ワタナベさんノーベル生理学賞を受賞する
”こんにちは、ミズ ワタナベ。電話で失礼します。私、ノーベル財団のものです。
略儀ながら失礼いたします。我々は今年のノーベル生理学賞に貴方様を選定しましたので、まずはご連絡申し上げた次第です。
おめでとうございます。
え? 何言ってるか分からない? 詐欺?
違います、私は本物のノーベル財団の職員です。
まあ、明日になれば正式発表となりますのでご納得いただけると思いますが、詐欺ではない証として受賞理由を説明しましょう。
ご存知の通り、昨今の脳神経医学においては【脳の可塑性】を活用した治療方法が目覚ましい発展を遂げています。
え? 何言ってるか分からない? またまたぁ。
まあいいです、続けますね。
従来、脳というのは『大人になると成長しない』と思われてきました。しかしそれは間違いだと分かってきました。
例えば、脳疾患で脳の一部の機能が失われた場合、脳は残りの健康な部分でネットワークを再構築し、その機能を取り戻そうとするのです。
つまり、脳というのは、「やべぇ、これ今までとなんか違うわ!」と感じると、活性化しその状況から抜け出そうと頑張るようになるわけです。
まあ、釈迦に説法ですよね。ははは。
貴方の貢献度を分かりやすくするために、それを利用した具体例として【弱視訓練】を挙げてみましょう。
【弱視】とは、レンズ機能は正常なのに、脳がその情報をうまく処理できず、その結果モノが見えにくい、という視力障害です。
幼児期に、斜視などの要因により片眼をほとんど使わない状況が長く続くと、脳の視覚機能の成長が阻害され、そのような障害が起こります。
従来、その治療には【アイパッチ】という、見える方の片眼を塞いで、見えない方の眼を強制的に使用させる訓練法が用いられてきました。
しかし、それで治療できるのは10歳くらいまでで、それ以上は改善が見込めません。脳の成長が終わる事が理由とされていたんですね。
しかし、近年になって新しいアプローチが考案されました。【両眼テトリス】です。
VRゴーグルなどを用い、片眼には下に溜まったブロックだけを、もう一方には落ちるブロックのみを見せて、ゲームをさせるのです。両眼が協力しないとプレイできません。
すると、見えない方の眼の視力が改善したのです。
よく見えない状況がその眼にとっての『当たり前』。それは従来のアイパッチ訓練では覆せませんでした。
しかし、もう片方の眼と協力せざるを得ない状況に置かれることで、その『当たり前』が揺らぐ。そして新しい『当たり前』に向かって、脳のネットワークを新しく構築し始めたのです。
このように、脳機能の欠損や未成熟が原因の身体機能障害は、『その状態が当たり前ではない』と脳が認識できる環境を与えることで、活性化させることが出来ると明らかになってきたのです。
大人の脳は、成長をしないのではなくて、単に固定観念や予定調和に凝り固まって新しいことを受け入れたがらない、『頑固オヤジ』だったわけです。
そしてそれを打ち破るのは、その固定観念や予定調和を崩すことだったんです。
おっと、これまた釈迦に説法でしたね。ははは。
え? ここまで説明しても、まだご自身の受賞理由が分からない? ご謙遜が過ぎますねぇ。
まあ、いいでしょう。
とまあ、最新の医学会では、脳の可塑性が持つ大きな可能性に注目が集まっているのですが、その流れはここ20年かそこらのことです。
しかしながら。しかしながらですよ。
貴方はその可能性に、1980年代には既に気が付いていたではありませんか。
しかも、それを私のような長ったらしい説明ではなく、たったワンフレーズで、世に知らしめたではないですか。
『マイレボリューションとは明日を乱すことさ』と!!
恐ろしいまでの先見の明。そしてそれを簡潔にまとめ人々に伝える能力。
貴方の提唱を世界が理解するのに数十年かかりました。しかし、これにより脳神経医学は目覚ましい発展を遂げたのです。これを貴方の功績と言わずになんと言いましょう。
おめでとうございます、ミズ 【ミサト•ワタナベ】
貴方こそノーベル生理学賞に相応しい。”
「ええと、言いたいことは沢山あるんですが...そもそも、作詞は私じゃないんですけど。」
おしまい




