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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第84話『檜原村・夜鳴き橋の誓い』

 山の奥深く、檜原ひのはら村。


 東京都とは思えないほどの深い山々と、木霊するような静けさ。

 そんな中に、ひとつだけ“夜になると人の声が聞こえる橋”があるという。


 


「ねえ、“返事をしてはいけない”って、都市伝説あるけど……実際、返事したらどうなるの?」


 愛菜が恐る恐る尋ねた。


「死ぬ」


「ぶっ!? しゅーくん、即答……」


「だってよくあるだろ、返事したら連れていかれるってやつ」


「本当にあるの?そういう霊って」


 結先輩が真剣な表情で尋ねる。


「あります。特に“夜鳴き橋”と呼ばれてる場所は、過去に人が失踪してる」


 


 夜鳴き橋。


 地元では古くから、「橋の上で名前を呼ばれても、絶対に答えてはいけない」と言い伝えられている。

 名前を呼ばれ、それに返すと――魂ごと、連れていかれると。


 


「ねえ先生、こういうのって“誰が呼んでる”んでしょうか」


「……んー。大抵の場合、“帰ってこなかった誰か”だな。あと、呼び方もポイントだ。フルネームか、あだ名か、優しいか怒鳴るか……それで“誰の記憶”に根ざしてる霊か分かるんじゃないか?」


「うわ、先生、めちゃくちゃ詳しいですね……なんか逆に怖い……」


「宇宙人にも名前呼ばれた事あるからな!」


「それはまた別のオカルトだってば!!」


 


 さて。


 俺達は、橋の袂に着いた。


 それは古い木造の橋で、川霧がうっすらと立ちこめている。

 時間は午後八時すぎ。街灯もない。

 唯一の明かりは、俺達の手持ちの懐中電灯だけだった。


「……誰もいないよね?」


「それが“いないように見えるだけ”って奴だよ、愛菜君?」


「ぎゃー!ボクに言うなー!」


 


 俺は橋の中央まで歩いてみた。


 板のきしみ、風の音、川の流れ……耳をすませば、自然の音だけが支配する世界。


 そう、今の所は。


 


 ――カラン。


 足元で、何かが転がった。


「ん?」


 懐中電灯を向けると、小さな鈴だった。

 赤い紐のついた、子供用の鈴。


「なんでこんなとこに……?」


 拾い上げた瞬間。


「……しゅー……くん……」


 聞こえた。


 背後から、柔らかく、優しい声で。


 


「愛菜?」


 思わず振り返る。


 そこには――誰もいなかった。


 


「……ちょっと待って、俺、“返事”したか?」


「した。完ッ全にした!」


 愛菜が顔を青くして言う。


「しゅーくん、ダメだよ!『返事してはいけない』って言ったのに!」


「くっそ、無意識に……!」


 


 俺がもう一度橋の中央に戻ると、そこには“別の俺”が立っていた。


 しかも、さっきと同じ格好で、同じ表情で、同じ場所に。


「えっ!?分身!?しゅーくん、影分身の術!?」


「落ち着け愛菜、これは“名前を呼んで返事した相手の模倣霊”だ!」


 


 模倣霊。


 本物そっくりに姿を真似て現れる霊で、目的はひとつ――“本人と入れ替わる事”。


「へへ……いい声してるじゃねぇか……俺」


 模倣霊の俺が、ニヤリと笑った。


「お前の代わりに、あの子達と一緒に学園生活、エンジョイさせてもらうぜ?」


「悪いな、俺が何人もいたら、愛菜が胃薬買い占めちまう」


 俺は右手を突き出し、構えた。


「真語断ち(しんごだち)――“名は、呪いだ”!」


 


 模倣霊が叫ぶ。


「ぐ、あああああ……! やめろ……俺は、お前だ……!」


「違う!“しゅーくん”は、一人で十分なんだよ!!」


 

 言霊を叩きつける。


 模倣霊は悲鳴を上げ、霧の中へと消えていった。


「……ふう」


「愛菜……さっきの、違う!っての、ちょっと嬉しかったぞ?」


「そう?」


 愛菜は少し顔を赤らめていたが、当然修は気付かない。


 


 結先輩がくすっと笑った。


「お疲れさま。これで“夜鳴き橋”も、少しは静かになるかもしれないわね」


「いや、問題は“返事するバカ”が後を絶たないって事だな」


「はいはい、ボクが霊より先にしゅーくんを連れて帰りますよ!」


 


 そして俺達は、橋を後にした。


 帰り道。ふと背後から、また小さな声が囁いた。


「……また、おいで……」


 


 この橋には、まだ“誰か”が残っている。


 名前を呼び、返事を待ち続けている誰かが。


 次回予告


 第85話『霊園裏の静かな午後』


 霊園に咲く紫陽花の下に、誰かが眠っている。

日常のようで、どこか歪な午後の時間。

“本当にいるのは、誰だろう?”


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