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怠惰な悪魔は玉座に座る

 ──チャッチャッララーン♪


「やったぜ!SSRキャラのベルフェゴールゲットー!。キャラもイケてんじゃん!イラストレーターは俺というの悪魔を分かっていらっしゃる。今日はついてる気がするから、他のゲームでもガ~チャろ」


 スマホをいじりながら寝返りを打ち、他のアプリゲームをピコピコと開く。

 そして、タップとスクロールを繰り返しては、お気楽な気分で新たなガチャに手を出した。


 ──テテン…。


 すると、地味な演出と共にドドンとスマホに写し出されたのは、『N』という大きな一文字と、油ギトギトの見るに耐えないオッサンが、画面いっぱいを汚染した。

 しかも、そのキャラの名前も気に入らない。


「怠惰な悪魔ベルフェゴールだぁ?。ふざけんなっ!俺はこんなに醜くねぇよ!!」


 プツンときた俺は、持っていたスマホを布団の上に勢いよく投げつける。


 ──ポフッ…。


 衝撃は布団に吸収され、スマホには傷ひとつない。

 だって、スマホ…お高いんだもん。

 そう簡単に壊すような真似はしない。


「あ~、気分悪い。……寝よ」


 不貞腐れた俺は、思考を捨て、そのままベッドの上で眠りにつく。

 そんな時、


「ベル!いえ、ベルフェゴール様!お話がございます!」


 上半身を起こして、俺の名を呼ぶ住んだ声に耳を傾ける。


「なんだアスタロトか、どうした?改まって……」


 フワッとした紅の髪から、ひょっこり顔を覗かせる可愛らしいふたつの角。

 ゴスロリメイドの格好をしたこの美人悪魔のアスタロトが、プンスカと仁王立ちしていた。

 彼女は1万年前からの悪友であり、幼馴染であり、信頼のおける側使えだ。


「ん、どしたんだ?この封筒…今月分の俺の小遣いか?」


 俺は彼女が差し出した封筒を片手で摘み上げ、ヒラヒラと正視する。


「違います。というか、今月分のお小遣いはあげたでしょうがっ!よく見てください」


 「……じ…ひょ…う……はぁ!辞表!?なんで!?」

 

 彼女の突然の行動に理解が追いつかず、俺は恐る恐る彼女に尋ねた。


 「り…理由を聞いていいか」


 すると彼女は、大きな溜息を吐いて、ゴミを見るような瞳で俺を一瞥した。


「愛想が尽きました」


「なんでだよ!俺たち上手くやれてただろ?なんで急にこんな」


「はぁ?上手くやれてただぁ?寝言は寝て言えっ!この豚野郎!」


「な、なに!」


 敬語を使わなくなったかと思えば、俺をブタ呼ばわり。

 これには俺も、カチンと…いや、ブチンときた。


「て、テメェ。言わせておけば……。はっ、好きにしろよ。俺様は七つの大罪の断罪者が一人、ベルフェゴール様だ。お前が居なくなったところで、俺に(つか)える悪魔はごまんといる。どーぞぉーー?お前なんて、何処へなりとも行っちまえよ」


