ゴリマッチョ好きの令和女子が異世界転生したら
突然だけど。
婚約が決まった。……らしい。
“朧気ではあるが名前くらいは知っているものの、会ったこともない相手”からの申し出で、厄介なことに、家格の差から断れないー断ることなど赦されないーものであった。
ただ、やはりというか何というか、私はあくまで隠れ蓑にすぎず、ソイツが本当に愛しているのは私以上に家格差のある家の庶子ー所謂平民ーだった。
コッソリ調べてそういった実情を知った父は半泣きで謝り倒してきたが、私は元々結婚願望がなかったので別にどうでも良かった。
むしろ、夫となるであろうソイツと関わらなくて済むなら万々歳である。
素直にそう伝えると、半泣きから号泣に進化してしまったため、仕方なく慰めに徹した。
貴族に生まれた以上はそういうこともあり得ると想定していたから、予想通りといえば予想通りってだけなんだけどなぁ。
第一、自分達だって政略で結婚しただろうが。
今、彼等が幸せなのは、双方の努力と歩み寄りの結果であり、それは私の婚約とは無関係なのに。何故泣く。
別に我が家は援助を必要としているわけでもないし、なんならこっちが補填してやる側ではあるけれど、やりようによってはそれなりのうまみはある。
そこはお人好しの父をすっ飛ばして兄に助言しておいたので、彼がどうにかするだろう。
とはいえ。
それはそれ。これはこれ。
その庶子は、ことある毎に『シエラが睨んだ』だの『シエラが酷いことを言った』などと宣い、それを真に受けたアスコットが私を恫喝するようになった。
これはダメだ。流石にナイ。
高位貴族だけあって顔はそれなりに整っているのかもしれないが、私の好みは前世で云う【世界一かっこいいハゲ】のあの人である。
キリッとした顔と鍛え上げた肉体美。それをスーツに詰め込むとかね、神が与え給うたご褒美でしかないわけ。
顔だけなら、熊に跨るコラ写真(……流石にコラだよね?)がネット上に出回っていた、どこぞの大統領も好みだ。
そんな私が、ジェ◯ソン氏とは真逆もいいところの、なよなよしたモヤシなんぞに興味が持てるわけもない。
なので、とりあえず。
ナディア嬢が何か言うたび、アスコットが反応する前にツッコミを入れることにした。
これまでの流れから察していると思うけれど、私には前世の記憶がある。
そんな私の中身は、前世の母リスペクトの令和ギャル。
最低限のルールはもちろん守るけれど、自分のやりたいことや好きな人&物を大切にし、向けられる悪意は笑いに変えて我が道を行く。
それが私のアイデンティティ。そこだけは譲れない。
アスコットとのお茶会に闖入し、わざと紅茶をこぼしたナディア嬢が涙ぐみながら
「シエラが私のドレスに紅茶をかk……」
と呟いた時は、
「こんだけ離れててどうやって紅茶かけんのよ。ダ◯シムでもそんな腕伸びねーわwww」
ウケる、と手を叩きながら笑って煽り。
勝手にコケたくせに私のせいにしようとした時は、
「シエラが足をk……」
「間にアスコット様がいるんだから、コケるとしたらコイツじゃね?? あー、でも仕方ないかー。私足長いからさー。引っかかっちゃうくらい足長くてゴメンゴーwww」
と、上目遣いで地獄の某みたいにうざ絡みして。
何かの折に注意して、お決まりの“庇ってもらえる前提の自分サゲ”をかましてきた時は、
「私が庶子だからっt……」
「え、それって貴女の感想ですよね? 貴女が庶子かどうかなんて今関係ないし、論点はそこじゃないんですけど」
と、某論破王よろしくチベスナみたいなスン……っとした真顔で煙に巻いて。
なんていうか、『これもう私達テッペン取れるんじゃない?』ってくらい、阿吽の呼吸でナディア嬢のボケにツッコミを入れまくった。
……したっけ、アスコットがなんか明後日の方向に覚醒して、私のことを口説き始めた。
「ぅゎ、気持ち悪っ」
令和日本時代に古典で習った『あなや!!』って叫んじゃうとこだった。
危ない危ない。
ていうか、私の記憶が確かならば、あれ実際に【あなや】って叫んでるわけじゃなくて、悲鳴をあげた例えみたいなモンなんだよね。
『うわぁ!!』とか、『きゃあ!!』的な。
閑話休題。
多分だけど、アスコットの中で所謂“おもしれー女”枠にノミネートされたっぽいんだよねぇ。
……マジで要らん。私の隣にオメーの席、ねーから。
いや、だけどなぁ。
相手、一応は侯爵家のお坊ちゃんなんだよねぇ。
実家もなにかと集られてるから、別に私だけが耐えてるわけじゃないんだけど、それでもなんかもう破談にしたい。
次に何かされたら、右ストレートでぶっ飛ばす自信がある。
どうやって逃げようかな、と考える私と。
ぜってー逃がさねぇ、と謎の執着を見せ始めたアスコット。
私達の戦いはこれからも続く。
…………一応、言っておいた方がいいんだろうか。
スタンばりたくないけど、一応ね。
……デュエル、スタンバイ!!
っつーか。
私としては、『カー◯チ、婚約破棄しよ?』って感じなんだけど。
マジで、どうしてこうなった。




