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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第93話『三雲トンネルの封印』

 滋賀県、湖南市と甲賀市の境界に位置する旧道。

 その途中に、まるで山が口を開けたような暗がりが、ぽっかりと現れる。


 三雲トンネル。


 開通から数十年が経過し、今ではバイパス道路の登場により、交通量はほとんどない。

 老朽化が進み、外壁にはひび割れや苔が広がっていた。

 昼でも照明がなく、薄暗さが視界にまとわりつく。


「うわー……写真よりずっと、雰囲気あるじゃん……」


 トンネルの前に立った君鳥愛菜は、カメラを構えながら首をすくめた。

 ノクスはその足元で、いつになくしっぽをふくらませている。


「にゃあ……(ここはマジでやばいとこだ)」


「気配が濃いな。これ、結構生きの良い霊がいそうだぞ」


 修はそう言って笑ったが、笑みは軽くも冗談でもなかった。

 彼の目はすでにトンネル内部へと向けられていた。


 結が手帳を片手に、周囲の温度計と電磁波測定器の数値を確認していた。


「雨城君、見て。気温が一気に2度下がったわ。しかも、この電磁波の数値……通常の5倍以上。自然発生では説明出来ないレベルよ」


「へえ、良いねえ。幽霊が歓迎してくれてんのかな?」


 修は懐中電灯を片手に、トンネルの中へと一歩足を踏み入れた。


 中は静まり返っていた。


 音が吸い込まれるような静寂。

 歩く度、靴音が異様に響く。

 天井には水滴が垂れ、時折「ぽちゃん」と音を立てた。


「本当にここ、除霊されたの?2019年に誰か有名な霊能力者が来たって、ネットには書いてあったけど……」


「それって“ちゃんと終わった”って意味じゃないんだよね」


 修が言う。


「例えば除霊じゃなくて、“蓋をしただけ”って可能性もある。しかも、蓋をした理由が“危険すぎたから”だったら……?」


 その時——


「……けて」


 かすれた、小さな声が聞こえた。

 空耳のようで、明確に耳に届いたそれは、明らかに「助けて」の後半だった。


 全員が同時に立ち止まる。


「今……聞こえたよね?」


「……録音機、回してる?」


「うん……でも、今の入ったかな……?」


 結が録音機を操作しながら振り返るが、その表情は不安に曇っていた。


「愛菜、ノクスの様子は?」


「すっごい警戒してる……ほら、ほら見て。毛が全部逆立ってるし、爪まで出しっぱなし」


 ノクスはうなり声をあげながら、トンネルの奥へと睨みを向けている。


「にゃあっ……!(来るぞ!)」


 闇の奥、ぼんやりと何かが立っている。


 背の低い人影。だが輪郭がぼやけており、何かが“欠けて”いた。


「……顔が、ない」


 愛菜がぽつりと呟いた。


 それは静かにこちらへと近づいてくる。

 だが、その歩き方がおかしい。

 左右の脚が同時に前に出る。

 まるでビデオテープの再生が乱れたように、ガクガクと不自然な動きだった。


「やるぞ!」


 修が懐中電灯を構え直した。


 ノクスが唸り声を上げ、前方に飛びかかる。


「にゃあああっ!(くらえっ!)」


 しかしその瞬間、“それ”の姿は霧のようにスッと消えた。

 まるで存在自体が無かったかのように、視界から消え失せる。


 残ったのは、冷たい空気と、さや……さや……と何かが這いずるような音。


(……今の、なんだったの?」


 結が震える声で訊いた。


「残留思念にしては動きが複雑すぎたな。攻撃性はない。だけど、訴えるような“意志”があった。……あれは、何かを繰り返してる。記憶か、もしくは……未練だな」


 修はトンネルの奥に目を向けながら、何かを探るような眼差しを向けた。


「記録、残ってるか確認する」


 結がビデオカメラを再生する。

 映像には、ただただ暗いトンネルの奥が写っていた。


「……やっぱり、映ってないね。音も入ってない」


「いや、逆に言えば“録画できない存在”って事だ。強力な霊は機械に干渉して、記録を消す事もある」


「そんなのって……本当に実在するの?」


「するんだよ、実際に……俺のばあちゃんの本にも載ってた。“反録型幽霊”って奴。記録される事すら拒む存在だ」


 その時、再び——


「……ま……して……」


 囁き声が、耳のすぐ横で響いた。


 四人全員が振り向いたが、誰もいない。


「今のは……“待って”か? それとも“やめて”?」


「あるいは、“やまして”……滋賀の方言?」


 愛菜がぽそっと呟いた。


「方言って、もしかして“やました”って誰かの名前かも……?」


 修がふっと息を飲んだ。


「なあ、調べてみないか。ここで失踪した人、あるいは……事故とは別の“消された人”がいないか」


「それってつまり……事件……?」


「事件として処理されなかった何か。……俺らが、今それに触れようとしてる」


 沈黙。


 風も吹かぬトンネル内で、誰かが啜り泣くような音が、どこかから響いていた。


 そして、その音に混じるように、ノクスが静かに呟いた。


「にゃ……(……やめておけ、これ以上、進むと戻れなくなる……知ってるか?一番怖いのは幽霊より……)」


 その言葉が、まるで予言のように、トンネル全体に重く響いた。


「ノクスが怖い事言ってる!!皆帰ろう!!」


 愛菜の必死な説得により、調査は断念した。


 ーーこの数年後、滋賀県在中の女性の死体が近くに埋められていたとか……犯人は、心霊スポットに来る若い女性をターゲットにした凶悪な犯人で、あったという……

 次回予告


 第94話「竹林に消える門」


 兵庫県・加古川の廃屋敷。

血の手形、呪いの井戸、首のない女の霊。

謎が深まる武家屋敷(高田牧場)で、夜の探索が始まる。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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