古い村での習わし
都市郊外にある名は知れている小さな村。
水も電気も通っているが、肝心の人は寄り付かない過疎地と化している。
毎日が退屈な日々であった。独楽も面子も駄菓子屋もあるが、とにかく子供たちにとっての娯楽は所詮この程度であった。
大人たちのほうが娯楽に飢えてるのかもしれない。
なぜならば農作業や地域の挨拶くらいしかすることがなさそうなくらい暇そう。
一面には田圃、夏の空に鬱陶しいほどの蝉の鳴き声。
山の向こうに入道雲が立ち込めている。
もうすぐ雨だな、今日は特段に暑いから。
「父ちゃん、手伝おうか?」
「おう!頼むわ」
一面の田圃や畑はまるで延々と続くように多い。
「あー!あっちぃな!」
「たりめーだあほんだら、そんなこと言ってっとこれからの暑さも耐えらんねーぞ」
「おう!やってやんよ」
必死に鍬を振り下ろし、大量の畝を作る。
自給自足の村なので夏野菜などは必須。
米だって自慢の病気に強い米だ、秋口には立派に実る。美味しいと育ちやすいという太鼓判、実績持ちの当村自慢の作物だ。
「全くこの暑さは異常やわ、ウチらの言うことも聞いてくれたらいいんだけどね」
「馬鹿言うなおめぇ、んなこと言うくらいならとっくに叶っとるわい」
「冬の寒さ持ってきてぇな」
「ハッハッハ!面白いやっちゃな。ほれ休憩でもすんべ」
家の軒下には鈴虫、近くのやや大きめの木には蜩夜には田圃に住む蛙共全くもってうるさい。
都会に行くと虫は鳴かないのだろうか、夜は静かなのだろうか。
縁側に深く座り込んで扇子で渋々風を送り続ける。
「あーあっちぃな!ほんとにあちぃ」
「口を開けばあちぃあちぃ、余計暑なるわやめてくれ」
力強く仰いで強くの風量を得た父ちゃんは目がトロンとしていた。
見様見真似で、力強く仰いだが上手くはできなかった。
「ハッハッハッ!お前は下手くそじゃのう、ほれこうじゃよ」
父ちゃんは自分に力強く風を、逞しい右腕は僕に涼をくれた。
思わず父ちゃんのようにうっかりとトロンとしてしまった。
「気持ちいいか!ほれ〜」
より一層風は強くなり今度は鳥肌が立つほどにまで冷えた。
「父ちゃん!もういいよ、かえって寒い」
自分の腕を擦って寒いと見せてみた。
父ちゃんは僕の頭を掻き乱して、深く笑ってみせた。
太陽より眩しいその笑顔は僕の寒いを冷ました。
「ほら二人とも!西瓜と麦茶よ。」
「おっ!待ってました」
「父ちゃん、やっぱ夏は西瓜だよな」
「ハハッ、そうだな、それから麦茶もだ!」
「フフッ、そうね」
他愛ない談笑は暑い夏を少し和らげてくれる気がする。
シャリと西瓜を一齧り、ゴクと麦茶をいっぱいに飲んでもう一回シャリ、今度は種入だ。
プッと種を庭に吐いた、父ちゃんも同じように吐いてみせた。
「父ちゃんは二連続吐けるぞ、ほれやってみぃ」
「うーん、うまくできないや」
もう一回見せてくれた二連続はどうやっても出来なかった。拗ねて、紅い果肉に一生懸命齧りついた。
負けじと父ちゃんも齧りつき僕よりも速く完食していた。
「やっぱり父ちゃんはすげぇや!なんでも僕より早いじゃないか」
「ハッハッハ!大人だからな!子供には負けんよ」
「じゃあ後ででも甲虫対決しようよ」
「構わんよ、まぁ俺が圧勝だ覚悟しとけよ!蜩が鳴いたら取りに行こうな」
薄汚くなった白の薄手のTシャツを捲って図太い上腕を見せた。
同じように捲り、腕を見せたが歴然の差。
「まだまだヒョロヒョロじゃないか、これから大きくなるんだからなもっとしっかり食えよ!夏の暑さでバテるぞ」
「ウフフ、お母さんもうバテちゃった」
すると、父ちゃんはフッと吹き出し釣られて母ちゃんも、それに釣られて僕まで笑った。
みんなで笑うと体温を上げた。笑うは疲れるものだ。
「こんにちは、真中さん」
「おっ、これはこれは山野さんこんにちは」
「何の用で?」
「いやー、この時期になると、ね?…ほら、あれ」
「山野さん、この話は子供のいる前ですることではありませんよ」
「これは失敬、お控えするべきでしたね」
子供の前でする話ではない?なんだろう、もしかして龍神伝説かな?それとも川で溺れるのを防ぐため?それとも…「おとなのじじょう」ってやつかな?
