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ぽっから  作者: 野良丸
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一瀬紗綾は爆発しますか?



 朝礼が始まるまで、あと十五分。一年二組の教室内が少しずつ騒がしさを増していく中、俺は頭を悩ませていた。


『兄ちゃん、一瀬先輩って爆発すんの?』


 昨晩、弟にされた質問。果たしてあれはどういう意味だったのだろうか。そのままの意味で考えていいのなら、答えは確実にNOだ。

 一瀬紗綾は爆発しない。

 なんかラノベのタイトルみたいになったが、それは間違いない。いや、でも一応第三者の意見も聞いておくべきか。


「真野」


 前の席でマンガ雑誌を読んでいる男子生徒の背中を指先でつつく。


「うひんっ」

「気持ち悪い声出すな」

「いやぁ、あまりに良いポイントをつつくもんだから……。で、どうかした? 杉本から話し掛けてくるなんて珍しいじゃん」


 真野は、メガネを指で直しながら振り返る。目が悪いわけではなく、お洒落用の伊達メガネだ。理由は、メガネを掛けないとあまりに馬鹿っぽいから。まず性格から直すべきだと思う。


「あぁ、一つ質問があるんだけど」

「質問? なになに?」

「一瀬っているだろ?」

「三年生じゃなくて同級生のだろ? うん。いるな。席、俺の隣だし」


 そういえば、いつも俺より早く来るのに今日に限って一瀬はまだ来ていないようだ。爆発、が何か関係しているのだろうか。


「質問ってのは一瀬のことなんだけど……」

「え? なに? もしかして杉本お前一瀬さんに興味あんの? 朴念仁のお前が? うはー、めでたい! 今日の晩飯は赤は――――」

「あいつって爆発すんのかな」

「………………ん? なんて? 聞こえなかった。もう一回」

「一瀬紗綾は爆発しますか?」

「なんかラノベのタイトルみたいになってる! てかするわけねぇだろ!」

「だよな。よし。助かった。ありがとな」

「お礼言われて嬉しくないの初めて!!」

「これで確信出来た。一瀬は爆発しない」

「お前の中で一瀬ってどんな存在なの!?」

「ど、どんな存在って……や、やめろよ」

「照れるところおかしいよ!!」

「はいはい。もういいから、前向け。マンガ読んで成績落とせ」

「さっきのありがとうはどこに行ったの!?」


 ふむ。やはり一瀬は爆発しない。少なくとも、ボカーン的な爆発は。

 しかし、凛は頭がいい。爆発、という言葉には他に意味があると考えた方がいいだろう。

 おそらく、凛は彼女である一瀬七星から話を聞いたのだろう。つまり、一瀬妹は一瀬が爆発するところを目撃している。

 爆発といえば、なんだ? 思い付かない。第三者の話を聞こう。


「真野」

「うひんっ。……なんだよ」

「爆発と言えば、何が思い付く?」

「爆発? え? えと……フツーに爆弾とか……」

「そういうことじゃない!!」

「どういうことなの!?」

「爆発に例えるようなことを聞いているんだ」

「なら最初からそう言えよ……。えっと、あれだ。自分が損することを言っちまった時とか、自爆って言うよな」

「……なるほど。ありがとな。もう下がっていいぞ」

「俺はお前の部下なの?」


 失言による自爆。有り得なくもない。だが、あまり想像出来ないことも確かだ。中学時代クーブレ(クールでブレない)とまで言われた一瀬が失言……? しかも、爆発と表現するほど恥ずかしいものだ。一体どんな……。

 よし。第三者の意見を聞いてみよう。


「真野」

「うひんっ。……声掛けるだけじゃ駄目なのか? で、今度は何?」

「口に出すと爆発してしまうほど恥ずかしい過去を教えてくれ」

「教えねーよ!?」

「そこをなんとか」

「教えねーよ!?」

「いやいや、もうひとこえ!」

「越えねーよ!? むしろ一線引きてーよ!!」

「ん?」

「え?」

「もうひとこえ、って一声って書くんだけど、お前、間違えてないか?」


 机の上に漢字を書いてやると、真野は真顔になってから両手で顔を覆い隠した。


「………………」

「………………」

「なるほど。これが自爆か」

「うるせーよ!!」



 結局、爆発については何も分からないまま、そして一瀬が姿を現さないまま朝礼が始まってしまった。

 担任である二十代後半独身女性教師の声が響く中、教室のドアがゆっくりと開いた。


「あれ、一瀬さん。遅刻なんて珍しいわね」

「すいません。寝坊しました」


 いつも眠そうな目をしている一瀬が言うとしっくり来る言葉だが、俺が知る限り、遅刻は初めてのことだ。


「次から気をつけなさい。さ、座って」


 担任の言葉に頷くと、さっさと自分の席――俺の斜め前の席に座る。

 そこで気付いたのだが、一瀬の後ろ髪が、一部跳ねていた。爆発の後遺症だろうか。後頭部辺りの髪が、鞄を引っかけられそうなほど綺麗に跳ねている。

 不意に一瀬が振り返り、目が合う。一瞬で固まりそうになる頭が命令した動作は、自分の後頭部をさするというものだった。

 照れているわけではない。髪が跳ねていると教えるためだ。断じて照れているわけではない。

 俺の意図に気付いたらしい一瀬も、髪の跳ねた辺りを右手で撫で始めた。

 もしかしたら照れた顔が見られるかもと思ったが、やはりそう甘くはない。流石はクーブレだ。








 夕方。一瀬家。

「凛先輩、今日も姉が爆発しました。寝癖、とただ一言残して」

『それは名探偵でも解決出来ないな……』




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