第57話『記録解放:第一段階』
翌朝、旧校舎の一室。
浜野は窓から差し込む朝日を浴びながら、手元のノートをじっと見つめていた。
白紙のページに浮かび上がった謎の文字列。
薄れていく記憶の断片。
しかし確かな手応えを感じている。
「やはり……俺は、あの時の記憶を取り戻し始めているんだな」
深く息を吐き、浜野は机に置かれたペンを手に取った。
文字を追いながら、過去の自分に繋がろうとしている。
そこへ、オカルト研究同好会のメンバーが現れた。
「先生、調子はどうすか?」
修の声に、浜野は顔を上げる。
修の表情は興味津々で、いつもの軽口もちらほら混じっている。
「まだ断片的だが、少しずつ記憶が解放されている。子どもの頃、リーヴァという少女に出会い、命を救い合った事……あの時交わした約束が、今の俺を動かしている」
「半サイボーグ化されてるって話、マジだったんですね?それめっちゃカッコいいです!」
修は目を輝かせて言う。
「ちょっと不謹慎かも知れないけどね」
結も愛菜も、そうだよ!と頷く。
「だが、その代償として、俺の記憶は封じられていた。リーベル・イナーニスと呼ばれる“空白の書”を見つけだす為に」
浜野の声に重みが増す。
「リーヴァは“書の追跡者”であり、俺はその鍵となった“警笛”……だそうだ、まだ記憶が曖昧なんだよ」
愛菜が小さく息を呑む。
「つまり、先生の過去とリーヴァさん、そしてリーベル・イナーニスの力は切っても切れない関係なんですね」
「今持つ記憶によると、リーベル・イナーニスを感知する能力があるのと、それを解放する鍵の役割が俺にはあるらしい。そして、リーヴァの目的は悪意ある組織より先に手に入れる事……だと思うのだが。まぁ、この記憶を完全に取り戻さねば話にならんな」
結が話を受けて言う。
「先生が半分サイボーグになった事は衝撃だけど……それが鍵になるなんて、オカ研としても絶対に見逃せない」
修は椅子をくるっと回し、浜野をじっと見つめた。
「先生、次に何をすればいいか、教えてもらってもいいすか?」
浜野は一瞬間を置いてから答えた。
「203号室へ行こう、それが記憶解放の第一段階だろう」
「リーヴァさん、もう一度来てほしいって言ってましたね……」
愛菜の声は少し震えていたが、決意も感じられた。
「でも、怖くはないですか?思い出す事とか」
浜野は微笑みを浮かべた。
「怖さは常に隣り合わせだ。しかし、恐れる事よりも前に進む事が重要だ」
修が元気よく返す。
「流石先生!その意気っすよ!!」
ノクスも肩から飛び降りて、愛菜の足元をくるくる回りながら声を上げた。
「にゃう!(怖くても行くにゃ! おれ達がついてるにゃ!)」
浜野は改めてノートを手に取り、ゆっくりとその白紙のページを見つめた。
文字が淡く浮かび上がり、まるで彼の決意を映し出すかのようだった。
――リーベル・イナーニスは、今、解放の時を迎えつつある。
そして、過去の約束が動き出す。
午後、浜野は203号室へ向かう為に準備を進めていた。
修、結、愛菜、ノクスも一緒に同行する事になっている。
「みんな、ありがとう。皆のおかげでここまで来れた」
「お互い様っすよ、先生」
修の声は明るく、それでいて頼もしかった。
「リーヴァって人の事、まだよく分からないけど……一緒に真実を追いかけたい」
結も強い意志を込めた。
「ボクも……しゅーくん達と一緒に、先生を支えたい」
愛菜は小さな拳を握り締める。
「よし、行こう。記録の解放は、これからだ」
浜野の声に、皆が頷いた。
◆
その夜、203号室の扉の前。
浜野はゆっくりと手を伸ばし、扉の冷たい金属に触れた。
心臓が高鳴る。
彼の胸の中に、幼き日のリーヴァの姿が蘇る。
淡い紫色の瞳。長く銀色の髪。尖った耳。
あの少女は今、どこにいるのだろうか。
「約束を果たす為に……」
浜野は静かに呟いた。
だが、その背後では、薄暗い影が不気味に揺れていた。
誰も気づかない、もう一つの“記録”の目覚めが迫っている。
次回予告
第58話『約束の夜、揺らぐ記憶』
再び203号室に向かう浜野達。
幼き日のリーヴァとの約束が、彼の記憶の深奥から呼び覚まされる。
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