気になる!気になる!
「おじちゃん、話って何?」
「いやーまもる君には話は早いよ」
「えー!いいじゃないちょっとくらい教えてよ〜ケチ」
「こら、守。人聞き悪いわよ」
「すみませんねうちの倅が」
「いえいえ、元気なのは良い事ではないですか、話っていうのはね龍神伝説なんだけどね。」
「それ知ってるー、龍神伝説ってやつでしょ?」
「よくご存じで、その件なんだけどね各世帯に伝えようとね」
「どうもありがとうございます」
「ご苦労さまです、お茶でも出しましょうか?」
「いえ、結構ですよ。このあともあるのでねお気持ちだけでも」
龍神伝説、一説には江戸時代?という時に山の神様を怒らせて村の水が飲めなくなっちゃうっていう災い?を起こしちゃったらしい。
「隅田さんとこのようちゃんが言ってたよ、村の奥の井戸の水は飲んではいけないって」
「まったくようちゃんは口が軽いものだね。まぁ、よろしいわかっているのならば一切立ち入ることのないようにね」
「わかった?守、あそこは入ったら戻れないからね母ちゃんも父ちゃんも悲しくなっちゃうよ。」
声には出さずに分かったと頭を縦に振った。
「じゃあようちゃんとこに行ってくる!じゃあね」
「遅くならないようにね!」
「分かったよー」
「まもる君もこんな暑いのによく元気だ。若いのはああでなくちゃな」
「ハハッ、まったくですよ元気すぎてね」
◇◇◇
「ようちゃん、何して遊ぶ?」
「んーどうしようか…独楽でもする?」
「独楽は飽きたしな。暑いし水鉄砲でもするか!」
「そうだね!やろう!」
桶に水をいっぱいと張ると歪んだ顔が見れた。
竹でできた水鉄砲の押し棒を思いっきし引き上げた。
ズロズロと水が汲み上がる音が聞こえ、より一層興奮した。
目が合うと体をジタバタさせ暑さ関係なくに動き回った。
「どうせ、この人数でやってもつまらないし誘う?」
「名案だよ、それ!森嘉さんとこの楽ちゃんと加奈ちゃん誘う?」
「いいね!もっと誘う?小田野さんとこの春樹くんと夏樹くんも誘うか」
「人数は多いほどいいよね」
「さっそく行こう!僕は森嘉さんとこ行くから、ようちゃんは小田野さんとこ行ってきて!」
「分かった!」
二手に分かれて反対の方向に向かった。
楽ちゃんと加奈ちゃんちは村の分校の近くにある。
春樹くんと夏樹くんちはその反対の竹林の近く、田中さんとこの畑の案山子が目印。
あの案山子はどこか不気味で怖く感じる。
春樹くんと夏樹くんと遊ぶときはなるべく見ないようにして行ってるけど。
それでも遊びに行くときは必ず田中さんちの前を通らないといけないから。
この村の習わし、村の森の奥の井戸水。
その森を統べる森の主、龍神様。
正直こんなのただのおとぎ話程度でしか信じていなかったが、蜩が鳴いてすぐ分かったのが、分校で遊んでいた子どもたちが忽然と姿を消したというのだ。
◇◇◇
「怖いね、加奈」
「そうだね、楽」
蜩が鳴き始めた、そうだ!父ちゃんとの約束を思い出した。
早く帰らなきゃと、身体で表した。
「帰っちゃうの?まもるちゃん」
「うん、用事を思い出してね」
「バイバイ」
ここにいる全員が手を僕に振ってくれた。
みんなを背に受けながら手を振り返す。
遠くから
「まもる君帰っちゃったから僕たちも帰るか。」
そう聞こえた。多分声の主は春樹くんか夏樹くん。
あれは双子なのだ。たしか一卵性ソーセージ?みたいなやつ、うろ覚えではっきりしてないけど…
分校の子たちが消えちゃった事件もあるし、完全に日が暮れちゃう前に家に帰らなきゃいけない。
夏のホラー2025?というものにこちらを刊行させていただきます。
誰かしらこの作品を見ていただけるだけで私は満足ですので、ただの自己満作品と化すかもしれないです。
何卒ご容赦ください。