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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第三章:空白の書編

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第55話『金色の記憶と、白紙のノート』

2025/09/06 文章少し修正しました。

 夜の旧校舎は、虫の声すら届かないほど、静まり返っていた。


 浜野は、古びたノートを手にしながら、廊下の壁にもたれかかっていた。

 かつて白紙だったそのページには、淡く光る文字が浮かび上がっている。


「……“203号室”か。こんな形で導かれるとはな」


 その記述に目を落としながら、浜野は静かにノートを閉じた。


 胸の奥に、うっすらと疼くような違和感と、酷く懐かしい感覚が混ざり合っている。


 かすかに震える指先でジャケットの襟を整えると、彼は静かに歩き出した。

 向かう先は――旧校舎の、封印された一室。


 と思ったがオカルト研究同好会の部室が明るかったのでそちらに先に向かう事にした。



「……って事で、相談ってのは、そういう内容だったんすね」


 オカルト研究会の部室。

 修が浜野の話を聞き終え、苦笑まじりに頭をかいた。


「先生、前に“幽霊は信じない”って言ってたのに……ど真ん中のオカルト案件じゃないすか」


「……自分でも、まだ整理がついていない。ただ、なぜか確信めいた感覚がある」


「“淡い紫の瞳の少女”……」


 結がぽつりと口にする。


 愛菜が、おそるおそる浜野を見つめる。


「あの、その子って……先生が前に言われてた、キャトルミューティレーションされた時に出会ったっていう……?」


「ああ……ん?」


 浜野はそう言って、ノートを開いた。


『記憶は“そこ”にある。鍵は彼の内にある』


 そこには、そんな文言が浮かび上がっていた。


「また新しい文章だ……」


「この文字、今現れたんですか!?何それ最高」


 何故か修は喜んでいて、結と愛菜とノクスはまたか、といった雰囲気。


「昔、ある少女に出会った。人間には見えなかった。

 長い銀髪、尖った耳……そして、淡い紫の瞳。名前は……“リーヴァ”」


「リーヴァ……」


 修が目を細める。


 浜野は、わずかに眉を寄せながら続けた。


「その時、彼女は何者かに追われていて重傷だった。

 自分は、助けようとした……だが、助けた事で命を落としかけた。この辺はかなり曖昧だがな。で、目を覚ました時には、体の中に“何か”が組み込まれていた。今思えば、それは“改造”だったんだ。彼女の仲間達による、な」


「先生、サイボーグっすか?」


「正確には“半分”な。人間としての構造を保ちつつ、異質なものがある」


「で、それが……“リーベル・イナーニス”と関係あるって事?」


「ああ。“禁書”を感知する為の鍵。そして、それをリーヴァ達に知らせるもの、それが今の俺だ……まぁ、これらの記憶はまだ朧げな部分が多いんだがな」


 一同はその話を聞き悲しげな表情で浜野を見つめる。


「そうネガティブに考える必要はないぞ?リーヴァは、“追う者”。リーヴァは、リーベル・イナーニス……“空白の書”を悪者から守り、先に手に入れる……その為に動いていた。そして俺は、そんなリーヴァに知らせる為の存在……それを思い出せただけでも僥倖だ」


「にゃう(ただの人間のくせにとんでもないな)」


 ノクスが、浜野の膝に飛び乗りながら呟いた。


 沈黙の中、修がぽつりと訊く。


「じゃあ、リーヴァって人は……今も、どこかで“空白の書”を探してるんですか?」


「多分な。だが、あいつはただの観察者でも救世主でもない。“先に手に入れた者が勝つ”――そんな世界に生きている」


 結が少しだけ視線を落とす。


「リーベル・イナーニスを狙ってる“悪い連中”がいるって話……本当なんですね」


「リーヴァの話では、奴らは地球の技術と記憶を利用しようとしている。それを阻止する為に、彼女達はこの星に来た」


「じゃあ先生は……戦う為に“改造”された?」


「いや、俺はただの副産物だった。書を手に入れる為の、ただの道具に過ぎない。けれど今は……自分の意志で、書を、そしてあの子を追いたいと思っている」


 その言葉に、微かな熱がにじんだ。


 愛菜がぽんっと手を叩いた。


「じゃあ! 行こうよ、203号室! 何か手がかり、あるかも知れないし!」


「手伝うぜ!先生の初恋!!」


「初恋!?恋バナ好き」


「まーたノリが軽いな、お前達は」


 浜野が苦笑混じりにツッコむ。


「ふふ。でも、こういう時こそ皆で行けば怖くないって言うでしょ?」


 と、修はいつものノリで言う。

 浜野はふっ、と笑みを浮かべる。


「……助かるよ。一人じゃ、きっと踏み出せなかった」


「当然っスよ。だって、俺達“オカルト研究同好会”ですから!」


「にゃう!(おれもだにゃ!)」


 結が立ち上がり、手元の資料を鞄にしまった。


「じゃあ、今夜。203号室へ。……扉の向こうに、何があるかは分からないけど」


 浜野はうなずいた。

 胸の奥に微かに疼く記憶と、未だ謎に包まれている何かが確かに揺らいでいる。


 あの――紫の瞳の少女。


 リーヴァ。


 記憶の中で、銀の髪が風に舞っていた。



 その夜。


 203号室の扉の前に立つ浜野は、深く息を吸い込んだ。

 ドアノブに手をかけた瞬間、微かな機械的反応が指先に伝わってくる。


 ――目覚めよ、鍵。


 そんな声が、確かに心の内側で響いた。


 その時、再び“記録”が動き出す。


 扉の向こうで、過去と未来が、静かに交錯しようとしていた。

 次回予告

 

 第56話『幼き日の約束』


 彼女の名は、リーヴァ。

人の理を超えた存在。宇宙の高次文明から来た、観察者にして記録の追跡者。


 幼き日の浜野京介とリーヴァが交わした“ある約束”――

それは命と引き換えに、禁書を巡る争いの渦へと繋がる始まりだった。


 過去は静かに、しかし確実に――浜野の記憶を呼び起こす。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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