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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第68話「犬鳴トンネルと幻の犬鳴村」

 森は静まり返っていた。


 車を降りた瞬間、空気が一変したのを俺は感じた。

 蝉の声も風の音も、すべてが吸い込まれたように消えた。

 音のない世界。

 旧犬鳴トンネルの入り口に立つ俺達の周囲だけ、まるで別空間だ。


「……トンネル、封鎖されているはずだよな?」


 結先輩の声が震えている。確かに、封鎖壁があるはずだった。


 だが、そこにはぽっかりと開いた穴があった。

 誰かが通った形跡。

 無言で浜野先生が呟く。


「……誰かが、通った跡だな」


 俺の足元でノクスが低く唸った。


「にゃう……(気配が濃すぎる)」


 愛菜は慌ててノクスを抱きしめる。


 俺は一歩、また一歩とトンネルへ近づく。

 湿った土とカビと鉄の混じった匂いが鼻を突く。

 足元の土が靴を沈ませる。


「何だか、この場所は妙な気配を感じます……」

 

 ひよりは辺りの気配を読み取った。


 懐中電灯の細い光が、コンクリートの壁を照らす。 

 落書き、ひび割れ、割れた酒瓶、そして血のような赤い手形がいくつも残っていた。


「……これ、マジでやばい奴じゃん……」


 愛菜の声が震える。


 俺は耳を澄ませた。

 水滴の音じゃない。

 どこか遠くから、拍手のような音が繰り返されている。


「……始まってるな」


 小さく呟いて、俺はトンネルの中へ入った。



 中は想像以上に狭く、長かった。

 結先輩、愛菜、浜野先生も続く。

 湿気のせいで髪が張り付く。 

 ノクスはじっと前方を凝視している。


 数歩進むと、空気が急に冷たくなった。


「……誰かいる……?」


 結先輩が震える手で俺の服を掴む。


 その瞬間、闇の中からひよりが現れた。


 青いワンピースを纏い、薄明かりに浮かび上がる少女。

 無言でこちらを見つめるひよりは、ふと指先をトンネルの奥へ向けた。


 俺は言われるまま奥へ進む。


 壁に滲むように浮かび上がるのは、無数の名前だった。

 かすれた文字の一つ一つが怨念と哀しみに満ちている。


 俺は《真語断ち》で声を紡いだ。


「お前達の名は知らないが、叫べ。未練を吐き出せ。そうすれば消える」


 名前が一つ、また一つと消えていく。


 ノクスがうなる。


「にゃう……(言葉が届いてる)」


 だが、奥からは更なる深い怨念がうごめいている。


 やがて風が吹き込んだ。

 密閉されたトンネル内にありえない風が、俺達を押す。


 押し流されるように出口へ。

 トンネルを抜けた。



 灰色の空の下、そこに広がっていたのは森ではなかった。


 朽ちた木造の家々、古びた電柱、沈黙の鳥居。


 噂の犬鳴村――地図にない、憲法すら通じぬ禁断の村が眼前にあった。


「……幻覚か?」


「いや、違う。これは……」


 空気の質感、色彩がまったく異なる。

 ここは確かに“向こう側”だった。


 視線が集まる。


 人の形だが人ならざる何かが、村の陰からこちらを見ている。



「……戻ろうよ、お兄さん……」


 ひよりがそっと囁く。


 愛菜が震え声で呼ぶ。


「しゅーくん……」


 ノクスが低く唸る。


「にゃう……(もう逃げ場はない……)」


 俺は振り返るが、あったはずのトンネルの穴は消えて、ただの土壁に戻っていた。


 ひよりは振り返らず、白いワンピースを風に揺らしている。


「……試されてるんだな」


 俺は覚悟を決めて息を吸い込んだ。


「行くぞ。あの先に真実がある」


次回予告


第68話『犬鳴村の夜』


消えたトンネル。閉ざされた集落。

 現れる名前を捨てた者達のと、村を縛る掟。


 闇の中、修が見る“ありえない名前”。


 光が届かぬなら、声で斬る。


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