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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第83話『旧甲州街道、あの声をなぞって』

 翌日。


 俺達は再び、八王子の山間にいた。

 今度の目的地は旧甲州街道――中でも、かつて人が頻繁に行き交ったが、今では誰も通らない「ある一角」だった。


 


「ほんとに行くの? 昨日だって……けっこう怖かったよ?」


 助手席の愛菜が、俺の後ろからぶーたれ気味に言う。


 ちなみに運転は先生だけど、先輩も免許は持っている。

 ペーパーだけど。


「先生、どうしてこう次から次へと“旧道”ばっかり調べてくるんですか?」


「いや~最近の地図に載ってない道って、だいたい“訳あり”だからな」


「訳ありの中でも特にエグいのばっかですよ、先生のチョイス……」


 


 旧甲州街道の某区間。


 ここは、江戸時代の頃から旅人の往来が多く、ある峠を越えた辺りに“声がついてくる”という噂があった。

 夜中に歩くと、後ろから「おかえり」と囁かれたり、名前を呼ばれたりするという。


「でも変じゃない? “おかえり”って、なんか優しい言葉だよね?」


「そう。だからこそ怖い」


 俺は答えながら、持ってきたICレコーダーの電源を入れた。


 


「この辺だな。旧道が崩れかけてて、誰も通らないらしいけど……」


 舗装もされていない道を進むと、どこからともなく風が吹いてきた。

 まだ昼だというのに、やけに冷たい。


「風じゃない。これ、“通る”やつだ」


「“通る”って……?」


 結先輩が首を傾げた。


「見てて」


 


 俺がそう言った数秒後、録音機がノイズを拾い始めた。


 ジジッ……ザアア……ジ……。


 そして。


『おかえり』


 


 全員が静止した。


「……いま、言った?」


「いや、録音機だ。再生してないのに“鳴ってる”。これは、録音と再生の間の“声”だ」


「え、ええええ!? なにそれ、オカルト通り越してるって!」


 


 そして――。


 背後で、誰かが歩く音がした。


 ザッ、ザッ、ザッ……。


 


 俺はゆっくり振り返る。


 そこには、ひとりの老人が立っていた。


 着物姿で、肩には小さな荷物を背負い、深く帽子をかぶっている。

 だが、よく見ると――顔が“紙”で出来ていた。


 折り紙のように、何層にも折られた“顔”が、風にカサカサと鳴っていた。


 


「見える? 愛菜」


「……ボク、うっすらだけど……うん、なんか、紙がめくれてるみたいな人が……」


「これ、きっと“旅人の霊”だ」


 俺は彼に向かって言葉を投げた。


「おかえり、って言ったのはあんたか?」


 


 紙の男はゆっくり頷いた。


 そして、折られた顔の一部がほどけ、口ができた。


 その口は――


「ありがとう」


 


 風が抜けた。


 男は静かに、そのまま道の奥へと消えていった。


 


「え、今のって……」


「多分、誰かをずっと“見送る側”だった霊だよ。迎える事が出来ずに、言葉だけが残ってたんだろうな」


「“おかえり”は、願いだったんだね……」


 


 しばし、全員が無言になった。


 ……が、すぐにその静けさは破られる。


 


「――さてと、それじゃ君達!」


 突然、先生が手を叩いた。


「今日もバッチリ“遭遇”した訳だから、恒例のレポート、今回は8000字だ!」


「増えてる!? なんでどんどん増えるんですか先生!!」


「しゅーくん、キーボードの音速打ちの見せ所だよ!」


「いや、愛菜が絵と図解でごまかす方が早いって!」


「うるさい、全員一緒に地獄へGO!」


 


 俺達の“心霊探訪”は、こうしてまた一歩進んだ。


 だが――誰も気づかなかった。


 先ほどの紙の男が立っていたあの場所。


 道の脇に、小さな石がひとつ、ぽつんと置かれていた事に。


 


 それは、“誰かの帰りを待っていた”目印だったのかも知れない。

 次回予告


 第84話『檜原村・夜鳴き橋の誓い』


 深夜、橋の上に立つ女は、誰を待つのか。

そしてその声は、何を告げるのか。

“名前を呼ばれても、決して返事をしてはいけない”――。


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