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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第80話『血の城、声なき落城・中編』

 世界が、反転していた。


 霧が晴れたわけではない。

 ただ、“向こう側”が、こちらに滲み出しただけだ。


 御主殿跡の平地は、いつの間にかかつての姿――築城時の八王子城へと変貌していた。

 石垣は新しく、兵が行き交い、のぼりが風にたなびく。

 だが、そこにある“活気”にはどこか不穏な気配が混ざっている。


「タイム……スリップ……?」


 結が呆然と呟く。


「いや、“タイムスリップ”じゃない。これは“過去の記憶”だ」


 修が即座に否定する。


「この空間は、残留思念が積層した幻影。けど……密度が違う。普通はせいぜい一場面だけど、これは“城全体の記憶”がそのまま再現されてる」


「にゃお……(こんなもん、生きてる人間が踏み入れるとこじゃないにゃ……)」


 ノクスがしっぽを膨らませ、背中を丸める。


「……霊の大合唱じゃないか、これ……地獄だ……」


 浜野がついに素で引いた声を漏らした。


「普通なら逃げ帰る所だけど、私達は、違う」


 愛菜が小さく、それでもはっきりと言った。


「ここに“呼ばれた”。そうでしょ、しゅーくん」


「そうだな」


 修の目が鋭く細められる。


「問題は、“誰に”呼ばれたか、だ……ん?」 




 「……さ……源……」


 「……藤……郎……」




「どこから、声が……」







 彼らの前に立ちはだかったのは――“顔のない武者”だった。


 甲冑は焼け焦げ、首元からは崩れた顔がずるりとぶら下がる。

 魂の形が壊れかけた、戦国の亡者。


「くるな……くるな……火の中に……皆、焼けた……!」


 呻くようなその声が、周囲の空気を震わせる。


「やべえ、霊波がダイレクトに脳に来る系だ……!」


 浜野が歯を食いしばり、拳を構える。


 だが修は一歩も動かない。

 むしろ、目を閉じた。


「――あんたは“ここに置いていかれた”んだな」


 呻き声がぴたりと止まった。


 霊の動きが止まり、その白い眼がこちらを見た。

 いや、“視ようとした”。


「自我の残り香が、まだある」


 修は低く、慎重に語りかけるように言葉を紡ぐ。


「名前は?何て名乗ってた?妻はいたか?子はいたか?」


 霊の身体が小刻みに震えた。

 ぶら下がった顔が、カクカクと揺れる。


「……さ……」


「“佐”?」


「……佐藤……」


 修の目が静かに見開かれる。


「佐藤……源四郎……だな。八王子城・御主殿警護の下級武士」


「どうして……お前が、名を……」


「お前の“声”を拾ったのさ。今でも残ってる、お前の名前を叫ぶ誰かの想念を」


 その瞬間、顔のない霊の背後に、小さな人影が現れた。


 幼い少女の霊だった。


 彼女は霊の背中に手を伸ばし、切なげに囁いた。


「おとう……」


 霊の身体が震え、音もなく崩れた。


 ぶら下がっていた“顔”が霧とともにほどけていく。


 ――解放だった。


「……消えた……」


 結がぽつりと呟いた。


「“憎しみだけじゃない”霊がいると、難しいのよ。見極めが」


 愛菜が疲れたように額を拭う。

 ノクスも尻尾を戻しながら、ようやく背を伸ばした。


「にゃ……(でも、まだ……いるにゃ)」



 その時だった。


 山の奥から、まるで鐘を逆さに響かせたような、不協和音が鳴った。


「ッ……!! これはマズい!主格級の“記憶”が目覚めかけてる!」


 修が全員を振り返り、叫ぶ。


「この城が“落ちた記憶”そのものが目を覚まそうとしてる!巻き込まれたら、生きたまま“過去の死者”になるぞ!」


「どうやって止めるのよ!?霧の中、道も分からないのに!」


 結の叫びに、修が即座に答える。


「道なら“ここ”に刻まれてる!」


 彼は地面に指を走らせ、古い戦陣図の模様を描き出した。


「先生は霧の干渉を遮断してくれ!物理で!愛菜は結界の結び目を探して!ノクスは後衛、結を守れ!」


「了解!」


「やってやろうじゃん!」


「にゃおッ!(行くにゃ!)」


 全員が瞬時に連携し、修の描いた“退路”を中心に布陣する。


 空間が揺れ、山が唸る。


 ――それは、八王子城が落ちた“あの日”の再現だった。


 兵が炎に巻かれ、女たちが井戸に身を投げ、城門が破られ、血が地面を染めていく。

 

「……来る。過去が、全部、押し寄せてくる!」


 愛菜が霊符を広げ、御主殿に向かって叫ぶ。


「――名乗って!貴方は、誰の記憶!?」


 次の瞬間。


 霧の奥から、黒ずくめの女が現れた。


 濡れた長髪、口元を歪めたその姿に、全員が息を呑む。


「お前は……“城主の側女”!?」


 修の声に、女はゆっくりと微笑んだ。


 その笑みは、愛でも悲しみでもない。


 ――呪いだった。


「私は、見たのよ。全てを。城が、焼けて、子が死んで……」


 その声に、空が裂けた。


 叫び声。

 炎。

 血の臭い。


 記憶の地獄が、彼らを飲み込もうとしていた――。

 次回予告


 第81話『血の城、声なき落城・後編』


 城が沈む。声が千に裂ける。

残された“女の怨嗟”を鎮めるには、失われた“約束”を思い出さねばならない。

だが、誰が、誰と、何を――?


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