私と姫と怪物と
彼女とは、私の空想の存在である。
彼女は、私の嫌うものを好み、私の好むものを嫌った。
彼女は、好んで憂いに棲みつき、その魂を喰った。
彼女は、喰った。
喰って、喰って、喰って…
ついに彼女は、私の空想から、現実の存在へ。
彼女は、変体した。
***
「夢のようだ、美しい」
ある朝である。
父の部屋まで招かれた娘は、金と宝石に着飾っていた。
「身に余るお言葉」
細く響かない、消え入りそうな声。その目は青く淡く、病ゆえの白髪が銀に光り、その身は一層はかなげな姿に映る。
その淡さと正反対の金、銀、宝石のドレス。
今日はこの姫の結婚式であった。
「急に決まった婚約だが、あちらの方も私も皆お前たちの結婚を祝っておるのだ」
「…はい」
「あちらには失礼のないように」
「…わかっております」
「お前のように先の短い娘、貰ってくれるだけありがたいのだ。存分に尽くせ」
「…はい。お父様」
姫の目はまっすぐ父王の姿をとらえていた。
父は笑顔を崩さない。口角が歪んでいるのにも気付かず。
しかし、彼女は変わらず父を見ていた。父の言葉を信じているわけではない。最初から謀られた婚約ということは分かっていたからだ。
「さあまだ時間もある。去る前の挨拶でも何でも構わない、自由に時間を使うといい」
父の残る良心のかけらが娘を労る。
姫は一礼し、自室へ下がった。