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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第98話『三十五の墓標――常山城跡にて(後編)ー静寂ー』

 蝉の声が止み、夜が深く降りていた。


 静まり返った宿の一室。


 ふかふかの布団に横たわる修は、廊下の向こうから微かに聞こえてくる水音に耳を澄ませていた。

 湯上がりの香り、そして、どこか心が落ち着くような人の気配。


「……雨城君、まだ起きてる?」


 戸をそっと開けて入ってきたのは、薄いカーディガンを羽織った結だった。


「はい…先輩こそ、もう休んでいいのに」


 修が身を起こすと、結は彼の隣にちょこんと座り、目を伏せた。


「……なんだか、怖かったの、さっきの事全部。でも、もっと……悲しかった」


 小さな声だった。

 彼女の手が震えているのに気づき、修はそっと手を重ねた。


「俺も……同じです。あれがただの映像じゃなくて、本当に生きて、戦って、死んでいった人達の記憶だと思うと、胸が苦しくて」


 結は、彼の手を握り返した。


「……ねえ、修君」


 名前を呼ばれたのは久しぶりだった。

 柔らかい声に、心臓が跳ねた気がした。


「また、みんなで来よう。こうして、ちゃんと祈って、何かを知って、誰かの事を覚えていたい」


 修は目を細め、うなずいた。


「うん。俺もそう思う。……幽霊なんてただ怖がられる存在じゃない。俺達に、何かを訴えようとしてる。生きていた事を、忘れないでって」


 結の肩が、わずかに寄りかかってくる。


「……ねえ、もう少しだけ、ここにいてもいい?」


「ああ。……もちろん」


 室内は、やわらかな静寂に包まれていた。


 虫の声も、風の音も遠く、ただ心音だけが重なるように、微かに、穏やかに流れていた。


「雨城君って、凄いよね」


「え、何が?」


「……ちゃんと見てくれる。聞いてくれる。怖がってる私の事も、戦ってる霊の事も。そういう所……私、凄く好き」


 心臓が一段と大きく跳ねた。

 寝間着の下、熱が広がるのが分かる。


「そ、そう言われると……照れるな」


 目をそらすと、結は小さく笑った。


「……ごめん、変な事言っちゃったね。今日は、なんだか心がやわらかくなってるみたい」


 そう言って、結は修の肩にそっと頭を預けた。


 言葉が出てこなかった。

 けれど、何かを言わなくても、静かに共有されたこの夜の時間が、きっと彼女の心に少しでも灯を灯してくれている事を願った。


 ――コン。


 突然、窓の外から何かがぶつかる音がした。


 二人は同時に体をこわばらせた。

 結は修の腕にしがみつく。


「……い、今のって」


「……風か、何かが……」


 だが、修はすぐに違和感を覚えた。

 窓には風除けの戸がきっちり閉じられている。

 あれほどはっきりした音がするのは、おかしい。


 結の表情に再び不安がよぎる。


「ちょっと、見てくる」


「だ、だめ、危ないよ……!」


「大丈夫。先輩はそこにいて」


 修は静かに立ち上がり、窓の近くへと歩いた。

 障子を開けると、ガラスの向こうに――


 ――誰かが、立っていた。


 女の姿。白い着物。ぼんやりと光る瞳。


 すぐに、それが“彼女”だと分かった。


 鶴姫――かつて山を守り、討ち死にした女武者。

 その残滓が、まだこの地に残っているのだ。


 彼女は、静かに修を見つめていた。

 そして――


 ゆっくりと、首を下げた。


 感謝のような、あるいは別れのような、そんな一礼だった。


「……ありがとう」


 誰かの声が、耳元でかすかに響いた気がした。


 次の瞬間、姿はふっと霧のように消えた。


 修は深く息をついた。


「……終わったよ、先輩」


 窓を閉じて振り返ると、結は心配そうな顔をしていたが、安堵の笑みを浮かべた。


「良かった……」


 再び布団に戻り、二人は並んで座る。


「先輩」


「うん?」


「怖い時はさ、俺を呼んでくれればいい。何度でも、何度でも」


 結は目を細めて、うなずいた。


「……ありがとう。修君がいてくれて、ほんとに良かった」


 ……そして、その時。


 ――ギシ。


 廊下のきしむ音。


 ――ガサガサ。


 障子の外から微かな物音。


 修は眉をひそめ、そっと立ち上がると、障子を――バンッ!と開けた。


「――おい」


「ひっ!?」


 そこには、耳をくっつけていた君鳥愛菜が盛大に尻もちをつき、ノクスが目を真ん丸にしていた。

 そして、背後で不自然に壁に手を当てていた浜野先生。


「……なんだこの覗きトリオは」


「ちちち違うんだよ!? ボクは結先輩の様子が心配で! その、声とか、空気とか、色々とこう……!」


「にゃん(こいつらノリノリだったにゃ)」


「いやいや、俺はただ廊下を散歩していただけでな? な? 君鳥?」


「うそつけーッ!」


 修の怒声に、三人共わたわたと逃げ出そうとするが、結がくすっと笑った。


「……ふふ。なんだか、救われた気がする」


「……俺も」


 皆が集まった廊下。

 くすぐったい空気の中、最後に笑ったのは修だった。


「まあ……なんだ。全員無事で、良かったよな」


「うんっ!」


 そして夜は、ようやく穏やかに、幕を閉じるのだった。

 第99話『丸山ダムの赤い吊り橋』


 深い谷を渡る赤い吊り橋、旅足橋。

そこには、数えきれない悲しみと怨念が渦巻いている。

飛び降りた者の魂が彷徨い、自殺志願者を静かに誘う――。


 今夜、俺たちはその恐怖の地に足を踏み入れる。

果たして、無事に帰ることはできるのか。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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