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ぽっから  作者: 野良丸
3/12

同日、一瀬家の夕方 



『いや、だから馬鹿兄貴……いや、馬鹿の戯れ言だから』

「そうなんですか」


 まぁ、聞こえてきたのが男の人の声だったから、そんなところだろうと思っていたけど。


「でも、こうして口にしてみると少し不安になりますね。凛先輩、年上にモテますから」

『だからないってー』

「さっきも、夫が単身赴任で身体を持て余した新婚若奥様と禁断の一夜を明かしてゴタゴタしちゃったのかと思いました」

『なんでそんな具体的なの!?』


 我が家のリビングに置かれたテレビの中では、夫に浮気がバレて土下座する妻が映し出されている。中学生になったことだし昼ドラを解禁してみたのだけど、残念ながら面白さは理解出来なかった。


『ていうか、アレだ。女の子があんまりそういうことを言うのは……』


 凛先輩が何かゴニョゴニョ言い始めた時、玄関ドアの開く音が聞こえた。続いて、何かの爆発音。


『な、七星? 急に黙ってどうかした?』

「あ、いえ。玄関の方から爆発音の音が」

『どこの小説家だよ…………って爆発音!? なんでそんなのんびりしてんの!?』

「私、今日の占い二位だったんです」

『だからって爆発は防げねぇよ! どんだけ占い過信してんだよ! ってかせめて一位であれよ!』


 凛先輩の突っ込みに心暖まりながらリビングから顔を出して玄関を覗く。そこには、靴を脱いだ状態で玄関に膝をつき、顔を赤くしたり青くしたりしている三つ上の姉の姿があった。


「すいません、先輩。少し席を外しますね」


 携帯をテーブルの上に置いて、洗面所へ向かう。我が家の次女、紗綾姉さんがこんな状態になるのは珍しいことでもないので、対処は手慣れてしまった。


「紗綾さん、大丈夫ですか?」


 洗面所から出て、優しい言葉を掛けながら濡れタオルを顔に投げる。


「飴と鞭が同時進行ってどういうことなの……。何が目的なの……」

「目的とかないんで、とりあえず知恵熱で倒れるのはやめてくださいね」

「はい……」


 顔にタオルを当てたまま座り込んでしまった姉を置いて、一人リビングに戻り、携帯電話を手に取る。


「もしもし」

『あ、もしもし』

「突然すいません」

『いや、爆発音がしたんだし、しょうがないよ。大丈夫だった?』

「はい。姉が爆発してただけでした」

『あれ? 俺の知ってる大丈夫と大分違うな』






 一時間ほど先輩と話をした後、玄関へ行くと、そこにはまだ姉が座り込んでいました。


「どういうことなの……。顔真っ赤にして苦しそうな姉を寒い玄関に放置して自分は彼氏と楽しくお電話ってどういうことなの……」

「……暑そうだったので、涼しいところにいた方がいいかと」

「今考えたよね、それ」


 姉が顔からタオルを離すと、まだ少し赤い顔が露わになる。いつもより目がトロンとしていて前髪が少し乱れている様はどこか艶めかしい。


「とりあえず、寒いならお風呂に入ってはどうですか。掃除をすればいつでも入れますよ」

「今日の当番、七星だよね」


 ちっ。覚えていましたか。


「まぁ、とりあえずリビングへどうぞ。暖かいものでも用意します」

「うん。ありがと」


 まるで子供のような姉の手を引き、リビングへ入ってソファに座らせると、暖かいものを探しにキッチンへ行く。

 あれ。コーヒーがない。あれれ。コーンスープもない。


「……紗綾さん」

「ん? なぁに?」

「シーフードとカレー、どっちがいいですか」

「まさかのヌードルだよぉ……」


 ヌードルは夕飯が食べられなくなると理由で却下されました。


「それで、今日はどうしたんですか? どーせまたあの人関連ですよね?」

「名前を言っちゃいけないあの人みたいに言わないでよ」

「そんなつもり一切なかったんですけど……」


 ホットミルクの入ったコップを両手で持っている姉の顔は先ほどより赤く見える。


「杉本先輩の前でもそんな顔が出来ればいいんですけどね」


 うぐ、と姉は怯んだような声を出す。


「なんで無口になっちゃうんですか。せめて笑っていれば印象も悪くないでしょうけど、話を聞く感じ最悪に近い無愛想っぷりみたいですし」


 うぐぐ、と潤んだ目でこちらを睨んでくる。可愛い。


「七星だって、いつも彼氏にツンツンしてるくせに……」

「私達と紗綾さん達じゃあ立場がまるで違うじゃないですか」

「正論ばっかり言わないでよー」

「おかしなことばっかり言ってるから少しの正論で身体中が穴だらけになるんですよ」

「うー。流石、一瀬家の正論連射機こと正論ガンの七星だね」

「え。なんですか、その無理矢理に臭そうな異名」


 閑話休題。


「それで、前は席が近くになったって言ってましたけど、今回は何があったんですか? 目があった? 挨拶した?」

「え、なにその低空飛行な予想」

「紗綾さんですから」


 大体、これらが簡単に出来ていれば、中学生の頃から仲良くなっていただろうし。


「失礼な。今日は杉本君と話したんだよ!」

「ハナシ? おはよーとかですか?」

「挨拶じゃなくて! 話! 会話!」


 その言葉を三十秒で理解した私は、とても頭の回転が早い部類だと思う。


「あぁ、なるほど会話ですか」

「うん。そうだけど、なんで今固まってたの?」

「つまりその時の感情がさっきの爆発なわけですね」

「あれ。スルーされちゃった」


 私の下の姉、紗綾は、学校ではとても無愛想になる。しかし、実際のところ何も感じていないわけではなく、心の奥に溜め込んでいるのです。家に帰ると放出されるわけですが、溜め込みすぎると先程のような状態になる。特に恋愛絡みの感情は苦手らしい。

 こんな風に、私の姉は少し面倒臭い。紗綾さんも、お姉ちゃんも、私みたいにほんの少しでも素直になればいいのに。



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