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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第81話『血の城、声なき落城・後編』

 記憶の霧が更に濃くなり、八王子城跡は戦火の真只中へと変貌していった。


 燃え盛る炎が石垣を照らし、遠くからは断末魔の叫び声と兵達の怒号がこだまする。


「……城主の側女、か」


 修が低く呟く。


「彼女は“あの戦い”の生き証人。そして――最大の呪いの源泉だ」


「見たのよ、全てを」と女は繰り返した。


「城が、燃え、子が死に……」


 だが、その「子」とは誰なのか?


 その答えが、修達の目の前に朧げに浮かび上がる。


 黒ずくめの女の後ろに、小さな男の子の霊が立っていた。


 彼は無垢な瞳でこちらを見つめ、声は震えていた。


「おかあさ……ん……」


「そうか、彼女はこの子の母親だったんだな」


 結が言葉を継ぐ。


「だから、呪いは“失った家族”への悲しみと怒りで出来ている」


「それを断ち切らねば、この地獄は終わらない」


「けど、どうやって……?」


 愛菜が問いかける。


 その時、浜野が御札を掲げて叫んだ。


「記憶の核心を探れ!核心が見つかれば、霧は晴れる!」


 修が指をさした。


「核心は、“あの約束”だ。母と子の未来を信じた、最後の約束」


「それを呼び戻そう!」



 霧が渦巻く中、修は静かに言葉を紡いだ。


「お前の名は?」


「……おしず……」


 女の霊が初めて名を告げた。


「……子を守れなかった、私は……」


「……あんたは、“約束”を忘れたのか?」


 修の問いに、霊は揺れる。


「覚えている……けど、消せない、あの日の痛みが……」


「だったら、一緒に思い出そう」


 修が穏やかに微笑む。


「子と交わした約束を」


 ――すると、霧の中に、白い手が現れた。


 男の子の霊が差し出す小さな手。それをおしずはそっと手を取った。


「ごめんね……」


「ううん、約束はまだ終わってないよ。おかあさん」




 それは遠い記憶。


『お母さん、いなくならないで……ずっと一緒にいて』


『お母さんはどこにも行かないよ……ずっと一緒、約束……』


『うん、約束』


 結ばれた小指は固く結ばれていた、そんな過去の情景が浮かんだ……。




 その想いが、重い霧を溶かし始めた。


「約束が満たされるまでは、ここに縛られるけど、いつか二人で、また笑える」


 涙が彼女の頬を伝い、呪いの黒ずみは消え去っていく。


 そして――


 八王子城跡の霧が晴れ、静寂が戻った。


「終わったんだな……」


 浜野がほっと息をついた。


「みんな、無事か?」


「なんとか無事ー!」


 愛菜が笑顔を見せる。


「結先輩も?」


「ええ。これで少しはあの地の霊も安らげるでしょう」


「それにしても、あの側女の霊……哀しすぎる」


 結が呟いた。


「歴史の闇は深いね」



 その夜。


 四人は小さな居酒屋で疲れを癒していた。


「まったく、あんな所に呼ばれるとはな」


 浜野がビールを片手に呟く。


「雨城、お前の霊感は確かに頼りになる。これからも頼むぞ」


「ありがとうございます、先生。でもまだまだ修行中です……あと酔ってます?」


 修が照れ笑いを浮かべた。 


「体質的に酔わないんだよ、サイボーグ化のせいだって事が近頃分かったくらいだ、飲んでも、すぐに分解されるシステムらしい」


 なので、すぐに車運転しても問題ないらしい。


「さて、次はどこの霊に会いに行くんだ?」


「まあ、ぼちぼち行きましょうよ。幽霊も夏休み中らしいしね」


「ふふ、確かに」


 結が笑う。


「でも油断は禁物だよ、霊もいつ暴れだすか分からないから」


 愛菜が小声で言った。


「にゃお……(お前達、物好きだにゃあ……?)」


 ノクスが顔を覗かせていた。

 次回予告


 第82話『大垂水峠、霧に咲く声』


 古道の峠に響く囁き。

そこには忘れられた霊たちの秘密が眠る。

だが、その霧は、ただの霧ではない――。


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