「フフフッ」


 鼻で笑われた…。

 なんなの?なんでそんなに余裕なんだ?。

 お前…。


「ホントお気楽ね、ベル。……あなたまだ分からないの?」


「な、何がだよ」


「あなたに仕えていた悪魔はもう…私で最後だってこと!」


 は?、アスタロトで最後?。

 そんな馬鹿な。

 俺には何十万という配下の悪魔が……。


「まだ、現実を受け入れられないのかしら?。じゃあ聞くけど……あなたここ数百年、私以外の悪魔をこのフェニックス城で見かけた?」


 …………………………。

 見かけてねぇ!!。


「ま、待てよ…。その話が本当だとして、なんでみんないなくなっちまったんだよ。おっ俺はっ、断罪者ベルフフェ──」


「いい加減にしなさい!いつまで過去の栄光に縋っているのよ!あなた…これを見ても、まだそんなことが言えるの!」


 アスタロトはそう言うと、布で隠された円盤状の物体を、俺の前へとガラガラと引きずってきた。

 そして、布を勢いよく取っ払い、その中身を(あらわ)にした。


「大鏡?いや違う、魔法の鏡か…。おいアスタロト…なんでこんなものを持ってきたんだ?。しかもなんだ?これに映っている汚らしい奴は…」


「違うわよ!何が魔法の鏡か!それが今のテメーだよ、この豚!いい加減現実と、自分の腹をみろーー!!!」


 は?、これが俺?。

 いや、俺はもっとイケメンだったはず……。

 だって、前はもっと引き締まって…筋肉もついてて………。

 髪もサラサラで…えっ?。

 嘘………。

 嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、嘘、

 USODAーーーーー!!。


「ようやく現実が見えるようになったんですね。そうです。それが今のあなた。七つの大罪の断罪者、ベルフェゴール(笑)の姿です」


 醜く膨れに膨れた腹。

 そこに昔の栄光の面影はなく、俺の体から生成された天然物の油で全身はギットギト。

 髪に至っては、その油でテカテカに輝いている。

 コレじゃ、さっきの『N』キャラと一緒じゃないか!


「じゃあこの前、俺が街中で歩いてたときに、可愛い悪魔の娘にスッと距離を取られたのは、俺の威光に当てられて後ずさったわけじゃなくて……」


「単にキモかったから、逃げただけですね」

 

「悪魔たちが俺を見かけるたびに、歓声あげてたのは……?」

 

「悲鳴ですね、それ…」

 

「じゃ、じゃあ、俺の配下がいなくなったのは……」

 

「誰があなたのような、気持ちの悪い油ぎったヒキニートに使えたいと?」

 

「あわあああああああ」


 こ、これは現実か?

 俺は自身の飛び出た腹を、万力(まんりき)の如く、力一杯に(つね)った。


「痛い…夢じゃない!」


「頬を抓って夢かどうかを確認するみたいに腹を抓るな!気持ち悪い!コレは紛れもない現実よ!」


 現実。

 現実なんだ。

 なんで、俺はこんな風になってるんだ?


 思えばかれこれ何百年。

 いや、何千年も前。

 神よって与えられた使命によって、人類を恐怖で戒めてきた悪魔の時代。

 あいつらは弱くて、そして愚かで、醜悪で…簡単に人道から外れちまう。

 だから俺たち悪魔が、絶望と畏怖の象徴として人類を戒めてきた。

 愚者には恐怖を……。

 堕落者には絶望を……

 罪人には断罪を……。

 そうして人類には、悪魔(オレたち)という恐怖を焼き付けた。


 『罪を犯した人間は地獄に落ちる』

 『悪い子は悪魔に食べらる』

 神を信じていたその時代の人間は、そんな噂を流すだけでも、簡単に自らを律した。

 それでも欲に駆られた奴は、直々に手を下す時もあった。 


 だけどある日。

 俺たちの存在は不要となったんだ。

 『法律』と言う名の、人類が自らに課した新たな戒めの誕生だ。

 彼らが課した法律とやらは最初は曖昧なものだったが、次第に誰もがそれを守るようになっていった。

 何故かって?

 まぁ、俺たち悪魔の存在も大きかっただろう。

 法に背いた者は、すなわち罪人だ。


 『罪人は地獄に落ちる』


 そんな話のせいで、罪人は異教徒扱い。

 罪状、そして国によっちゃぁ、公開処刑なんてエンタメが流行り出す始末。


 『お前たちも、罪を犯せばこうなるぞ』

 

 と、人間が人間を恐怖によって戒めだしたんだ。

 

