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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第85話『霊園裏の静かな午後』

 その日は、何の変哲もない、穏やかな午後だった。


 陽が傾きかけた頃、俺達はとある霊園の裏手、小高い丘に足を運んでいた。

 きっかけは、大学の近くに住む老人から聞いた話だ。


「昔、その裏の紫陽花の下に、ずっと“女の子が立ってる”って言われててな。誰も近づかんのじゃ」


 


「……え、それ都市伝説って奴?」


 愛菜がビニールシートを広げながら言う。


「でも、普通にピクニックする気まんまんじゃないか、君」


「だって! しゅーくんが“ちょっと下見しとくか”って言うから、お菓子持ってきたのに!」


「それにこの霊園、明るいし、空もきれいです。お墓も綺麗に手入れされてますし、怖いって雰囲気じゃないですね」


 結先輩が、持ってきたお茶を注ぎながら微笑む。


 


 ――そう、“表面上は”。


 


 だが、俺はすでに気付いていた。


 遠くで咲く紫陽花のひと房――色が、変だ。


 通常なら青や紫のはずの花びらが、そこだけ真っ黒だった。


 


「先生、やっぱここ……出てますよ」


「だろうな。そこの一角、戦前に無縁墓がまとめて処理されたらしくてな。記録が残ってない」


「無縁墓って事は……名前が分からない?」


「そう。つまり、“名を持たぬまま、存在だけが残った霊”がいる可能性が高い」


 名を持たぬ霊――“名無しの霊”は厄介だ。


 会話も出来ず、成仏も出来ず、ただこの世に“在り続ける”。


 


「……いた」


 俺は、黒い紫陽花のそばに立っている“少女の影”を見つけた。


 肩ほどの長さの髪、古いセーラー服、そして――顔が、ない。


 正確には、顔の部分だけが空白になっていた。

 まるでそこだけ紙を破り取ったように、ぽっかりと“何もない”。


 


「しゅーくん、何か感じる……?」


 愛菜の声が、どこか不安げになる。


「バリバリだな。しかも、そっちに寄ってきてる」


 


 少女の影が、こちらに向かって歩いてくる。


 一歩ずつ、一歩ずつ――音もなく、ゆっくりと。


「名前が……欲しいの?」


 結先輩が、ぽつりと呟いた。


 その瞬間、少女の影がピタリと立ち止まった。


 動きもなく、ただそこに“留まる”。


「結先輩、ちょっと前に出て」


「……え?」


「きっと、その霊が見えているのは“名前を呼んでくれる人”なんだ。結先輩、お願い出来ますか?」


 


 彼女は頷き、黒い紫陽花の前に立った。


「……あなたに、名前は無いかも知れないけど。私は、ここにいる“あなた”を、あいさんと呼ばせてもらいますね」


 


 ――ふわり。


 風が吹き抜けた。


 そして、少女の影の“顔”の空白に、わずかに輪郭が生まれた。


 目元、口元、そして笑顔の気配。


 名前を与えられた事で、“存在”としての意味が補われていく。


 


 少女の影が、ふかぶかと頭を下げる。


 そのまま静かに、紫陽花の中へと消えていった。


「……成仏、したのかな?」


「多分な。“名を得た霊”は、自分の物語を貰ったって事だ。そこから先に進める」


 


 俺達はしばし沈黙し、空を見上げた。


 穏やかに風が流れ、鳥が鳴き、陽の光が差し込む。


「ねえ、もう一回だけ言うけど……これ、ピクニックだったよね?」


 愛菜がポテトチップを手にぼそっと言う。


「お菓子食べながら成仏させる霊能者って前代未聞だよな」


「ボク、ゆるホラー担当だから……」


「自分で役職作んな」


 


 そうして今日もまた、静かに、一つの声が消えた。


 だが、紫陽花の影では。


 新たな“名無し”が、そっと顔を覗かせていた。

 次回予告


 第86話『ホテル活魚の怪』


 千葉県の古びた宿泊施設「ホテル活魚」。

閉鎖されたはずの館に響く不気味な音。

霊と謎が交錯する夜、俺たちは何を見るのか——。


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