第7話『先輩のスマホ、誰が取った?』
「……あれ? スマホが……ない……?」
放課後の部室にて、掃除の疲れも抜けきらぬまま座り込んでいた結先輩が、ポケットや鞄の中を何度も確認していた。
「え? 落としたんですか?」
「ううん、さっきまではあったの。でも……帰ろうと思ったら、ないの。どこ探してもないの」
「それ、結構やばいパターンの奴では?」
俺は軽く背筋が寒くなるのを感じた。
スマホ紛失。
現代人にとっての、軽く死活問題だ。
「さっき掃除したし、なんか変な呪符とか巻き込んだりしてないですよね……?」
「さっきノクスが、棚の奥で“カサカサ音がした”って……」
「にゃん!(怪しいにおいがした)」
リュックからノクスがひょこっと顔を出してそう鳴いた。
「うーん……掃除の時に棚の裏とかいじった?」
「いじってないけど、棚の裏に“何か”あったって言われたら、確認せざるを得ないよな……」
俺達は、掃除の際に動かさなかった書棚の奥へ手を伸ばし、慎重に動かしてみる。
ゴンッ。
「おっと……ん? これ、スマホじゃない……」
そこには――古い、折りたたみ式の携帯電話が落ちていた。
「え……これ、私のじゃないです……」
「平成初期……いや、それより前?何だこの骨董品……」
「にゃうう(不気味な波動……)」
ノクスが一歩引いた。
ボロボロの外装。埃だらけ。
だが――液晶には、なぜか表示があった。
『コチラ……ミエマスカ』
「……なんか、表示されてる。これ……動いてる……?」
電源コードもない。
SIMも刺さってない。
そもそも生きてるはずのない機械だった。
俺は慎重に、液晶のボタンを押してみた。
『カエシテ……アノヒノオモイデ』
次の瞬間、教室の空気がふっと冷たくなった。
「……ねえ、なんか寒くない?」
結先輩が腕をさすりながら小声で言う。
「これ……マズいやつだな」
ピリピリと霊気が肌を刺す。
間違いない。
この携帯――“誰かの思念”が籠もってる。
「愛菜、感じる?」
「うん。ボクでも分かる……これは、“届かない声”が、ずっと鳴り続けてた感じ……」
ノクスが低く唸る。
「ニャニャ……ニャ(記憶の残響……この中にいる)」
すると突然、携帯から――着信音が鳴った。
レトロな電子音。だが、ひどく歪んでいる。
『ピ……ピッ……出テ……ヨ……』
「……出るの?これに?」
「出ないと逆に呪われそうな気がする……!」
俺は意を決して、通話ボタンを押した。
『――アノコ……ヲ……サガシテ……』
そして、そのままプツンと電源が落ちた。
「……“あの子”って……誰だよ」
俺の呟きに、ノクスがひとつ鳴いた。
「ニャー(もう、始まってるぞ)」
部室の窓が、ギィィ……と勝手に開いた。
カーテンが揺れる風の中に、かすかに――少女の笑い声が、混じっていた。
◆
その夜、結先輩のスマホはなぜか、自宅の冷蔵庫の中から発見された。
だが彼女は、冷蔵庫を一度も開けていないという――。
次回予告!
不気味な携帯電話の正体は?
「探して」と囁いた声の主は、一体誰なのか?
次回、第8話『あの子はまだ、探してる』
お楽しみに!
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