 必然的に悪魔による戒めは失速していき、気づけば俺たちは完全に不要となっていた。

 じゃあ、その後はどうしてるかって?。

 それは簡単。

 俺たちの創造主。

 正確には、俺みたいな高位悪魔の創造主。

 クソ(オヤジ)が、『お前達!コレから毎日休日ダアアアア!!』って言い出してから、もうずっとフィーバータイムだ。


 そう。

 このクソ長いフィーバータイムが俺を、堕落させた全ての元凶……。

 いや、違う……それは体のいい言い訳だ。

 コレは自堕落な生活を送り続けた、俺の…俺自身の責任だ。


「ベル、では私はこれで、さようなら」


「まっ、待ってくれ!」


「何よ……」


 誰もいなくなったこの場所で、アスタロトだけが最後まで残ってくれたのは、きっと俺が、何処かで変わるのを待ってくれていたに違いない。

 でも、その彼女が愛想つかしちまうほど、俺は醜さには磨きがかかってる。

 コレじゃ、俺がかつて裁いてきた、醜悪な人間共と同じだ。


 変わらなきゃ…。


 戻らなきゃ…。


 お前と一緒に罪人達を血祭りにあげた、あの青春の日々に…。

 

「俺、変わるから……絶対に変わるから!だから俺を、一人しないでくれ!」


 額を地面に擦り付けて、俺は彼女に懇願した。

 恥もプライドも捨てた。

 俺はここでアスタロトを失ったら、きっと一生変われない。


「ふ~ん、変われるの?今のあんたに…」


「猶予をくれ!それでもダメだと思ったら俺を見捨ててくれて構わない」

 

 彼女はしばらく考えた後、俺に向き直って優しく告げた。


「いいわ。百年(ひゃくねん)だけ待ってあげる」


「百年!」


 長くね?百年……。

 アスタロトの優しさが垣間見えたっていうか、優しさに満ちた猶予だ。

 それとも俺には百年もないと、変われないとでも思われてるのか?

 まぁ、これも俺が積み上げてきた悪い信頼だ。

 仕方ないっちゃあ、仕方ない。


「いや、アスタロト、十年だ。お前の信頼に応える為に、十年で俺は変わって見せる」


「じ、十年!?いいわ。それまでに痩せられなければ、ベヒモスの餌ね」

 

「ペナルティに命持っていかれんの!?……いいぜ、やってやる。見てろよ、俺様の華麗なる復活を」


 それから俺は、アスタロトの協力のもと、ダイエット生活に取り組んだ。

 大好きな漫画やゲーム、スマホも当然封印した。

 そして、一日の全てを運動に費やし、体に染み付いた脂肪を、少しずつ絞っていった

 ランニングに腕立て伏せ。

 腹筋、背筋、さらにはスクワット。

 1日も欠かすこと無くやり続けた。


 そんな日々の楽しみは、アスタロトの用意してくれた手料理だ。

 彼女の手料理は俺の体を気遣い、ヘルシーかつ、俺の腹を満たしてくれる大容量のものとなっている。

 その上、うまい。

 そんな生活を繰り返し、約束の十年が経過した…。


 「どうだアスタロト。見違えただろ?」

 「ええ、まさか本当にダイエットに成功して見せるなんて……見直したわ、ベル」


 結果。

 俺はダイエットに大成功した。

 溜め込んでいた脂肪は体外に全て排出し、今では立派な細マッチョだ。

 脂ぎっていた髪も、サラサラになって、歩く度に深緑の髪がフワリと揺れる。



 七つの大罪の断罪者、ベルフェゴールの完全復活だ!


初めまして!

現在小説1冊分に渡る、長文の恋愛小説を執筆中の

色採鳥奇麗イロトリドリキレイです。

『怠惰な悪魔は玉座に座る』

いかがでしたでしょうか?

お笑いいただけましたか?

感想などいただけると、執筆の励みになりますので、些細なことでも是非評価していただけると幸いです。

近々…になるかはまだわかりませんが、恋愛小説の方ももう少しで執筆完了し、問題なければ投稿する予定でいます。

しかしこちらは、読者の方々の心に深く残るような作品にしたいので、暫しの時間がかかるかもしれません。

ですが、期待にそう作品にするつもりでいますので、心待ちにしていただけると幸いです。

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