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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第77話『霧に消えた声』

 次の日の深夜。


 千駄ヶ谷トンネルの入り口に立った瞬間、昨日とは違う空気が広がる。


 深夜にもかかわらず気温は高く、湿度もある。


 それなのに、トンネル内部には不自然なまでに白く、冷たい霧が漂っていた。


 愛菜は眉をひそめ、慎重に足を踏み入れる。


「……これ、普通の霧じゃないよ。ノクス、警戒して」


「ニャ!(りょ!)」


 ノクスが猫の姿のまま足音も立てずに霧へと進み、空間の歪みを探るように鼻をひくつかせた。


 彼の警戒は、愛菜の言葉を裏付けるようにピンと張り詰めていた。


「変だな……霧というより、結界の匂いがする、昨日と全然違うな……」


 修は腰を落とし、地面に指を這わせる。

 濡れているわけでもないコンクリートから、微細な振動が指先に伝わってきた。


「空気が……揺れてる。誰かが、あるいは“何か”がここを隠してる」


 その隣で、結が小さく頷く。


「音が……吸われてる。聞こえない訳じゃない、でも響かないの。まるで、声そのものが飲み込まれてくみたい」


 結が、そっと手を叩いてみせる。

 乾いた音が一瞬鳴ったように感じたが、すぐに霧に呑まれて、何もなかったかのように消えてしまった。


「……これは霊的遮断。物理的な音じゃ抗えない」


 修がポケットから紙垂を取り出し、慎重に地面に置く。


 その瞬間、紙垂が微かに浮かび、風もないのにふわりと震えた。


「結界が内部に広がってる。この先、何かがあるな」


 愛菜が首を傾げる。


「でも……何の為に?」


 答えはなかった。

 ただ、霧の中から誰かの視線のようなものが這ってきている。

 それも、一人や二人ではない。

 冷たい何かが、背筋を撫でる。


「進もう。けど絶対に、隊列は崩すな」


 修が先頭、愛菜とノクスが中間、結が最後尾を守る形で、霧の奥へと踏み出す。



 トンネルの中は、どこまでも静かだった。

 車の通行音も、外の風の音も聞こえない。

 ただ、霧が耳の中にまで入り込んできそうな、押し黙った沈黙が支配していた。


「……ここが、今までで一番妙な場所だね」


 結が立ち止まり、霧の奥を見つめる。

 その瞳が、ごく僅かに揺れた。


「視えた?」


 愛菜が問いかける。


「ああ。……女の人が、立ってた。手を伸ばして、誰かを呼んでたような……でも、声がない」


「叫んでるのに、音が出てないって事?」


「そう。まるでここは――音そのものが“封じられてる”みたいだ……」


 修が小さく息を吐き、再び紙垂を空中に掲げた。

 霧が紙垂を避けるように渦を巻く。


「この霧、ただの結界じゃない。霊的記録……“過去の再投影”かもしれない」


「過去の再投影……?」


 結が呟く。

 その瞬間、霧の中から微かな声が届いた。


『……た……け……し……』


「今の、聞こえた?」


 愛菜が反応し、全員が足を止めた。

 その声はとても小さく、途切れがちだった。

 けれど、はっきりとした“名前”が混じっていた。


「たけし……?」


 結が眉を寄せる。


「そういえば、昨日録音した時、女性の声で『あの人、帰ってこないの』って……」


「……多分、彼女の“想い”がこの場所に残ってる」


 修が歩みを進めると、視界が突然揺れた。



 ――目の前に、事故車両が浮かび上がる。

 ひしゃげたバンパー、血の滲んだフロントガラス。

 運転席の男性が、ぐったりとハンドルにもたれている。


「……これって……」


「見えてるの、私だけじゃない?」


 結が小声で言うと、他の二人も頷いた。


「霧の中に、記憶が投影されてる。ここで本当に事故があったんだ」


 その時、女性の影が男に駆け寄り、泣きながら何かを叫んでいる。


 けれど、音は届かない。声はすべて、霧の中に呑まれていく。


「想いが……伝わってない」


 愛菜が、ぽつりと呟いた。


「声が届かなかった。それが“この霧”の正体かも」


 修が頷く。


「声=言葉が断ち切られたまま、想いだけが彷徨ってる。結界は“言霊”を閉じ込める為のものだったんだ」


「つまり――ここに残されたのは、“会えなかった二人の想念”」


 結が胸を押さえる。


 その瞬間、トンネルの奥から、新たな影が姿を現した。


 男の霊――。


 だが、その姿はぼんやりと歪み、霧と同化するように揺れていた。


「いた……!」


 愛菜が声を上げたと同時に、周囲の霧がざわめいた。

 目に見えない声が、押し寄せてくるような感覚。


「まずい、霧が反応してる……!」


 修が結界の中心に向かって走り出す。


「ノクス!」


「ニャア!(合図して!)」


 ノクスが霧の中に飛び込み、地面に円陣を描き始めた。

 同時に、修がポケットから《言語封断符》を取り出す。


「“真語断ち”を起動する。少しでも言葉を取り戻せば、彼らは繋がれるはずだ」


「雨城君、危ないよ! 霧が強くなってる!」


 結が叫んだが、その声すら霧に遮られていく。



 男の霊の輪郭が定まろうとしていた時、遠くで、女の霊が霧の中から姿を現し、男の霊を見ていた。



 『――俺は、ダメだ……俺は……俺が悪いんだ……』



 男の霊はトンネルの闇の中に消えていった。

 それと同時に結界が音もなく、崩れ落ちる。



 結界が無くなったからか、トンネルにはもう霧はなかった。

 空気の重さも無くなってはいるが、彼を救えなかった……。


 「届かなかった……」


 結が静かに呟く。


 「うん、あと少し……いや、彼には何かがある……」


 修はトンネルの奥を見ながら呟いた。

 次回予告


 第78話『願いの果てに』


 霧の結界が解けた今、最後に現れた男性の霊が語る“真実”。

夫婦の別れに隠された、事故の本当の理由とは――?

そして修達は、言霊を結ぶ儀式《真語断ち》の極限に挑む。


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