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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第95話『呉・灰ヶ峰の夜』

 夏の終わりを告げる涼しい風が、灰ヶ峰の頂上を吹き抜けていた。


 広島県呉市のシンボルともいえるこの山は、標高737メートル。


 昼はハイキングコースとして親しまれ、夜は宝石箱のように街の灯りが広がる夜景スポットとして多くの人が訪れる。


 しかし、その美しさとは裏腹に、ここはかつて凄惨な事件や多くの自殺があった場所として知られていた。


 地元では今もなお、「幽霊が出る」「気配を感じる」といった噂が絶えない、いわゆる心霊スポットなのだ。


 


「先生、ここだよ。展望台の駐車場。ほら、あそこに車停められるみたい」


 愛菜が手を振る。


「ああ、それにしても。来るの大変だったな。呉駅から車で35分か…」


 浜野は運転席から見える薄暗い山道を確認しながらつぶやいた。


「そうだね。バスだともっと大変みたいだし、夜はタクシーのチャーターが人気なんだって。地元の人が言ってた」


 助手席の結がスマホの画面を見ながら話す。


「それにしても、この時間の灰ヶ峰は静かだな。夜景を見る為の車はまだ数台だけど、人は多いのかな……幽霊は、あんまりいないみたい」


 残念がる修をジト目で見る愛菜。


「恐らく、山頂の展望台は混んでると思う。俺達はここから歩くからな、暗いから気をつけろよ?」


 浜野はそう言って、車のライトを消した。

 周囲はまっくらな闇に包まれ、遠くの街の灯りがぼんやり見えた。


 


 灰ヶ峰は広島県呉市栃原町にあり、その頂上からは360度の大パノラマが望める。


 夜になると「中四国三大夜景」「夜景100選」「日本夜景遺産」にも選ばれた美しい光景が広がり、カップルや観光客が訪れる人気スポットだ。


 しかし、ここは過去に数多くの自殺や殺人事件の現場となった事から、「呉の心霊スポット」として恐れられている。


「先輩。ボク、お手洗いに行ってきますね。あの建物がそうみたい」


 愛菜はそう言うと、懐中電灯を手に歩き出した。


「あ、待って!一人で行かない方がいいぞ?」


 修は慌てて声をかける。


「大丈夫だよ、ちょっとだけ。すぐ戻るから」


 愛菜は笑って答えた。


「気をつけてね」


 結もスマホのライトを灯して見送った。


 


 トイレは古いコンクリート造りの建物で、薄暗く不気味な空気が漂っていた。


 地元ではこのトイレから女性の呻き声が聞こえるという噂が絶えない。


 実際、ここで複数の女性の幽霊が目撃されたという話もある。


 


 その時だった。

 トイレのすぐ近くで、ふと冷たい風が吹き抜け、鳥肌が立つような寒気が愛菜を襲った。


「…ん?」


 声にならない小さな呻き声が耳元をかすめた。


「だ、大丈夫かな…?」


 愛菜は怖くなって振り返ったが、誰もいなかった。


 心臓がドクドクと鳴り、急いでトイレに入った。


 


 一方、修と結と浜野は展望台へ向けて足を進めていた。


「灰ヶ峰は昔、戦時中に高射台があったらしいね。白いドーム型の気象レーダーも見えるし」


 結が説明する。


「そうそう、今は平和だけど、ここでは2000年に身元不明の女性と幼い子供の白骨遺体が発見されたらしい。怖い話だけど事実だ」


 修が続けた。


「それに、2013年にはLINEグループチャットがきっかけで、灰ヶ峰の山中で少女が暴行殺害された事件もあったんだって」


 結は言葉を選びながら話す。


「あの事件は本当に痛ましい。主犯は未成年で、被害者も同じ年頃だったらしい。SNSの恐ろしさを感じるね」


 修は顔を曇らせた。


 


 しばらく歩くと、展望台の明かりが見えた。だが、薄暗い夜の中で、その周囲には人影がほとんどなかった。


 何かがおかしい。


「ここ、人気スポットのはずだけど…」


 結がつぶやく。


「そうだね、なんだか静かすぎる。気配が…変だ」


 修は辺りを見回した。


 「誰かいるの?」


 愛菜の声が背後から聞こえた。

三人は振り返ると、彼女は顔を真っ青にして立っていた。


「大丈夫か、君鳥?」


「トイレの近くで、女の人の呻き声を聞いたんだ。怖くて急いで戻ってきた」


 愛菜は震える声で言った。


「そうか…無理はしないで、皆で一緒にいよう」


 修が落ち着いて答えた。


 


 展望台の鉄製の手すりに手をかけて夜景を眺めると、呉の街の灯りが眼下に広がる。


 しかし、その美しさに浸っている暇はなかった。


「ほら、あそこ…」


 結が指差した先に、人の気配が見えた。

暗闇に紛れた白い影が、一瞬だけはっきりと見えたのだ。


「幽霊?」


 愛菜の声が震えた。


「いや…分からない。でも気をつけて」


 修は懐中電灯の光を影に向けた。だが、影はすっと消えてしまった。


 


 その時、突然、背後から足音が聞こえた。


 誰かが近づいてくる。


 四人は一瞬で身構えたが、そこにいたのは地元の中年男性だった。


「こんな時間に何してるんじゃ?」


 その男性は不機嫌そうに言った。


「夜景を見に来ました」


 結が答えた。


「この山はな…夜は危ないんだ。昔から自殺も多くて、事件も起きてる。軽い気持ちで来るもんじゃない」


 男性は声を低くした。


「そうなんですか…」


 修は真剣な表情で頷いた。


 


 男性はゆっくりと去っていった。


 三人は互いに目を合わせ、無言で頷き合った。


「やっぱり、ここはただの夜景スポットじゃないね」


 愛菜がつぶやく。


「身体がおかしくなる前に、引き返そうか」


 結が提案した。


「そうだね。吐き気や頭痛を感じたら我慢しちゃダメだ。無理は禁物だ」


 修も賛成した。


 


 下山を開始してまもなく、またもや異様な冷気が襲ってきた。


 木々の間から、ぼんやりと少女の姿が浮かび上がる。


 「見える?幽霊かもしれない」


 愛菜は手を強く握りしめた。


「怨念が深いな。こんな場所で亡くなった人達は、きっと苦しんでいるんだろうな」


 修の声も震えていた。


「もうすぐ駐車場だよ。急ごう!」


 結が先頭を切った。


 


 駐車場に着くと、彼らは車に乗り込みエンジンをかけた。


 安全な場所に戻った安堵感が胸を満たす。


「灰ヶ峰…美しい夜景の陰に、こんな過去があるなんてな」


 修が呟いた。


「心霊スポットとしての側面も忘れちゃいけない。敬意を持って訪れないと」


 結が静かに言った。


「うん。今日の経験は忘れられないよ」


 愛菜も力強く頷いた。


 


 車はゆっくりと山を降りていった。


 背後の灰ヶ峰は闇に沈み、その山肌にはまだ数えきれないほどの悲しみが息づいているかのようだった。


 次回予告


 第96話『三十五の墓標――常山城跡にて(前編)』


 かつて、若き女武者・鶴姫が果てた山城には、今も三十五の魂が眠っている。

おびただしい慰霊碑、夜に響くすすり泣き、そして“呼ばれる”声――。


 常山城跡で、研究会は哀しくも恐ろしい真実に触れる。


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