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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第82話『大垂水峠、霧に咲く声』

 大垂水峠――八王子と相模原の境に位置する、古の峠道。


 舗装された現在の道路とは別に、旧道は苔むし、木々に覆われ、地元の者すら立ち入らなくなって久しい。

 だが、その旧道の奥に、ある“声が咲く場所”があると聞いて、俺達は足を踏み入れた。


 


「この霧……おかしくない?」


「また、霧?もっと何かないのかね、瘴気が漂っている……とかさ!」


 愛菜が眉をひそめながら、足元を見つめた。

 靴のつま先が見えないほど、白い霧が地面を這っている。

 俺は一歩踏み出し、湿った空気を吸い込んだ。


「ただ……こいつは、朝霧でもないし……温度差の霧でもない。成分が違う」


「しゅーくん、成分って……」


「いや、なんかこう、霊的な“濃度”の話な」


 俺はポケットから塩の袋を取り出し、掌にひとつまみを取って口に含んだ。

 塩の味はあったが、どこか鉄っぽい――嫌な味が舌に残る。


「ここは“出る”場所なんだね……」


 結先輩が言った。

 彼女は例によって何も感じてはいないはずだが、それでもこの空気の異様さは伝わっているのだろう。


 彼女の隣に立つ守護霊の母親が、何かを言いたげに俺を見ていた。


「……誰か、呼んでるな。奥だ」


 それは峠道の途中にぽっかり空いた、古い祠のような場所だった。

 祠の屋根は崩れ、木柱も風化していたが、中央には誰かの手によって供えられた花がひと束。

 だが、その花はすでに枯れ、黒く変色していた。


 ――カサッ。


 音に振り向くと、霧の中に誰かが立っていた。


 女……いや、少女のような小さな影。

 だがその姿は途中で“切れて”いた。下半身がないのだ。


 


「見えるか、愛菜?」


「ううん……でも、すごく寒くて、ゾワゾワする……」


「なるほど。じゃあ、完全に“こっち側”だな」


 俺は祠に近づき、声をかける。


「おーい、そこのお嬢さん。あんた、ここで何してんの?」


 少女の霊は微動だにせず、ただ口を開いていた。

言葉はない。

 音もない。

 ただその口だけが、ゆっくりと何かを“囁いて”いる。


 


 俺はその形を読み取った。


「さがして」


 


「探してるのか?何を?」


 少女は手を差し出してきた。指差した先――それは祠の裏、岩場の隙間だった。

 俺は慎重に回り込み、そこを覗き込む。


 


 「……手紙、だな」


 湿った土の中から、封筒に入った古い手紙が出てきた。

 

 封は破れかけていたが、中の文字はまだ読める。


『おかあさんへ』


 小学生の文字。中身を読んで、俺は理解した。


「この子、母親の霊を探してたんだ……」


 


 祠の横に、もうひとつ影が立っていた。

 気づかなかったのは、それが霧に溶けるように存在していたからだ。


「こんなにも近くにいたのに気づけなかったんだな……」


 先ほどまでいなかったその“母親の霊”が、娘の霊に気づいた瞬間、二人は手を伸ばし合うようにして――


 静かに霧の中へと消えていった。


 


「……あ、消えた」


 愛菜が呟いた。


「再会出来たんだね」


 結先輩も、どこか微笑んでいた。


 


 俺は残った手紙を持って、そっと祠に戻した。


「声は……咲いたな」


 


 そして気づく。


 霧が、すっと晴れていた。


 


 帰り道、浜野先生が車を停めて俺達を拾ってくれた。 


 「ったく、霧の中に突っ込むなって言っただろ。帰ったらレポート五千字だ」


 「えぇえ……」


 「いいじゃん愛菜、作文スキル見せるチャンスだよ」


 「ボク、字が小さいから損してる気がする!」


 


 車内に笑い声が戻ってきた。


 けれど、その祠の奥からは――


 まだ誰かの囁きが、風に乗って届いていた。


 次回予告


 第83話『旧甲州街道、あの声をなぞって』


 ひとつの声が消え、また新たな声が道をさまよう。  誰かを呼ぶその声は、今も「おかえり」と囁き続けていた。


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