと言った直後に爆発音と「ふざけんな」と言う声、誰かが暴れるような音が隣のクラスから聞こえた。それらはあまりにも激しくて怖かった。

立ちすくむ私に、君島くんはジェスチャーで座って隠れるように言った。傍に来て私を守るように、君島くんもしゃがみこんだ。男らしくて格好良かった。

変質者が隣の教室で暴れていると思い、二人で震えた。実際にはあの二人が爆竹で遊んでいるうちに喧嘩になっただけだった。どうして教室で爆竹を?と聞いたら「ノリで」と答えたらしく、こってり絞られていた。

「隠れることなんてしないで、隣を見に行けば良かったんだよな。ドラマとかだとそうするし。あんな、ヒロインに抱きつくヒーローなんてダッサイよな」

ヒロイン?私が?その言葉に耳まで熱くなる。それと同時に抱き締められた感触を思い出す。怖くて、思わず名前を呼んでしまった。そうしたら包み込むように抱き締められた。

「私は嬉しかったよ」

好きだから、と続けてしまおうかと思った。


***


嬉しかったよ、って、もしかして脈ありってことなのか。

なんて返したらいいか迷っているうちに駅に着く。

「方面違うもんね。残念。また明日」

倉本が駅の人混みに消えてしまいそうになる。今タイミング逃したら駄目だ。手を掴み、引き寄せる。

「俺、俺さーー」


***


メアド知らないんだけど、教えてよ。

別れ際にそう言われた。すごく嬉しかった。告白のタイミングは逃しちゃったけど、一歩前進だよね。

「今日はありがとう。日曜日、映画に行きませんか……って唐突かな?まあいいか。私も前進しなきゃ。送信」

今度はタイミング、逃さないからね。

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