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幽霊オタクレベル99〜俺には効かないぜ幽霊さん?〜【累計10000PV達成!】  作者: 兎深みどり
第三章:空白の書編

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第53話『虚ろなる鏡、名なき影』

2025/09/05 文章の一部に誤りがあり変更しました。

 現れたのは、ひよりと瓜二つの少女だった。


 しかし、それは確かに“ひよりではなかった”。


 瞳の色が違う。

 ひよりの目が淡く光を宿すような空色なのに対し、こちらの少女の目は――虚無だった。


 何も映さず、何も宿さず、ただそこに“在る”。


「……お兄さん、下がって」


 ひよりが俺の前に出る。

 初めて見る、彼女の緊張した横顔だった。


「こいつ……“わたしの欠片”だと思う」


「欠片?」


 修が思わず問い返す。


「私が“まだ名前を持っていた頃”、この子は、わたしの中にいたの」


 ひよりの言葉に、空気が一気に冷え込む。


 目の前の少女が、口を開いた。


「ちがうよ、私は“あなた”じゃない」


「……」


「私は“忘れられた名前”。私の事を捨てて、“ひより”になったあなたが……いちばん、許せない」


 


 その声が、図書室の天井に響くと同時に、照明がバチバチと音を立てて明滅した。


「にゃう(やばいにゃ……!これは、めちゃくちゃ危険にゃ!)」


 ノクスが全身を逆立てて愛菜の肩にしがみつく。


「しゅーくん……これ、ボクでも気配が分かる……すっごく濃くて、深くて……変だよ」


 俺は一歩前に出る。ひよりが、俺の袖をつかんだ。


「この子は、“書”に触れすぎたの。リーベル・イナーニスの“影”に取り込まれて、もう自分を保てない」


 影の少女がゆっくりと首を傾げた。


「じゃあ、返して。私の名前を。私の記憶を。 私の存在を、わたしに返してよ……」


 


 その時だった。


 修の心眼が、ふと開いた。


 目の前の“影”の奥にある、もうひとつの想いが見えた。


 ――捨てられた名前。


 ――消された記録。


 ――本に書かれた“白紙のページ”。


「……お前、本当は知ってるんだろ」


 俺は低く呟いた。


「自分が“名もなきまま”でいられるって事が、お前を、“特別な存在”にしてたって事を」


 影が、僅かに動揺する。


「でも、それが怖くなったんだよな? “意味のある存在”になりたくなった。 “名前が欲しかった”。“記憶が欲しかった”。“誰かに、自分を呼んで欲しかった”。」


 俺は一歩、踏み出した。


「なら教えてやる。お前の“叫び”を、俺が代わりに――」


 


 ──真語断ち・弐式《叫返し》


 


「……“私はここにいた”って。それだけで良かったんだって、叫べば良かったんだよ」


 影が、ピクリと震えた。


 次の瞬間、その身体にひびが走る。


「っ……ああああああああ……っ!!」


 崩れゆく影の少女。


 その断末魔のような声は、どこか、解放に近い響きだった。


 音もなく、彼女はその場から霧のように散った。


 散った霧はひよりの胸部に……心のある場所に吸収されていった。




 

 静寂が戻る。


 だが、それはほんの僅かな間だけだった。


「……ありがとう、お兄さん、あの子喜んでいるよ」


 ひよりが静かに微笑む。

 けれど、その瞳の奥には奇妙な“揺らぎ”があった。


「この世界には……“思い出されないまま消えていった存在”が、沢山いるの」


「お兄さんは、忘れられた誰かの“声”を聞ける。それれって、凄く残酷で、凄く救いなんだよ」


「にゃう(今の……今の言い方、ちょっと怖いにゃ)」


 愛菜がノクスを見下ろして小さく息を呑む。


「ひよりちゃん……姿は見えないけど、君の事、ちょっとだけ分かる気がする。普通の幽霊じゃないんだよね」


「ふふ、普通なんて、つまらないでしょ?」


 ひよりがまた、あの表情のない微笑を浮かべ、スっッと消えていった。


 


 

 その夜、浜野先生の元に、一通の封筒が届いていた。


 宛名も差出人もなく、ただそこにはこう書かれていた。


 


『京介へ。君はかつて、“ひより”と呼ばれるものに会っている。思い出せ。全ては、そこから始まった。』




 


 先生は封筒を握りしめ、目を細めた。


「……またか」


 その声には、懐かしさと、ほんの僅かな怯えが混ざっていた。


 次回予告


 第54話『忘れた者と、思い出す者』


 浜野京介――彼の記憶に封じられた、ひよりとの邂逅。


 空白のリーベル・イナーニスの力が、また一つ真実を引きずり出す。


 見えていなかったものが、浮かび上がる時。


 “先生”が語る過去、それは想像を超えた始まりだった……。


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