第89話『最終封印・ノクス激怒!』
儀式室の空気は、重く、冷たく、そして異様なまでに静かだった。
闇の奥に潜んでいた“影”は、形を持たぬまま、空間全体に広がっていた。
「……オマエたちには、ここで終わってもらう」
影が低く囁くと同時に、部屋の灯りがすべて消えた。
影が、最初に標的にしたのは愛菜だった。
「えっ……!?」
突然、ノクスが大きく毛を逆立てて唸り声を上げた。
「にゃああああああっ!!!(やめろぉおおおおおおお!!)」
その声は、これまでのどんな鳴き声とも違った。
明らかに怒りと、本能的な防衛意識に満ちていた。
「ノクスが怒ってる……こんなに怒ってるの、初めて……!」
愛菜が驚きと恐怖の混じった声を上げた。
闇の中から、無数の黒い手のような影が現れ、まっすぐ愛菜に向かって伸びてくる。
「愛菜、下がれ!」
修がとっさに前へ出て、腕を広げた。
だが、影は肉体をすり抜ける。
直接、精神を蝕もうとするような悪寒が、全員を包んだ。
影の声が再び響く。
「恐れろ……怯えろ……そうすれば、オマエたちの心に入り込める……」
その時――ノクスが修の肩から飛び上がり、真っ黒な影の核に飛びかかった。
「にゃあああああっっ!!!(この野郎……愛菜に近づくなぁぁぁっっ!!)」
ノクスの目が、真っ赤に光る。
小さな身体から放たれた眩い閃光が、影の形を暴き出した。
「うわっ、影の形が……見える!」
浜野先生が叫ぶ。
巨大な人影が、歪んだ仮面のような顔でこちらを睨んでいた。
「これが……“封印されていた存在”の正体!?」
結が身体を震わせながらも、正面を見据える。
影は苦しそうに身をよじらせながらも、なおも囁きをやめなかった。
「この地に、再び“欲望”を――力を求めよ――」
「断る!!」
修が一喝し、影の仮面へとまっすぐに走る。
同時に、浜野先生が準備していた結界の札を空中にばら撒く。
「“封印陣、起動!”」
床に浮かび上がる光の模様――それは日記にあった“模様”と同じものだった。
影が雄叫びを上げる。
ノクスがそれに吠えるように、さらに強く鳴いた。
「にゃあああああああっっ!!!(愛菜を狙った罪は重てぇぞ!!!)」
封印の光が影を飲み込んでいく。
仮面が砕け、影が細かい靄となって消えていく。
「やった……?」
部屋が静寂を取り戻し、空気が澄んでいくのを感じた。
ランプに火が灯り、部屋の壁にかかっていた一枚の写真が落ちる。
拾い上げたのは結だった。
「……これ、例の従業員達の集合写真だ」
中央には、あの“新庄ひとみ”の姿。
その背後には……うっすらと、黒い影が写っていた。
「長い間……ずっと、ここにいたんだね……」
愛菜がそっと呟いた。
ノクスは疲れたように愛菜の腕の中に飛び込み、小さく「にゃ……」と鳴いた。
影は消えた。
呪いは、終わった――
――はずだった。
しかし、誰もまだ気づいていない。
あの、砕けた“仮面”の欠片が、一つだけ――
地面に残されたままだという事を。
次回予告
第90話『仮面の残響』
封印されたはずの影。
しかし、一つだけ残された“仮面の欠片”が、新たな気配を呼び覚ます。
そして――ノクスが再び牙をむく!
闇は、まだ終わっていなかった……!
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