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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第四章:心スポ探訪編

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第61話『幽霊、いないなら会いに行こう』

第四章:心スポ探訪編始まり始まり!

 夏の朝は、妙に白けた空気が漂っている。


 蝉の鳴き声が、大学構内に反響する。

 そこだけ妙にリアルで、まるでホラー映画の一幕のようにも思える。


「……最近、何か静かすぎない?」


 オカルト研究同好会の部室。

 四畳半とちょっとの狭い空間に、扇風機の音が虚しく回っていた。


 修が呟いたその声に、黒咲結が頷いた。


「確かに。最近は、霊の噂もほとんど聞きませんし……。」


「しゅーくんが引き寄せてないだけじゃないの?」


 君鳥愛菜がアイスバーを咥えながら言った。

 黒縁のメガネ越しの目が涼しげに細まる。


 修はうーん、と唸ってからテーブルに置かれたノートPCを指差した。


「いや、それだけじゃない。SNS、掲示板、心霊ブログ……全部チェックしたけど、この辺りどころか県全体、ほとんど反応がないんだ。」


「情報、消されてるとか?」


「だったらそれこそ怖いけどな。でもたぶん違う。……つまり、“幽霊の方が出てきてない”だけだ。」


 ぴしっ、とスイカバーが割れる音がした。


「じゃあ──会いに行こうよ、幽霊の方に。」


 愛菜が、氷菓を片手に真面目な顔で言った。


「“出ないなら、出てるところへ”。ボクら、オカ研じゃん?」


「……まあ、否定はできないですけど。」


「ノリで心霊スポット行こうとか、まるで夏休み中の中高生の発想じゃん。」


 修が苦笑しつつも、内心は乗り気だった。


 そう――退屈だったのだ。


 この数週間、明らかに霊の気配が薄くなっていた。

 まるで、何かの前触れのように。


 ……動かねば、逆に飲まれる。


「浜野先生にも声かけて、車出してもらおう。行き先は──」


「全国心霊スポットです!」


「お前が一番ノリノリかよ!」



 その日の夕方。


 浜野京介の運転する車に乗り、オカルト研究同好会のツアーはスタートした。


「……俺さ、心霊スポットとか行くの、好きじゃないんだけど?」


「しゅーくん達が危ない目に遭う方が、もっとイヤでしょ?」


「先生がいれば何とかなります。たぶん。」


 助手席の浜野は、ため息をつきながらも「じゃ、まずは近場からにしようか」と言った。


「千葉の“雄蛇ヶ池”って知ってる? 自殺の名所であり、池に棲む何かが目撃されてる。」


「水辺系は出る確率高いしね」


「池の女幽霊ってやつか……どんな姿だと思う?」


「上半身が白いドレス、下半身が鯉」


「それ幽霊じゃなくて合成獣だろ!」


「にゃ〜(面白そうだな)」


 後部座席の隙間から、黒い猫型妖怪――ノクスが顔を出してきた。


「うぉっ!? いつ乗った!?」


「先生が気づかないだけで、最初からいたよ?」


「にゃ〜(人の話を聞け)」



 夕暮れの雄蛇ヶ池。


 湖面は風一つないほど静まり返っており、空の赤が黒く沈みかけていた。


「……雰囲気は、満点だね」


 修が辺りを見渡しながら言った。


 足元にぬかるみがあり、蚊の羽音が不気味にまとわりついている。


「幽霊って、日没直後に現れやすいんだって。光の境目、いわゆる“またの時間”」


「“逢魔が時”か……ってことは、今がちょうどいい?」


「先生、エンジンは止めないでおいてください」


「やっぱ危険なの?」


「逃げるためじゃないよ。“帰れる場所”を確保しとくの、大事だからね」


「……こえーこと言うなぁ」


 その時、背後でカシャ、と音がした。


「しゅーくん。今、草の中で動いたよ」


「“気配”がある?」


「うん。すごく、ぬめっとした気配……湿ってる……」


「にゃあ(下だ)」


 ノクスが低く唸る。


 瞬間、修は無意識に結の腕を引いた。


「下がってください、黒咲先輩!」


 バシャッ!


 池の水面が、不自然に揺れた。


 泡立つように広がる波紋。

 そこから、何か白いものが浮かび上がる。


「女……?」


 白い着物の女が、顔を水面から覗かせた――いや、違う。


 “顔”がない。


 いや、“顔だけが”なかった。


「うわあああああっ!?」


 浜野が叫んで車のドアを開ける。


 同時に、白い着物の“それ”が、ずるずると這い出してきた。


 水音だけが、妙に生々しい。


「こっち来てるよ!? 修、何かしろよ!!」


「結先輩、離れて!」


 修はスッと右手を掲げた。


 祖母に教わった動作を反射的に思い出す。


「帰る場所は、あっちだろ? こんなとこでうろついてんじゃねえ……!」


 指を鳴らした瞬間、何かが空間を裂くように響いた。


 白い女の影が、風に溶けるように掻き消えた。


 水面が、一瞬だけ静寂を取り戻す。


「……おわった?」


「うん。とりあえずね」


「顔、なかったよね……?」


「うん。多分、死んだ時に“思い出せなかった”んだと思う」


「自分の顔……?」


「死に方が、激しすぎたのかもしれない。もしくは、自分を嫌いすぎて、顔を捨てちゃったのかもね」


「悲しいな……」


 愛菜のメガネ越しの目が、うっすらと曇っていた。


 修は小さく頷くと、車に向かって歩き出した。


「……じゃあ、次はどこ行こうか?」


「え、続ける気なんだ?」


「当たり前だろ。“心霊スポ探訪編”って、これからが本番だぜ?」


「ノリと勢いで言ってるくせに!」


「にゃー(次は峠がいいにゃ)」



 こうして、オカ研による“幽霊逆探訪”は幕を開けた。


 夏の闇に挑む若者達の旅路は、今始まったばかり。


 彼らが向かう先には、まだ名も知らぬ霊達の“声”が、静かに待っている──。


 次回予告


 第62話『旧吹山トンネル』


 夕方のトンネル、ライトが届かない奥に“何か”がいる。

後部座席から聞こえた声、助手席の窓に映った顔、運転中に消えたナビ。

止まらない、止まれない──この道は、まだ終わらない。


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