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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第71話『封じられた怨霊』

 ギィィ……


 古びた扉が、まるで何かを諦めたように、ゆっくりと開いた。

 軋む音は、夜の静けさの中で不自然なほどに長く、そして重々しかった。


 中からは埃と土と、何かが腐ったような――それでいて生臭い空気が、もわりと吐き出される。


「……うわ……」


 愛菜が小さく呻いた。


 扉の先に広がっていたのは、思った以上に広い空間だった。

 かつては生活の場だったのだろう。

 畳の敷かれた部屋と、奥に続く廊下。


 しかし、それらはすでに原形を留めておらず、床は歪み、壁紙は剥がれ、柱の一部には爪痕のような傷が無数に刻まれていた。


 結が足を踏み入れるのを躊躇していると、ノクスが腕の中で震えながらも、「ニャゥ」と一声を上げた。


 それが合図のように、修が一歩を踏み出した。


「行くぞ。……油断するな」


 懐中電灯の明かりを細かく振りながら、彼は廊下へと進む。

 結、愛菜、先生が続いた。


 床はギシギシと不安定で、いつ崩れてもおかしくなかった。

 天井には黒い染みが広がっており、ぽたり……とどこかから水が滴る音が絶え間なく響く。


「……ここ、誰かが“住んでた”というより、“閉じ込められてた”感じがするね……」


 愛菜の言葉に、先生が小さく頷く。


「そうだな……普通の家じゃない。“生活”の痕跡がなさすぎる……祭壇とか、あってもおかしくないな」


 その時。


 コツ……コツ……


 廊下の先、二階へと続く階段のほうから、何かが“降りてくる”音がした。


 人の歩みのように、静かで、ゆっくりと――。


 しかし、その音は、誰もいないはずの空間から響いている。


「っ……!」


 結が反射的にノクスを抱き締める。

 ノクスは低く唸りながら、じっと階段の方を見ていた。


 音は止んだ。


 が、それが終わりではなかった。


 カタ……カタ……カタ……


 階段の下の闇から、何かが這うような音が聞こえてきた。

 木材を爪でひっかくような、異様な音。

 誰かが“降りてくる”というより、“這い降りてくる”――そんな気配だった。


 修が懐中電灯を向けようとした、その瞬間。


 バンッ!!


 二階の戸が一つ、内側から勢いよく閉まった。


「上だ!」


 修が声を上げた。


 その叫びと同時に、家全体がわずかに“揺れた”。


 愛菜が叫ぶ。


「だ、誰かいるよ……! この家、絶対……!」


「落ち着け、君鳥!」


 先生が前に出ようとするが、その瞬間、背後の玄関が――バタン!と音を立てて閉まった。


 まるで外から、鍵を掛けたかのように。


「閉じ込められた……!」


 結の声が震える。


 修が、懐中電灯を再度構えた。


「おい……何か……感じないか?」


 家の中の空気が変わった。

 酸素が減ったように、急に呼吸が浅くなる。

 体の奥から、得体の知れない“嫌悪”が這い上がってくる。


 ぎぃ……ぎぃ……ぎぃ……


 階段の上の闇の中から、“それ”は現れた。


 女のように見えた。

 長い髪。

 ぼろぼろの白い着物。

 顔は、ない。


 いや――あるのだが、“歪んでいた”。


 輪郭が曖昧で、まるで水に溶けて滲んだように、表情の一部だけが時折、鮮明に浮かび上がっては消えていく。


「……ずっと……ここにいた……」


 女の声が、頭の中に直接響く。


 言葉というより、“想念”に近い感触だった。


 愛菜が頭を抱えてしゃがみ込む。


「や、やだ……頭に入ってくる……!」


 ノクスが愛菜を守るように前に立ち、低く唸る。


 修が踏み出した。


「お前……ここに“封じられてた”のか……」


 女の目だけが、一瞬、修を捉えたように見えた。


「……お前は……見えるのか……?」


 


 そう言った次の瞬間。


 


 女の体が、裂けた。


 


 内側から無数の“手”が這い出す。

 それは、誰かの記憶。恨み。断ち切れなかった思念の連鎖。


 


 「返して」「苦しい」「あの夜を」「生きたかった」


 


 無数の声が、壁から、床から、天井から響いてくる。


 


 結が耳を塞ぎ、歯を食いしばる。


 


「っ……これ、“ただの幽霊”じゃない……!思念が複数……混ざってる……!」


 


 修が目を見開く。


 


「――合成霊だ……!」


 


 “一つ”の魂ではない。

 かつてこの家で“封じられ”、朽ち果てていった存在達の集合体。

 名前も、形も、記憶も失い、ただ憎しみだけが残った存在。


 修が叫ぶ。


「全員、今すぐ退け!ここはもう“霊域”だ!まともな対話も祓いも通じない!」


 しかし――。


 ドン!


 突如、玄関から“何か”がぶつかってくる音がした。


「え……何……?」


 愛菜が言葉を漏らした。


 次の瞬間、家の中の“気配”が一変する。


 凄まじい冷気とともに、女の霊が吠えた。


 「でていけええええええええええッ!!」


 全員の鼓膜を震わせるような、心臓の奥を掴まれるような怒声。

 照明が一斉に落ち、懐中電灯の明かりまでもが、霊気にかき消される。


 視界が奪われる。


 闇の中で、修が小さく息を吐いた。


「……仕方ねぇな」


 彼は、ゆっくりと口を開く。


「お前……“生きてたかった”んだろ?でもな、もうとっくに――」




 「死んでるんだよ…分かってくれ」


 その言葉は、刃のようだった。


 “真語断ち”。


 それは、言葉で霊を断つ、修の“無意識の祓法”だった。


 女の霊の姿が、ぶわりと揺らぎ、形が崩れ始める。


「いや……まだ……終わって……ない……!」


 女が最後に叫んだ瞬間、二階の奥から、別の気配が這い出してきた。


 それは、女ではなかった。


 もっと、“古く”て、“禍々しい”――“何か”だった。


 次回予告


 第72話『土間の下で眠るもの』


 “封じ”はまだ終わっていなかった。

二階の奥から現れたのは、かつて村を滅ぼした“因縁”の核心。

 

 今、ひとつの記憶が暴かれる――それは、失われた誰かの「声」。


 次回、さらなる“呪い”の起源へ――。


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